2000年04月


 
04 / 10

ファーストシーン。

駅に汽車が着くところから映画は始まる。

体格のよい寡黙(かもく)な 男が降り立ち、駅の感触を確かめるように佇(たたず)む。
男はふるさとに帰ってきた。
ただ心に傷を負(お)っている。
それが何なのかはまだ観客には知らされていないが、それを予感させるだけの立ちふるまいを見せる主人公はジョンウエイン。

駅には数人の人々がいる。
こんな村にみなれない男が来たからには 釣りに違いないと、どこがよい釣り場か、男に教えはじめる。 横から別の村びとが口をはさむ、あそこはもうだめだ、最近はこっちの ほうだと。
議論は熱をおび、他の村人も加わってたいへんな騒ぎに なる。
男はその親切に苦笑しながら立ちすくんでいると、抜け目のない老人が さあさあ、こっちですよと、自分の馬車に案内する。

導かれるまま馬車に乗り、馬車の老人と会話をかわし、ここは自分の ふるさとであることをほのめかす。
「ショーンソーントン!」老人は、叫ぶ。

こんなかんじで映画「静かなる男」は、始まる。

この後、男は女に出会い、もうひとりの男とけんかをする。
まあ、それだけの映画だ。
馬車の男は、バリーフィッツジェラルド。

私は、15年前に一度、観ただけの映画だが、この場所がイニスフリー ということも、バリーフィッツジェラルドの役名(やくめい)が ミケリーンということも覚えている。頭の中でいつも上映できる。

監督はジョンフォード。兄のフランシスフォードもけんか好きの瀕死 (ひんし)の老人として出演している。

先日、初対面の初老のアイルランド人に、何を話したらよいかわからず、 思わず「イニスフリーって本当にあるのか」と尋ねた、すると、彼は 詩を口ずさむようなリズムで長々と、いかに美しいところか語って くれた。 ジョンウエインに釣り場を教える、おせっかいな村人のように。

少々、うるさいけれども、決していやなかんじはしない。
一気に打ち解けるというのはこういうことか。

こんな時ですね。映画の力を感じるのは。

 


 
04 / 06

先日、「フランクキャプラのアメリカンドリーム」という記録映画を 見た。

監督はロンハワード。ハリウッドの中でも地味でオーソドックスな映画 を作る監督だ。 「コクーン」は、あまりヒットしなかったけれどもいい映画です。 その後はちょっと不調(ふちょう)のようだが。

キャプラと言えば、人情喜劇(にんじょうきげき)の第一人者 (だいいちにんしゃ)だ。 しかし、この映画では、キャプラのもつ「暗さ」に焦点(しょうてん) をあてようという狙(ねら)いで作られたようだ。

あの「素晴らしき哉、人生!」(It’s a wonderful life!)は公開当時、 観客が入らず、数週間でうちきりになったなどのエピソードの他に、貴重な、日本では未公開(みこうかい)の初期のフィルムも見ることが できた。
全体として、まとまりに欠け、記録映画としては、いま一つ成功した とは言えないが、ロンハワードの誠実さに触れたような気がした。

でも、これは、劇場公開(げきじょうこうかい)しても、お客は 入らないでしょうね。

 


 
04 / 07

名前を説明するのに苦労しない人は少ない。

「あのお名前は」
「鈴木です。あのよくある鈴木です。」
「あ、はい、鈴木さんね」

こういう名前は、ほとんど書き方も一つなので、便利だ。 漢字は簡単でもいろいろ選択肢(せんたくし)がある場合は、 時間が必要だ。

「お名前は」
「新井です」
「あらい様ですね。あらは、荒川の荒ですか」
「いえ新しいのほうです。井は井戸の井です。」

井戸はもう見かけなくなったが、言葉はまだ生きている。 「荒川」のように有名な地名を説明に使うという方法がある。

読み方で困ることもある。

「こちらにお名前をお願いします」
「はい(梅原と書く)」
「うめはらさま ですね」
「あ、いえ、うめばらです」

名前や地名は、こういうふうに説明しなければならないことがある。 もちろん
「へん」や「つくり」で説明することもあるが、最近は なかなか通じないそうだ。有名な人の名前や、地名で説明すること が多いそうだ。

 


 
04 / 12

東京都知事の石原氏は自衛隊(じえいたい)の式典(しきてん)で 「外国人、三国人が事件を起こせば治安出動(ちあんしゅつどう) していただく」 と発言した。

三国人? 今はほとんど使われることはないが、戦前から戦後に かけて使われた。

三つの国を指すものではなく、第三(だいさん) の国の人。という意味らしい。
主に戦後、中国や朝鮮半島から来て犯罪に走った人々を表現する 言葉として当時、使われた。 ちなみにアップルの変換(へんかん)ソフトでは簡単に変換できた。

この発言に対する批判に対して
「私たちは戦後の混乱の中で、せっかくつくった青空市場(あおざら いちば)にいわゆる三国人が来て、その中には韓国系の人たち、 朝鮮系の人たち、中国系の人たち、アメリカ軍もおり、不法なことを あえてする、実害を与える外国人のことを三国人と書いた。 おれはそのつもりで使ったんだよ」

さらに
「東京の犯罪はどんどん凶悪化しているよ。だれがやっているかと いえば、全部三国人。つまり日本以外の不法入国して居座っている 外国人が犯罪者じゃないか。スネークヘッドだってそうじゃないか」

同じ日に、日本のオリンピック委員会の会長は先日行われたマラソンで 「黒いのが勝っちゃってねえ」と言ったそうだ。

三国人という言葉は、一般的に解釈すると悪いことをする外国人。 実は、朝鮮半島から来た外国人、中国人を指す時に使われること 多かった。

戦後、多くの外国人が日本に来た。彼等の多くは 仕事を持てず、犯罪に走ることも多かったと言われている。 スネークヘッドというのは、80年代後半に台頭(たいとう)してきた 中国系のマフィアの名前。 日本へ不法に渡航(とこう)するのに関わっていると言われている。

三国人という言葉が、差別的な意味があるかどうかに焦点(しょうてん) はあるようだが、私は、「凶悪(きょうあく)な犯罪はぜんぶ外国人」という発言は それだけで公職(こうしょく)を追われるべきだと考える。

残念ながら、地下鉄サリン事件も、半年に一度は起きる幼児殺害事件も 日本のふつうの家庭で何不自由なく育った日本の若者たちによるものだ。

「黒いの」と発言した人物は、昔、海外でも活躍したスポーツ 選手だが、自らに対する「黄色いの」という視線(しせん)を 感じたことがあるはずだ。

法律を改正したい。「公職に付いている人物が、外国、または 外国人に対し差別的発言をした場合、その国に4年留学しなければ ならない」というのはどうだろうか。 月の補助は5万円であとは、アルバイトで生活してもらう。

石原氏は知事としてはめずらしく主体的に提案(ていあん)できる 有能な人物だった。この提案も受け入れてくれるかもしれない。
すべての人に、更正(こうせい)のチャンスは与えるべきだ。

日本語教師という職業は、日本にいながら、日々、外国人と会う仕事だ。 こういう幼稚(ようち)な発言の尻拭(しりぬぐ)いを しなければならない。
政府は補助金(ほじょきん)を出すべきではないか?

 


 
04 / 13

16世紀の終わりに「刀狩(かたなが)り」が行われた。

これで、事実上、日本では民間人の武器所持は難しくなった。 日本の戦国時代(せんごくじだい)は終わりを告げた。 外国の歴史家の中には、この重要性を指摘する人がいる。 現代にいたるまで、銃(じゅう)はもちろん、刀を許可なしに所持する ことは、違法となっている。
刀は、刃(は)の長さに制限がある。

16世紀に生まれた武器を携帯(けいたい)することに対するタブーが 現代まで生きているというのだ。

アメリカで6才の子供が同級生を殺害(さつがい)した事件は日本でも 報道された。数年前、日本の留学生が銃で殺害され、アメリカの銃規制 が難しいこと、全米ライフル協会の政治的な影響力のことなどは、 すでに知られている。

しかし、その社会に銃(じゅう)が必要かどうかは、そこに住んでいる 人々でないとわからない。 この事件はちょうど大統領選挙の最中に行われた。
これで、候補者 (こうほしゃ)は、なんらかの意見を言わねばならなくなると思ったが、 はっきりとした態度を表明した候補者はいなかったようだ。

 


 
04 / 14

外国人で一級に合格した人は2000前後の漢字を知っていることになる。

だが、日本人で自信をもって2000の漢字を書けるというひとは 少ないに違いない。 日本人にとって漢字は、読める漢字、と書ける漢字は別だ。
あともうひとつ、読みは自信がないけど意味はわかる。 という漢字がある。 本などを読んでいて、なんとなく「読んで」しまうが、声に出して 読むのは自信がない。

例えば、「乖離」などは、なんとなく 「離れている」「違う」「関係が薄い」という意味ではないかと思う。
しかしどう読むかは自信がない。
「はくり?」「せきり?」といった ところ。

しかし、こういう漢字は読めた時に、この漢字は、「知っている」と 考える人は多い。正解は「かいり」だが、これを聞いて、書ける人は、 ほとんどいない。

実は私も自信がない。 おそらく日本人にとって、漢字を知っているということは、意味が わかって、読める。ということのようだ。

コンピューターの普及(ふきゅう)で、「書ける」ことの意味は あまり問われなくなってきた。

 


 
04 / 18

ここではコンピューターとかインターネットに関することはあまり 書かないようにしている。あまり語学(ごがく)には関係ないからだ。

日本ではアップルの人気は高く、個人ユーザーのシェアは10% を越える。
しかし、まだ、日本人ユーザーに優しいとはいえない。 最も大事なソフトである変換(へんかん)ソフトは、OSに付属の ものだが、変換能力は低い。

ウインドウズで一般的な変換ソフトに くらべると3年以上はおくれているような気がする。 また、OSにバグが多く、細かいアップデーターを必要とする点も ユーザー泣かせだ。

私はこの4年で2度買ったが、2度とも 通信ソフトに問題があり、アップデーターを使わねば、インターネット に接続できなかった。
初心者に向けてのサービスも障害者に対する配慮(はいりょ)も 年々、少なくなっているように思う。 サポートの中心であるアップルの日本支社のサイトを覗くと、 詳しい説明は、英語のサイトを御覧ください。というようなことが 書いてあって驚かされる。

正確な情報は英語のサイトを読むしかない。
iMacが好調でアメリカでは人気が復活しつつあると言われ、事実、 日本でも売れている。 しかし、まだ、少数のファンにささえられているのが実情のようだ。

 


 
04 / 19

東京に住んでいて残念なのは川を感じることができないことだ。

都市というのは、川の魅力なしでは半減(はんげん)してしまう。 都市の中を走るものは車、バス、電車、いろいろだ。バイク、 町を歩く人々。たいていの都市に住む人々は早足(はやあし)である。

川の流れは、少なくとも表面上は、地上のどの動きよりも遅く見える。
その「遅さ」に心が癒(いや)されることがある。

 


 
03 / 21

新入社員のあいさつ

「今日から、こちらに配属(はいぞく)になりました。 川辺(かわべ)と申します不器用(ぶきよう)で、何もできませんが がんばりますので、よろしくお願いします」

これを聞いていた男性同士の会話。中年の日本人と若いカナダ人社員

「最初のあいさつで、『何もできません』って言うんですか」
「え、ああ、あれは謙遜(けんそん)して言ってるんだよ」
「ああ、そうですか」
「彼女、英語はペラペラで、MBAも持ってるんだよ」
「へえ、じゃあ、そんなに謙遜しなくてもいいのに」
「まあね、でも他に言いようがないしね」
「まあ、そうですね」
「でも最近は、本当に『何もできない』し、しかも『がんばらない』 若いのも
  多いんだよ」
「ははは、そういう時はこまりますねえ」
「そう。謙遜して言っているかどうかわからないからね」

 


 
04 / 25

景気が回復するようだ。というのが、ここのところの一致した 意見だ。

マンションは売れている。大企業のリストラも進み、銀行の統合 (とうごう)もメドがついた。

従来、「日本経済が」と言う時は、「日本が」と同じ意味であったが 今後は、そのような表現は難しくなるようだ。 しかしそのことを声高(こわだか)に言うのはタブーのようである。

長いこと日本の失業率(しつぎょうりつ)は、3%台前後であった。 これはほぼ、完全雇用(かんぜんこよう)を達成していると言っても よい数字だった。
しかし、この神話(しんわ)もここ5年で完全に 崩(くず)れた。

IT関連も結局は、大手が有利な枠組(わくぐみ)みができつつある。
新たな介護ビジネスも中途半端な規制で、末端(まったん)で 働く人にしわ寄せがくるようになっている。パート程度の仕事と 受け取られがちだ。リストラ組の雇用の受け皿にはなりそうもない。

結局、相変わらず土地開発によってしか、雇用を作ることができない ようだ。
クビになったサラリーマンが、生き残ったますます富めるサラリーマン にリゾートマンションを売るのだろうか?

 


 
04 / 26

都心を歩いていると「首相(しゅしょう)を直接選挙 (ちょくせつせんきょ)で選ぼう」という キャンペーンをやっていた。

先日の韓国の選挙で腐敗(ふはい)した政治家を落とそう。 というキャンペーンが成功をおさめ、それに刺激されたキャンペーン が流行りのようだ。これはもちろん近々、選挙があるのではないか という推測(すいそく)に基づくものだ。

立候補(りっこうほ)した政治家にアンケートをして、その結果を 公表し、それによって選ぼうというのもある。 これは、政治家は選挙の時には政党と違う主張をしても当選後は、 政党の方針に従うことが多く、そのことに対する不信感から 生まれたもののようだ。

次の選挙では投票率が普通ならば自民党は負けるのではと言われている いろいろなキャンペーンが流行りなのも、投票率は下がるのではないか つまり、小渕さんに対する同情票が棄権(きけん)といった形で あらわれるのを怖れた野党支持層(しじそう)によるものだ。

首相の直接選挙は実現したら面白い。

私は、本気で小錦(こにしき)が いいと思うが、どうだろうか。 彼は英語をはなせるし、外国人として日本文化の象徴(しょうちょう) のようなところで貴重な経験もしている。 日本語は完璧で、論理的、かつ、説得力のある話し方をする。 日本の政治家は束(たば)になってもかなわない。

細かい話は官僚(かんりょう)に任せればいい。これまでずっと そうしてきたのだから。 ユーモアもある。日本では何かと話題になるサミットの写真撮影では 黙っていても中央に立つことになるだろう。

いや、誰もが記念写真をとりたがるのではないだろうか。 他に、こんな日本人がいるだろうか。 相撲好きのフランスのシラク首相などは、つい、余計な約束を してくれそうだ。中国も小錦みたさに参加するかもしれない。

中国では大きな人物は愛される。 もちろんサミットは首相自らの土俵入りで始まり夕食は「ちゃんこ鍋」である。

 


 
04 / 27

「あの店、あたりだった」などと言うことがある。

「おいしかった」という意味だ。反対は「はずれ」 今日ははずれの店の話しを。

中に入ると、 床が油でベトベトになっていて、スニーカーが ペタペタと貼り付く。カウンターの下には、これも油にまみれた 去年のマンガが置いてある。
ラジオからは、演歌(えんか)が流れてくる。
壁には女性のヌード ポスターが貼ってある。
調理場に、灰色のエプロンをした男性がスポーツ新聞を読みながら たばこを吸っている。

「ほおい」と返事をすると、(5秒以内に注文しないと命はない) といった目で
睨(にらむ)む。 「チャーハン、大盛(おおも)り」 というと、返事はなく、作りはじめる。

見ると、大きな炊飯ジャーを開く。あらかじめ作ってあったチャーハン を炒めなおすためだ。 当然だが、あっという間に出来上がる。

「はい、チャーハン大盛り」 ここで店主は、始めて、日本語を話す。
当然、まずい。

食べ終わって、お金を払うため、「すみません」と いうと、耳からイヤホンをはずしながら(競馬を聞いていたのだ)

「チャーハン大盛り、、、、、8ぴゃく、、、50円です」 という。

間があくのは、大盛りの値段を覚えていなかったからだ。
店を出る。スニーカーのペタペタという音は、まだ続いている。

もう一度、振り返り、店構えをしっかりと記憶(きおく)に留める。

間違って、また来ないように。

 


 
04 / 28

鉄道は昔国鉄(こくてつ)と言った。国営鉄道という意味だ。 電話会社も国営だったが、これも民営になった。 民営になったころ友人と話したくだらない話。

「国鉄が民営化したら、サービスがよくなるってほんとかな」
「いまのままでも結構、いいと思うけどね。田舎の駅長さんなんて親切だよ。」
「そうだねえ、でも、赤字が多いからね。どんなサービスになるのかな。きれいな
  女性が案内してくれるとか」
「混んでるからね、無理だよ」
「じゃあ、方言でアナウンスするってのはどう」
「ああ、いいね、『次は名古屋(なごや)だがや~』とか」
「『博多(はかた)たい!』とかね。」

「電話番号の案内も方言だといいのにね」
「電話の会社も民営化だからね」
「そうそう」
「東京はその点、損(そん)かもね」
「でも、下町は、『あいよっ!』って言って、電話に出るのね」
「『台東区の山下産業?、こりゃまた、平凡な名前だねえ、きっと つまんねえ
  会社だよ。おっと、番号ね、番号、番号、よし!耳の穴 かっぽじって、
  よく聞きな。3596の、、、』」
「いいねえ」

「千代田区とか、官庁が多いから、官僚的なのね 『お尋ねの山下産業様の産業は、 いわゆる法人組織でよく用いられる 産業という理解でよろしゅうございますか。
 はい、、、、申し訳ございません、該当のものは、私ども、最大限、 努力した
  結果、と考えていただければ幸いでございますが、 近似値(きんじち)という
  了解でよろしければ、3件ほどございました』」
「長いのね。慎重で。」
「そう。『や、ました産業、やまし、た産業、やまし、たあ産業など いろいろと
  当たりました結果でございます』」
「ああ、言いそうだね。そういうこと」
「でね、『はい、じゃあその3件お願いします』って言うと、
『案内のほうは、担当が別でございますので、そちらのほうに、 あらためて
  御連絡いただけますか』って言うんだよ。」

 



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