介護ビザと日本語学校:学習ノート

 完全なものではありませんが、PDF版があります。オフラインで読む場合はどうぞ。
 ただしここのウェブ版が正式なバージョンです。PDF版は一部画像などが抜けていることがあります。
http://webjapanese.com//blog/j/data/files/kaigo.pdf

 

 

介護に関する統計、データなど

厚労省の推計で2025年には253万人の介護人材が必要だが、38万人近く不足となると報道されたのは、このプレスリリースが元になっています。
2025年に向けた介護人材にかかる需給推計(確定値)について
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000088998.html

資料はこちらに。今後の高齢者人口の見通しについて
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/dl/link1-1.pdf

総務省の人口推計では、高齢者の「数」に関しては2025年がほぼピークで、その後微増で2044年以降ゆるやかに下降する、という予測です。ただし、「比率」は20%近くあがりそうです。つまり、25年以降は必要な数(約250万人)は変わらないけど、急激に若者の人口が減るので担い手がいなくなる、という問題が出てきます。仮に、25年までの穴が外国人介護士で埋まったとしても、その後も、問題は膨らみ続ける。ますます外国人介護士に頼らないといけなくなる可能性が高い、というわけです。

1 高齢化の現状と将来像|平成27年版高齢社会白書(全体版) – 内閣府
http://ow.ly/V8qn308thIZ

一方、国内の介護士を作るほうは、日本介護福祉士養成施設協会(介養協)の調査によると2016年の定員(約16700人、377校)に対する入学者の数は7700人で46%とのこと。これは入学者なのでドロップアウトなども考えるとかなり厳しい数字。10年前の2006年は定員が26800人、409校で入学者が19200人だったとのこと。国内では待遇を多少改善しても人が戻ってくるという可能性はあまり見えません。

*読売新聞の記事
https://archive.is/Ne7B9

 一年前の調査(3月ごろの記事)2016年、加盟校の400校を対象に入学者数を調べた結果、定員17700人に対し入学者数は8800人、約50%。この5年間減少傾向(5年前は76%)都道府県別では最も低い自治体では30%程度のことのこと。

 

日本語学校→福祉系専門学校→就労という新たなルート

新たに介護ビザというものができることになりました。日本語学校や日本語学校周辺で仕事をしている人達にとって、多分、次のスキマは「介護」です。日本語学校がらみの問題は新たな展開になりそうです。日本語教師にとっても、介護福祉士目的(あるいはそういう建前で来る)の学生がドンと増えるかもしれません。このまま規制もせず、ただ介護ルートが加わると、年間数万人単位で学生が増える可能性があります。どういうものか、理解しておいたほうがいいです。

介護枠はこれまでの EPAルートでの調達がうまくいかず、技能実習生枠でも入れるようになり、それに加えて介護ビザも新設されることになりました。この3つめの介護ビザは日本国内で介護福祉士の資格(テスト合格に加えて実務経験か実務者研修の修了も必要。研修は指定機関じゃないとダメなどの規制もある)をとれば、そのまま在留資格を変更して就労できる。しかも、EPAや技能実習生制度より長い期間働けます。技能実習生枠が注目されてますが、実は、この「お金がかかるけど稼げるルート」は来日のハードルも一番低く、日本滞在中のアルバイトも他の枠組みと較べると自由度が高く。学生募集から、関連の斡旋や仲介のビジネス関係者も介入できます。しかも、介護の専門学校ならそれほど日本語が上達しなくても進学できる可能性が高い。民間の日本語学校にとっては絶好のお客さんです。

 

外国人介護士の3つのルート

ざっくりと違いを表にすると

期限 延長 再入国 費用 日本語 備考
EPA 3年 N5,N4,N3程度が来日条件。来日4年以内に介護士資格取得マスト。勉強のお金は国負担。 2015年は約500人
技能実習生 5年 不可 不可 実施機関* 来日時はN4、一年後N3必要。 常勤職員10人に1人しか雇えず。3年目に一時帰国義務
介護ビザ 5年 自己資金 来日時はハードル無し。進学先で資格取得するまで全額自己負担。 来日時は留学ビザ

 技能実習生の費用は実施機関(日本国内の受け入れ団体など)が負担。来日前研修はあるが、今のところ能試による足切りはないみたいです。「期限」は EPAと介護ビザは資格取得後の滞在期限、技能実習生は来日後の期限。

 一般の国内ルートはこちら

 技能実習生の日本語学習費用に関して、JITCOでは、技能実習生枠には一律で送り出し国での200時間研修をするとガイドラインにあり、来日後も日本語研修をやるように指導している(平均170時間はやっていると調査結果もあり)なので、いちお技能実習枠としてはあるはず。費用がどこから出ているかは、国内は管理団体、送り出し国では、よくわからないまま(ただし講師のギャランティーなどは申請すれば補助が出たという話もある。どこから出てからはわからない)介護枠ではどうなのかハッキリしない。

個別に情報を集めてみます。

 

EPA(2008年~)

国際厚生事業団(JICWELS)を通じて来日。来日までの枠組みはキッチリしていて民間の斡旋などはない。送り出し国で研修を受け、能試で足切りラインを越えて来日し、滞在中4年のうちに介護福祉士の資格を取得すれば3年働ける(延長可)。対象国はインドネシア、フィリピン、ベトナムのみ。日本語研修は経産省(国内&教材開発も)、外務省(海外)が主導している。それぞれの国で締結した条件などが違う。

EPAの概要 (厚労省)
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/gaikokujin/other22/
スライド
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11650000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu/epa_base_2810.pdf

 

来日前

応募の条件はフィリピンは4大卒か看護学校卒、インドネシアは3年以上の高等教育機関か看護学校卒、ベトナムは看護学校卒のみ、とのこと。
国際交流基金による六ヶ月の日本語研修でN5まで行かないと日本に行けない。(N4、N3合格者はこの研修が免除)、ただしインドネシアはN4がマストになりそうとのこと(ただしフィリピン、インドネシアはN4「程度」で能試の合格は今のところ要件にはなっていないとのこと)。ベトナムは12ヶ月研修でN3まで達しないと日本に行けない。

 

来日後

フィリピン、インドネシアは、6ヶ月、ベトナムは2ヶ月半の日本語研修がある。

と国によって来日前の研修も来日条件も違う。なお日本語研修の費用は日本の受入機関が一人あたり36万円を支払うということ(その他の費用は国が負担)ので本人負担はほぼなさそう。渡航費、滞在費も受け入れ機関が負担。

→ 全体的に手厚いし研修も無料だが、扱える人数に限界がある。元々母国で看護の資格を持っている人が多く母国でも仕事に就けるということで、日本に定着しにくい(母国の経済状況がいいと成立しない)2015年で568人。7年累計で約2000人。

 

日本語教育の担当は?

厚労省が関連団体などに委託しているとのこと。

「介護分野の技能実習生の日本語学習方法及び学習教材等の調査開発事業」として厚労省から委託されているのは、国際厚生事業団とのことでした。また、実際にEPA介護福祉士候補者の日本語教育支援を担当しているのは横浜の日本語教師のグループである「国際交流&日本語支援Y」で、技能実習生のほうもやることになりそうとのことでした。

その他、日本語以外の介護の学習ツール開発などで公益社団法人日本介護福祉士会が採択されているとのこと。

 入管の指針(ビザの延長期限などのルールは微妙に違う)
インドネシア
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyukan_hourei_h10.html
フィリピン
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyukan_hourei_h11.html
ベトナム
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri07_00073.html

 「国際交流基金 日本語講師」などで検索すると求人のページがヒットします。待遇はJICAと同じくらいでかなり安いです。半年単位くらいで、派遣する教師を募集しています。

 

技能実習生枠(2017年~)

:中学卒業と同等であれば申し込み可能。技能実習生のビザで来日。こちらも来日から介護施設への派遣まで国の枠組み。来日のためのビザ取得にはN4が必要(通常のJITCOは送り出し国で日本語をやれと指導している。このガイドラインにある200時間の研修が無料で受けられるのかは不明)、入国後1年でN3程度でないと帰国。最初から介護施設で実習だが、やることが細かく決められている。介護施設の常勤職員10人に1人しか雇えない決まりがある。

 このN4、N3は、能試の合格ではなく、あくまで「目安」になっている、とのこと。ただ他の技能実習生枠では、能試の受験はマストではないし、目安ももっと低い(来日前はN5、来日後もN4に達しないくらいで日本語研修は終わっている)。介護は日本語能力必要なので、例外的に目安も高い設定になっているし、特別な枠組みが作られる可能性がある。

外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(技能実習法)について(厚労省)
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000142615.html

滞在は最長5年で更新不可(このへんは技能実習であって労働力補填ではないからという建前があるので。しかし「技能実習生枠での再来日はダメ」ということなので、介護ビザでの再来日は可能?)。

対象国は、中国、インドネシア、ベトナム、フィリピン、タイ、ペルー、ラオス、スリランカ、インド、ミャンマー、モンゴル、ウズベキスタン、カンボジア、ネパール、バングラディシュ。(アジアが主ですが、韓国、台湾、マレーシア、シンガポールなどは入っていない)

 日本での第一次受け入れ機関は他の技能実習生とは違って日本語が大事なので、さっそくサイト上で「しっかり日本語を教える」みたいなことを書いているが、来日1年でN3合格はかなりハードルが高いはず。通常300~500時間でクリアするとはいっても、最初から就労目的でモチベーションが低い人にとっては、ほぼ日本語学校と同じペース(週4で午前か午後はすべて授業で年間760時間)で勉強しても難しいかもしれない。はたして。。。

 2017年外国人技能実習機構ができましたが、サイトには日本語教育関連のメニューはなしです。 http://www.otit.go.jp/

 

介護ビザ(2017年~)

:日本語学校(最長2年3ヶ月)に留学ビザで入り、介護コースがある厚労省指定の学校(大学は4年、専門学校はほぼ2年)に進んで介護福祉士の資格を取得すれば、在留資格を変更してその後5年働ける(延長可)。合計9~11年日本に滞在可能で、延長もできる。対象国は限定なし。留学ビザなので来日時の日本語能力は問われない。お金があればOK。最初の入国のハードルは最も低いと思われる。EPAの枠はまったく期待できないし、技能実習生枠は1割ルールがあり、この枠も当然必要ということになるので、かなり期待されているはず。必要な人手が10万人として半分以上はこの枠で埋める予定?(今のところ、1施設で何人までというような雇用の制限のルールなどは見当たらない)

日本語能力に関しては最もハードルが低く介護福祉士に合格すればそのまま就労できる。そのかわり日本語関係の国の補助はなく全額自己負担(後述する介護施設紐付きの「奨学金制度」はあるらしい)。

介護ビザに関する法律
出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案(法務省)
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri05_00010.html
*「案」ですが、改正案ですし、このまま通ったので。

介護福祉士の国家試験の延長

介護福祉士の資格は指定要請施設を卒業すれば自動的に取得できたが、2022年からは介護福祉士の国家試験合格が必要。
これは2016年からだったものが人手不足で、6年先送りになったもの。ただし、これから6年は移行期間で、17~21年の移行期の人は、試験を受けて合格するか、卒業後は合格無しでも、働き始めて5年以上連続で働き続ける限り合格無しでもOKとのこと(ややこしい)。この件は、関係者の間でも「もう確定」「また先送りになる」と意見が分かれるようです。

検索したかぎりでは、移行期間がハッキリ決められたこともあり2022年から合格マストになりそうです。介護福祉士の試験は、合格率60%以上の比較的簡単な試験なので、日本語ネイティブの人なら、5年チャレンジできるなら、長く働くつもりなら、受験して合格する道をとると思われます。

ということで、最終的には、国家試験に合格しないと働き続けられないということになりそうです。また、基本、人材確保のためにハードルを低く、という事情によるものなので、外国人留学生に関しては合格マストになる可能性はより高いのではと個人的には思います。

 技能実習生枠で期限に達して帰国した人が、この介護ビザ枠で再来日することができるのかは、まだ明らかになってませんが、他の技能実習生は別の資格で再来日OKにしようという流れがあります。再入国の受け皿的なビザになるのかも。

 介護福祉士の指定養成施設は介養協のサイトに 
  http://www.kaiyokyo.net/school/
 指定施設の関連法律は
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S62/S62F03601000050.html
介養協にはガイドライン的なものは見当たらず。法律には特に出席率や介護福祉士の合格率の記述はなし。「1クラス50人以下」というのはありました。人手不足という事情もあり合格率での指定取り消しなどは考えにくい。留学ビザなので出席率8割はマストでしょうけど、学校へのペナルティは日本語学校と違ってない。失踪関連もなさそう(日本語学校は2016年、入学者の5割が失踪したら認可年消しになった)。ただ学校教育法のしばりはあると思われる。

 

「介護ビザ枠」の日本語学校業界へのインパクト

このうち日本語学校が関係するのは3つめの介護ビザです。日本に行くハードルが最も低く、日本での滞在可能な期間が最も長い(10年以上可能)ただしほぼ自己負担なので、お金は一番かかる、というルートです。

高校卒業の資格を持っている人は、まず留学ビザで日本語学校に入り、介護系の専門学校や大学などに進学し、介護福祉士の試験に合格すれば、そのまま日本で就労できます。EPAの枠組みの最初の4年を自費でやる、という形です。ただしこちらは合格すれば5年働けるし延長も可能。(EPAは合格後3年)

介護人材を受け入れたい福祉系専門学校や私立大学はどんどんコースを作ってます。留学生コースを作ったり日本語学校を傘下におさめたりしています。が、直で留学生をとるより、日本語学校に推薦枠を与えるほうが楽という側面もあると思います。日本語学校は黙ってても介護ルートで学生を募集するでしょうし。

ただ、日本語学校から介護系の専門学校に入るハードルの設定は専門学校次第なので、学生がほしければどんどん低くなるはず。このへんが懸念材料でしょうか。前にも書きましたが留学ビザなので出席率(80)による管理はあるでしょうけど、例えば日本語学校のように法務省の管轄ではないので、失踪が増えたら認可取り消しとかというような規制はないはず。また、国家試験の合格率によって厚労省の指定取り消しという項目も見当たりませんでした。とりあえず留学生を日本語学校からとって、2年在籍させて不合格ならサヨナラでもいいか、みたいなことになりかねない???

EPAも技能実習制度枠も、日本に行くには、送り出し国から日本での受け入れまで、基本、政府の監視の元で進みます。民間の業者は入るすき間がない。(日本の一時受け入れ団体とか研修先で悪いことをする人はいるかもですが)

しかし、介護ビザなら最初の入口が留学ビザなので、日本語能力の要件もないし、日本語学校、福祉系専門学校もしくは大学で、4年間、留学ビザでバイトができる。介護福祉士の資格を取得すればビザ切り替えで5年働けるということで、約10年日本で働き続けることができる、ということになります。これは日本語学校の学生募集時の大きなウリになるはずです。

 

日本語学校ルートは「稼げる」し「儲かる」

技能実習生枠がどうなるかによりますが、介護コースがある専門学校や私大に送り込む前提でまずは日本語学校に入れる、みたいな学生集めは、超激化しそうです。日本語学校から介護系専門学校への推薦枠があって、そこそこの学力で入れるなら、2年半+専門学校の学生期間は職種関係無くかなり働ける。しかも、介護福祉士としての就労後はそこそこの稼ぎも約束されている。で、そこまで見越しての返済計画(もっと楽なローン)で日本語学校の学生を勧誘することができるわけです。

技能実習生枠は、日本国内では仕事の斡旋などで利益を得ることは原則禁止されていますが、留学生枠はOKですから、まとめて斡旋料を得ることもできますし、この記事で書いたような時給の差額での「利益」が発生します。しかも、専門学校卒業まで4年以上続きます。2016年不祥事で逮捕された栃木の日本語学校の理事長は、介護に目を付けてすでにいろいろと動いていたという報道もありました。

一見、介護士として働くという目的があるわけですから、最初から就労目的の学生よりいいかもしませんが、たっぷり働いて帰国できる、より便利な就労ルートとして活用されてしまう可能性もかなりありそうです。介護福祉士の資格は取らずに帰国しても4年間、週28時間働ける。介護福祉士の試験に合格すれば即稼げる。日本語学校在学中に成績がよければ大学に進路変更もできる(後述する介護ありきのローンを組んでいなければですが…)。しかも、このルートで介護福祉士の資格をとっても日本で介護士にならなければならないという決まりはない(これもローンがなければですが…)。つまり、ここでも日本語学校を経由することが「抜け道」となってしまうのが残念です。

ただし、日本語学校は就学ビザ、専門学校は留学ビザと分けて、日本語学校時代のアルバイトが禁止になれば、返済計画ありきの学生募集はできなくなるはずです。専門学校に進める保証はないし(日本語学校から専門学校に進学して)2年後から返済します、などとというのんきなローン計画は作れないはずですから。そうなると、やはり、この日本語学校ルートも、最初からきちんと自己資金でこれない人は応募しにくい、ということになります。それでも、介護の仕事がしたくて資金がない人は技能実習生分けで行けばいいので、問題ありません。日本語学校の学生のバイト禁止は、ここでもいろいろなトラブルの抑止力になると思います。

 バイト禁止に関する記事はこちらにあります。

 

日本語学校ルートへの「奨学金」プログラム?

ただし、この日本語学校→専門学校ルートには、こういう奨学金プログラムもあるとのこと。ツイッターでリプライをいただいて、少し調べてみました。ハッキリしないことも多いのですが、わかっている範囲だけでも、問題はあるのではと思います。「日本語学校の謎」という記事に書いた「就労ありきの返済計画の違法性」とも関わってくるのですが、まずはこのプログラムに即して、考えていきます。

印象を書きながらメモっていきます。

2022年までの延長は、いろいろ調べたかぎりでは、今回で最後という可能性はやはり高いという気がします。留学ビザで奨学金という名目の場合、特定の施設(しかも出資したところ)での就労の義務づけ、となると、職業選択の自由を侵すのでは、という懸念があります。また、「9年しばりのローン」ということは、留学ビザの期間も介護施設で働くことが期待されているんでしょうか?ネットでみる限りでは、介護の場合は100万円くらいが上限みたいです。日本語学校と専門学校は4年フルなら400万近くです。もちろん、3年以上の就労契約は労基法違反です。

確かに医療系の学校では、奨学金を出した病院で働くみたいなケースは、後述しますが、看護師のお礼奉公などと言われ、あるようです。ただし、これも、「就労ありきの返済計画の違法性」で書いたように、職業選択の自由はもちろん労基法の5条、就業の強制にあたるとされるようです。今は労働契約としては、やっていない、やめるとこも多いが、まだ紳士協定、慣例だから、と続けているところもある、とのこと。

また、返済額が大きい(100~200万)と労働基準法16条(賠償予定等の禁止)で、「返済金額からして事実上退職が容易になしえない」として問題とされるという判例もあるようです。他にも違約金の設定や、給料から事実上天引きされていた例など、悪用された歴史があり、少なくとも国内では、訴えられたらアウトという状況です。

自治体なども地元で働くことを前提に奨学金を出すというケースはあります。ただし、これも職業選択の自由を侵しているのでは?という議論はあるようです。きちんと訴えたら勝てるのでは、という人が多いとのこと。なので、この施設紐付きの奨学金は、奨学金のひとつのバリエーションと考えるのはやはり難しいようです。

また仮に奨学金という名前を使わないとします。

でも、労基法の適用は同じことだそうです。「奨学金」を名乗るための要件、みたいなものは見当たりません。貸す側の税法上の処理のあれこれはあるものの、外向けには言ったものがち的な名称のようです。
また「本人の意思で選んだという解釈」ですが、これは「本人の意志で選ばないという選択ができない」以上は難しいのでは?という気がします。施設の紐付きの奨学金の場合、働く先に問題があり施設を変えたいと思っても難しい。では辞めるという選択はできるのかというと、これもかなり難しい。新聞奨学生や自治体の奨学金はやめても他の方法で返済できますが、留学生の場合、帰国して、円でできた借金を帰国後、母国で働いて返すことは事実上不可能ではないかと思います。結果、失踪するか、介護施設がどんな環境であろうと、働き続けるしかない、ということになるのでは。

しかもこの場合「自分の意志で」選択した職業では日本に滞在できる「期限」があります。そこで長く働くことはできません。ビザの延長が認められなければ、日本でのみ通用する「介護福祉士」の資格と共に職場も失います。

何より、債権者(お金を貸す人)が誰、どこなのか、が問題です。民間の業者が奨学金と称して返済ローンを組んでいるなら、不祥事を起こしている日本語学校と同じ構造である可能性があり、またそうであっても区別がつきません。二国間に渡る借金は、どういう取り立てがあるのか、どういう法律に基づいて契約が履行されるのか、わかりません。この奨学金という名の返済ローンに関して、もしきちんとした規制と国によるチェックがないのなら、混乱に拍車がかかるだけなのではという気がします。「***国では日本の労基法は適用されないから」みたいなことを言ってる人もいそうです。

奨学金であれ、返済ローンであれ、課題、問題が多すぎるように思います。だいいち留学生はなかなか訴えることもできませんから泣き寝入りになることが多いはずで、介護施設や病院などが関係して行われるとなると、国際問題に発展する可能性もあります。

学費などが払えない場合は、EPAか、技能実習生制度を利用する道もあるので、この介護ビザの日本語学校ルートで、奨学金やローンを組んで学生を集めるのは、私はなんらかの規制で原則禁止にしたほうがいいと思います。

 

お礼奉公という制度の危うさ

医療関係で行われている奨学金制度(のようなもの?)で、病院からお金を借り看護学校などの費用にあてる、国家試験に合格した後、一定期間その病院に看護師として勤務すれば、返済が免除になるという制度があります。「一定期間勤務する」のを「お礼奉公」と呼ぶそうです。

ただ、学校を途中でやめたり、試験に不合格だと奨学金は原則全額返済となります。EPAの制度も勤務先が一部負担する形になっていてそこでの実習となるようなので、この制度を下敷きにしているようなところもあります。

しかし「看護師 お礼奉公」「お礼奉公 労働基準法」などで検索すると、いろいろと問題となったケースがヒットします。今も行われている慣例のようですが、これだけグレーなものを留学生に適用するのは(EPAのように国が仲介して国家間の合意ありきで、取り決めとしてやるならともかく)民間業者が入る形で二国間にまたがってやるのは、かなり問題があると言わざるを得ません。

お礼奉公契約は違法ですか?
http://www.asahi-net.or.jp/~zi3h-kwrz/law2roore.html

看護師のお礼奉公とは
http://kangoshi-yametai.com/%E9%80%80%E8%81%B7%E3%81%AE%E7%96%91%E5%95%8F/oreihoukou.html#05-2

 失踪といっても、勝手に逃げるのではなく、足下をみて「借金あるんでしょ、逃がしてあげるよ」と手引きする人達がいてはじめてできるわけです。失踪した先で、手引きした人の元で働かされている可能性もかなりありそうです。でないと日本語もあまりできない人が失踪して日本で完全に消えることなんて無理です。

 EPAも施設負担で人手を確保する仕組みなので、似ているようですが、EPAの場合は、最初から就労の枠組みで国家間の合意があります。「帰国もできる、施設も選択可能なのでお礼奉公ではない」と違いを強調しているようです(このことからもお礼奉公制度の違法性が伺えます)。EPAでは、施設負担の仕組みも仲介は政府なので斡旋や仲介での利益をあてにしたビジネスは違法です。

この画像にあるのは、おそらく介護福祉士の資格をとって就労ビザに切り替えることができるという前提での奨学金です。「指定法人で」とあるので、施設の紐付き奨学金なのでしょう。合格して介護福祉士として5年働けば返還義務無しとあります。これは、つまり、日本語学校ルートならば、もう来日して日本語学校に入学した時点で介護の専門学校を目指さなければならないし、働かずに帰国することはできないということです。5年就労なら最初の4年は勉強で、その後の資格取得はマストで、その後の5年就労もかならずやらなければならないことになります。

しかも、この24ヶ月、30ヶ月の70万くらいというのは、2年分の必要な学費の半分ですから、残りは、また別のローンを組むことになる。専門学校の学費は入っていない。おそらく2年で200万くらい。つまりあと300万分くらいは、留学ビザ時代の4年間でビッシリ働かないといけない。結局、滞在中の9年働くことが前提です。

また、この額が70万と100万になっているのは、上で述べた返済額が大きい(100~200万)ことで、労働基準法16条(賠償予定等の禁止)で「返済金額からして事実上退職が容易になしえない」と判断されない額という設定なのかもしれません。いずれにしても、かなり綱渡りです。

 実習生の3年というのは、技能実習生枠のこと?でしょうか。元々、技能実習生用?でも、技能実習生枠は勝手に就労施設決められないはずでは。こういう斡旋前提の奨学金制度みたいなものを仲介するのはダメなのでは…。来日1年でN3という高いハードルをクリアする前提でローン組むのは無理なのでは。それともこれはそのハードル設定前のもの?とこの画像、わからないこともいろいろあります。

 

懸念材料と不透明なところ

仮に奨学金という名前でなく、ぶっちゃけローンね、ということでも、職業選択の自由、労基法違反というリスク以前に穴が多いです。


・来日前に100万、入学後に100万単位でローンを組み続けるみたいなあからさまなことはやれないはず。
・学生が途中でドロップアウトすれば自己返済となれば失踪の強い要因となってしまう。
・病気の際はどうなる?全額返還?
・介護福祉士の試験合格がマストになれば不合格者は介護での就労はできない。その時どうするのか?
・介護施設側に問題があった場合、あるいは倒産した場合どうなるのか?
・介護ビザ、斡旋とか仲介OKで返済ローン、施設紐付きの奨学金などが自由ならもう大混乱なのでは…。

最大の問題は、この「奨学金」は、民間の斡旋業者が日本の介護施設と提携すれば、自由に参入できることです。技能実習生と違って、介護ビザには斡旋に関するルールは、見当たりません。介護施設の給料からいくら「抜く」かをチェックできるのか?

また、奨学金の100万円は施設の紐付きでやるとしても、それで払えるのは日本語学校と専門学校の学費分の400万円のうち300万は別の返済計画が必要です。ここで人材派遣業者独自の返済計画を入れ込んで、パッケージにすることもできます(多分、どんな形でやっても違法だと思いますが)。これをやってもいいのなら、留学ビザの間のバイトでの返済だけなく場合によっては介護福祉士の資格をとって就労する前提での9年ローン的な返済ということもやろうとするところはあるかもしれません。

 こういうこともあるのかもしれません。
例えば、人材派遣系の会社が作るローンで、日本語学校と専門学校の学費をセットにして、4年間バイトで返済させようというパッケージが最初からあるとします。4年分400万くらいのお金が必要です。週28時間は、年50週なら1400時間、時給800円で112万。4年で約450万稼げる。ギリギリ返せない額ではないです。
そして斡旋する側にとっては、実際の時給が1350円なら、差額分が利益になる。1年77万、4年で308万の利益になります。
人材派遣&日本語学校の学生集め会社は、もし介護の仕事に就くと約束してくれるなら、学費のうち、100万分の返済は介護福祉士になってからの5年で相殺できるよとオプションでつけることができます。おそらく人材派遣会社は就職したら成功報酬が取れるはずです。
そして、留学中のバイトの斡旋の4年間の利益は308万なので、仮に学生が介護福祉士になれなくて成功報酬無しとなっても赤字にはなりません。返金義務となった奨学金の取り立ては、現地でいろんなところと提携してやるつもりなのでは。

 公的な奨学金として、介護福祉士修学資金貸付制度というのがあるそうです。これは地方自治体によるものなので、自治体によってルールが違います。ざっとみたところでは、学校の入学金準備用に20万くらい、資格取得のための専門学校に在学中は、月額で5万円(2年で120万円)くらい出す、無利子で卒業後、県内で5年働けば返済免除、枠は一年に20~100人以下で、地方自治体にいろいろと届け出をしなければならない。前述のように、県内限定というところはひっかかりますが、まだ自治体の債権者ならば、多少はいいかもしれません。ただ、最近は地方自治体も産学連携などといってウッカリおかしなところと提携するケースもあります。もし、留学生にターゲットを絞った奨学金を地方自治体がやると言い出したら要注意だと思います。現状のものでも、留学生に適用されるのかは、個別に問い合わせないとわかりません。「**県の助成が受けられる」みたいな話があったら、まず自治体に要確認でしょうか。

 

いろいろ大丈夫???

この奨学金ありきの日本語学校ルートは、技能実習生枠がどのくらい実効性があるかなど、いろんな要素で変わってきそうです。技能実習生のほうが割安で簡単に行けるとなると、日本語学校ルートは厳しいでしょうし、一部受け入れ施設から「奨学金」が出るとなると、奨学金詐欺なんかも増えそうです。

私は、この介護ビザは、自己資金をいいことにかなりスカスカの構造になっていて、どこをどう規制するかが見えない、かなり危ういものだと思います。奨学金も、現在、日本語学校が手を出しつつある、問題山積の就労ありきの派遣業的な手法だと思います。それについては、ここで書きました。

日本語学校の謎
http://webjapanese.com/blog/j/nazo/

どう考えても、普通の留学生だけでもスキマだらけで、人材派遣業界にカモにされて何もできないまま混乱してるのに、介護目的の長期目標の人受け入れる能力が日本語学校業界にあるの???、そんな新たなスキマを。。。という感想しかないです。この介護の日本語学校ルートに関しては。

 介護系の専門学校や大学に、介護福祉士の合格率や出席率で認可取り消しなどの規制がなければ、あるいはあってもユルユルなら、日本語学校から福祉系教育機関のルートは不法就労のたまり場になる可能性がありそうです。

 少々問題は起きるだろうけど、介護の人をかき集めるのはこれしかない、というようなことなのかもしれません。しかし、日本語学校が経由地として荒らされる予感しかしません。そして日本語学校業界は何も考えずに「もらえるものは貰っておこう」的に飛びつきそうです。おっかないです。

 この日本語学校ルート、介護目的でも名目上「留学生」が増えるので30万人計画も達成に近づくみたいな思惑もあるのかも。。。

 

この記事について

この記事は学習ノートです。いろいろと調べたりしている最中のものを公開しています。新しい事情がわかったら追加し、間違いは修正していきます。自分の勉強と整理のためのメモですので、読みやすさは考慮してません。自分の考えも書いていますが、あまり整理できていません。ご了承ください。

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私どもは、東京を中心にプライベートレッスンを請け負う日本語教師のグループで、現在は日本語関連の出版を中心に活動しています。1997年から日本語学習者向けサイト(このブログがあるサイトのことです)を運営していて、ずっと学習者向けにウェブ教材なども作ってきました。これまで多くの日本語教師と仕事をしてきました。この記事は、それらの話を参考にわかるかぎりのことを書いてみた、というものです。事実関係など間違いも多いと思います。

ここに書いたことが、何かひとつでもヒントになればうれしいですし「私のほうがアイデアがある、上手く書ける」というような新たな書き手の出現の呼び水になればと思っています。

いろんなサイトを参考にさせていただきました。

介護技能実習生とその他の制度の違い
http://www.ibr-c.com/business/care/system/
留学生ビザの新設について
http://www.tn-office.jp/14240775020843

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