【過去記事】日本語学校の問題の整理

 

前提となる知識

日本語学校の問題が語られる時に、いろいろ前提となる知識があります。ちょっと長いですが、読んでみてください。

 

世界で日本語学習者は増えているのか?

増えてません。日本語学習熱はかなり前から、数も震災前から減っているというのが正しいのではと思います。
日本語能力試験の受験者数など数字的なピークは2009年。おそらく2005年あたりが天井だったのかなと思います。くわしいことは「日本語教育あれこれ」の最初に書きましたので省略します。
留学ビジネスもこのころから、就労目的の学生で補填する方向に舵を切ったのかなと思われます。

 

ビザの種類

 

留学ビザ

・留学といっても、大学や専門学校に通う人達だけではありません。日本語学校の学生も含みます。日本語学校というのは後述しますが、日本語を勉強するために入学して上達して、帰国するという人はほんの一部で、ほとんどは日本で大学や専門学校に進学するための予備校的な学校です。日本語学校は専門学校や大学への推薦枠もたくさん持っていて、それらの集客装置的な役割も担っています。2010年までは、日本語学校の学生のビザは「就学(しゅうがく)ビザ」で「就学生」と呼ばれ、留学ビザ、留学生とは区別されていました。よく話題になるバイトの時間の規定も留学生は週に28時間ですが、就学生は一日4時間でした。2010年に統合され、バイトは事実上28時間に拡張されました。
2004にできた全国日本語学校連合会をはじめとする日本語学校業界が28時間への拡大を求め、署名活動をはじめ、政府に強烈な陳情を繰り返し、ついに2010年の就留一本化で実現したという経緯があります。

 

・留学ビザの取得は高校卒業相当であったりと要件が厳しく、2016年現在、日本国内に20万人ぐらいいて、15万人は、専門学校と大学(とちょっと高校など)で、5万人が日本語学校の学生です。
・日本語学校では留学ビザでも最大2年3ヶ月までしか在籍できません。その後上位の学校(専門学校、大学)に進学すればその学校で在籍中は延長できますから合計で最大6年ちょっと滞在できることになります。
・留学ビザは週に28時間までしかバイトができません。バイトは風俗店などを除けば、日本の大学生がするようなものなら何でもできます。技能実習生に較べると格段にできる仕事の種類が多いです。
コンビニや外食チェーン、引っ越し屋などが一般的で、学校は紹介をするケースもあるようですが、つい最近までは、基本、自分で探すものでした。これが2010年代以降、国内の人手不足もあり、バイトの選択肢が拡大、技能実習生の職場でも働いているケースも増えてきたようです。技能実習生のビザでは仕事の斡旋で利益をあげるのは禁止ですが、留学生のビザはその規制がないので、ここで斡旋、仲介という新たな利益が生まれます。
・留学ビザの人は、世界中から来ます。大多数は東アジア(中韓台)が圧倒的多数ですがピークは過ぎて減少気味。ついでインドネシアとなり、ベトナム、ネパールなど東南アジアからの留学生も増えていて、東アジアから東南アジアにシフトしている最中といったところです。しかし、例えば、ネパールは2012年の国際交流基金の調査では学習者数は2748人なのに、同年日本に留学してる数は2451人。2015年には16250人になってたりして、なんだかよくわからないことになってます。ベトナムも学習者数と留学生数が同じくらい。(普通は留学生数は多くても学習者数の1割程度です)
・2017年から介護ビザというのができました。これはまず日本語学校に留学ビザで入り、その後介護福祉士の資格が取得できる専門学校や大学に進学し、資格を取得(今は卒業すれば取得ですが2022年に資格試験合格がマストに)、その後5年間働ける(延長可)というものです。資格取得までは留学ビザですし、このルートで大量の人が来るのではと言われています。

 

技能実習生のビザ

技能実習生のビザは、2016年末の時点でおおよそ20万人。今後、不足していると言われる介護の人材の補填(30万人近く必要と言われている)でもこのビザが使われることになったので、これだけで今後、早いペースで十万人単位で増えそうです。政府は人手不足の職種は、このビザの枠組みでやる意志は強く、対象の職種はどんどん広がっています。ビザもどんどんおりるてるらしいです。オリンピック関連で需要が一時的にピークを迎えた後も着実に増えると思います。
・技能実習生のビザを取得して日本に来る人達は、まず中国、そしてベトナム、東南アジアです。他の地域はほとんどありません。日本語学校の学生募集の地域とマルかぶりです。国はやはり多数なのですが、こちらも東南アジア重視に傾きつつあるというところです。
・技能実習生で問題となるのは、残業が多く、規定どおり残業代が支払われていなかった。時給が最低賃金以下だった、という、労働基準法違反がらみの件がほとんどです。国内でも斡旋で利益をあげることは禁じられていますので、斡旋仲介よりも職場環境関連の問題が多いというわけです。
・技能実習生のビザの場合、留学ビザと違って、送り出し国の団体から日本に入国し仕事に就くまで基本、国のコントロール下にあります。決められたところで働き転職も本人の意志では簡単にはできません。このへんは自由になると混乱しそうなところなので、やむを得ないところかもしれません。
👉 留学ビザと技能実習生のビザ。両者のビザは対象国が同じ東南アジアで入口が同じこともあり、最近は、とりあえず日本に行く、行く方法はどっちか都合がいいほう、ということになっており、学生集めも技能実習生の人集めも同じ窓口、同じエージェント、ということが増えているようです。日本語学校で起きる問題は、これが影響しています。学校が就労の隠れ蓑になっているという傾向はバイト時間の制限が今より厳しかった(一日4時間でした)90年代の比ではなく、今後も拡大していくと思われます。留学ビザは、ルール内でも週28時間働けて、技能実習生のように職種の制限がなく、送り出し国からの日本政府の監視もない、斡旋も禁止じゃない、という、いろいろとオイシイルート、というわけです。

 

日本語学校とは

 

そもそも

・そもそも日本語学校は日本にいくつあるのか?は、ハッキリしています。法務省に留学ビザで学生をとっていいよという認可を受けた(正式には「告示を受けた」)日本語教育機関(という呼び方です)は、ここのPDFに掲載されている学校のことです。
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyukan_nyukanho_ho28-2.html
しかし、全学校のリストがあるのはここだけです。
ネット上で日本語学校の公開すべき情報を出しているところなかったのですが、2017年に文科省が出しました。
日本語教育機関における外国人留学生への教育の実施状況の公表について
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ryugaku/1382482.htm
現在、すべてがあるわけではないようですが、実際に稼働している学校はほとんど入っていると思います。法務省のリストにあっても実際は募集をしてない学校はけっこうあるので。
後は、日本語学校の業界団体のサイト(日本語教育振興協会全国日本語学校連合会)に加盟校のリストがあるだけ。ただし、業界団体に所属していない学校も増えているので、すべては揃いません。
・留学ビザでも直で大学に行く人達と一旦日本語学校を経由(勉強)して専門学校や大学に進学する人達がいます。日本語学校というのは、最初に書いたように、上の学校に進学するために予備校として通っている人がほとんどです。大学、専門学校への推薦枠があり、また大学や専門学校と同じ学校法人が経営しているとか同じグループ企業だとかというケースもあります。
・日本語学校に入るためには留学ビザが必要です。日本語学校では最大2年3ヶ月まで滞在できます。日本語学校は1年760時間以上授業をしなければならないことになっているので、最低でも1710時間勉強します。通常基礎的なことの学習が終わるのが300時間、+200時間で基礎修了、その後は、人によって1年で上級まで行き大学に合格する人もいれば、2年かかる人もいます。そして、2年でも中級をウロウロしている人などがいて、大学じゃなく専門学校に進学する人のほうが圧倒的に多いです。
・日本語学校の授業は平均一日4時間で、9時にスタート、昼前後には終わるか、午後15時くらいまで時間割があってトータルで4時間くらい勉強したら終わり、というのが一般的です。入学金が10万くらい。授業料が1年で60ー70万、施設費、教材費、選考料など雑費が10万くらいで他の国内の民間のスクールとたいして変わりません(従って、よく言われる「学生が貧しい国から来るから日本語学校の経営は厳しい」という話はダウトです。安定的な学生の確保が難しいという側面はありますが、それは日本語学校に限らないことですし)。
・日本語学校の数は、1990年代から現在まで、だいたい300~400くらいの間で増減していました。2010年代に500校ペースになり、今は600校超です。しかし稼働しているのは450校ぐらいではないかと言われてます。今のところは年間数十校のペースで増え続けていると言われていますが、2017年に摘発も増え、どうなるかわかりません。
・日本語学校で問題になるのは規定の28時間以上働いていたという留学ビザ特有のルール違反での不法就労の件です。
ただし、従来は不真面目な学生の仕業、ということでしたが、昨今は、組織的な、時に日本語学校も大きく関与した形での就労目的の留学ビザの取得が問題になっています。バイト紹介ありきで募集し、学費の返済計画を作り、提携先や同グループの国内の斡旋仲介会社を通して働き先を紹介する、という新しいビジネスモデルです。
日本語学校に来るようなほとんどの学生にとってアルバイトは、まだ必要であり、アジアはまだ日本との為替格差も大きく、向学心に燃えた学生の救済措置、という側面も大きいのですが、そういうイメージを隠れ蓑にした犯罪でもあります。
👉 後で出てきますが、ネット上で確認できる日本語学校のデータを整理してまとめました。2016年以降の新設校はありませんが、稼働している学校はほぼ網羅していると思います。
https://goo.gl/nDT4il

 

日本語を教えることはサイドビジネス?

一般の人のイメージは「あまり儲からないのに、日本語を勉強したい人に日本語を教えるという仕事をしている業界」だと思いますが、実は、ほとんどの日本語学校は21世紀に入って「外国人に日本語を教えて利益を得ているところ」ではなくなりつつあります。90年代はまだ教育業界だったのですが、2000年を境に資格業界的要素が大きくなり、2010年以降、人材派遣業へと変貌しています。
報道などでは「一部の悪質な日本語学校」という言葉をみますが、私の感覚では「良質な日本語学校が一部」です。非常勤が7割をこえ、専任の待遇もひどく離職率が極端に高い。国のガイドラインもほとんど守らない。。。
日本語学校の経営母体は個人も学校法人もあるのですが、2000年以降は日本語を教えることでの利益に加えて、日本語教師養成講座による利益が重要な位置を占めるようになったはずです。国内の日本語教師養成コースは100以上あり、受講者数はここ数年平均4000人前後です。
http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/nihongokyoiku_jittai/
留学生に対する日本語の授業は1年で760時間以上という規定があり、学費は1年で約60万円です。学生募集は不安定でコストがかかる。ビザ、住居、バイトの世話、進学の世話がありますが、日本語教師養成講座は規定の時間(420時間)で学費は50~60万でも国内のネット広告だけで学生は集まります。教室など必要なものはすでに所有しています。しかも日本語教師養成講座には講師の規定などはなく、自分の学校の講師を流用できます(2,3年目の教師が講師になった例をよく見ます。日本語教師の給料の補填的な意味あいもあるようです)。決められたカリキュラムを守っていることにすれば3ヶ月コースも設定できますし何でもありです。実は、日本語教師の資格は国内の日本語学校業界の民間資格なので、海外での就職では参考程度、取得しても国内の日本語学校でしか通用せず生活はかなり厳しいのですが、海外で活躍できるかもと多少は若者は集まり、リタイア後のボランティアでと高齢者がドーンと集まります。
👉 検定試験の主催者であるJEESの2016年の年齢比のデータの画像です。かなり高齢化してます。これは年齢比ではなく資格取得時の年齢なので、教師が高齢化したのではなく、高齢の新人教師が増えて高齢化したということです。仕事としての日本語教師は滅びつつあります。

👉 2016年現在日本語教師は人手不足と言われていますが、実態は、需給のバランスがおかしく、必要な日本語教師の数に対して10倍超の日本語教師の有資格者が作られています。しかし大学の日本語教育学科で資格をとっても、仕事としては将来がないので、ほとんど一般企業に就職してしまうし、日本語教師に未来がないと非常勤講師になって3~5年でやめる人がとても多いだけなのです。使い捨ての教師を日本語教師養成講座で大量に作る、という構造を持った資格業界でもあります。
詳しくは、こちらを → 日本語教師養成講座の問題 http://webjapanese.com/blog/j/nihongokyooikuarekore/#i-21

しかし、ここまでは、それでも日本語教育関連ビジネスでしたし、「教えること」がメインでもありました。
2004年ごろから、日本での就労を前提した学生募集は事実上、入管もみとめていたようです。


この時点(2004年)では、雇用予定の証明など出す人はいないという状況だったようですが、すでに新聞社では配達員の仕事をする前提での奨学生は海外でありましたし、外食チェーンでもあります。つまり、日本での返済が確実ならばOKという流れがスタートしたのが2004年ごろで、その後、人手不足もあり、雇用証明を出すところはいくらでもある、という状況になった。雇用前提の返済計画もスムーズに通る見通しができた。可能な企業との提携やグループ会社化に繋がっていくということではないかと思われます。
👉 つまり入管がこの流れを作ったということもあり、なかなかストップがかけられなくなっている、ということもあるように思います。
👉 画像部分だけ念のため。

2010年代に少子化に苦しむ塾や予備校チェーンなど他業種の参入が始まりました。同時に、地方の土木、建築、農業などの会社と提携した、あるいは、そういう企業体が作った日本語学校、が増えました。日本語学校のサイトに行くと、About usに堂々とそういう企業が名前を連ねます。地方自治体が日本語学校を誘致するケースは2016年増えました。
つまり、国内の人手不足と外国人技能実習生の拡大にともなって状況が大きく変わりました。日本語学校は、国内のバイトの斡旋での利益を取り込むようになりました。人材派遣業界的要素も入ってきたというわけです。
経営母体の規模が大きくなったことで、それまで現地のブローカー頼みだった学生募集を直接やれるようになりました。現地での生徒集めから日本でのアルバイト先の斡旋までカバーできるようになったことで、国内の人材斡旋と学生募集が結びついたということのようです。
もちろん、従来の伝統校や小規模の学校も直接現地での学生募集と国内のバイトの斡旋はしなくても、その種の会社と提携することで、決められた提携先で仕事をすることでの学費返済計画ありきの、パッケージビジネスに参入することができます。新規の学校だけでなく、昔からある日本語学校も派遣業的な学校へと変貌していっているようです。もう現地では派遣ありきの大手の学生募集の力が圧倒的で、根こそぎさらっていくみたいな声も聞こえてきます。

 

法務省の新基準

2016年に法務省から示された日本語学校が守るべきとされる基準です。これに加え、他にも2017年に日本語教師養成講座は文化庁に提出が義務化され、文科省では日本語学校の届け出データのウェブ公開が始まる予定です。2016年~2017年にかけて、日本語学校周辺は、この新基準でより省庁管理という側面が強くなりました。

日本語教育機関の告示基準

日本語教育機関の告示基準解釈指針
厳しくなりました。違反した場合は認可を取り消すということになりました。
設置者(実質的な経営者)の条件が入管法違反がらみの犯罪に関わったら刑が終わってから5年間経営には携われないとか、校舎は賃貸でよかったものが、原則自己所有の物件じゃないとダメみたいなことになり、定員数に応じた専任教師を雇わなければならない(定員の学生数40人に一人。定員数なので定員充足率が低い学校にとってハード)となりました。また、失踪などで学生数が一定数を割ると認可取り消しとなることになりました。
2016年は、日本語学校がパスポートを取り上げたという報道が増えましたが、これは90年代にやはり不法就労が起きた際に問題となり(パスポートを取り上げることは、出国の権利を奪い、その国での身分保障ができなくなるので、国際的にも人権侵害だとされる。日本語学校の「基準」にも確認以上のことをしてはいけないという規定がある)減っていたものが、失踪に関するルールが厳しくなったことで復活してきている、ということだと思われます。
以前のものからの変更点はこちらのサイトに詳しいです。
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri07_00044.html
出席管理のルールに関して言えば、一ヶ月の出席率が8割を切った学生には指導しなければならず、5割を切ったらその時点で入管に報告する。ことになってます。職員で生活指導的な立場の人間を作る方向でもあるようです。また「いずれかの1年間に入学した者の半数以上が,在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間を経過して本邦に在留するに至ったとき。」とあります。半数が失踪して帰国せずに日本に不法残留となったら認可取り消し、というわけです。定員の半数ではなく一年間に入学した者の半数であることも重要です。新規の学校は100人以上で申請できず、順調に学生が増えないと定員の増員はできませんから、定員100人として、入学者数は50-70人くらいが普通ですから、25人でアウトになるというところが結構あるわけです。もし入学者が20人くらいだったら、もう10人でアウトです。
👉 日本語学校の業界は、これまで長年ほぼ何もしてこなかったという印象しかありません。業界内で競争があるでもなく(学費はなぜか一律で同じ、使う教科書(70年代に経産省が作った教科書)も教え方も20年以上、ほぼすべての学校が同じ、法務省経由で作られた業界の規定も守らなくても罰則はなし、で、校舎などの規制を緩和しろと言うばかり)不安定な学生募集の補填のため、資格ビジネス、派遣ビジネスにただ浸食されていくだけでした。国の管理&監視が強化されたのは歓迎すべきことで、業界には自浄能力がまったくないのは明らかなので仕方ないと思います。2016年も業界団体の加盟校の不祥事が続きましたが、コメントひとつ出しませんでした。
👉 入学者の半数が失踪で認可取り消し、は日本語学校にとって脅威で、パスポートの取り上げなどが増えているようです。ベンチャー系のIT得意なところはスマホに追跡アプリを仕込んでいるかもしれません。こういう人権侵害は、業界団体や人権団体なりが規制をかけ、監視しないと断ち切れないという側面があります。日本語教育業界は長年、パスポート取り上げに関しても指導はしても罰則はないし、一般的なイメージ(国際的な…とか)とは違います。

 

自治体の人手不足と補助金と

「人材派遣系」の会社が日本語教育を介して地方自治体と提携するパターンも増えています。産学連携、Win-Winと新聞でも好意的に扱われています。広告代理店でも、地方自治体と外国人人材、日本語教育との連携みたいなことをサポートするところもでてきました。2015年前後から、ある種のトレンドになりつつあります。(リンク先は記事にではなく記録アーカイブです。新聞記事のリンクはすぐ消えるので)
奥多摩町 廃校を日本語学校に 定住化促進 /東京
https://archive.is/1B62N
出稼ぎ留学生(3)過疎の島に日本語学校 西日本新聞
https://archive.is/jOkzF
「日本語学校を誘致」函館商議所の久保新会頭
https://archive.is/XdRBT
奥多摩は、JellyFishというところ。奄美大島はカケハシインターナショナルというところで、いずれも新しい人材派遣系ベンチャーで、最近、日本語教育にも関わるようになったようです。
佐賀の学校はヒューマンアカデミーという資格業界の大手で、日本語教育業界の最大手でもあります。日本語学校も運営していますが、業界では圧倒的に日本語教師養成講座のほうが有名です。養成講座のところ、日本語学校の周辺(資格関連)のビジネスを得意とするところ、という印象です。
JellyFishは、2015年から栃木国際教育学院という日本語学校を経営していて、そこには「インターンコース」なるものがあり、週20時間無給で提携している飲食店で掃除をしたり料理補助をして「日本のビジネスマナー、就労習慣、日本のおもてなしを学ぶ」とのこと(法的にどういう仕組みでやっているのかわかりませんが…)。また、合宿免許的な日本語教師養成講座をやっています(講師など内容はどうなのか全然わかりませんが…)。
函館の記事は、有料部分でこう続きます。

🗨 
 「来年は格安航空会社(LCC)のバニラ・エアの函館就航も増え、開業効果は加速するとみている。ただ、ホテルの宿泊能力が不足しており、客を逃している。リネンやベッドメーキングなど宿泊に伴う仕事をする人材が不足している」
 「外国人留学生が学ぶ日本語学校を函館に誘致する計画を進めている。地域内の観光施設では、東南アジアを中心に増加する訪日客に対応できる人材の不足が深刻だ。アルバイトを希望する日本語学校の留学生には観光施設を紹介する仕組みもつくる。留学生と地元企業の双方にメリットがあり、将来的には留学生が函館で就職することも期待できる」

格安航空会社の便数が増えるので観光客相手の人手が不足する。だから日本語学校を作る、という話です。格安航空会社の便数なんて年単位であっさりカットになったりするんですが。
記事をみるかぎりでは、自治体の規模にもよるでしょうけど、日本語学校に結構な額の補助金を出すようです。これらの人材派遣系の日本語学校は教育そのものにはあまり投資しないので、教師の待遇はあまりよくないようですから、教師の人件費の半額も出してくれて校舎や寮を提供してくれるなら、日本語学校でやっかいな初期コスト(都心では億単位かかる)もかなり軽減できますし、人件費がほとんどのランニングコストも半額なら、かなり効率のいいビジネスです。
👉 例えばヒューマンアカデミーが経営する学校は専任講師の比率が3割前後でかなり少なく、規定ギリギリのラインです。教育の質への投資は少ない「非常勤でまわす日本語学校」と言ってもいいと思います。他のところは日本語学校の業界団体に所属しておらず、データ非公開です。
日本語教育機関一覧
https://goo.gl/nDT4il

なにより、会社として、学生集めに自治体のお墨付きの留学先というひとつ選択肢が加わることで、かなり学生集めに有利になるという側面があるはずです。技能実習生枠と違って、留学ビザ枠は、バイトの種類がほとんど問われないので、寮費や生活費も安いということなら、募集時の強力なメリットですし、自治体提携というお墨付きはアジア現地での営業で大きなブランドになります。これらの会社は、一度に現地で大量の学生を集めて、日本国内の自社グループや提携先に振り分けるということをやっているところもあるので、ますます学生の獲得数が増え、拡大していくことになるのではないでしょうか。
一方、過疎地では、定員が増えていけば人手不足も解消されるし、そこで進学、就職してくれれば、という期待もあるようですが、日本に来て、都心に旅行もするでしょうし、過疎地で就職するでしょうか。。。在学中の2年間のバイト以上の効果は厳しいかもしれません。今は留学生は、ほとんどの場合、帰国しますし。。。
問題は日本語学校というのは、あくまで大学や専門学校に進学するための予備校的存在であることです。一般の人は留学生なんだからバイトしながら大学に通ってるんだろうと捉えているようですが、実際は、バイトで返済することを前提に予備校に入学させ、予備校生に一4時間働かせている、ということです。こういう形での人手不足解消に地方自治体が助成するのは疑問です。地方の人手不足は技能実習生など、枠組みがしっかりした就労前提のビザで補填すべきではないでしょうか?
そして、自治体が支援をするなら、バイトの分、奨学金でサポートし、少なくとも大学に進学するまでは勉強に集中してもらう、というのが筋なのでは
例えば、奄美の例でいうと、週16時間バイトをしているなら月で約60時間。仮に時給900円で54000円なので、27人なら月約145万円。1年で1740万。奄美市の年間予算は約300億ですから、1740万くらいは出せそうです。ホントに留学生を支援したいのなら。奨学金を出し、不足している人手は就労のビザで来る人達で補填すればいいはずです。
技能実習生枠には制限があるので、留学生枠を使う、というようなスキマ利用を、留学生支援という建前で地方自治体みずからやっていて、それに日本語教育業界が便乗しているだけなのでは?という気がします(後述しますが、就労ありきのローンはたとえ自治体がやろうと、違法性が疑われるケースがあるのです)
しかし、疲弊している地方では、日本語学校誘致は、人手不足解消の策として歓迎されているようです。今のところはじまったばかりで不法就労の話も出ていません。学校作ったらとりあえず100人くらいは週28時間働いてくれるんだろう、くらいのことで話が進み、そういう話(「「土地は余ってるでしょうから提供してくれ、人材の手当ても保証できるし、学費返済があるので、辞められない。ゆくゆくは現地で就職したり生活したりで町が活性化しますよ」みたいな)を持って行く、コンサルや派遣会社系の日本語学校があるということだと思います。私は関わっているところのほとんどが日本語教育に熱心とは言い難いところなのが気になってます(現地でも共生、留学生支援というのは一部で、本音では人手不足解消と消費が+になればOKというような人がほとんどなのでは)。
👉 自治体のプロジェクトに関わる人達は、例えば自分の子供を、海外で人手不足解消のために過疎地に作った学校にバイトやらなければならない条件で留学させるでしょうか?子供は行きたがるでしょうか?
👉 児童の日本語教育など地方で大学や日本語学校との連携を模索している動きは以前からあります。しかし人手不足解消と留学ビザでの学生集めはそこには入ってこなかった。従来のものとは区別する必要があると思います。

 

就労ありきの返済計画の違法性

学校の費用をローンで支払うというのは、奨学金という名目で結構悪質なことが行われたりしています。奨学金という名前でなくても、ローンの返済が就労が前提である場合は違法性が増し、さらに特定の就労先での勤務でなけれならない、と就労先が固定されると、違法性は高くなります。
よって、奨学金にはかなりいろいろな規制があり、リスクがあります。就労とセットのものは、ほぼ日本ではありません。新聞奨学生も、違法性が指摘されたりしています。
日本語学校の留学生がらみのローンは、2010年以降、従来の現地で借金をして、日本でアルバイトをして返済する、という形ではなく、日本語学校がバイト先とグループ会社を作り、そこでの就労を前提に学費の返済計画(ローン)を組み、学生を募集する、というタイプがあるようです。今は、技能実習生が働くような場所やそれ以外でも人手不足ですから、斡旋仲介ができる留学ビザ(技能実習生は斡旋で利益をあげるのは禁止)の学生はターゲットになっています。
二国間にまたがっているので、ハッキリみえませんが、日本国内ではアウトなので、いろいろと工夫がされているようです。日本語教育業界は、そういうものと縁を切る(直接利益を得ることはなくても紹介料を払って委託するだけでも違法性を問われる可能性大です)決断をしないとかなりまずいはずです。
就労前提のローンは憲法の「職業選択の自由」があるかどうかを、裁判で時間をかけて争うようなことになってしまいます。しかし最初から明確に法律にひっかかるのであれば、即アウトです。悪質なローンも奨学金もそのギリギリのところでやっている様子がうかがえますが、まず訴えられたら契約は紙切れみたいなことがほとんどだと思います。訴えられないだろうという見込みで行われている。

 

これだけ労働基準法にひっかかる

労働基準法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO049.html
まず、17条があります。
 使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。
これで、ほぼ学費のローンと就労契約のセットはアウトになるはずです。日本にこの種のローンがない理由もこれです。ただ「奨学金」という名目ならやれると考える人はいるようですが、名前だけ変えても、同じです。これがなぜか留学生相手だとOKになっているのは不思議です。これらは訴訟があって、はじめて契約が無効になるので、訴訟ができない留学生という立場を利用した悪質なスキマビジネスだと考えることができます。少なくとも日本語教育関係者が関与すべき領域ではないと思います。
3条
使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。

賃金格差があった場合、これにふれます。2017年以降、特に外国人相手の賃金は厳しく監視される方向です。
5条 (強制労働の禁止)
使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。

ローンと学費が結びつくと、まずこれがひっかかります。後述しますが、暴力的な、ということがなくても、高額の返済計画があれば「労働者の就労を強制する経済的足止め策の一種」と判断される判例がありました。
14条 労働契約は3年を越えてはいけない。(2003年の改正で1年から3年に)
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000036407.pdf
日本語学校での滞在上限は2年3カ月ですが、専門学校とセットになっているような場合、3年を越えての就労前提でのローンが組まれる可能性があります。
15条  使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。
奨学金名目でも、ローン返済が就労前提になっている場合、あらかじめ賃金、労働時間が明示されていなかったらアウトです。別になっていても、労働契約がなかったらアウト。これは今後、時給が最低賃金だったりした場合、3条の違反となる可能性があるので、最初はうやむやにするケースがあると思います。
16条は、「賠償予定の禁止」
留学生の場合、進学できないとか、仕送りが途絶えたとか病気だとかで、帰国せざるを得ないということはよくあります。その場合、就労前提のローンでは「全額返金」となっている場合がありますが、これに違約金、損害賠償金をかしてはいけない、ということです。
👉 この履行できなかった場合の「全額返金」は国内では(ケースバイケースですが)認められることもあります。が、留学生の場合、途中で解約となった場合、全額を帰国後に支払うことになります。日本語学校の学費2年分なら約150万円、例えばベトナムなら平均年収は30万円ですから、賃金格差はだいたい13倍、1950万円相当の借金を背負うことになります。
18条  使用者は、労働契約に附随して貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契約をしてはならない。
これも留学生に無駄遣いをさせないために「貯蓄は日本の文化」などと言って強制するところがあるようです。で貯蓄だからと天引きすると、、、
24条  賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。
これはいわゆる天引きはダメということです。全額でなければならない。例外は社会保険などです。貯蓄だと言って天引きした分を経営者が理屈をつけて使うケースも多いです。ケガした際の治療費とか。

お礼奉公と留学生ローンは似ている
お礼奉公とは、医療関係で行われている奨学金制度(のようなもの?)で、病院からお金を借り看護学校などの費用にあてる、国家試験に合格した後、一定期間その病院に看護師として勤務すれば、返済が免除になるという制度があります。おそらくEPAの下敷きになったと思われます。しかし、就労とパッケージでのローンは違法性が高い、そこで「一定期間勤務する」のをあくまで紳士協定で「お礼奉公」と呼ぶということのようです。就労と学費のローンのパッケージという点で人材派遣系の日本語学校の留学生ローンと似ています。
参考サイト
お礼奉公契約は有効ですか/弁護士河原崎法律事務所
http://ow.ly/6z5r307zlNU
いわゆる看護師の奨学金制度のお礼奉公に関する判例が載っています。就労をもって奨学金ローンを組むという意味では今の留学生ローンと形態が似ており、参考になるはずです。
この中で注目すべき判例があります。

2002年11月1日大阪地裁判決:
修学資金などの返還または免除の合意契約は,その条項の形式的な規定の仕方からのみ判断するのではなく,貸与契約の目的・趣旨などから,当該契約が,本来本人が負担すべき費用を使用者が貸与し,一定期間勤務すればその返還債務を免除するというものであれば労基法16条に違反しないが,使用者がその業務に関し,技能者養成の一環として使用者の費用で修学させ,修学後に労働者を自分のところで確保するために一定期間の勤務を約束させるものであれば,労基法16条に違反する
看護学校への入学につき,入学金,授業料,施設設備費などを貸し付ける「看護婦等修学資金貸与契約」,およびその契約に対する連帯保証契約が,労働者の就労を強制する経済的足止め策の一種であるとして,労基法14条および16条の禁止規定に違反するとされ,看護学校退学者らに対する賃金返還請求が棄却された

👉 判例の詳細はこちら
https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/08026.html

つまり、就労が人手不足など雇用者の都合で行われたことは労基法の16条違反と判断され、さらに、奨学金の範囲内であっても、経済的足止めとなるような額であれば、14条違反となる、とされたというケースです。
これは外国人留学生の奨学金、返済ローンにあてはまるケースが多いはずです。留学生の場合、日本語学校の1年分の学費100万円以下であっても、日本で働いて返すことができない以上、賃金格差を加味すると、東南アジアのどこの国であっても10倍にはなりますから、1000万円です。これは、契約形態そのものが労働者の就労を強制する経済的足止め策の一種となる可能性があると言えるのではと思います。裁判になれば、就労先と学費ローンの債権者の関係が少しでも証明されれば、アウトなのではと思います。また、そのことを知りつつ学生集めを委託した日本語学校も違法性を問われる可能性があります。
これまで、労基法での問題となっていないのは、留学生が訴訟を起こしていない、訴訟をおこす費用も時間もない、からだと思われます。日本語学校は法務省管轄下ですが、主に入管方面なので、労基法との問題などはあまり考えられていないのでは、という気がします。しかし、今後は、技能実習生の監視をするという新しい機構に入管の人が入るとのことですし、日本語学校と就労の問題は注目されると思います。

 

逮捕されても罪は軽い

しかしながら、不法就労を助けたという不法就労助長罪、ほうじょ、は、初犯なら逮捕されても懲役1年に執行猶予がつくのが相場です。年間数千万稼げるなら、やってもいいという人達は国内にたくさんいるはず。日本語学校でも法務省の基準で5年設置者になれないだけです。業界団体には倫理規定のようなものはなく、おそらく5年で復帰すれば、黙認されるはずです。

 

国や日本語学校の業界団体に管理は可能?

 

2015年以降の情勢

個々の日本語学校にバイトの時間のチェックを期待するのはほぼ無理だと思います。そもそもこれまで不祥事があった日本語学校はほぼすべて入管の捜査で明らかになったもので、日本語学校からの通報とか日本語学校の業界団体のガイドライン違反から発覚みたいなことはなかったと思います。2016年、不祥事が報道された際にいろんなところで「一度法務省に認可されたらチェックはない」と書かれてましたが、日本語教育振興協会というところは、3年に一度審査をしています。書類上のチェックと訪問と面接があります。ただしすべての日本語学校が加盟しているわけではありませんし、チェックも形式的なもので機能してないことは明らかですが。
また、おかしな動きが増えてきたのは2012年以降です。留学生がドンと増えたのは2013年。そのころから内々に検討が始まったのかもしれませんが、2015年あたりから法務省、文化庁、文科省に、具体的な動きが見えてきました。最初に書きましたが、形式上日本語学校を管理監督する責任省庁の法務省は、20年くらいあったガイドラインを2016年に新しくした「新基準」を出し認可の取り消しもあるというルールにし、管理強化することになりました。文化庁は日本語学校の日本語教師養成講座の管理をはじめることになり、文科省は法務省と連携して日本語学校の情報公開を進めることにしたようです。
今は、省庁主導でいろいろ進んでいます。一部に「事業仕分けで日本語学校の業界団体の自主的な管理権限をとりあげて法務省に戻したから問題が起きた」と言われているようですが、この「日本語学校の業界団体」は日本語教育振興協会だと思いますが、事業仕分け以前に、業界団体が実効性が期待できる何かをしたという記憶はまったくありません。省庁主導でいいのかは、わかりません。本来なら業界団体が自主的にやれるならそれがいいとは思うのですが、日本語教育業界に限っていえば、まず無理だと思います。
現在どんなカンジなのか、これまでどうだったのか、整理しながら、わかるかぎり書いてみます。

 

国や政府の監視体制

日本語学校管理しているのは法務省です。法務省によって留学ビザで学生を取っていいという認可を受ける必要があります。ルールは以下のとおり
日本語教育機関の開設等に係る相談について
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri07_00044.html
認可を受けた日本語学校のリストはここに。約500校くらいです。
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyukan_nyukanho_ho28-2.html
法務省は基本、日本語学校の教育内容には興味はなく、違法在留だとか失踪、などの犯罪防止が主眼です。そのために内容でシバリをかけたほうがいいならする、というスタンスのようです。(教育内容に関与する省庁は文科省ですが、書類チェックのみ。教師数が足りてるかとか認可の際にチェックする)学校として認可されれば、あとは定員を増やす際に書類の提出があるくらいです。操作の手が入り、上のサイトにある基準の違反が明らかにならないかぎり国によるチェックは事実上なく、継続可能です。
👉 入管は全国の不法就労を監視しているわけですが、技能実習生も含め、対象は50万人超で、職員数は1500人くらいです。すべてに目を配るのは無理だと思います。

 

業界団体によるチェック

日本語学校の業界の組織団体は今は2つあります。事実上の分裂状態で、日本語学校の多数がいる団体は今はありません。500校以上ある日本語学校のうち350校くらいは日振協に、150校くらいはJaLSAに加盟しています。超仲が悪いのですが、両方加盟しているチャッカリした学校も結構あります。どちらにも加盟してない学校もジワジワ増えています。
一般財団法人 日本語教育振興協会(日振協)加盟は300校ちょっと。設立は1989年。
http://www.nisshinkyo.org/
→ 事業仕分けで一旦廃止となりましたが、その後政権交代などもあり継続しています。
http://webjapanese.com/blog/j/data/files/NisshinkyoooShiwakeKekka.pdf
一般社団法人 全国日本語学校連合会 (JaLSA)加盟は150校弱。設立は2004年
→事業仕分けの際にできた新組織。
http://www.jalsa.jp/
👉 日振協は事業仕分けで、常勤職員4人中3人が天下り、日本語学校の審査も参考にはするけど、あってもなくてもいいものと法務省に突き放されて廃止となったんですが、その後グズグズになって今も存続しています。業界では業務仕分けは「無かったこと」になってます。でも、当時は、「これまで審査料を払ってきたのはなんだったの?」「返せ」みたいなことになってました。
事業仕分けでの議事
http://webjapanese.com/blog/j/data/files/NisshinkyoooShiwakeGiji.pdf
結果
http://webjapanese.com/blog/j/data/files/NisshinkyoooShiwakeKekka.pdf
動画
https://www.youtube.com/watch?v=W3gSUslh6r8

 

1)日振協による日本語学校の審査、認定

http://www.nisshinkyo.org/review/
→事業仕分けを受けて、この認定は法務省の認定とは関係ないと書かれるようになりました。がまだなんとなく続いてます。法務省も「参考にはしてます」ということにしたようです。
またここには
http://www.nisshinkyo.org/search/daisan3.html
認定の提出書類、その審査が公開されています。2016の評価を読むかぎりでは、財務状況などは、決算書(貸借対照表・損益計算書)は当日の「提示」でいいらしく添付での提出は義務ではなさそうです。監査が行われているかは問われるが、財務状況そのものに対しては評価はなく、その基準はなさそうです。細かいお金の移動に関するチェックはもちろんできないと思われます。基本、ちゃんとやってますという提出のみ。
日本語教育振興協会による日本語学校に行われる「審査」は一回10万円程度の審査料を支払います。この審査も、上の評価を読む限りでは3年に一度(新設校は2年後)決められた書類を提出し、その書類を評価(基本「がんばってます」と書いて提出し「(読みましたよ)がんばってますね」と評価されるだけのようです。審査委員が学校を訪問し、経営者と面接をして終わりです。面接訪問日が近づくと職員が折りたたみベッドで保健室を作ったり、古本屋で適当に本をかって図書としたりという光景は90年代から今も続いているようです。私がみたものや人から聞いた話を総合すると、決められた日に「おじいさん」がやってきて、学校の責任者と世間話をしながら学校内をブラブラ歩き、応接室でお茶を飲んで帰る、というものです。年間予算が1億円規模の財団法人で一回10万の審査料ではこのへんが限界ということかもしれません。
👉 事業報告に日本語学校の審査、認定の結果が報告されていますが、直近の2006(H18)~2015(H27)年では、新規校の審査(132校)は申請したところはすべて通っていて、通常の審査(713校)では認定されなかったのが6校でしたが、結果認定取り消しは0なので、これも、すべて通ってます。


👉 法務省の新基準の前も20年以上、基準があったわけですが、専任教師の比率などは20年以上ほとんど守られてきませんでした。現在も同じです。
👉 最大の業界団体である日本語教育振興協会の年間の予算は約1億。ほぼすべてが人件費、定期イベントなど組織の維持に使われるようで、個別の調査にかけられる予算はどうみてもありません(学校の審査は別途10万円の審査料を支払うことになっている)。
日本語教育振興協会の収支
http://www.nisshinkyo.org/article/index.html

👉 財務状況のチェックは、ルールを厳しくして、お金をかければ、もうちょっとやれるかもしれません。また、寮や施設のチェックはネットを利用して合理化はできるかもしれません。例えば事前に動画で学校と寮の動画を提出、学校と寮のWiFiひくのを義務化して、年に1,2度、抜き打ちで担当者にライブで中継してもらう、みたいな…。それでもすべての学校が加盟している組織がきちんとした予算をつけてやらないと無理ですが。。。

 

2)全国日本語学校連合会は?

加盟校は145校で大きくなっています。基本的には、政府に陳情するためのロビー団体という印象です。賛助団体が多く、設立時には、大物代議士に何度もあいさつをした、などと書かれていて、近況でも、いろいろな申し入れをした、というようなことが代表者らしき人(?)のコラムで伝えられています。組織の在り方に関しては、政財界への人脈が豊富な代表者の意向が強く反映しているようで、政治力で勝負という組織っぽいです。特にコラムには力が入っており、2016年、神武天皇からはじまる留学生のための物語日本史の連載が突然始まりました。
しかし、日本語学校こうあるべき、というような抽象的な倫理規定は定款にあるのですが、数少ない具体的な数字がある「専任教員のST比40」や「非常勤は最低賃金の2倍」などは、加盟校にまったく守られていませんし、検証もされた形跡がありません。日本語学校のための具体的な数値を示したガイドラインはないし、審査やチェックをしているという記述はサイト上にまったくありませんし、2016年にJaLSA役員の加盟校の経営者が逮捕されても、コメントもありませんでした。日振協のように形だけでも審査をするということはなさそうです。
👉 日本語学校の定員充足率や専任の比率(3割以上。2017年からはST比で40以下)を示した一覧です。専任の比率が40以下の学校は、30%前後。どちらかというと、日振協加盟校よりJaLSAのほうが数値が悪いです。
https://goo.gl/nDT4il

 

業界団体に日本語学校の管理、監視を期待するのは無理


日振協の理事(元法務相入国管理局長、国際研修協力機構の出入国部長)は2016年冬のインタビューで、日振協に所属しない学校が問題をおこしているという趣旨の発言をされていましたが、2016年、新聞で報道された不祥事の日本語学校4校のうち、2校は日振協の加盟校(この文書の報道の記事の学校も加盟校)。1校はJaLSAの役員の学校でした。両団体は、今では加盟校の数を競っている空気もありますから、加盟するためのハードルは下がることはあっても上がることはないのではと思われます。また、昨今は、どちらにも加盟していない学校も増えています。比較的新しく規模が大きい、これまでと違う業界からの参入の学校が多いようです。これらの学校も当然何もチェックがされないわけです。
今年、サイト上で不祥事を起こした学校に関してそれぞれ所属する業界団体からのコメントはありませんでしたし、これまで、何十年もの間、この種の事件の際にコメントがあったことは記憶している限りではありません。そもそも管理責任はない、もしくは下手にリアクションをすると責任を認めた形になるのでやらない、という考えがあるのかもしれません。

 

入管の体制

入国管理局
http://www.immi-moj.go.jp/
この平成25年のデータによると、不法就労の摘発に従事する職員はわずか1500人前後です。

元ファイル(PDF)
http://www.moj.go.jp/content/000110204.pdf
失踪者が1万人以上いて、技能実習生だけで現在20万超、今後50万になろうかという状況で、日本語学校の5万人以上の学生、現状500校(どんどん増え続けている)の日本語学校のバイトや寮までウォッチして監視してくれ、というのは、無理なのではと思います。

 

職員や日本語教師が通報できる窓口を作る

→ 日本語学校は零細企業なので、匿名でフォームで通報でき、通報を受けて動く場合も慎重にという手順が確保されることが重要です。でないとすぐに「犯人捜し」が始まってしまいます。悪質な学校はどういうところと結びついているかわかりませんから、危険なことが起きる可能性も高い。窓口は入管など公的組織が理想的です。簡単な通報のためのガイドラインが必要だと思われます。寮や学生の様子がオカシイぐらいから始まって、明らかな不正行為まで、自由にポストできるようにしておく。通報者の匿名性を必ず守る。そこから先は、情報の濃淡で総合判断ということで。
→ 仮に日本語教育振興協会やJaLSAなどの組織が通報の窓口を作ったとしても、これらは日本語学校の経営者が作った組織です。役員も経営者です。2016年は役員の学校が摘発されましたが、コメントもなくスルー、加盟も継続ということがありました。役員の学校に関する問題がきちんと処理される保証はありません。通報があっても、職員や日本語教師より経営者の利益を優先するのではないか?という疑問は残ります。やはり入管などの公的機関が作るべきだと思われます。技能実習生では新しい管理機関ができ、そこに入管の職員も出向するそうです。そこでもいいですし、日本語学校も全国に500以上あるわけなので、ひとつくらいは専用の窓口を作ってもいいのではと思います。
*入国管理局には情報を受ける窓口があります。
総合窓口
http://www.immi-moj.go.jp/zyouhou/index.html
各地域の入管の連絡先
http://www.immi-moj.go.jp/soshiki/index.html
👉 入国管理局の職員数は4000人弱で、そのうち入国審査に関わる入国審査官が約2000人、不法滞在などの摘発をする入国警備官が約1500人です。捜査対象が日本中にわたることを考えるとかなり少ないです。

 


 

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