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日本語能力試験
目次
基本データ
正式名称:日本語能力試験
主催:公財法人日本国際教育支援協会、独立行政法人国際交流基金
→Wikipediaにも項目があるが内容は薄い。
- 開始年:1984年
- 受験者数:年間約100万人近く
- 実施頻度:年2回(7,12)
- 実施国:80以上の国と地域、250前後の都市
- 試験の形式:マークシート、読解、文法、聴解
- 作問:国際交流基金
- レベル認定:N5からN1の5段階。
- 費用:受験料は5000円強
備考
2010年の改定で、4つの級から5つのレベルになった。2010年以降、主催の国際交流基金のJFスタンダードに準じるための措置とされる。Can-doリストなるものもある1)。
障害者への対応も整備されつつある。
日本語能力試験における障害者受験特別措置対応の現状と課題
https://www.jpf.go.jp/j/urawa/about/bulletin/pdf/13/paper_06.pdf
ニセモノ風本物サイト(ローカル版?)
よく知られている能試のサイトとは別にJEES 日本語能力試験 という「国内受験用」というサイトがある。情報は更新されているが、基本情報などは少なく、調べると、JEESが(外注して)作っていることは間違いない模様。問い合わせは電話番号がひとつあり、能試のサイトは「全世界共通版」としてリンクが紹介されている。国内版はふりがなもガタガタですし、ニセモノサイトみたいなので統合したほうがいいのでは?
👉 この種の無駄は無数にありそうな気がします。
国際版は作成者もドメイン管理も国際交流基金。 https://webjapanese.com/dokuhon/files/kikinjjoohoo.png
国内版はJEESで外注。 https://webjapanese.com/dokuhon/files/JEEShonmono.png
概要
初級前半は、日本語能力試験のN5、初級後半はN4相当となっており、N3は初級をしっかり理解し、使えるようになったかどうかという試験というところです。ここまでで語彙は2000~3000語くらいと言われてます。
日本語学校への留学は約2年までで、1年720時間以上という規定がありますから2年で1500時間くらい勉強することになります。まったくの初心者で来て、はやい人は1年でN1まで行きますが、普通は1年半から2年かかります。日本語学校の留学生でも合格者は毎年15%程度ですから、2年の留学で合格する人は30%以下です。(しかし90年代のほうが留学生の合格率は高く、50%以上だったはずです)
👉 介護の技能実習生などでは、日本語能力試験と同じ指標として、J-TEST、とかNAT-TESTという試験もレベル判定として認められるようになりました。民間の出版社系がやっている能試の模試的なテストです。ほぼ同じ形式です。J-TESTは、A~Dレベルと、EFレベルの二種類の試験で、点数でA~Fを認定するというやり方です。A~DレベルがN1-N3、EFレベルがN4,5とのことです。NAT-TESTは、能試と同じ5段階です。
日本語能力試験関連のデータ
👉 この「データ」の部分は日本語教育関係のデータにも同じものがあります。
能力試験の受験者数の推移
能力試験のデータは、毎回の結果があるだけでしたが、2018年あたりから推移として表にまとめられるようになりました。
https://www.jlpt.jp/statistics/index.html
2011年からレベルが4つから5つになりました。2009年が受験者数もN1合格者数もピークで、2009年からは年に2回となり、試験が行われる回数も場所もここ10年で激増しています。2016年まで、2009年の数字がピークでした。しかし、2010年後半に、能試の合格が在留資格と紐つくことになり、2017年から一気に上向きとなりました。日本語学校の国の査定にも使われるので、N3N4は増えるのは確実です。在留資格との関連が無いN1が「本気の学習者の数」を見る上で重要になってきそうです。また、N2の合格者数のわりにN1が伸びない傾向も出てきています。N2は進学や就職などで重視されることが多く、N2がゴールとなりつつあるのかもしれません。
以下の表のレベル別の数字は「合格者数」です。上の主催者の推移は「受験者数」になっているので違います。(お試し受験もかなりあるので、合格者数のほうが推移をみるにはいいはずですが…)
1992~2011年
1992 | 2002 | 2009 | 2010 | 2011 | |
実施国・地域数 | 26 | 39 | 54 | 58 | 62 |
受験者数 | 68565 | 242331 | 768113 | 607972 | 608157 |
N1 | ー | ー | 78688 | 67608 | 65629 |
N2 | ー | ー | 90772 | 88437 | 76647 |
N3 | ー | ー | 61262 | 38009 | 35390 |
N4 | ー | ー | 22951 | 25038 | 31685 |
N5 | ー | ー | ー | ー | 24603 |
2012年~
2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | |
実施国・地域数 | 64 | 65 | 67 | 69 | 69 |
受験者数 | 572169 | 571075 | 594682 | 652529 | 755802 |
N1 | 60272 | 64197 | 59544 | 56262 | 59929 |
N2 | 72410 | 75400 | 72818 | 76687 | 89185 |
N3 | 33013 | 55184 | 41882 | 49057 | 66333 |
N4 | 25031 | 29469 | 29309 | 31058 | 35752 |
N5 | 259878 | 29884 | 29732 | 34731 | 38045 |
2017年~
2017 | 2018 | 2019 | 2020 | |
実施国・地域数 | 81 | 86 | 87 | 28 |
受験者数 | 887380 | 1009074 | 1168535 | 370028 |
N1 | 66249 | 68506 | 73547 | 36270 |
N2 | 107379 | 112504 | 122970 | 63811 |
N3 | 77195 | 88955 | 102021 | 53149 |
N4 | 42403 | 46301 | 57382 | 23109 |
N5 | 44814 | 49771 | 52480 | 13731 |
👉 もうちょっと昔からの数字はこちらありました。http://www5a.biglobe.ne.jp/~t-koron/jlpt-data1.html
👉 2020年 第1回(7月)の試験は全世界で中止。
日本語学習者数との関係
国別の合格者数も出ますので、人口比で出してみます。年2回開催といっても、ほとんどの国、米国や豪州でさえも、年に一度だけ、みたいなこともわかります。年2回なのは、学習者数が多く、能試がビザに関係してくることで受験者数が多いアジアの国が主になってます。サンプルは2015年の結果。年2回ある国は、重複して受験する人もかなり多いと思われるので、2回を2で割ってひとまずの平均とします。
2015年第一回
http://www.jlpt.jp/statistics/pdf/2015_1_3.pdf
2015年第二回
http://www.jlpt.jp/statistics/pdf/2015_2_3.pdf
2015年の日本語能力試験の受験者数と学習者数の対比
国名 | 第一回 | 第二回 | 合計 | 平均 | 学習者数 | 受験者数の比率 |
中国 | 93800 | 87454 | 181254 | 90627 | 953283 | 9.5% |
インドネシア | 6033 | 11790 | 17823 | 8911 | 745125 | 1.2% |
韓国 | 26703 | 27563 | 54266 | 27133 | 556237 | 4.9% |
台湾 | 34030 | 36117 | 70147 | 35073 | 220045 | 15.9% |
ベトナム | 22449 | 24672 | 47121 | 23560 | 64863 | 36.3% |
オーストラリア | — | 1117 | 1117 | 1117 | 357348 | 0.3% |
米国 | — | 3904 | 3904 | 3904 | 170998 | 2.3% |
ブラジル | — | 2894 | 2894 | 2894 | 19913 | 14.5% |
ネパール | 326 | 461 | 787 | 393 | 2748 | 14.3% |
イギリス | 482 | 548 | 1030 | 515 | 15097 | 3.4% |
大きく3つに分けられると思います。
ひとつは、中韓のように、学習者の5~10%が受験する国。学習者数が多く、高校や大学でも日本語が選択肢にあるころが多い。勉強したからには就職などでも活用するために試験を受けておいた方が、というようなところがありますが、日本語学習歴が長いのである程度落ち着いています。両国は、試験好き、というか試験に慣れているというところもあります。台湾もここに入れてもいいかもしれません。
2つめは、比較的日本語熱が高い国々で、かつ、勉強したからには能試は受けてビザや就職に役立てる、という国です。10%を越えてきます。ベトナム、ネパールなど。
3つめは、学習者数は2,3万くらいで、そのうち本気でやってる人は、力試しで受けようか、というくらいの国です。留学や就労系で在留資格と結びついているからということもない、いわば普通の、自然な数字。イギリス、米国など、欧米の国はだいたいここかなと思います。受験の比率は5%以下です。
どれにもあてはまらない国として、ブラジルと豪州、インドネシアがあります。ブラジルは能試の受験率が高いのは継承語としてやってる人達など、受験を奨励されているということがあるのだと思われます。
豪州、インドネシアは学習者数に対して極端に受験者数が少ないパターンです。5%を越えてきても不思議じゃないのに、過去の数字もみても多くない。特に豪州は受験者数は極端に少ないです。インドネシアはまだ就職に直結するケースがあるけれども、豪州の場合は、それほどでもない、というようなことかもしれません(それにしても米、欧州よりも少ない)。日系企業に就職するならN2が必須と言われますが、そこまで到達する人が少ないのではないかと思われます(豪州は毎年N1N2の合格者はそれぞれ200人前後です。35万人も学習者がいるにしてはかなり少ない)。つまり学習者数としてカウントされている数は多いが、本気の学習者は、中韓などに比べるとかなり少ないことが伺い知れます。
インドネシア、豪州ともに、小中学校で日本語の授業が行われています。これがカウントされていますが、実際は継続的に学習している人は少ない。それに加えて、おそらく小中学校などで、地理的な(文化学習、相互学習)学習の一環として行われている日本語学習のクラス(語学は参考程度で日常会話レベルまでもいかない)の学習者もカウントしている可能性もあります。受験者数から割り出す豪州とインドネシアの「本当の学習者数は」だいたい、学習者数として出ている数の10分の1くらいと考えるのが妥当かもしれません。インドネシアは74万人なので、7万4千人。オーストラリアは35万人なので3万5000人です。これは、人口に、0.0003をかけた数だと、豪州は、6939なのでその約5倍、インドネシアはちょうど75000人なので妥当な数字です。2015年の世界の日本語学習者数は365万人でしたが、これを他国の平均的な学習者と均して、豪インドネシアの数字を修正し、実態に即した数にすると、ここから100万人弱減るという計算です。
👉 今後は、こういう相互学習的なクラスの学習者を「日本語学習者」としてカウントすべきか?ということについて、考え直すべきかもしれません。この種の語学学習は世界的に広がりつつあり、そこで日本語が教えられるケースも増える可能性があります。しかし、この数を入れるなら学習者数は実態以上にふくれあがってしまいます。正確な見極めができなくなりそうです。
👉 しかし、国際交流基金は学習者数は多ければ多いほどよい、学習者を増やすのが使命、ということになっているので、数字として入れられるなら入れる、ということになると思います。国際交流基金の調査の数は本気の学習者数ではない、となってしまうのは、調査の方法としていいことだとは思いませんが、一般の関心は低いので正確な数を知りたいというニーズはありません。メディア受けするもの「多ければ多いほどいいだろ」ということになるのです。
日本語能力試験の評価
国が採用しているものや社会の評価など
N1
- 翻訳や通訳などでは、N1取得は必須
- 海外の医師免許の認定はN1が日本語能力に関する免除項目となっている。
- 高度人材ポイント制では、N1は15点。
- 大学と大学院卒でN1取得者は特定活動の在留資格で仕事ができる(N1特定活動)
👉 N1特定活動は、2018年に出来たファミレスやコンビ二やなどでも働けるよ、という人手不足補填的な意味あいが強い。
N2
- 大学、専門学校に入る要件(文科省。ただし実質的なチェックはない)
- 世界中の企業で「日本語ができる」という目安。
- 介護、看護で日本で働き続けるためのボーダーライン(厚労省)
- 海外の大学の日本語学科では卒業までに取得しろと言われるとのこと。
- 高度人材ポイント制ではN2は10点となっている。
N3
- 介護系の在留資格では来日1年でクリアすべきラインとされた(2017厚労省。しかし1年後N4に変更)
N4
- 日本語学校は入学1年で7割がクリアしないと抹消にリーチ(法務省+文科省)
- 介護、看護の来日要件(厚労省)
- CEFRのA2相当とされた。(国は2019年突然日本語の能力判定基準を能試からCEFRに変更し、N4はCEFRのA2相当だということになった)
N5
- 留学ビザの要件(外務省。しかし国によってあったりなかったり)
日本語学校と進学と日本語能力試験
2017年の文科省の提出データを基に作った日本語教育機関一覧 2017版から能力試験でソートした一覧が以下です。
2017年のデータによると、日本語学校に在籍している学生数は、定員が95326人で在籍学生数は80046人。定員充足率は85%です。
在籍学生数が分母で、N1とN2の合格者数の1年間の合計が分子で計算して出しました。N3は学校によっては受けないこともありますが、N1やN2は進学のための目標でもありますので、ほとんど受験します。 日本語能力試験は日本は年に2回です。N1は、大学で学習ができるレベルです。N2は、大学や専門学校に進学するためには最低限必要なラインだと言われており、日本国内では一般企業に就職する際も、N2を要求されることが多いです。海外の日系企業でもN2が基準が多いようです。ちなみに、N2のレベルに達するには通常1000時間くらい必要だと言われています。日本語学校の1年の授業時間はだいたい700時間くらいですから。1年半で合格するはずです。
合格率からわかること
能試のN1,N2に合格者の数は12316人で合格率は15%です。日本語学校のコースは1年~最長2年まで様々なので、コース修了時のトータルの合格率は、もうちょっと高いと思いますが、倍まではいかないはずです。1.5倍くらいではないでしょうか。2年でだいたい半数が合格するという(一覧の合格率が30%以上)学校は47校しかありません。
また同じ1年での大学進学者数は9549人、専門学校は14108人です。合計23657人。能試は全員受けるものではないですが、進学志向の学生はほぼ受けるので、合格者数が12316人で進学したのが23657人だと、11341人はN1もしくはN2に合格したかはわかっていないことになります。
能試のN2はもちろん、N3に合格していなくても、提携先や日本語学校と同じ学校法人グループの専門学校に進学するケースは昔からあるということは周知の事実ですが、だんだんその数は増している。東京福祉大の事件はそれが大学にまで拡大している、ということだったと思われます。
これだけを見ると、N2合格は高いハードルに見えますが、90年代は日本語学校に2年通えばほぼ合格するというレベルだと思います。現在の合格率が低いのは、言うまでもなく、留学の在留資格で日本語学校に来る学生において、就労目的の学生が半数以上を占めているからです。これは、特定技能が出来てからは、就労と留学をきちんと仕分けようという流れになっているので、数年で解消していくと思われます。
👉 一覧にある日本語学校は400校弱ですが、これは文科省にデータを届け出た学校のみです。日本語学校は800校あると言われますが、実際は休眠中の学校も多数あり、稼働しているのは、この文科省にデータ提出した学校+αで、500校以下だと思います。
進学とN2
文科省は従来、専門学校も大学も進学するにはN2が必要だという見解でしたが、特にチェックはありませんでした。ただ2018年前後の東京福祉大の事件(1400人単位で学生が「行方不明」になっていたことが報道される。日本語の能力も低く、授業に対応できていなかったという証言が相次ぐ)以降に、文科省はなんらかの形で確認したいと言ったとのこと。このあたりからチェックが強化された模様。
大学や専門学校の教材は日本語で書かれたものがほとんどで、講義も日本語でしょうから、N2を足切りにするのは、妥当なラインだと思います。ベトナムやネパールからの留学生用にベトナム語ネパール語の教材を用意し、講義もそれぞれの母語でやれるなら別ですが。
大学と専門学校の違いはいろいろです。大学の学力差も幅がありすぎます。ここを考えるよりも、高校を卒業した最低限の日本語をレベルでラインを決めるのがよさそうです。高等学校卒業程度認定試験(旧大検)の国語のレベルが目安になると思います。問題を見る限りではN2をギリ合格したくらいでは問題を解くのは難しいんじゃないかという印象です。つまりここでもN2のラインは妥当ということがわかります。N2で足りない部分は大学や専門学校でサポートしていけば補えるということだろうと思います。
高等学校卒業程度認定試験問題 過去実施問題:文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shiken/1421021.htm
すべての教科に繋がっている!?高認国語勉強法!|高卒認定受験(高認)はJ-Web School
https://www.j-webschool.net/column/column2016_01_4.html
👉 仮に、今後、2年のうちにN2に7割以上合格しなければ、留学生を受け入れることができないというルール(現在のルールは入学1年後にN4に7割)になれば、合格するのはおそらく2万人ちょっと(現在の学生数はトータル約9万)。学校の数は激減で200校以下(現在は800校)になるかもしれません。しかし、これは本気の留学生にしっかり奨学金や住居補助でサポートするには「ちょうどいい規模」という気もします。
【参考】日本語学校の数と学生数の推移 https://webjapanese.com/dokuhon/files/Gakuseisuu.png
👉 2020年は約9万人となっている。
専門学校・大学の要件について
進学とN2(文科省)
「日本語で授業を行う場合、日本語能力試験N2レベル相当以上が目安」文科省(2019)
外国人留学生の適切な受入れ及び在籍管理の徹底等について(通知):文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ryugaku/1325305.htm
&color(#8f8667,White){「また、入学志願者が真に修学を目的としており、その目的を達するための十分な能力・意欲・適正等を有しているかを適切に判定すること、特に、日本語など必要な能力の基準(学位が授与される正規の教育課程(以下「学位課程」という。)において日本語で授業を行う場合、日本語能力試験N2レベル相当以上が目安)を明確化し、適正な水準を維持することが重要です。」};
👉 2019年の東京福祉大学の大量失踪事件がきっかけだと言われている。
これも厳格化のひとつだが、すべての学生が受ける試験があるわけではなく、全員がN2程度をクリアしているかはチェックできないが、これまでボンヤリと考えられてきた基準が文となったことの意味は大きい。専門学校への入学でもN2がマストとなると、運用によっては、ほとんどの留学生は進学できないことになりそう。
札幌国際大学の騒動
→ このN2が札幌国際大学の騒動に繋がっていくことになる。
2020年、札幌国際大学では一部学生の日本語能力が問題だとして抗議した教員が解雇されるという事件が起こり、この「N2問題」がクローズアップされています。
この件、解雇された当事者以外からは情報はほとんどなく、あまり全体像が見えないので、わかる範囲で関連のことを記録するのが精一杯です。ただ大学への進学条件がN2で妥当なのか?ということが司法の場でも争われる可能性がありそうなので、重要です。
経緯
札幌国際大学の学生の日本語能力に問題があるとして批判し、それを理由に解雇された事件の裁判で、文科省の大学への指導がどういうものだったかが、明らかになりつつある。大学進学のラインがN2が妥当なのかはともかく、文科省の方針が曖昧で、かつここ数年、二転三転していたことは察することができます。
裁判の経緯までは追えませんが、解雇された当事者(著書が多数ある大月隆寛氏)の@kingbiscuitSIU氏は経緯についてツイッターやブログで発信してくださっています。
「留学生30万人計画」時代の外国人留学生全入させて儲ける大学ビジネスモデルに対する判例になる裁判所の判断、ということになるであろう案件。#札幌国際大学問題
— king-biscuit (@kingbiscuitSIU) August 23, 2021
2020年7月 札幌国際大学、燃ゆ - king-biscuit WORKS
【補足】日本語学校や就労系への日本語能力に関する規制の現状
2017年までは、EPAなど特別な例を除き、在留、留学ともに、事実上日本語能力を在留資格や進学と結びつける規制は存在しなかったが、2017年以降、次第に各所で日本語能力が基準になるケースが増えてきた。
在留資格や進学の足切りに日本語能力が明確に採用されたのは、特定技能の来日要件のCEFRのA2相当の試験の合格がマストになったことと、2017年に日本語学校の抹消の条件に「3年続けてN4合格者が7割を切ったら抹消」ということが加わっただけです。
しかし、設定されているレベルは初級前半程度で、あくまで足切り的なもの。これはむしろ日本語教育振興基本法の日本語教育の提供の義務のラインとしてCEFRのA4を採用したという意味あいが強そうです。依然として、国が日本語能力を厳しくハードルにすることにはかなり慎重と言えます。これは就労系でハードルをあげてしまうと人手が確保できないという理屈が留学にも影響しているのかもしれません。留学ビジネスの維持としても下げられないハードルになっているという理屈です。
👉 ただし日本語の試験の内容自体も2010年以降の改訂でかなり変化しており、他の試験との併用も進んで多様化しているので、一律で目安にするのは難しくなってきています。
問題関連
問題作成
https://webjapanese.com/dokuhon/files/nooshi04.png
https://webjapanese.com/dokuhon/files/nooshi05.png
2021年7月に問題作成の募集が出ていた。
国際交流基金 - 国際交流基金 日本語試験センター 日本語能力試験研究員募集について
削除される可能性もあるので、概要をまとめると…
今般、日本語能力試験の作成・分析、運営を行っている国際交流基金日本語試験センターでは、試験問題作成業務に従事する日本語能力試験研究員(任期付)を以下のとおり募集いたします。
1.募集人数
下記の担当分野でそれぞれ若干名 「文字・語彙」「文法」「読解」「聴解」
2.身分
国際交流基金と業務委嘱契約を結び、任期付研究員として業務に従事
3.業務内容
日本語能力試験の問題作成業務ならびにそれに付随する業務
4.主たる勤務地
場所:国際交流基金日本語試験センター 住所:東京都新宿区四谷4-3(東京メトロ丸ノ内線四谷三丁目より徒歩5分)
5.待遇
- (1)手当:国際交流基金の規程に基づき、各人の学歴、経験等に従い基本手当、時間外手当、特別調整手当、扶養手当(該当する場合)、住居手当(該当する場合)、通勤手当、特別手当(賞与)を支給いたします。
- (2)社会保険:健康保険、雇用保険、厚生年金保険、労災保険に加入いたします
6.勤務条件
- (1)勤務日:原則として、月曜日から金曜日までの週5日勤務で、土曜日、日曜日、国民の祝日、年末年始(12月29日から翌年1月3日まで)を休日といたしますが、業務の都合上、休日出勤を求める場合もあります(その場合は平日に振替休日取得)。
- (2)休暇:有給休暇制度有り(勤務開始月により調整あり)。
- (3)その他の勤務条件:国際交流基金の定めるところに拠ります。
7.契約開始日及び契約期間
- (1)契約開始日:令和3(2021)年10月1日もしくは令和4(2022)年4月1日
※勤務開始日は上記を基準といたしますが、個別に相談に応じます。
- (2)契約期間:契約開始日より原則として1年間
※任期中の勤務状況等を評価の上、最長通算5年の範囲内で契約を更新することがあります。
応募資格
次の(1)を満たす者。加えて、(2)~(4)のいずれかに該当することが望ましい。
- (1)大学又は大学院で日本語教育又はそれに類する課程を修了し、修士号を取得した者(応募時点で修了見込みの者も応募可)
- (2)大学、研究機関等で日本語教育の経験を有する者
- (3)日本語能力測定等に関する専門性を有する者
- (4)国際交流基金派遣専門家として1年以上の海外派遣又はこれに準ずる海外での日本語教育の経験を有する者
※日本語を母語としない場合または日本国籍を有しない場合は、上記3.に定める業務(試験問題作成業務)を遂行するに足る高度な日本語能力を有すること、国際交流基金での就労を開始するまでに日本国内で合法的に就労できる資格を満たしていることを条件といたします。
1.応募書類
(1)日本語試験センター指定履歴書(写真貼付)
https://webjapanese.com/dokuhon/files/nooshi01.pdf\PDF版【PDF:295KB】
志望理由書
記入内容が多いなどの理由で書式がずれてしまう、枚数が多くなってしまうなどは構いませんが、記入項目については全て記載してください。 Microsoft Wordファイルを正常に開けない場合について
(2)業績資料
履歴書に記した業績一覧の内、著書、論文、制作した教材等の現物又はコピー1点(学位論文は除く)を提出ください。返却を希望する場合はその旨も明記してください。なお、共著論文の場合にはご自身の分担内容を明記してください。
(3)志望理由書
2,000字以内(A4版用紙2枚以内、ワープロ打ち)で、次の点にも触れつつ志望理由を記してください。
- ア.これまでの仕事の内容、専門、特に関心を持ってきたこと。
- イ.「履歴書」で希望すると〇をした分野について、その理由。
- ウ.日本語能力試験において自身のどのような能力、資質、経験が生かせるか。
(4)推薦状1通
推薦者と本人との関係を明記してください。また、推薦状は推薦者自らが封筒に入れた上で厳封してください。 ※提出書類は(2)以外のものは返却いたしません。選考終了後は当方で責任を持って破棄いたします。なお、(2)業績資料について返却希望される場合にはその旨、明記してください。 ※第二次選考通過者には、上記に加えて、修了(卒業)証明書、健康診断書等の提出を求めます。
引用は以上。以下、ガイダンスがあり、選考は一次と二次を経て合格が決まるということが書かれていた。
👉 国際交流基金の規程はわかりにくいが、一般的に独立行政法人の平均年収は600万超で、2010年の業務仕分けではだいたい平均900万くらいと回答していたので、修士マストでこの業務だと40代なら800万前後?
過去問問題
かつては毎年、試験問題が販売されていたが、2012年から販売停止となり、代わりに直近の過去問を整理した公式問題集を出し、その他の対策問題集を「非公式」に追い込みました。他のテストでは例えば英検などは過去問は無料でダウンロードできたりします。公的機関が主催するものですし、為替格差などもあり1000円を払えない学習者は多いと思われます。過去問を配布する方針ではないなら、対策の練習などは無料配布でもいいのでは?
ちょいちょい昔と同じ問題が出たという指摘がありますが、それについては以下のような指摘が。
JLPTが項目応答理論を採用している以上、試験問題に過去の問題が使われるのはむしろ当然のことではないのかな。だからこそ非公開にしているわけですし。(ただ、漏洩の問題があるから、過去と同じ問題は実際には出せてないでしょうけれど。)
— orangist7 (@orangist7) July 7, 2021
項目応答理論とは項目反応理論、IRT(Item Response Theory)とも呼ばれ、Wikipediaにも項目がありますが、各回の試験の難易度の平準化、受験者の理解度の測定などを目的としたもので、テスト的に同じ問題が出されるという可能性はあるということになっています。TOEICやTOEFLなどでも採用されており、英検も2016年から採用したとのこと。英検は過去問の再出題はあり、他の試験でもある模様。
能試の主催者も以下のように説明しています。
試験の難易度に依存しないテスト得点(尺度得点)を算出する具体的な手続きは、項目応答理論(Item Response Theory; IRT)という統計的テスト理論に基づいています。この手続きは、正答数に基づいたテスト得点(素点)の算出法とは全く異なります。
尺度得点について
https://www.jlpt.jp/about/pdf/scaledscore_j.pdf
テスト研究:領域 - 石井研究室:名古屋大学 教育発達科学研究科 心理発達科学専攻
過去問流出問題
日本語能力試験の舞台裏。 pic.twitter.com/Sc6lttU16V
— Yoshifumi Murakami (@Midogonpapa) December 4, 2022
👉 インドでは問題用紙を即焼却しており、他の会場でも同じようなことが行われているともツイートされている。項目応答理論との関係?も投稿されているが、問題を焼却することとの関係と項目応答理論との関係がどこにあるのかはわからない。基金では理論と厳しい過去問管理を結びつける独自の考え方があるのかもしれません。ちなみに項目応答理論を採用している英検でも過去問は毎年配布されており、他の同様の試験でも同じ。
これは過去問が発売されなくなってから増えたという説が有力だが、以前も教材の違法コピーとして常習化していたので、その延長線上のこととも言える。ダミーで受験した人から流出するケースが多い模様。
2010年代後半の国の改革で在留資格と能試は紐ついたので、ますます過熱化しそう。また、2005年の国際交流基金の方針変更で、日本語学習者サポートから学習者開拓という方針になり、学習者数が増えることが成果であり、主催する能試の受験者数が増えることも成果だということになったことから、能試の試験の開催地や回数は増え続けている。その無理がたたって、カンニングなどが横行しており、この流出も防ぐのは難しそう。
デジタル&ネット時代になり、この種の問題は広がる一方で、防ぐのは難しい。試験管理を委託した学校ぐるみでのカンニングなどもあった模様。能試以外の民間の試験も在留資格認定で採用されたが、民間に試験管理を委託する方式を採用しているところは多く、カンニング対策は厳しいと思われる。
コロナ下
実施されても受験者が来ない、ということが多かった模様です。
ミャンマーの日本語能力試験については、「今回は実施された」のではなくて、「今回もほとんどの人が(受けたくても)受けらなかった」というのがより正確な情報です #JLPT #日本語能力試験 #国際交流基金 #ミャンマー
— レダン日本語教室🌈+ビルマ語 (@HLEDAN_Japanese) February 26, 2022
データなど
国際交流基金による各レベルと文型の対照表。1~4級時代のものですが、現在のN1~N5とそれほど変わっていないと思います。
旧日本語能力試験の出題基準による級と文型の対照表 一覧 (Googleスプレッドシート)
旧能試の各級の説明
2010年以降の説明
2015年の国別の受験者数
→ 基金の学習者数は教室に通っている学習者数だが、日本語の学習だけではなく文化・地理学習的なものも含まれる模様。インドネシアと豪州は見た目の学習者数は多いが、本気の学習者数はかなり少ないということがこの能試の受験者数でわかる。
元々欧米では日本語学習が能試の受験に結びつかない傾向はあるが、それを考慮しても豪州の受験者数は極端に低い。
早稲田大学による能試とCEFRの対照表
社会参加のための日本語教育とその課題 -EDC、CEFR、日本語能力試験の比較検討から https://ci.nii.ac.jp/naid/40019204200
いろいろな問題
試験管理・カンニング
マークシートの4択ということもあり、以前から試験の体制が手薄でカンニングが横行しているという話があります。今後、在留資格の延長などと関連づけられることになると、より大規模の不正などが起きる可能性があるかもしれません。
試験の実施の国と地域と回数が増えたことに人員が追いつかず、委託した先での試験で時に集団で(組織ぐるみで?)不正が行われている模様。過去に主催の公財法人日本国際教育支援協会、独立行政法人国際交流基金から不正の発表が正式にあったのは(おそらく)一度だけ。
日本語能力試験で 答案に多数の「不正常な一致」 ~主催者は合否判定せず 受験料返金へ~ | In the Future
http://blc.jugem.cc/?eid=1083
試験監督のアルバイトをする人達の間では、能試はカンニングが横行しており監督が大変だという評判になっている模様。
日本語能力試験監督バイトの求人情報を調査!楽で稼げるか徹底解説
https://shiken-kantoku.com/job-list.php?job_id=6
試験監督まとめ - 四十三庵
https://blog.stm43.com/entry/20100822/1282485335
民間の試験では、日本語教育機関に監督なども委託することがあり、不正を監視することができるかどうは疑わしいかもしれません。
合格証偽造
2020年合格証の偽造が報道される。
「代金は1枚8000円。以前は1万5000円だったが、同業者が増えて値下げした」
「約5年前から、数え切れないほど売りさばいてきた。月30件は依頼がある」
記事
資料
能試のサイトでも紹介されているもの
日本語能力試験とは | 日本語能力試
JLPT https://www.jlpt.jp/about/
「日本語能力試験改定の中間報告」
https://www.jlpt.jp/reference/pdf/2009_011.pdf
「新しい日本語能力試験について」
https://www.jlpt.jp/reference/pdf/2009_010.pdf
「新しい日本語能力試験のための語彙表作成に向けて」
https://www.jlpt.jp/reference/pdf/2008_010.pdf
「日本語能力試験の現在と未来」
https://www.jlpt.jp/reference/pdf/2007_010.pdf
日本語能力試験の新たな取り組み
https://ci.nii.ac.jp/naid/110009995295
その他はこちらに。
国際交流基金による各レベルと文型の対照表。1~4級時代のものですが、現在のN1~N5とそれほど変わっていないと思います。
旧日本語能力試験の出題基準による級と文型の対照表 一覧 (Googleスプレッドシート)
旧能試の各級の説明 https://webjapanese.com/dokuhon/files/Nooshi_oledkijun.jpg,400x450
2010年以降の説明 https://webjapanese.com/dokuhon/files/Nooshi_newkijun.jpg,400x450
2015年の国別の受験者数
→ 基金の学習者数は教室に通っている学習者数だが、日本語の学習だけではなく文化・地理学習的なものも含まれる模様。インドネシアと豪州は見た目の学習者数は多いが、本気の学習者数はかなり少ないということがこの能試の受験者数でわかる。
元々欧米では日本語学習が能試の受験に結びつかない傾向はあるが、それを考慮しても豪州の受験者数は極端に低い。
https://webjapanese.com/dokuhon/files/Nooshi_kunibetsu.jpg
早稲田大学による能試とCEFRの対照表
https://webjapanese.com/dokuhon/files/Nooshi_noushiCEFR.jpg
https://webjapanese.com/dokuhon/files/Nooshi_noushiCEFR2.jpg
社会参加のための日本語教育とその課題 -EDC、CEFR、日本語能力試験の比較検討から
https://ci.nii.ac.jp/naid/40019204200
論文
日本語能力試験の新たな取り組み - researchmap
https://researchmap.jp/jhlee/published_papers/24541332/attachment_file.pdf
日本語能力試験を再構成したテストの実施と分析一古典的テスト理論と項目応答理論を用いて
https://core.ac.uk/download/pdf/56650133.pdf
外国語としての日本語能力測定を支えるテスト理論
http://sfi-npo.net/ise/quality_education/no2_downloadfile_5.pdf
項目応答理論とその適用-日本語能力試験の分析と日米比較調査のDIF項目検出
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sicejl1962/40/8/40_8_555/_article/-char/ja/
社会参加のための日本語教育とその課題 -EDC、CEFR、日本語能力試験の比較検討から
https://ci.nii.ac.jp/naid/40019204200
日本語能力試験の因子分析的検討
https://ci.nii.ac.jp/naid/110000936971
看護師国家試験の語彙の様相–日本語能力試験出題基準語彙表との比較から
https://ci.nii.ac.jp/naid/120002970947
小学校の社会科教科書の語彙と表現 : 日本語能力試験レベル及び外国人児童教育のための日本語教科書との対照
https://ci.nii.ac.jp/naid/110007617380
聴覚障害者への日本語能力試験の適用–第二言語としての日本語学習者との比較
https://ci.nii.ac.jp/naid/120000837786
日本語能力試験「文法」の問題項目分析–テイルの問われ方と困難度との関係について
https://ci.nii.ac.jp/naid/110007529899
障害者の権利保障と日本語能力試験点字冊子試験の合理的配慮に関する一考察
https://ci.nii.ac.jp/naid/120005621836
日本語能力試験における発達性ディスレクシア(読字障害)への特別措置
https://ci.nii.ac.jp/naid/110006605268
点字使用の学習者を対象とした日本語能力試験「情報検索」問題の触読調査
https://ci.nii.ac.jp/naid/130007436092
点字使用者の日本語学習に関する調査 : 日本語能力試験点字冊子試験受験経験者の日本語学習
https://ci.nii.ac.jp/naid/110009687589
日本語能力試験の語彙について
https://ci.nii.ac.jp/naid/110006225283
外国人に対する日本語教育の振興 : 日本語教育振興協会, 日本語教育能力検定試験, 外国人日本語能力試験
https://ci.nii.ac.jp/naid/110003110061
話しことばにおける縮約形に関する研究:―ドラマと日本語能力試験の考察を中心に―
https://ci.nii.ac.jp/naid/130005304068
教材に見る外来語教育に対する意識:日本語教科書の外来語と日本語能力試験出題基準の外来語
https://ci.nii.ac.jp/naid/110009496845
JLPT Resources - Free Japanese Vocabulary lists and MP3 sound files
http://www.tanos.co.uk/jlpt/
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