「世界の日本語学習者は、現在、どのくらいネットを活用できているのか」に関する考察。

はじめに

この記事はツイッターでのやり取り
http://twilog.org/webjapaneseJ/date-160530
http://twilog.org/webjapaneseJ/date-160531

をふまえて、1時間くらいで書いた「だいたいこんなカンジじゃないか」というメモ程度のものです。ブログで記事として投稿したほうがいいのかもしれませんが、ブログは、時間をかけて書いて、公開後もメンテをしていく、という使い方なので、これは PDF にしてみました(最初はこの記事はPDFで公開しました)。

私はインフラ関係はもちろん通信のあれこれに関しても素人です。このメモは、これまで日本語学習者向けに Web 制作をしてきた中でチラチラといろんな資料をみてきたものを、思い出しつつ、ざっくり書いただけです。もうちょっといろんなデータにアクセスできる人、例えば、多国籍企業でサイトを作ってる人とか、そういう受注をする人、ネットビジネスをやってる方が書く方がふさわしいかもしれませんが、わりと、ネット上で公表されてる資料だけでも、概要くらいまではみえてくるはずです。商業ベースではないものもしっかりみておくことは重要です。資料の紹介も兼ねて、いちお基本的な考え方の道筋みたいな確認だけでも。
誤変換、てにをは、雑です。検証は各自でなさってください。ご質問に対応するのは難しいです。ご興味ある方は、これをたたき台にして、よりよいものを作って下さい。ご参考になれば幸いです。

 

考え方

「世界の日本語学習者はネットを活用できているか」を考える場合、大きく分けて 3 層で考える必要があります。ひとつはインフラの整備がどのていどか、2 つめは普及率、3つめは、条件が揃ったけど、学習に活用しているか、というものです。回線があっても利用されてないケースも多い、というような話ですね。ここでは、この3は省略します。

1)インフラの整備

インフラの条件は、なかなか分かりにくいんです。日進月歩ですし、例えば、ミャンマーやベトナムは回線の敷設率はどうなのか、現地の人か関係者でないとわかりません。日本のように、元々の電話回線がしっかりしている国は少数派で、電話回線をベースに網の目のように、というのは途上国では難しく、常時接続レベルの敷設率は低いそうです。まずは大都市と工業団地、大学までで、一般家庭にまで伸びてないケースは途上国は多いようです。最近は途上国では、家庭回線じゃなく携帯回線からやる式が多いそうです。3 G がメインらしいですが、日本の携帯回線ほどの品質ではなく、基地局もまだまだとのこと。格安スマホで通話とメールができれば OK で、ウェブページをみるという需要はあまりないと聞きます。

2)普及率

2 つ目は普及率、簡単に言うと、回線があって加入できる人がどのくらいいるか、で結果、人口のどのくらいをカバーできているか、です。日本でも実は80%ちょっと(2015 年)。貧富の差で加入できない世帯がどのくらいあるか、という点。インフラの整備をふまえて、じゃあ、実際のどのくらいの人がネットを活用できているのか、ということです。WIkipedia には、普及率のリストがあります。

https://ja.wikipedia.org/wiki/国のインターネット普及率リスト

2016 年の統計はこちら。
http://www.internetlivestats.com/internet-users-by-country/

中国で 52%、インドネシアで 20%。アジアはここが弱いんですね。インフラは整備が進んでないこともありますが、家庭用の回線が来ててもデータ通信契約に加入できる世帯はまだ少ない。スマホはなんとか買ってもパソコンが買えない。アフリカ、南米も 50 を割る国が多数です。自宅と学校でネットに接続できるのは世界の平均でも意外と低いということがわかります。2014 年で 4 割とのこと。

http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20140508_647277.html

2016 年で 5 割くらいと考えていいでしょうか。
特に日本語学習者はアジアが 8 割とすると、ネットに接続できる率はより下がる可能性が高い。このへんは、OECD の調査が詳しいところです。もちろん、携帯回線もあるのですが、通話はできても、データ通信は3 G レベル。基地局の整備もいまひとつで、何より回線品質がイマイチであることが多いようです。大都市以外はかなり厳しい。

http://www.slideshare.net/OECDEDU/students-computersand-learningmaking-the-connectionandreas-schleicher-director-oecd-directorate-for-education-and-skills

* 日本の普及率に関するデータ(総務省)
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h27/html/nc372110.html

→ 日本の場合は携帯回線利用者が多いので家庭回線はあまり伸びないかも、という、インフラどうこうの国の 2 歩先を行ってるというところです。

3)回線品質

これは資料としては、Akamai の調査というものが有名です。最新レポは登録してダウンロードですが、ひとつ前からオンライン上で読めます。現在整備されている回線のうち、どのくらいがブロードバンドか、みたいなことがあります。(「接続」>「過去の接続に関するレポート」で、過去の最新のものを。PDFの最後のほうに各国の接続スピードの一覧があります)
https://www.akamai.com/jp/ja/our-thinking/state-of-the-internet-report/index.jsp

例えば、回線速度が、4Mbps 以上(ADSL 品質)の比率は、日本は 90%なんですが、中国で 33%、ベトナムで 31%、インドネシアで 17%です。最初から携帯回線、というのは、いろんな大手の企業がいろんな国でやってるわけですが、日本のように全国津々浦々に基地局を置くみたいなことは難しいそうです。あと回線の品質も、日本の 4G(LTE)ではなく3G がベース。会社によっては安かろう悪かろうもあるとのことで、国によってばらつきがあり、ハードや通信契約もいろいろ。途上国では基本、高品質な回線をしいているところは従量制が多く、安さで勝負のところは定額もあるとかとというレポを見ました。3 G 回線が普及するため、家庭でネットに接続する習慣がないということも起きているらしく、その場合は例えば学習者が家庭でスマホで携帯回線を使うことになるのかもしれません。通信費もあるでしょうし、どこまで自由に使えるかはわかりません。

学習で使える条件

さて例えば「いつでもネットで辞書をサクッと参照できる」のは、自宅と学校でネットに接続できることが条件になるでしょうか。どちらかで可能なら OK ですが、自律的に学習するとなるとやはり自宅でネットに繋げる環境が望ましい。携帯回線(アジアはインドネシアをはじめ従量制が多いと聞きますし、気軽に使えるとはまだ言い難い)だと、なかなか厳しいので、自宅にネット回線があることが大事でしょうか。

辞書などテキストベースの機能拡張、アプリといっても、今のものはブロードバンド前提で作っているので、それなりのネット環境が必要になります。まずソフトそのものも意外と重いはずです。で、ブラウザーなどでウェブページを読みながら「サクッと辞書が引ける」というものや、ふりがなをふるのは、一旦、ネット上のデータベースにアクセスして、検索して、という手順なので、ネット接続環境への要求度は高いです。今は、こういうネット環境に依存したものは増えており、端末の中で単独で動くアプリケーションのほうが少数派といってもいいくらいです。特に語学関連は。これらのアプリ、機能が、実用になるのはだいたい ADSL くらいからだと思います。携帯回線だと 3G だと結構厳しくて、4 G は欲しい。1~10Mbps は欲しいところです。これらの基本的なデータをふまえて、日本語学習者のうちネットを活用できているのはどのくらいいるかを考えてみます。

日本語学習者の数から考える

日本語学習者は 2012 年の国際交流基金の調査(もうすぐ 2015 年版がでそうです)によると世界で 400 万人いると言われています。これはリアル教室に通う学習者の数で独習者、ネットで学ぶ人などは入っていません。日本語学習者の国別の分布を、その国のネット接続環境で比率を出すのは正確ではない可能性があります。一部の国で義務教育に入っていたりするのを除くと、どちらかというと、外国語をしかも日本語を勉強しようという機会に恵まれた人は、生活環境もよく、企業などの研修や就職などもあってサポート体制があったりすることも多いからです。ただ、そのへんは調整するためのデータもありませんので、とりあえずはネットの接続環境をベースにざっくりと考えてみます。

(以下はツイートを抜粋したものです)

さて、世界の学習者を仮に 400 万人として、そのうちどのくらいが日常的にネットを活用できているか、は、私は「わかりません」正確な数字を出すのは困難です。ただ「だいたいこのくらい」というイメージを持つことは大事だと思っています。その比率を少なく見せる必要も多く見せる必要もありません。ただなるべく正確に、今後の予測をふまえつつイメージを持っておかないと、ウェブコンテンツは作れませんし、日本語学習者のネット活用に関して考えたり、何か書くのは困難だと思います。

きっちりと書くのは大変なのでざっくりと。数字はおおまかです。国際交流基金の 2012 年の調査では400 万人のうち 8 割以上(320 万〜)が東&東南アジアです。中国が 100 万インドネシア韓国が 80 万、台湾 20 万中台韓はインフラはもうそこそこ整備されてます。地域差とネット遮断という事情はあっても、もっと多いかもしれません。台韓も半数ではなくそれこそ 8 割くらいと考えてもいいかなという気がします。150 万人は大丈夫なのでは。

インドネシアは急激に発展中です。OECD の 2012 年の調査では自宅でネットに接続できるのは25%でしたが、携帯回線も考えると、4 割は期待できるかもしれません。80 万人の 4 割で 32 万人。他の東南アジアの国々はやや厳しいと思います。同じ調査で、現在各国の投資が集中しているベトナムで 4 割(18000)ですが、他の国(合計 22 万くらい)では調査もありません。平均 2 割くらいとみるのが妥当でしょうか。東アジアと東南アジアでネットが活用できてない学習者は、50 万+48 万+17 万で 105 万人

アフリカは3 G 回線が大都市をはじめ普及しつつあるとはいっても、個人が日本語学習に活用できるところまで行くのは時間がかかりそうです。国際交流基金の調査では学習者数 8000 人。3000 人が活用できたらいいなと思います。南米は、地方都市では ADSL も携帯も厳しいとよく聞きます。ブラウザーで辞書を参照できるスピードはやはり ADSL か 4G 並みじゃないと厳しい。学習者数は 3 万。半数は活用できているとします。その他の地域は、省略します。仮に、ほぼ大丈夫としましょう。合計、数でいうと、少なく見積もっても100万人以上、25%の日本語学習者はネットを活用できる環境にはない、と言ってよさそうです。

もちろん、これは徐々によくはなっていくはずです。ただ、学習者数が多く、増加が期待されるアジア地域(320 万人~)で三分の一がまだネットを活用できないということは、特にコンテンツ制作においては、注目すべきだと思います。OECD の調査は 2015 年ですが、調査時期は 2012 年、Akamai の調査は最新ですが、すべての国が対象ではありません。「安定して ADSL が使える」くらいを基準にするともっと厳しいかもしれません。回線品質、基地局、電力などいろんな要素があります。インフラ環境をベースに考えるのが確実だと思います。その上で、OECD の家庭に回線があるか、個人でアクセスできるか、スマホは持てるか、という調査を加味して考えます。環境が揃った上で学習者が活用するか、という順番でしょうか。

日本ではデジタルデバイト(デジタル格差)の問題は語られなくなっていますが、世界の状況を見たとき、この問題はまだあり、特に日本語学習者が多いアジア地域では大きな問題です。国際交流基金の方々には、できれば注目してほしいと思っています。ツイートの抜粋は以上。冒頭で紹介した Twilog に双方のツイートがあります。私は(いつもそうしてますが)やり取りが発生したときは、フォロワーの方に可視化するために、先方のツイートもほぼ RT しています。

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以下の参考資料などをつきあわせて、もうちょっと各国の事情などをふまえて、ひとつひとつきちんと出していくのがいいんですが、それは、時間のある方におまかせします。より詳細なデータを作り、考えを深めていってください。ネット関係の研究をしている方もいるかもしれません。「こういうことになっているだろう」というような予断をまじえず、淡々とデータを探し、データをみてください。「こうあってほしい」というような思い込みありきでデータを探したりということはしないでください。

日本語教育と ICT 活用に関する論文は少なく、前提としての海外のネット環境に詳しく言及した論文などは、CiNii では見当たりませんでした。正直、日本語教育関係者は、海外のネット回線の接続状況などに関する基本的な知識がなく、あまり考慮されていないように思います。国際交流基金のサイトがかなり重く、モバイル対応でもない、結果、アジアからのアクセスはほとんどない。というような状況はそのへんが反映されているのかもしれません。

最後にひとつ。

大都市に住んでいる今の比較的恵まれた日本語学習者をターゲットにウェブ戦略をたて、サイトを作るということは、特にアジアでは、入口でアクセス出来る人を選別してしまうことになります。インターネットにアクセスするチャンスがあるけど、あまり回線品質がよくない、自宅ではアクセスが難しいという人達は多く、同時に回線品質にも注目すべきです。また、携帯回線ならば、料金体系はどうなんだろうか?という視点も重要です。日本語学習者に向けてサイトを作る場合はネット環境のことをいつも意識してください。今後、いろんな論文が出てきて、日本の日本語教育におけるネット戦略によい影響を与えることを希望します。

参考資料

日本語学習者のネット利用状況と学習サイトへの期待 -海外11拠点の調査結果から-
伊藤秀明・石井容子・武田素子・山下悠貴乃
https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/teach/research/report/12/pdf/07.pdf
世界のネット環境に関する資料
AKAMAI による世界のネット環境調査
https://www.akamai.com/jp/ja/our-thinking/state-of-the-internet-report/
OECD の世界の ICT に関する調査
Students, Computers and Learning Making the Connection
http://www.oecd.org/education/students-computers-and-learning-9789264239555-en.htm
OECD Telecommunications and Internet Statistics
http://www.oecd-ilibrary.org/science-and-technology/data/oecd-telecommunications-andinternet-statistics_tel_int-data-en
そのサマリーのスライド
http://www.slideshare.net/OECDEDU/students-computersand-learningmaking-the-connectionandreas-schleicher-director-oecd-directorate-for-education-and-skills
ISOC(インターネット協会)による年次報告書
http://www.internetsociety.org/globalinternetreport/
インターネットに関する統計など
http://www.internetworldstats.com/
ネット関連の国際機関
http://www.itu.int/en/Pages/default.aspx
データ配布ページ
http://www.itu.int/en/ITU-D/Statistics/Pages/stat/default.aspx

 

私のブログ「日本語教育あれこれ」のネット環境に関する部分です。
http://webjapanese.com/blog/j/nihongokyooikuarekore/#i-41
日本語教材のウェブサポートに関する提案の記事でも少しネット環境について書いています。
http://webjapanese.com/blog/j/nihongosupport/#i-9
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ライセンスは以下のとおり。
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この文書は、2016 年 5 月 31 日にPDFとして公開し、同年12月12日にブログとして再び投稿しました。
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