日本語教育関連の用語

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日本語教育関連の用語

用語の整理は用語の定義と分類が不可欠ですが、いろいろな考え方があり、正解はありません。ネット上に日本語教育能力検定試験に準拠したようなものしかないのは、それが正解だからではなく、それが無難だからです。しかし、正しい選択肢を選ぶのがゴールの説明は、実際に教える現場を持つようになると、あまり役に立ちません。

こういう中で、用語の定義を考え、書くのは難しいです。現場の教師のための説明として「深い理解」や勉強や研究とは距離をとりつつ、オーソドックスな説明は、ネットに氾濫する検定試験対策の説明にまかせて、ざっくりと、少しだけ、全体の中の位置づけを意識しながら、用語とその定義に絡め取られないように、用語の信者にならないように、ざっくりとした理解だけあればいいという考えに基づいて書いてみます。当然、検定試験対策にはなりません。

語学教育では、昔から自然に行われてきた試行錯誤の中で効果的だと考えられているものが、ピックアップされ、研究のために、分類され、定義され、結果、わざわざ用語っぽくなったものが多いです。つまり、現場の人間は、あまり用語に引っ張られないことも重要だと思います。

学習/教授のやり方的なもの

👉 上は人材派遣業の関係者が作った企業の日本語プログラムのスキーム。日本語教育関係者の助言によるものなのか「学習者主体のアクティブラーニングになっているか」(「学習者主体」の意味はよくわからない。おそらく学習者主体の講義形式ではダメということ?)という視点で講師は(誰が指導するのかはわからないが)指導されることになっている。つまり教え方に対する方法が最初から決められている。これは「学習者主体」を重視すれば、労基法なども教えていくことになるが、「アクティブラーニング」は、仕事で役立つものを優先させろという解釈も成り立つ。しかし、こういうことが正解だと考える日本語教育関係者がいてもおかしくはない。

  • アクティブラーニング:講義よりも、学生にいろいろやらせる授業みたいなことの総称。
    • 協働学習:「はい、じゃあ5人づつわかれて、この課題をやってみよう」みたいなこと。
    • ピアラーニング:上と同じ意味で使われるが、やや狭い範囲で、例えば教室で、学習者同士で学び合う的なこと。これも(peer:仲間)で勉強しましょう、みたいなこと。
  • 多読:教科書以外のものを、あんまり勉強っぽくしないで、どんどん読みましょうみたいなこと。効果に関しては多様な意見がある。
  • アクティビティ:講義ではないクラスで何かをやる活動(activity )のこと。協同学習もピアもアクティビティと言える。
  • ロールプレイ:コントのように「私は店の人をやる」と役(roll)を決めて何かをやる。
  • タスク:小さな課題(task)を決めてやる、というようなこと。
  • レアリア:スーパーの広告のような実物の教材(realia)のこと。
  • ハンドアウト:教室で配るプリントのこと。
  • 学習者オートノミー(Learner autonomy):(=自律学習)自分で勉強すること、またそれをサポートするにはどうしたらいいか、みたいなこと。
  • ポートフォリオ:Portfolio。学習目標、などを書いた学習者のカルテみたいなもの。教える側ではなく学習者自身が所有し管理するものということになっている。CEFRで重視。
  • アドバイジング:自分で学習するためにできるサポートは何かみたいな研究。
  • ラーニングコモンズ:学校内で自由に好きな学習をするためのサポート室、これも組織のこと。ハイテク図書館的な部屋で展開されることが多い。
  • 文脈化:「お勉強すること」、つまり教科書などで、こなれていない会話、例文をリアルにすること、または「お勉強したこと」を、リアルなものにしていくこと、などを「文脈化」と呼ぶことがある。CEFRの考え方を各言語、地域に最適化することも「文脈化」と呼ぶ。「最適化」と似ている。
  • 学習者の個別化:学習者の個々に目を配るにはどうしたらよいか、みたいなこと。米国では主流。学習スタイル的なものやCEFR的なものも、ある種の学習者、ゴールの類型化であって、個別化とは違う。むしろ逆行するものだ、みたいな考え方があります。

👉 「コーチング」はビジネス用語であり、関係する民間団体によって定義はバラバラ。学術用語としては存在しない。

研究寄りの語

  • コーパス:テキストデータを大量に集めて分析するためのデジタル資料(corpus)のこと。これを元にいろんな傾向などを調べる。このジャンルも元になったデータがどうなのか、どう分析するのか、どういう結論を導き出すのか、それをどう語学学習の中で活用していくのか、など考え方は千差万別。
  • 談話分析:会話を記録してアレコレ分析すること。言語学は(ざっくり言うとですが)書き言葉よりも、話し言葉の研究が軸になっているので、こちらのほうが重要視される。
  • コロケーション:collocation(語の配列、結びつき)のことで、よく一緒に使われる語を調べること。nlb.ninjal.ac.jpが有名。
  • 待遇表現:敬語のように敬意を軸に考えると混乱するから、相手をどう遇するかを軸にするほうがいいんじゃないかと90年代あたりから採用されつつありました。
  • ポライトネス:待遇表現的なものはどの言葉にもあるかもしれないという研究。言語に限らない研究と言語に絞ったものがある模様。
  • 母語の影響:学習者の母語が外国語学習にどんな影響を及ぼすか。かつては「母語の干渉」と呼ばれたが、「干渉」のネガティブなニュアンスを嫌って「影響」と言い換えることが多い。
  • ストラテジー:(Strategy)何かをやる際の計画、戦略のこと。会話を成立させるための「あいづち」みたいな狭義の意味があったが、最近は広義の「学習ストラテジー=勉強方法」みたいな使い方もある。
  • 「評価」:学習者の能力を判定するのはどうしたらいいのかみたいな研究。
  • ルーブリック:客観的な評価にするため、学習目標の達成度の評価基準と尺度を数段階にわけた評価基準のようなもの。教材や教授法のオマケのマニュアルではなく、学習計画(シラバス)を作る人が作成するもので、現場で作られるべきもの。

論文ではないというジャンル

  • 「実践」:論文ではなく研究とか検証というほど厳密じゃないけど、いろいろやってみた結果の報告、みたいなこと。
    • 「考察」「報告」:実践のレポートのようなもの。これも論文のように過去の研究にあたり検証して書いたようなものではないよという意味でタイトルに付けられる。
  • 「紀要論文」:大学や組織の論文の手間のレポートを掲載する定期刊行誌に掲載された論文で、第三者による検証(査読)が無いことが多く「紀要論文」と呼ばれる。

考え方

  • 理念:CEFRの「理念」と言ったり、日本語教育学会にも「jigyo」というものがある。理念とはある人の集まりにおける「こうあるべき」という「理想」を整理したもので、法律における憲法に似ている。憲法よりももうちょっと大枠のもので規則ではないので罰則もない。その人達がどういう方向を向いているかということに関する合意事項のようなもの。しかし、こういう考え方自体が浸透しているとは言い難く、理念は小学校の朝礼の校長の挨拶のような形式的なものであまり意味がないと考える人達も多い。理念というものが必要であり、理念にそって行動をある程度制御すべきだと考える人は少ない。日本語教育における理念の解釈は一定とはいいがたい。
  • 複言語:一人の人が2つ以上の言語を話せる社会にしよう、というような考え方。CEFRとセットで語られるが、多文化、多言語の失敗を受けた新たな方法として使われることが多い。
  • 第二言語習得研究:母語(第一言語)じゃない言語を習得するプロセスを観察したり検証したりする研究。他の研究ジャンルと同じく、研究者によって考え方に幅があるが、語学教育の場では統一見解があるごとく引用されがちで、そのある種の単純化が地雷ワード化する原因となっている。

誤った使われ方をされがちな用語

専門家ではない人が、自分とは違う考え方をする人や人達を、間違ったことを信じている人達だと決めつけ、薄い根拠で批判する方法として使われることが多い。本来の術語としての中立性は失われてしまいつつある。このへんは「専門用語を振りかざす」的な要素もありそうです。

  • ビリーフ:本来は、学習者や教師の学習に関する考え方、本来の信条というような中立的な意味ではなく「(誤った)思い込み」というニュアンスで使われることが強い。つまり、語り手によって誤ったことにはビリーフというネガティブなラベルが貼られ、よいものにはビリーフという語は使われないということが起きているような気がします。
  • 化石化:(fossilization)本来は語学で間違ったまま覚えたことがなかなか修正できないみたいなことだが、古い考え方にこだわるみたいな比喩的な使われ方がされる。
  • アンラーン:これも本来、例えば家のスイッチの配置を変えた時、新しい配列になれるためには、元の記憶を捨てなければならない、みたいな科学的な脳の研究が元になっており色はないが、特に教育の議論において2010年代にアクティブラーニングの流行と共に「古い考え方を捨てなければならない!」という攻撃的なフレーズとして色がついた。しかし教育用語としてより攻撃的な「学習棄却」と柔らかな(脱構築的な)「学びほぐし」という2つの訳があり、解釈に幅がある。
    • 教育用語としては、2010年代にアクティブラーニングの流行と共に一般的に使われるようになった用語のようです。http://smizok.net/education/subpages/a00001(haikei).htmlにはこの言葉が(おそらく今の文脈で始めてきちんと)使われている2010年の論文が紹介されています。
    • >松下(2010)は、社会に必要な能力を育てるための学習法として、「unlearn(アンラーン)」を説く。unlearn とは、習得した知識をただ蓄積するのではなく、新たな状況や課題へ適応するべく、それらをいったん解体し、必要な知識を取り出して、新たな知識世界を再構造化することを指す。それは、learn-unlearn-relearn のプロセスともいえるものである。松下(2014)によれば、このような unlearn は、現代社会の激しい変化に適応し続けるための方略である。

👉 CiNii 論文 – “アンラーニング”の概念分析

語学教育関係の人は(英語教育系の人の影響もあるのか)英語の略語が好き。最近はかなりインフレ気味で、ほぼ同じ、似たような用語も乱立しています。また、2000年以降「TeachingではなくLearningであるべきだ!(学習者主体)」という主張から、従来のTeachingがLearningに変わる傾向もあります。これは「ほぼ同じ」と言うと怒られそうですが、さすベクトル、範囲はだいたい同じです。

よく言われる「英語でいうと**だから簡単!」とは一概に言えないところがあります。似たような用語があり、厳しい体系の中で、厳密に区別されている、みたいなこともありますから。。。

👉 体系化し、その体系の中での位置づけを考えつつ、みたなことがスルーされたまま、ということもよくあります。

3つのハードル

英語がオリジンの用語や考え方は、日本語教育の現場で議論する場合、シックリいかないことがあります。オリジナルの意味が伝言ゲーム的に3つのハードルを越えた結果、同じ用語でも定義がバラバラになってしまうからです。

  1. 英語を無理矢理日本語にする際にしっくりいかないことがあります。
  2. さらに海外の言語教育の用語を日本語教育に当てはまる時にシックリこなくなることがあり
  3. 日本語教育の研究でだいたい定義が定まった用語が、現場の実情とシックリいかないことがあります。

これに第二言語習得研究と言語教育の用語も違うことがあります。これは第二言語習得研究をどれだけ重視するかのスタンスによって変わります。

理解の違い

まず、最も混同が多いもの

  • アプローチ(approach)は「理論」
  • メソッド(method)は「教授法」
  • 技術(technique)(テクニック

で「理論>教授法>技術(テクニック)」という関係だと説明されることが多い模様。

理論と教授法の違いの混乱

まず日本語だとメソッドが理論でアプローチが教授法という印象がある。これが最初の混乱の元です。

それはともかく、純粋に日本語の印象だと、理論というのは「こうすれば外国語は上達するという理屈」であり、その理論にはいろんな要素(シラバス、教え方、練習方法)のパッケージがあるというイメージです。そして、教授法は、よりテクニカルな手法のひとつだという印象を受けます。明らかに教授法は下位です。

例えば、直説法はダイレクトメソッドなので「教授法」で「それだけですべての面において上達が保障されている」というほど強いものではなく手法の一つだと捉えられていると思います。みん日でもまるごとでも、直説法が基本ですが、これは推奨されているよりは、現実的にそうするしかないというようなものでしょうか。つまりそれぞれの教科書や教え方の成功の絶対条件ではないわけです。

しかし、日本語教育の世界では、「アプローチ」という用語は「コミュニュカティブアプローチ」ではよりコミュニカティブであるべきだという「方向性」「主義」的なものとして語られ、CEFRのaction-oriented approachは、CEFRの日本語訳では、個人の行動の達成をゴールにすべきだという「主義」というニュアンスが強く(日本語教育の参照枠の解釈もこれに準じている)、基金の行動中心アプローチは(少なくともネット上の日本語専門家からは)タスクベースと不可分な絶対的な学習方法の「(上達が保障されている)理論」として語られます。ゼンゼン解釈が違うわけです。

👉 ちなみにCEFR(2018)では、言語の教え方に関しては「こういう方法であるべきというものではなく」「文法などの説明を不要なものとは考えていない」という補足が追加されていますから、少なくともCEFRにおける「アプローチ」は主義的な解釈が正しそうです。

一方でオーディオリンガルメソッドは直接法(Direct method)と同じ「教授法(Method)」ですが、特に批判される文脈において「それだけでは上達は保障されない」と批判されます。つまりアプローチ(理論)のように扱われます。実際は国内の学校では純粋なオーディオリンガル的手法でやるところはほぼ無く、いろんな組み合わせでやっているので、そもそも「オーディオリンガルだからウンヌン」という批判は成立しないのですが…。

と、以上が、ネットでよく見る解釈です。つまり、バラバラで、よくわからない状況になっています。

👉 これらの用語は語学教育一般、第二言語習得、日本語教育の世界では、捉え方が違います。さらにシラバスとの組み合わせも無数にあります。

教授法(メソッド)・理論(アプローチ)

一般的に紹介されるものですが、メソッドとアプローチが混在しています。議論の際も混乱することが多いです。検定試験的な説明をするしかないので、基本的な説明は省略します。

  • オーディオリンガルメソッド:(AL法:Audio-Lingual Method):メソッドを「法」と訳すこともあるようです。
  • オーラル・アプローチ (Oral Approach) :これはアプローチなんですね。でもオーラルメソッドと言われることもあり、同じだったり、違うものを指すこともあるようです。
  • アーミーメソッド(ASTP):(Army Specialized Training Program) :これはメソッド。
  • コミュニカティブアプローチ: (Communicative Approach) (CA):これは理論というより、ほとんど「そういうムーブメント」みたいな使われ方が多いです。
  • CLT: (Communicative Language Teaching) :上(CA)とほぼ同じです。英語圏ではこちらが多いという印象です。
  • サイレントウェイ:silent way:ほぼ検定試験でしか見ません。
  • TPR:(Total Pfysical Response):同上。
  • TPRS(Teaching Proficiency through Reading and Storytelling):TPRと似てますが、ゼンゼン違います。よく英語の省略語で起きがちですが。
  • action-oriented approach:行動中心まではほぼ同じ訳だが、approachが理論と訳される例はほとんど見ません。たいてい「主義」「アプローチ」と訳が変わる。訳し方で、その人の考え方が違うということもあります。例えば日本語教育の参照枠(2021)では「アプローチ」ですが主義的な理解がされていますが、JF日本語教育スタンダードでは初期は「主義」、その後「アプローチ」ですが現在は、タスクベースありきの理論的な解釈です。微妙な違いは両者の距離も表してます。(これについては、別途ページを作る予定です)

技術・技法、具体的な手法

媒介語の使用

メソッド(教授法)となってますが、どちらかというと、上の教授法・理論との組み合わせ可能な技法という認識が強そうです。つまり、今は直説法だから間接法だから「こういうことが期待できる」というものが、あまり強くないということでしょうか。

  • 直説法(direct method ):学習する言語を学習する言語で学ぶ、教えるというやり方。
  • 間接法(Indirect method):学習者の母語で教えるというやり方として使われますが、実際は第二言語の英語で教えるみたいなケースも多いです。

GDM=Graded Direct Method(段階的直接法)とか修正直説法みたいな折衷的な方法の用語も。

文法説明的なものの位置づけ

Focusなんちゃらという考え方。第二言語習得研究からきたもので、タスクベースにおける言語構造の理解の弱さという弱点を補うために、文法など言語構造に関する説明などはどうあるべきかという、修正CA的な意味合いで使われる。授業の計画、デザインに関わる用語という捉え方が多い。

  • Fon-Fs(Focus on Forms)フォーカス・オン・フォームズ:言語の構造重視。構造シラバス、正確性重視、流暢さに難。
  • Fon-M(Focus on Meaning) フォーカス・オン・ミーニング:意味(コミュニケーションが成立するかどうかを)重視。タスクシラバス、文法構造の理解に難。
  • Fon-F(Focus on Form)フォーカス・オン・フォーム:タスクシラバスにおける文法への言及の重視。

Fon-Fのバリエーションとして

Fon-F的手法にも研究者によってどうやるのがいいのか、考え方に違い、濃淡がある。明示的(「さあ、これから文法の説明と練習をしますよ」という説明方法)か、暗示的(文法の規則に気づかせる的なやり方で、最小限の説明。あくまでタスクの達成重視か)のそれぞれの有効性にも研究者によってスタンスはまちまち(文型定着練習的なものが悪と考える人達だけではない)だし、それとは別に…以下のような違いもある。

  • Planned FonF:あらかじめ授業に計画的に組み込む手法。集中的、反復的
  • Incidental FonF:学習者側から出たものから展開する手法。意味内容の一部

シラバス

シラバスはどういう設計で言語を学ぶかという考え方ですが、教授法との距離感は人によって違います。タスクシラバスとオーディオリンガル的な手法はゼンゼンだめという人もいれば、共存できるという考え方もあります。

  • 構造シラバス(structural syllabus)≑文法シラバス(grammatical syllabus)> 文型シラバス:文法など言語の構造が軸→(純粋な)直接法
  • 場面シラバス(situational syllabus):現実の場面が軸
  • 機能シラバス(functional syllabus):「依頼」「勧誘」などが軸
  • 話題(トピック)シラバス(topic syllabus):趣味などのテーマが軸 → CBI (Content-Based Instruction)など。
  • タスクシラバス(task syllabus):達成すべき目標がゴールというもの → Task-Based Learning (TBL)あるいはTask-Based Language Teaching (TBLT)

コンテンツや方法にフォーカスしたもの

コンテンツはよく使われる「コンテンツ」という理解でだいたいOK。タスクベースのバリエーションというよりコンテンツベースと言ったほうがいいのかもしれませんが、言語構造重視じゃないよ、という文脈で語られがちです。英語の省略語は一見強そうに見えますが、ここは現実に起きたり、実践されたりしていることが用語として整理されているだけ、というものが多いです。

  • CBI:(Content-based instruction):語学の学習用のものではない、ちょい面白いものでやるというようなもの。
  • CLIL(Content and Language Integrated Learning):学習する言語で、他の教科を勉強することで…というイマージョン教育のベースとなる考え方。
  • COIL:(Collaborative Online International Learning):ICT活用の授業をベースにオンラインで他所とコラボするみたいなこと。
  • PBL(Project Based Learning;Problem-based Learning):課題(project)を解決しつつ学習するという方法。シミュレーション的なものからほとんどOJT的なものまで幅は広い。

CBI (CCBI), CLIL, EMI, IBの大学教育への貢献によると

CBIは、深い内容を扱いつつ、言語の習得を目指す言語教育(immersion, adjunct, sheltered など内容と言語のバランスによりいろいろなモデルがある。)CLILは、外国語(英語など)を使って、特定の教科の内容を習得を目指す教科教育。(soft/hard CLIL, light/heavy CLIL など,2言語の比率などによるバリエーションがある。)

とあります。また、

EMI(English as a Medium of Instruction)は、英語を媒介語として教科を教えること。言語的なサポートはほとんどしない。

というものもあるとのこと。このへんは用語があり厳密な定義があるというよりも、いろんなバリエーションがあり、とりあえず研究のために用語を割り振って分類したという印象です。つまり、語学教育の現場がそれぞれの用語や定義に縛られる必要はないのでは、という気がします。

オンライン授業関連

コロナで一気に教育用語が増えました。で混乱中です。その原因をざっくりまとめると…

  • 例えばSlackやTeamsなどでは非同期でもありつつ同期のチャットに移行したりということがあり、ライブも動画をアーカイブで残す場合は非同期併用となる。アーカイブを残さなければ非同期型なのか、学校の都合で欠席者のために期間限定なら同期型の延長のなのかは曖昧なまま。
  • 用語を決めて定義を決めても、語の境界線は変わり、すぐに技術の進歩で、意味が拡張されたり、新たな造語が必要になったりなので、用語の共通理解を作るのは難しい。
  • しかも、こういう語は「今は**と呼ぶのが新しい!」と誰かが言えば、従来の語は時代遅れの色がついたりして、だんだん混乱していく。
  • さらに同期型か非同期型かで、著作権の法律の適用範囲も違うので、定義が不要とはならない。
  • この種の用語はコロナで一気に必要になり、あまりデジタルに慣れない人も使うことになったので、基本的な理解がないままで使い方が危ういという要素もある。

つまり、2020年代半ばくらいまでは、しばらく語をどう使うかもどう定義するかもハッキリしないと思われます。以下は用語のおおまかな定義。参考程度で。

  • CMS:(Contents Management System)これはサイトを作るためのウェブ上のアプリケーションのようなもの。昔はHTMLを覚えて作ったのですが、ワープロ並みになり、ボタンなんかを作って何かが起こるみたいなことも、自動化され、それが製作アプリケーションとして統合されたのがCMSです。世界のサイトのほとんどは、このCMSで作られていて、シェアのほとんどは、WordpessとDrupal。共にオープンソース。このWikiもCMSの一種です。
    • LMS:(Learning Management System)CMSの中で教育関係に特化したアプリケーション。大学などではMoodleがシェアトップ。学習だけでなく学校の事務監理などもやるものが多いが、クイズ的な単機能のものもあり多種多様で、進化したり分かれたりするので、これ以上分けたりしないようがよさそう。
  • 同期、非同期:2000年ごろからある古い語。教える側と学習者が同時にオンライン状態で何かをするのが同期で、そうじゃないのが非同期。基本的にeLearningから生まれた語で、最初は同期は少なかった、つまり非同期が主流で、ライブチャットやライブビデオチャットを取り入れることが増えて、同期、非同期と分けたほうがいいとなって出来た語だと思われる。eLearningで長く使われているので、著作権などの定義でも考慮されることになった模様。しかし、どっちも気軽に使えて、切り替えられるようになったことでこの境界線は曖昧になりつつある。
  • ハイブリッド:リアル授業とオンライン授業を組み合わせること、単に「組み合わせること」で、どちらかというと、授業をする側の視点の語。同時じゃなくても良い。同時にやるとハイフレックスということになる。
  • ハイフレックス:リアル授業をライブ中継することで、オンライン授業も同時にやってしまう方法。同じ授業をリアルとオンラインの好きなほうを選べるという学習者側の視点の語。「ハイブリッド(Hybrid)」と「フレキシブル(Flexible)」を組み合わせた造語ということになっている。

eLearningやオンライン授業が上手くいっているかみたいなところで、いろいろとモデルがあり、用語がある。このへんになってくると、ほとんど「子どもの躾けとして延々と語り継がれてきたこと」をカッコよく言い換えた、みたいなことになっていき、性格診断的な、なんでもそこそこあてはまるみたいな曖昧なものになってくるが、巨大組織の経営などでは、コンサルが根拠にしたり、予算を割いたりという理由になったりと、それなりの効果を発揮することはある模様。

  • ARCSモデル:eLearningなどの設計などで「注意喚起(Attention)」「関連性(Relevance)」「自信(Confidence)」「満足感(Satisfaction)」で考えれば上手くいくという考え方。
  • SAMRモデル:ICT機器の導入なども含めた授業や学習者への影響度についてのモデル。Substitution(代替)、Augmentation(増強)、Modification(変容)、Redefinition(再定義)
  • PDCAサイクル:Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)をグルグルすればうまくいくという信仰。70年くらい前に講演を聴いた人が思いついたとされる。省庁のプレゼンスライドには頻繁に登場する。教育とは関係ないが、経営に詳しく無い人が経営のことを語る際によく使われる傾向が強い。
  • DX化:(Digital Transformation)化、北欧の大学の人が考えた概念とのことですが、このへんからほぼビジネス用語になってくるので、用語の栄枯盛衰も激しく覚える必要があるのかは疑問ですが、一応、組織において業務をデジタル化する、みたいなこと。似たような用語は世界中に無数にあると思われるが、こういう用語は多く使われたものがちなので、現時点で優勢と覚えておくくらいでよさそう。

👉 「ASMR」も教育系の用語だというと信じる人は多そうだが、ゼンゼン違うので間違えないように注意。Youtubeで検索してみてください。

その他

  • CBT:(Computer Based Testing)いわゆるネットを介してコンピュータを端末として使ってやるテストのこと。テストを主催するところが準備したサーバー発信で出題して、受けるのは会場でやる式。
  • WBT:(Web Based Testing)やIBT(Internet Based Testing)などと呼ばれ、ネット環境があればどこでもやるみたいなものがこっち。カメラ必須でAIがカメラを通じて監視したりすつものもある。
  • OPI:(Oral Proficiency Interview):口頭試験で話す、聴く能力をテストする方法。日本語教育では米国で行われいた手法のローカライズされたものがOPIとして有名で、他に基金のものなどがある。
  • BICS :(Basic Interpersonal Communication Skills)生活言語、家庭や日常で身につけるという意味
  • CALP: (Cognitive Academic Language Proficiency)学習言語、学校などで身につけるもの、という意味。
  • JSL:(Japanese as a Second Language)第二言語としての日本語、だが、日本では外国人児童のプログラムで使われる。
    • DLA:(Dialogic Language Assessment)JSLで使われる言語能力のチェック、チェック基準のようなもの。
  • イマ―ジョンプログラム(immersion program):学習言語で学校の授業をやったりすると語学学習効果が高いというような考えに基づく方法。80~90年代に広がったが、近年、あまり上手くいかないケースの報告が増え、縮小気味。
  • ダイバーシティ:(Diversity):多様な属性、考え方を意識的に入れることによって活性化する、あるいはさせようというような考え方。「多文化共生」という考え方とも関係が濃いが、いろんな派生的な考え方があらわれ、批判も増えているということにも注視すべき。
  • インクルージョン:inclusion、インクルーシブ教育(Inclusive Education):ダイバーシティは多様な人達の「一体感」重視という傾向があるが、そうではない方向として、ダイバーシティの次の選択として、あるいはダイバーシティの応用問題として、語られることも多く、多文化多言語共生が複言語に発展した経緯と似たような経緯を持つ。


  • インストラクショナルデザイン(instructional design):効果的な学習計画の設計、というような意味。軍やビジネスの世界のノウハウから発展。英語圏での理論は整備されつつあるが、個別の事態への最適化が重要だが、語学教育への最適化、さらに日本語教育への最適化という点では、まだ研究は少なく、英語のコンセプトを無理矢理あてはめた感があるものも多い。
  • ファシリテーション(facilitation):会議などをうまいこと進行するノウハウのようなものから発展。参加者に気持ちよく話させる手法として語られることが多い。

👉 書名周辺で使われるものだけです。流行り廃りも激しいので、似たような概念の語も多いです。昔から英語で言い換えるのも人気。

謎の概念「生活者」

就労、留学は在留資格との関連が浮かびますが、「生活」は明らかに違う語です。 生活者 定義 - Google 検索

以下のページによると経済学では1940年代、一般では90年代に使われ出し、90年代の行政用語としてはconsumerと訳されるとのこと。

行政用語の「生活者」をマーケターは不用意に使うべきではない! | マーケ屋Bochan備忘録

消費税導入が89年。消費者という語はすでに一般的だったが、90年前後にやや対立的な概念で(消費ー生産文脈ではないものとして)「生活者」という語が出てきたという記憶もあります。その後、使い勝手がいいということで、90年代には行政でも使われ出した?ということでしょうか。

ここ数年は生活者が追い越す勢い。

Google トレンド「消費者, 生活者」

日本語教育における「生活者」

文化庁が日本語教育で生活とか生活者を使い始めたのは平成19年(2007年)?
https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kyoiku/seikatsusha/
特に定義が書いてある文書は見当たりませんでした。

論文検索でも「日本語教育 生活者」だと出てくるのは2007年なので、おそらく日本語教育の世界で一般的になったのは上の文化庁の「生活者としての外国人」のための日本語教育事業」がきっかけになったと思われる。

日本語教育 生活者 | CiNii Research all 検索

文化庁のサイト内での「生活者」の検索結果

文化庁の「生活」「生活者」がどう、例えば英語に、訳されるのかはわかりませんでした。外国人政策なので英語訳くらいは作られそうです。まさかconsumerではないでしょうが。。。社会的行為者(存在)(Social agent)との関係はどうなのかもわかりません。国連周辺では移民の定義(国連の、あるいは国際的な定義というわけではない)は1年以上の滞在とのことですが、移民という語が行政では使えないので、生活者がなんとなくジョーカー的に移民のかわりとして使われている感もあります。いっそのこと、Seikatsu-sha (セイカツシャ)と訳されるのかもしれません。在留資格はともかく、日本で1年訓練したらなれるスーパーサイヤ人的なものとして。。。

「いまここ」とはどういう意味?

人文系で、特に教育方面の論文や長い文章でよく使われる「いまここ」「いま ここ」という語は、「抽象的な議論をするのではなく現実に起こっていることに目を向けよ」というようなニュアンスが含まれているようですが、その濃淡はいろいろで、なかなか解釈が難しい語となっているように思います。

いまここ | CiNii Research all 検索

https://cir.nii.ac.jp/all?q=%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%93%E3%81%93&sortorder=1&page=1

「まなざし」

これも人文系の論文の頻出語です。教育方面では個々の学習者の特性を観察せよという意味でも使われるし、学習者全体を見よという使われ方もする、かなり曖昧な使われ方をしています。

まなざし (哲学) - Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%BE%E3%81%AA%E3%81%96%E3%81%97_(%E5%93%B2%E5%AD%A6)

によると「単に目で見るということのみならず、対象となるものをどのように認識するのかに関する特殊な哲学的意味合いをこめて用いられる」とのことで、これは例えば対象物を科学的に観察するという意味以上のニュアンスがある模様で、やはり、濃淡があり、論文で便利に使われているからなんとなく使うという人もいるようで、ニュアンスの解釈が難しい語です。

まなざし | CiNii Research all 検索

https://cir.nii.ac.jp/all?q=%E3%81%BE%E3%81%AA%E3%81%96%E3%81%97&count=20&sortorder=1




研究

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  • 最終更新: 2022/12/08 20:15
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