論文と研究者

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論文と研究者

概要

👉 研究者同士は、表立って人の研究を批判しないという風土があり、これが一般の人にとって研究の世界をわかりにくくしている側面はあると思います。

教育関係のジャンルではよくあることらしいですが、日本語教育でも現場の教師と研究者の間には微妙な距離感があります。現場を知らない研究者なんて!化石化1)した現場の教師なんて!というような対立はまだ緊張感があり対話の可能性もあるのでよいのですが、どちらかというと、現場の教師には「偉い先生が言ってるんだからそうなんだろう、従っておいたほうがカッコいいし、無難かも」的なものがあり、研究者にも「現場の教師には**学的に正しいんですよ、今はこれが新しいんですよと言っておけばついてくるだろう」というノリもあります。このほうが厄介かもしれません。

ネットでは一般の人相手に「論文で証明されている!」と論文が引用されることがあります。しかし、たいていのことは論文にかいてあるので、切り取ればなんでも好きなように証明することはできるはずです。

例えばこれは待遇が悪いほうがよい働き手が残るから正しいやり方だという論文です。

論文のオープンアクセスは進み、普通の人も読めるものが増えてきましたが、そのことで論文や論文を引用した言説との付き合い方は難しくなったという側面もあるようです。以下は、現在の日本語の大学の状況や日本語教育以外のジャンルでの話などもいろいろと聞いて、ざっくりとまとめたものです。

論文の価値

日本語教育に限らず、一般論で語られることとして論文は研究者の思い込みだけでは書けない。「論文はそのジャンルの第三者の研究者によって、その論文が妥当なものであるかという査読というものがあり、それに通ったものなら一定の質が保証される」ということになっています。しかしSTAP細胞騒動もありました。テレビでは博士や教授という肩書きでいろんなことを語る人達がいます。査読は、あまり厳しくなかったり「第三者」によるナアナアの審査であったり、無いケースもあるようです。

👉 「紀要」の問題と課題 Togetter

また日本語教育では「実践」の「報告、記録」としてまとめられた論文が多いのも特徴です。これらのものはあくまで「報告」であってそれだけをもって何かの論拠とすることは難しいと考えるべきもののようです。論文の中で行われている「試み」が新しいものとも限りませんし、検証が不十分であったり妥当性を欠くものである可能性もあるということでしょうか。

一般論として

論文の価値については、引用回数が多いもののほうがよい、できれば国内だけでなく海外の同じ研究者からの引用があるほうがよい(科学研究ではそれがないとあまり意味がないとされれるが人文系ではそうでもない)というのも一般的な理解のようです。海外の研究者と共有するためにもひとまず英語で書かれることも推奨されます。しかし、日本語教育では引用されないままの論文のほうが圧倒的に多いという印象で、アーカイブで引用回数でソートしてもあまりよいフィルタリングにはなりません。

「そのジャンルで権威がある論文掲載誌」が論文の価値を決めるという考え方もあるようですが、人によって意見は違うようです。

👉 現場の教師は現場で得た自分の実感や「こうあってほしい」ということを肯定してくれる論文を支持しがちというバイアスがあるということも意識しておいたほうがいいかもしれません。

研究者の価値

日本語教育において、修士という学位は、原則として国内外の大学の別科や基金の専門家の雇用条件となっており、日本語教育学科などで大学の勉強の延長で研究者の道を選んだ人が歩む道というより、より良い仕事環境を求めて、2年間の時間とお金をかけて仕事の継続のために取得する肩書き、という側面が昔から強くあります。そして、日本語教育では「2年通える経済的余裕があれば取得できる」と考えられており、実際にそういうものであるようで、何かを保証するものであるかは疑わしいという意見は根強くあります。もちろん大学によるとは思いますが。

人文系において博士号の取得のしやすさは年代によってまったく違うことは知られてきました。1990年代あたりまでは人文系の博士号の取得はかなり困難で、博士号を持たないまま教授になり引退する人も多かったようです、しかし、ここ20年くらいは博士号は国の方針もあり、研究生活を続けていれば取得できるものにせよ、ということになってきています。1970年生まれあたりを境に人文系は「博士は持ってなくても特に問題はない」という前世代と「博士をもってないと話にならない」という後の世代にハッキリ分かれるということになっていて、博士号を持たないからダメとも言えないようです。

ただ、人文系の研究者の話を総合すると、研究者の仕事は論文を書くことであり、きちんと査読を経た論文を書いているかは、博士号がある無しに関係なく評価の目安となり得るとのことのようです。「数は関係ない質である」という意見はありますが、それはその数少ない論文の評価が例外的に高い人に限られるようで、新しい世代(1970年が境界?)の研究者であれば、40才ぐらいまでにせめて10本くらいは論文を書いて博士号を取得していないと…という意見をよく聞きました。書籍も研究実績にはなりますが、やはり論文とのこと。

しかし論文はまったく書かない有名人博士(「日本語教育に詳しい人」としていろんなところで監修をしていたりする「第一人者」などと呼ばれがち)は日本語教育にもいるようです。専門とは関係ないところで的外れなことをいう、みたいな人もやはりいるということがSNSなどで可視化されつつあるような気がします。

研究者が博士号を取得しているか、どんな研究が専門で、どんな論文をいくつ書いてきたか、どこでどんな仕事をしてきたか、は、最近やっとネットで可視化されるようになりました。まだ完全とは言えませんが、以下で検索できます。名前をみたら、まずここで検索してみましょう。
https://researchmap.jp/search/
論文がまったく出てこないとか、紀要や雑誌に掲載された記事ばかりという人も結構います。まったくデータを入れてないという人もいます。

👉 上に書いたことはあくまで「だいたいこんなことが言われている」という話の寄せ集めに過ぎません。今は研究者に関しても情報開示や透明化が求められている時代で、ネットでいろいろと調べることができます。まずは調べて、あとはご自身の判断で。

【記事】
トップ研究者のリスト – Shimodaira Lab
http://stat.sys.i.kyoto-u.ac.jp/post-ja/1437/

その他、いろいろ

質的研究は定性的研究(ていせいてきけんきゅう、英: qualitative research)、量的研究は定量的研究(ていりょうてきけんきゅう、英: quantitative research)とも呼ばれます。いろいろと議論もあるようです。「違い」などでググってみてください。

質的研究と量的研究のちがい
http://www.cscd.osaka-u.ac.jp/user/rosaldo/150321Qapr.html

質的研究論文の評価
http://web.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~ysekigch/qual/qualassess.html

リサーチで「質的側面」という言葉は禁止したい
http://terasawat.hatenablog.jp/entry/2018/07/21/133018

論文の探し方

従来はCi Niiがネット上でアクセスできる最も大きな論文アーカイブだったが、運営の先行き不透明感が出てきたのでJ-stageに移行中。日本語教育学会関連の文書もJ-stageがメインとなっている。ただ日本語教育関係はまだCi Niiのほうが多い模様。

https://cir.nii.ac.jp/
(2022年4月からリニューアルされました)

  • 正式名称:Ci Nii(サイニィ、NII学術情報ナビゲータ、Citation Information by NII)
  • 運営:国立情報学研究所(NII、National institute of informatics)

アカウント登録があるがしなくてもアクセスはできる。キーワードで検索し「本文あり」を選択すればネット上で読めるものに絞り込める。検索結果を引用件数(一般的に引用数が多いほうが価値がある論文とされている)や新旧順でソート(並び替え)できる。アプリもあります。

👉 本来、CiとNiiの間にスペースは無いが、このWikiの仕様上、離す必要があるのでそうしているだけです。

https://www.jstage.jst.go.jp/

  • 正式名称:「科学技術情報発信・流通総合システム」(J-STAGE)
  • 運営:文部科学省所管の独立行政法人科学技術振興機構(JST)

アカウント登録はメアドとパスだけで可能。登録しなくても読めるものは多い。

https://scholar.google.co.jp/

  • 正式名称:Google Scholar
  • 運営:Google

日本語だけでなく海外の論文も収録されていて、英語でも日本語でも検索可能。日本語教育でヒットする論文はあまり多くない。

Google Scholar citations
:Google Scholarに登録している研究者から辿る検索。
https://scholar.google.com/citations?view_op=new_profile&hl=ja

日本語研究・日本語教育文献データベース~

日本語教育関係の文献、資料が検索できる。

https://bibdb.ninjal.ac.jp/bunken/~

少納言の使い方

論文を整理するアプリはいろいろとあります。

mendeley
https://www.mendeley.com/
http://jlem-sg.org/
http://academicjapanese.jp/endnote

Paperpile: Modern reference and PDF management
https://paperpile.com/
Web上で文献管理 Paperpileの導入方法と基本的な使い方
http://www.ams.eng.osaka-u.ac.jp/user/ishihara/?p=1740

研究者と大学

ざっくり書きますと、、、

  • 1991年 大学の設置基準の規制緩和
  • 1996年 大学院重点化(MBA取得ブーム)
  • 2004年 国立大学の法人化(国立大学法人法)
  • 2015年 理科系重視の方針「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」

というような流れがあり、96年の大学院重点化政策の影響で増えた修士、博士の人達が、少子化で学生が減る中、大学でポストが無いまま40代、50代になっている、ポストがないドクターが増えてしまっている、というのがポスドク問題として語られています。

👉 留学生10万人計画は83年スタート。80年代に、18才人口が減少に転ずるだろうと言われていたのは93年。91年の大学の設置基準緩和は留学生で補填する計画ありきのものだったと考えられる。しかし10万人達成は2003年。2008年に留学生30万人計画がスタート。2010年には留学生と就学生(進学準備の日本語学校の学生)が統合され定義上の留学生の数は一気に増えた。2020年までに達成するのが目標で19年には数字上は達成。

日本語教育はポスドク問題の影響は、特に大学院重視で修士、博士を量産する流れなどは、受けたと思いますが、90年代以降、学生数の減少を留学生で補填する傾向に拍車がかかり、大学の日本語教育関係におけるポストはそれほど減らなかったのではと思われます。ただ、2016年の有識者会議では、今後、教員養成系大学でも日本語教育の学習が義務づけられることになり、教職関係などでポストは増えていくと考えられていましたが、2019年に留学と就労は仕分ける方向性が示され、大学が留学生で学生数を補填することが難しくなる可能性が出てきました。

教員養成系の大学での需要はできても、肝心の留学生が減ってしまうことで、日本語教育におけるポスドク問題はこれから始まるかもしれません。ますます厳しくなっていく人文系の研究者が日本語教育に「参入」してくる可能性もあります。

留学生教育は別として日本語教師養成や日本語教育学科の人気はいぜんとして高いようです。大学での資格取得は比較的安上がりで楽ということもあります。

日本語教育学科は国内外に多数あります。特に2010年代以降は、日本語教師の資格取得に特化した大学のコースなども設置されるようになりました。もう20年以上も、日本国内では毎年4000人前後の卒業生を出しています。日本語教師の「有資格者」の条件には養成講座の修了や試験合格の他に大学で所定の単位を取得するコースもあり、この大学のルートは、単位認定の種類(外国語の履修が単位として認められていたりする)や民間では認可が難しい通信でもよいことになっていたりと、少々甘い設定になっているように思われます。

大学によって、日本語教師の資格が取得できるという宣伝で学生を集め資格を取得するのが目的のところと、日本語教育の研究者を養成するところに分かれるようです。基本的に昔から留学生が多い国公立大学の日本語教育学科は研究者養成を念頭に4年間みっちりやるというところですが、日本語教師の資格が取得できるということだけが売り、という大学も多数あります。

👉 ただし実際に日本語を教える仕事に就くのは資格取得系の大学の卒業生のほうが多いようです。

大学の研究は、日本語教育に限らずですが、やはり国の政策にかなり強く左右されるようになっています。日本語教育では、国として政策が弱いところ(技能実習生や小中学校以外の年少者など)の論文は極端に少なくなり、社会政策としての日本語教育に関する論文も英語教育などと比較すると少ないです。また、ICT関連だと査読できる人がいないのかな?という空気も感じます。

日本語教育関連リスト 公開版 2.0版 2022に少し整理しています。

絞り込む

研究機関として考えると、日本語教育関連の大学院がある大学で検索するという考え方もあります。これだと50あるかどうかです。長く留学生教育をしてきたかどうかは、留学生別科があるかでフィルタリングできそうです。また、自前で日本語の教科書を作ったことがあるかというのもひとつの指標になります。初級の総合教科書を作るだけの蓄積があるかというのは、民間の日本語学校でもよい指標になります。研究の蓄積があり蓄積できるだけの組織があって、その研究機関に予算が出るだけの信頼感がないと総合教科書は作れないからです。

私立大学留学生別科
https://www.shidai-rengoukai.jp/s_courses/index.html

ただ、稼働してない別科も、あります。以下に現況があります。

外国人留学生向けの教育を行う大学別科における教育の実施状況の公表について:文部科学省
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ryugaku/1382457.htm 

👉 別科とは違いますが、大学内の日本語教育が必要な学生のための機関として、国際教育センター、日本語教育センターなど「センター」がつく名前も使われます。国公立に多いようです。

もちろん、いろんなフィルタリングで漏れるところにもいい大学はあり、残る大学にもダメなところはあると思います。日本語教育では、大学院もあるし、超高偏差値の有名大学だけど、、、ということもあるような気がします。

一般的に言われることとしては、日本語教育では筑波大学の存在感が圧倒的で、他に、名古屋大学、大阪大学などの名前が出てきます。日本語教育に関しては私立よりも国公立大学のほうが質が高いという印象です。大学はともかく大学院は国公立を選ぶ人が多いようです。

問題がある大学

経営状況はサイトで定員充足率を公表しなければならないことになっているのでそれを見ればわかる。90%を切ると危ないと言われるが切っている大学は意外と多い。これまでは統合を進めたりなど守られてきたが、一段落し、2020年代からは見捨てられるのではと言われています。例えば、日振協で毎年行われている日本留学AWARDSは日本語学校の職員の「印象」だけで決まる賞で、受賞した大学や専門学校には定員割れで経営状態に問題がありそうな学校が多く含まれていることに注意。

また、留学生が多い大学は定員を超過していることで問題となることがある。105%を越えると多いとされ、助成金も減ったり無くなったりします。

また、文科省の調査で警告を受けた大学も要注意。
設置計画履行状況等調査:文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ninka/1354957.htm

また、大学のハラスメントなどで処分があってもあまり報道はされず、大学そサイトでもすぐに削除される。ということもあり、以下のようなサイトは貴重です。留学生がパワハラにあった事件などもあります。

過去の不祥事を記録しているサイト
大学職員.net -Blog/News-
http://blog.university-staff.net/archives/1/cat19/

研究




研究

メールマガジン | 国立国語研究所
https://www.ninjal.ac.jp/info/media/mailmagazine/

Google scholar 活用法 東京大学
https://www.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/manual/guidance14_gs.pdf

東京外国語大学 語学研究所 語研論集データベース
http://www.tufs.ac.jp/common/fs/ilr/contents/database.html

論文をググる技術|まつーらとしお|note
https://note.com/yearman/n/n0d9c8e86d136

各分野での論文とか業績に関する記事のまとめ(見つけたら追記してます) - 誰がログ
https://dlit.hatenadiary.com/entry/2018/10/11/161123

どれだけエビデンス概念を英語教育に適用できるか/できないか:010203

Kindleで正しく引用する方法(決定版)
http://hokoxjouhou.blog105.fc2.com/blog-entry-911.html

論文を読みっぱなしにしないために|ぶんぽう|note
https://note.com/bumpo/n/n9530272d5276


1)
この語のこういう揶揄的な、拡張的な使い方はあまり好きではないのですが、日本語教育ではこっちの使い方も多いのであえて。
  • 論文と研究者.txt
  • 最終更新: 2022/12/14 00:03
  • by webjapanese