1999 / 08

 

08 / 09

先週、私は、約7年住んだアパートから引っ越した。

アパートは、2階建てで、 2階には3つ部屋がある。いずれも6帖で風呂はない。
築15年くらいだと思うが、作りはしっかりしている。 一階には、大家(おおや)さん夫婦が住んでいる。正確には住んでいた。だ。

昨年の八月の中旬に、御主人が亡くなった。ひっそりと葬式も済ませた ことを月末に家賃を払いに行った時に聞かされた。 年老いた奥さんは、ひとり残された。
家賃を払いに行く時に、玄関先で話す時間が長くなった。

実は、この赤羽という街はあまり好きになれなかった。

古くからある商店街は、どこか、しっとりとした風情(ふぜい)を失っていた。
古い店の人たちは、少しずるそうな顔をしていた。
駅前のビルは、いずれも高度成長期に建てられたものらしく、古びて ほとんどが雑居(ざっきょ)ビルとなっている。 アジア系の人が多く住んでいるそうだが、目立たない。

以前住んでいた 池袋では、早朝に大極拳(たいきょくけん)を舞う老人のグループがいたりして、外国人ものびのびと生活している様子だった。 ここ赤羽では、そこまでの雰囲気(ふんいき)はないようだ。

赤羽は、川沿いの街でもある。しかし、多摩川沿いと違って、河川敷 への道は、閉ざされていて、川沿いの街がもつ開放感は ない。

この町は、住民に愛されていないような気がする。 かといって、私が次に暮らす街は、鉄道会社が作ったような人工的な 街で、便利だけれども、面白みはない。

 

1999 / 08

 

08 / 10

もしかしたら今年の夏は、非常に日本的な夏かもしれない。 暑すぎず、涼しすぎず、最近、見られなかった夕立ちも多い。 夕立ちが来るまでは、意外と、空気は乾燥している。夕方以降と 朝は、湿気が多い。

「浮草(うきくさ)」は、小津(おず)の映画で、初めてのカラー映画で 夏の雲が印象的だ。ただし、撮影(さつえい)は、夏ではなかったようなことを読んだ記憶がある。 この映画は、例外的(れいがいてき)にキャメラは、盟友(めいゆう)の 厚田雄春(あつた ゆうはる)ではなく、宮川一夫(みやがわ かずお)だ 。

からりとした夏の空や、けだるい田舎の夏の風景などが、小津の映画にしては やや迫(せ)り出してくるような画面に違和感(いわかん)を感じつつも やはり気持ちのよい画面になっていたことを覚えている。

宮川一夫氏は、溝口(みぞぐち)監督のカメラマンとして最も有名だ。 カメラマンとしての代表作も溝口の一連の作品になると思う。 黒沢監督とも組んだ。作品としては、こちらのほうが有名かもしれない。

日本は四季(しき)のコントラストがはっきりしており、地方による 気候の差も激しい。新潟(にいがた)の海と、広島(ひろしま)の海では まるで違う。この季節感が出せるかどうかが、キャメラマンの試金石 (しきんせき)となっている。

職人と呼ばれるキャメラマンは、何人もいたが、宮川さんは、その代表的な 人物だった。

 

1999 / 08

 

08 / 11

関東地方には温泉が多い。

栃木県には、草津(くさつ)、鬼怒川(きぬがわ)。
神奈川には、箱根(はこね)。静岡には、熱海(あたみ)。
福島県には、熱塩(あつしお)があり、
群馬には、伊香保(いかほ) 水上(みなかみ)がある。

これらのうち、温泉の横綱(よこずな)は、草津だ。今でも湯量(ゆりょう)は多く、 旅館の質も高い。 鬼怒川も、奥まで行くと、静かな温泉地が多い。 その他の観光地も悪くはないが、昨今は、国内の団体客が多く訪れることが 災(わざわい)いして、旅館の質は下がり、人は多い。安っぽい 土産(みやげ)屋と、カラオケバーでいっぱいだ。

露天風呂(ろてんぶろ)があっても、基本的に温泉地は「室内」を 楽しむものなので、観光地の人々も周りの環境(かんきょう)には 感心がないようだ。

 

1999 / 08

 

08 / 13

現在、私がすんでいるところは、埼玉県。東京で仕事がある人たちが 住む街だ。
人工密度も高く、現代日本の縮図(しゅくず) といっていいだろう。

この街のゴミのルールは、現在の日本の最も一般的なもののひとつだ。

週に2回、燃えるゴミを出す日がある。これには、ビニール製品も 含まれる。
週に1回、リサイクルゴミの日。これは、缶ジュースの空き缶や、 びん、ペットボトル(最近、多い)、新聞や雑誌などを分けて出す。
隔週(かくしゅう)で、1回、燃えないゴミを出す日がある。陶器や、金属類で 小さいもの。
その他、大きなものは、ひとつ200-1000円程度の費用(ひよう)がかかる。 事前(じぜん)に電話をして、決まった日に取りに来てもらう。

最近は、ワインブームで、輸入ワインのびんが、リサイクルに適さないと 問題になっているそうだ。 このようにゴミの分別(ぶんべつ)は始まったが、商店などで、ゴミを 減らす努力はまだまだのようだ。

 

1999 / 08

 

08 / 16

首都圏(しゅとけん)では、たいていどこの街にも図書館(としょかん) があり、誰でも利用できる。特に東京では、外国の本を置くところも 増えてきた。英語がいちばん多いが、韓国語、中国語の雑誌や本がある 図書館は多い。他の言語は、ほとんど見られない。

利用率は、だんだん上がっているそうだが、一般の外国人にはまだ、知られていない。 やはりまだ、図書数も多くないこともあって、人気はいまいちのようだ。

いわゆる名作は多いのだが、ベストセラーは少ない。 例えば、日本人が、ローマの図書館で、源氏物語(げんじものがたり)を 見かけても、読む人は少ないのといっしょだ。

ないよりはいいですけどね。

 

1999 / 08

 

08 / 17

猿(さる)が捕(つか)まった。 60日間、都心を自由に歩き回り、話題(わだい)をさらった猿だったが、 ついに捕まった。

警察も含め、この猿を捕まえようとした人たちは多かったが、街の人達は、猿の味方(みかた)だったようだ。 都心から100キロほど離れた山から、迷いこんだ猿で、野生(やせい)の 猿だ。 時にはインド大使館やロシア大使館に逃げ込み、追手(おって)を拒(こば)んだ。

しかし、最後は、アメリカンクラブで、職員(しょくいん)の手によって 捕らえられ、通報(つうほう)された。

アメリカンクラブは、主に、アメリカ人の駐在員 (ちゅうざいいん)の サロンとなっているところで、東京における「自由の国アメリカ」の象徴(しょうちょう) であった。

皮肉(ひにく)なもんですね。

 

1999 / 08

 

08 / 18

旅にでると、ついその国のスーパーマーケットを覗いてしまう。 という人は多いようだ。

セキュリティや、商品(しょうひん)の包装(ほうそう)、値段、 お金の支払い方、その国独自(どくじ)のものなどを見ながら歩くのは楽しい。

何より、その地域に住んでいる人たちが、不機嫌(ふきげん)な顔をして 野菜(やさい)の質(しつ)を調べているところなどは、こういう ところでしか見ることができない。 みやげ店の店員のあいそ笑いや、ホテルの従業員の事務的な笑顔よりはずっといい。

日本には、大手のスーパーマーケットが3つほどあり、郊外(こうがい)に 大型
(おおがた)の店を作っている。一階が食料品売り場で、二階以上は、 雑貨(ざっか)や、電気製品、生活用品などを扱うことが多いようだ。

他にも中規模のスーパーマーケットが、何社かあり、地域(ちいき)ごとに 勢力(せいりょく)を競(きそ)っている。 ほんの20年ほど前は、スーパーのチェーン店は、少なかったが、今は 次々と、小さなスーパーマーケットは潰れている。

大量(たいりょう)の仕入(しい)れによって、価格(かかく)は、 下がったが、その反面(はんめん)、売り場に、商品に詳しい人間が いないことや、高速道路
(こうそくどうろ)が、大手スーパーのトラック であふれたり、と、問題点も指摘(してき)されている。

 

1999 / 08

 

08 / 19

今、日本では、キャンプブームで、キャンプ用品が飛ぶように売れている そうである。

実は日本の国土の約70%は森林(しんりん)なので、キャンプ地は多い。

ただ、経験(けいけん)の少ない人間が、川や湖に車で乗り付け、 テントをはって、翌日、ゴミを残したまま帰る。といったことが多いそうだ。 先日も川べりでキャンプをしていて、急な増水(ぞうすい)のため、 中州(なかす)に取り残された家族の不幸(ふこう)が伝えられた。

この家族は、地元の河川(かせん)を管理している人たちの助言を無視 (むし)している。 早速、政府はキャンプ客に対する規制(きせい)の強化(きょうか)を検討 (けんとう)するそうだ。

これで、また、この国には、つまらない規制ができるのだ。

 

1999 / 08

 

08 / 20

ある田舎の駅の売店のおばさんと、知り合いのおじさんの会話。 共に50代。

「あのさ、大蔵省(おおくらしょう)のバカがさ、なんか言ったんだよ それで
  円高になっちゃった」
「ああ、そうなの。ユーロも下がってるの」
「いや、よくしらねえけど(しらないけど)」
「5円くらい、バーッと下がっちゃったものねえ」
「そうよ。おれなんか、それだけで、大損(おおぞん)だよ」
「だんな、株(かぶ)かなんかやってんの」
「いや、株じゃないんだよ。ドル買ってたんだよ」
「ドル?ああ、外貨なんとかっていうやつ」
「そう、外貨貯金(ちょ きん)。いや、外貨預金(がいか よきん)だ」
「すごいわね」
「息子が、なんか、そうしろって、言うんだよ」

私も、外貨預金(がいかよきん)なんて言葉を知ったのは最近だ。
やはり、日本人の学習能力は、高いのかもしれない。

 

1999 / 08

 

08 / 24

トルコの地震(じしん)は、日増しに被害(ひがい)の大きさが 明らかになっている。 日本でも先週から、義援金(ぎえんきん)の申し込みが始まっている。

引き裂かれた家族や、知人達を助ける近所の人々の映像(えいぞう)は、 毎日、トップニュースで報じられ、神戸(こうべ)の地震を思い出す。

神戸の地震は、始発電車のわずか15分ほど前に起こった地震だった。 本格的に通勤(つうきん)が始まっていたら、大変なことになっていただろう。 死者は、約6500人だった。
神戸の地震の跡地(あとち)は、ほぼ復興(ふっこう)していると言っても いいのではないだろうか。

今のところ、トルコの地震の被害者(ひがいしゃ)は、その倍(ばい)以上。

近年、トルコは、若い日本人にとってとても人気のある観光地だ。 特に女性は、毎年、多くが訪れる。 地震の時も、日本から200人以上の観光客が訪れていたようだ。

 

1999 / 08

 

08 / 25

今日のコラムは、18才以上だけですよ。

おもに水商売(みずしょうばい)の女性と一緒に住んでいて、特に 収入がなく、定職(ていしょく)もない男を「ひも」と呼ぶことがある。 この呼称(こしょう)には、蔑(さげす)んだニュアンスがあるが、なかなか 大変なのだそうだ。

一般的に、考えられているように、暴力(ぼうりょく)で、女性を働かせて いるのではなく、また、セックスの魅力(みりょく)で、女性を支配 (しはい)しているのでもない。 そういう男も、もちろんいるが、ただしい「ひも」とは、言わないそうだ。

一番大事なことは、女性の仕事の愚痴(ぐち)を聞くこと。
ある、プロの「ひも」の男性は、言う。

「水商売の女は、朝方、帰ります。私は、朝、起きて、まず、その女性の足を 洗います。その後、足の裏をマッサージをして、店屋物(てんやもの)などを 取る。その間、女の愚痴を『うんうん』と聞くんだ。それができないと、 ひもは、勤(つとま)らない」

朝、起きて、まず、女性の足を洗うなんて、私は、風流(ふうりゅう)を 感じますね。谷崎 潤一郎(たにざき じゅんいちろう)の世界です。 これに比べると、教師なんて野暮(やぼ)な商売ですよ。

 

1999 / 08

 

08 / 26

現在、政府(せいふ)の政策(せいさく)の影響もあって、分譲 (ぶんじょう)マンションが売れている。 分譲マンションというのは、「買う」マンションのことで、「借りる」 マンションは、賃貸(ちんたい)マンションという。

一番売れているのは、4000万円前後のマンション。
3つの部屋と、 リビング、キッチンで広さは、70-80 平方(へいほう)メートルだ。 新築(しんちく)が多く、今年に入ってから、郊外にどんどん 同じようなタイプのマンションが建設されている。 買っているのは、主に30-40代の夫婦で、子供が2人ほどいる家族。 30年近くのローンを払い続けることになる。

最近の流行は、「バリアフリー」

段差(だんさ)が少なく、車椅子 (くるまいす)でも、移動(いどう)ができるように作られていたりする タイプだ。

この4000万円前後のマンションは、都心まで1時間程度で、駅に近く、 通勤に便利な場所にある。 同じところで、新築の家をたてると、6-7000千万円ぐらいかかるそうだ。 普通のサラリーマンには、買えない値段である。

 

1999 / 08

 

08 / 27

ラーメン屋の調理場(ちょうりば)の中の会話。11時半ごろで、 忙しい時間だ。
電話が鳴った。

「出前(でまえ)? すみません、お昼時(ひるどき)は、やってないんです」
「え、はい、昨日は、12時にお電話いただいたんですが、お届けが、2時 ごろに
  なっちゃって」
「はい、すみません。2時すぎから、大丈夫です」

電話を終えて。

「昨日、私、怒られちゃったのよ」
「麺(めん)がこなかったのよね」
「そう、ラーメンやなのに、そばができませんとは、言えないしね」
「あの業者も、いいかげんだな。お昼、過ぎてから 持ってきてもな」
「そうよ、お昼に、ラーメン、できませんじゃあね」
「まったくだよ」

この店は、開店(かいてん)したばかりで、まだ、出前がスムーズに 行かないようだ。材料(ざいりょう)を、持ってくる業者とも、うまく いっていないらしい。
良く言えば、「初々(ういうい)しい」 悪く言えば、「素人(しろうと)っぽい」ラーメン屋だった。

ラーメンは、まずかった。

 

1999 / 08

 

08 / 30

最近は、骨董(こっとう)ブームだ。アンティークと言うことも多い。 中規模(ちゅうきぼ)の都市ならば、たいてい、月に一回は、どこかで 骨董市をやっている。全国を回っている業者(ぎょうしゃ)もいるらしい。

これとは別に、フリーマーケットも盛んだ。

自宅(じたく)の不要(ふよう)になったものを安く売る。特に、使う 期間(きかん)が短い子供の服などがよく売られている。 フリーマーケットへ行くと、日本に住んでいる外国人が大勢いる。
日本人は、まだ使えるものを、すぐに捨てることが多く、 生活用品が安く手に入るからだ。

 

1999 / 08

 

08 / 31

骨董市(こっとういち)は、フリーマーケットとは、違って古いものが中心だ。

売り手は、プロばかり。 古物商(こぶつしょう)と呼び、免許が必要だ。
いろいろなルートで商品を入手する。最近は、古物商しか入れない マーケットで買うことが多いそうだ。骨董風の新品を作る工場から 仕入れることもある。

古くから行われている、最もオーソドックスなやり方は、地方を回って商品を仕入れてくる 専門の仕入屋(しいれや)から買う方法だ。

仕入屋は、田舎の蔵(くら)のある家などに赴(おもむ)き、 「すみませんが、中のもので、不要なものを売って下さい」 と、交渉(こうしょう)する。
見せてくれることになれば、 あとは、腕(うで)の見せ所だ。
安く買って、高く古物商に売り付ける。

しかし、こういうやり方は、最近はほとんどないそうだ。

骨董市に行くと、「それは、先週、蔵からみつけてきたものだ」 などと言う。
買うほうは、「ああ、そう」と、適当(てきとう)な あいずちを打つ。

うそだと分かっていても、こういうやりとりが、楽しみのひとつでもある。

 

1999 / 08

 

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