ここでは地元の文書を多言語化しようというテーマで書いてみます。2020年まで他所で公開していましたが、転載の際に文書の半分くらいが消えてしまったので書き直しました。ほぼ内容は同じですが短くなってます。
準備
地元で文書作りに携わるには、例えば町内会(自治会)の書記的な担当であるとかマンションの管理組合の書記だとか、意外といろいろあります。かといって立候補するほどじゃないですよね。私もそうです。なるべく避けたい。しかし、くじ引きでたまたま何かの役員を引き受けることは決まったので、書記に立候補して密かに「じゃあ多言語化をやってみっか」と考えました。
以下は、やってみた記録ですが、ひとまず最初の種を蒔くことはできました。おそらくやる気満々でやるとあまりうまくいかなかったと思います。力まず、目立たぬように、シレッとやるのがいいようです。大事なことは、やるだけでなく、その後も続く環境を整えることです。
ポイントは
- シレッとやる。
- 意識を低めに保つ。
- 多文化共生とか異文化交流などを人に説かない。
- 褒められようと思わない。
- 続かなくても怒らない。
- お金も手間もかからず、誰でもできるマニュアルも作ります、ということを強調する。
です。
会議にかけたりせず「法務省とか文化庁でやさしい日本語化をやることになったみたいで、そのうち義務化されるかもしれませんよ。簡単なのでやってみましょう」などと会長などの了承を取り付けて、やってもいいとなったら、黙って密かに進行します。無料でできますから、費用がかからないことを強調することも大事です。今、自治会は加入義務がないという判例がでたりして予算のやりくりに困ってます。
で、やさしい日本語化だけでなく多言語化もします。ついでに簡単にやれます。
作った文書を「こんなことやるの」「誰も読まないよねえ」などと言われても「大事なことなんです!災害の時などに~クドクド~」などと言わず「なんかやることになったみたいですしねえ、とりあえず、貼っておいてください」と言いましょう。
褒められたりしません。住所など個人情報がわかってしまうのでネットで自慢もできません。続ける気力を維持することが重要です。意識は低く、ヘラヘラと進めつつ、引き継ぎはキッチリ作る。で、役職の期限がきたらあっさり止める。最低限、ネットが使える人という条件で後任を探してもらう。
継続性重視
マニュアルを作る
役員は1年で交代です。この1年に多言語化するわけですが、同じ時間をかけて、引き継ぎのマニュアルをつくってください。これが重要です。パソコンが全然ダメな人には無理ですから、そこは諦めて「仕事でofficeは少し使うけどネットは詳しくない」くらいをターゲットにマニュアルを作ってください。手順は
- 文書をユニバーサル日本語化する。
- それを翻訳ソフトで多言語化する。
- 印刷して掲示
です。「ユニバーサル版」は翻訳に最適化しただけでやさしい日本語とは違いますが、そのままやさしい日本語版として使っていいと思います。掲示スペースが少ないことがあるので、日本語版とユニバーサル版だけで、多言語版は事務所において管理人さんから渡して貰う、もしくは配布するでいいと思います。
続けない
矛盾しているようですが、継続性のためには、自分はやめることが重要です。
引き継ぎをしたら終わりにしましょう。多言語化を続けるために翌年も役員も引き受けるなんてことはしなくてもいいです。翌年も続けば、多言語化が出来る人が2人になります。その人に引き継ぎの際に「マニュアルどおりにやってみてください。もしわかりにくいことがあれば、修正してマニュアル作りも改善していってください。で、1年で辞めて、来年は来年の人にまかせましょう」と伝えましょう。自分で背負わず、出来る人を増やし、育てましょう。
翌年からやらなくなるかもしれません。でも、誰もがやれる環境は整えたわけですから、三年後にひょいとまたはじまるかもしれませんし「あれ、どうなったんですか?」などと言わなくても大丈夫です。いつでも再開できるように、しっかりマニュアルを作り、やり方を残す。それを目立つようなところにタイトルを書いて保管する。後述するデジタル化ができるなら、ディレクトリのトップに置く。
気になるなら世間話の時に役職がある人に伝わりそうな人に去り際にでも「そういえば、この前**(国名)の人が、今年は**語がないんですね、って言ってましたよ~では~」と外圧を利用します。そこまででも十分です。
👉 余力があるならアドバイザー的なことはしてもいいかもしれません。でも基本、「やれる人を増やす」ことをやりましょう。
👉 私は1年かけて作った多言語化は3年後に無くなってました。残念ですが、記録と記憶が残っているのでよしとします。
ユニバーサル日本語化
ユニバーサル日本語とは、私が勝手に考えた簡易日本語のネーミングです。作り方のノウハウがあるわけではなく、やさしい日本語より普通の人に最も伝わりやすいかなというものです。簡単に言うと「中学校の英語の授業でやった英語の直訳っぽい日本語」のことです。これは「Google翻訳でそこそこまともな英語に翻訳されそうな日本語」でもあります。多言語化するためにGoogle翻訳を使うので、こっちでやってみます。
翻訳サービスはいろいろありますが、DeepLなど英語訳しかないものはダメです。多言語訳対応となると、Google翻訳がいいと思います。
会則など基本文書の翻訳
自治会の会則はだいたい同じです。雛形を使って作ったものばかりです。
自治会 会則 雛形 – Google 検索 で検索してみてください。
ここにあるような文言を
第24条 会が自治会活動を推進するために必要とする、個人情報の取得、利用、提供及び管理については、利用目的の範囲内で適切に運用するものとする。
みたいなものを
第24条 個人情報は必要なことだけに使います。
などとバッサリ、翻訳されそうな日本語に変えてしまいます。やさしい日本語と違うのは、名詞単位で少々難しい語はOKというところです。「個人情報」は「あなたの個人的な情報」などとしなくても、そのままのほうがむしろわかりやすく翻訳されます。
ちなみにGoogle翻訳だと
英語
We use personal information only for what we need.
となります。ポイントは日本語から多言語化するのではなく、英語から多言語化するということです。このほうが正確に翻訳されます。英語が少々得意な人は、この英語をちょっと修正してみてください。自動翻訳は主語が「I」になりがちですが、これは「We」にしたほうがいいと思います。
英語版ができたら、それを多言語化します。
ミャンマー語をクリックするだけで即
ကျွန်ုပ်တို့သည်ကိုယ်ရေးကိုယ်တာအချက်အလက်များကိုကျွန်ုပ်တို့လိုအပ်သောအရာအတွက်သာအသုံးပြုသည်။
とでます。これをコピペして、必要な言語分だけ作ります。住民に中国語、ベトナム語が母語の人がいたら作る。簡単なので、ついでにポルトガル語とかフランス語なども作っておいてもいいと思います。+1言語の手間は10分くらいですから。
大事なことは日本語版に「多言語化された文書があるが、あくまで参考で、日本語版の記述をベースにする」という文言を付け加えることです。Google翻訳ですから、正確性は保証されませんから。
会則以外の文書
会則の他に防災関連の文書も多言語化してみてください。1年あるのでできると思います。防災関連は文書がない場合、検索して防災マニュアルなどの文書をダウンロードして配布してもいいと思います。1部は事務所キープでコピーを配布です。検索すればかなり多言語化された文書があるはずです。
これら多言語化した基本文書は、重要文書です。蛇腹式のファイルケースなどに言語別にタイトルをつけて保存します。2部づつ作り、1部は保管用、もう一部はコピー用で分けます。
会議の報告の翻訳
会則のようにカタい文章ではないので、ユニバーサル日本語化は簡単なようですが、実はこっちのほうが大変なこともあります。重要なことは伝わるように、細かいことはあまり気にせず、バッサリと単文にしてみてください。
箇条書きも多いです。箇条書きは、Google翻訳では主語が「I」になって補完されることが多いようです。
2022年の追記
今は翻訳は、DeepLのほうがよさそうです。ただ、DeepLはアジア系の言語が中国語と日本語くらいしかないので、まずはDeepLで英語にして、その英語をGoogle翻訳で多言語化するのが正解という気がします。
まとめ
基本文書と防災関連の多言語化は、慣れていれば10時間もあればできますが、のんびり半年くらいでやってください。
会議などのお知らせはだいたい月一くらいだと思います。これもユニバーサル日本語化は慣れれば1時間。多言語化も1言語につき+10分でできます。
防災関連
自治体は今防災関連のことが多いです。AEDの使い方などのイベントがあったり、非難訓練などがあります。防災関連の文書は、すべに多言語化されたものが多数あるので、それへのリンク集をGoogleドキュメントで作り、PDFなどはダウンロードして後述する自治会のドライブのトップに近いところに「防災(多言語)」などというフォルダを作って、そこにストックします。
AEDや非難訓練は動画で撮っておいて、できれば短めに編集して同様にアーカイブにストックしたほうがいいと思います。動画なら多言語補助がなくても、ある程度わかりますし、いつか時間があれば、多言語で字幕を入れられます。
👉 自治会文書の翻訳は、市などに頼めばやってくれるかもしれません。国際交流協会などにアドバイスを頼むのも有効です。
おまけ 自治会のデジタル化
これもやったほうがいいと思います。なぜなら文書をデジタル化して、掲示すれば、テキストデータで文書を配布でき、各自、自分で自動翻訳を使ったり、読書障害のアプリや拡張機能を使うことができ、アクセシビリティがあがるからです。
基本的なやり方だけ書きます。
- Googleアカウントを作る
- Google Driveで「掲示用」「内部用」「保存用」のディレクトリを作る。
- まず、自治体の文書を整理してデジタル化し、保存用に放り込む。
- 保存用から今と今後必要になりそうな文書を「内部用」に(コピーを)置く。(保存用はバックアップのための保存だけで)
- 内部用は年別に分け、その孫フォルダの分け方は「イベント」「経理」など自由に。
- 掲示用はまずトップページ(Googledoc)を作り、そこに基本文書と「今月の報告」の文書へのリンクを置く。
- 掲示用フォルダのURLを取得し、短縮URLにし、QRコードを作る。その短縮URLとQRコードを自治会のホームページにする。
- ホームページからのリンクは掲示用フォルダ内だけにする
gmailは、自治会のメアドとして使えますが公開はせず、自治会内部用でいいと思います。例えば、ツイッターやLINEなどのアカウントを作る際のメアドとして使います。「自治体の文書を整理してデジタル化」は紙は諦める。今は過去10年分くらいはワードなどで作っているはずなので、それを集めてやります。手順は
- 年代順に分ける
- かぶっている文書(多いはず)を整理してひとつに統合。他は捨てる。
これだけですが、結構大変なので1年かけてやってみてください。自治会のパソコンだけでなく、歴代の会長や書記の個人のパソコンに文書が残っている可能性もあります。これを、期限を設けて、すべて提出させてください。「個人情報を個人のパソコンで管理し残っていると流出した際に責任を問われます」などと脅してもいいと思います。でないといつまでも個人のパソコンに個人情報が残ります。実際にこれを宗教とかセールスで悪用する人がいます。
GoogleDriveで作った文書や保存した文書は、一般公開を掲示用のフォルダに限っていれば、URLは、google等の検索対象にならないので、セキュリティは大丈夫です。
内部用のアクセス規定を作る
掲示用は会員はアクセスできます。保存用は歴代会長と書記のみがアクセスできる、内部用も保存用に準じる形でいいと思います。つまり少なくとも書記は、GoogleDriveが使えないとダメということになります。デジタル化をやるなら、このマニュアルをしっかり作る必要があります。「仕事でofficeは少し使うけどネットは詳しくない」を対象にクラウドとは何か?から説明する必要があります。これは無理ならデジタル化はやめたほうがいいかもしれません。
バックアップ
GoogleDriveは、メールや写真をあまり使わないはずなので15GB近く使えるはずです。自治体の文書はほぼテキストなので10年分でもせいぜい2GBです。GoogleDriveをまとめてダウンローードして、それを一年に一度、外付けSSDなどに保存します。外付けSSDは1万円くらいで、大事に使えば10年持ちます。外付けHDDは5年でダメになり、USBメモリは無くしやすいし、DVDも10年持たないことがあります。
メリット
自治体の仕事の99%は、これまでにやったこと(イベントや掃除など)をやることです。つまり「去年どうやった」「これまでどうやったか」を調べて、今年もやるだけです。GoogleDriveで管理すれば検索すれば、これまでの文書が出てきますから早いです。今はフォルダ単位で検索できます。
ハードの問題
自治会にはたいてい古いパソコンとプリンターくらいはあります。2台あるけど、一方は使ってない、みたいなこともアルアルです。しかし、複数のパソコンがある場合は1台に絞ったほうがいいです。古い文書が残っていたりして流出するリスクがあります。パソコンはセキュリティのアップデートなど維持の手間がかかりますから、絞るべきです。ハードオフでいくらかになればラッキーです。
プリンターは運動会の時に使うくらいなら、コンビニで代替できますから、捨てても大丈夫です。インクの消費期限はだいたい1年です。
シュレッダーがない場合は、シュレッダーを買ったほうがいいと思います。個人情報保護はこれから重要になっていきます。紙の文書も可能なら仕分けして、重要なものはまとめて二穴ファイル数冊に保管。不要なものはシュレッダーです。実際に使うのは電子化した書類でOKです。
ネットの問題
今は、パソコンを使うのはネットに接続する必要がありますから、実は自治会のネット契約はマストですが、それを理解していない人は多いです。それを説明し、説得する必要があります。
しかし、自治会でネット契約をしているかどうかは、微妙らしいです。私のところは契約してましたが、マンションの管理室にモデムとルーターがあり、自治会の会議室にLANが来てないので5年間、使ってないのに月5000円払い続けてました。モデムもルーターも壊れてました。これはどうするか結論が出ず、結局そのままになりました。
一応、モデムはNTTに連絡し最新のものに交換(無料ですレンタルで月の費用に含まれているので)、ルーターは1万円以内で買えること、会議室にLANを繋げる方法がいくつかあること、見積もりをとって費用を出すところまではやりました。これまで、パソコン作業は担当者がノートを自宅に持ち帰り、自宅のネット回線でやっていたようです。
ネット契約をするなら、今なら、携帯回線でいいかもしれません。会長、副会長、書記で、スマホを使いこなせる人は一人くらいいるはずです。デジタル化で作ったメアドでLINEやツイッターのアカウントも作れます。ついでにLINEで自治会の連絡網…までは無理かもしれませんが、ネットの回線契約とは違って、電話番号も持てるので、防災用の連絡網の軸にはなると思います。自治会役員が自宅の番号などを提供する必要もなくなります。
モバイルと自宅固定を兼ねたタイプも出てきてます。5Gなら速度も十分です。通話などはイベントの時くらいしか使わないので基本料金だけでしょうから、月額は1万円以下です。携帯契約は安い機種なら2万くらいですが、3年くらいで買い換えになるし、予算的に渋る人が出てくるかもしれません。携帯契約は無理でもネット回線契約はなんとか説得してみてください。
多言語化とデジタル化
1年でやれば、どちらもなんとかできると思います。ただし、デジタル化のほうがマニュアル作りなど大変なので、まず多言語化をやってみて、やれそうだなと思ったらデジタル化も進めてみる、くらいでいいと思います。
2020年代は、省庁を軸にやさしい日本語化を推進することになりましたから、その予算は出るかもしれませんが、多言語化は難しいです。やさしい日本語は、やさしい日本語が理解できる学習が必要ですからすべての人はカバーできません。多言語化は必要な作業です。
地味な作業ですが、自治会(町内会)は、だいたい500世帯くらいですから、100人がやれば、5万人分多言語化されることになります。余裕があったらチャレンジしてみてください。
参考
多言語化の文書は「自治体 防災 多言語」などで検索すればたくさん出てきます。以下はその一部を集めた私どもの緊急用ページです。
Emergency information | WEB JAPANESE BOOKS
私どものYoutubeチャンネルの動画集です。多言語化、防災関連などの動画も集めています。
https://www.youtube.com/user/webjapanese/playlists
以下には、デジタル関係の解説や日本語関連の情報があります。
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