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【過去記事】2020再入国制限の緩和には新たなガイドラインが不可欠(追記あり)

この記事は2020年9月1日にnoteに投稿した記事です。概要とその後は日本語教師読本Wikiの「日本語教育の言語政策」にあります。

 

はじめに

2020年9月から、すでに日本の在留資格を持つ人達の再入国の規制が緩和され、段階的に新規の入国者にも適用される予定です。海外では外務省の特定技能の試験は7月からスタートしており、送り出し国周辺の動きは始まっています。

しかし、技能実習生、特定技能、など、日本の受け入れのほうの組織や日本語学校などは、入国の際の検査のみで、入国後の健康管理などに関するガイドラインは作られないままのスタートとなるようです。日本での生活は、個々の受け入れ機関の裁量に任されています。

 

ガイドラインが無いとはどういうことか?

2人3人部屋がほとんどである寮生活に関するルールは従来のまま、就労系の人は相変わらず日本語を学ぶ機会を与えられないままです。日本語ネイティブでさえ、日々の情報に一喜一憂、右往左往している状況で、ほとんど多言語で提供されない(国よる「英・中・やさしい日本語」の基本情報があるだけです)感染症の情報を外国人がしっかりキャッチしていくのは、不可能です。

現状では、アジアから若者を呼び寄せて感染させてしまうリスクがあり、学校や寮がクラスター化するリスクは高く、感染者が差別的な扱いを受ける恐れがあります。感染予防の実施や感染からどういう仕組みでサポートしていくかというスキームもありません。COCOAの活用もまったくありません。就労系の人達は職場で即戦力として期待され、日本語学校のほとんどはオンライン授業をする資金的、人的な余力がないのでリアル授業がほとんどですからリアル授業ができなければ対応は不可能です。

ガイドラインを軸に国と連携した健康管理体制がないことで、最も怖いのは透明性が確保できないこと、個々の受け入れ機関が、感染者を出したくないという理由から健康管理や検査に消極的になり情報公開が遅れることです。

 

必要なガイドライン

外国人の受け入れ側に、最も欠けている視点は、これから数年、コロナ禍の状況で外国で生活する人にとって、コロナ禍の状況下で必要とされる言語能力のハードルは、これまでより高く設定されるべきであり、それを獲得するための学習機会の強化と、より手厚い多言語サポート、住環境、健康管理体制、多言語化を含む医療環境の整備、がなければならないという視点です。おそらくコロナが収束してもこれは続きます。これをきちんと整備する、具体的には再受け入れのガイドラインを設け、これをクリアした受け入れ先に限定すべきです。ポイントは

・住環境の整備(個室の提供)
・健康管理と保健所、病院など関連機関との連携
・多言語サポートの準備
・継続的な日本語学習サポートとその質的保障
・迅速な情報収集とその共有
・(コロナ関連検査、治療、後遺症までをカバーした)保険加入の義務化
・COCOAの活用

だと思われます。業界組織の「迅速な情報収集とその共有」とは省庁のお知らせへのリンクを「コロナ関連情報」として置くみたいなことではなく、例えば韓国でクラスター化の原因となったという循環型のエアコンはどんなもので、本当に原因となったのか、どういう対策がありえるのか、というような情報を迅速に収集し、対応策を含めて共有を進めるというようなことです。

現状を一般の人にもなるべくわかるように以下、整理してみました。

 

来日する外国人の日本語能力に規制はほぼ無く、来日後の学習機会も保障されていない

 

1)技能実習生

技能実習生のほとんどは、入国前も入国後も日本語学習の機会が無く、来日時の日本語能力はほぼゼロです。

介護を除くほとんどの職種(現状9割強の人達)に、来日後の日本語学習の学習機会、時間はほぼ確保されておらず、来日後に上達する可能性はかなり低いということです。技能実習生はインド、インドネシア、ウズベキスタン、カンボジア、スリランカ、タイ、中国、ネパール、バングラデシュ、フィリピン、ベトナム、ペルー、ミャンマー、モンゴル、ラオスなどの国から来ています。多言語対応のためには最低限20の言語が必要です。

👉 職種などは、いわゆるブルーカラーと呼ばれる仕事のほとんどと言ってもいいと思います。これらの職場での健康管理体制、安全が確保されていることも重要です。仕事の内容など詳しくは私どもの日本語教師読本Wikiの技能実習の項目をみてください。

 

2)特定技能

ベトナム、フィリピン、カンボジア、中国、インドネシア、タイ、ミャンマー、ネパール、モンゴルなどの国から来ます。こちらもほとんどは若者です。現在は1万人いるかどうかですが、今後10年で十万単位で増やす予定です。

特定技能のビザを得る条件となっている国際交流基金日本語基礎テストには、目標として災害時に情報収集できることも盛り込まれてますが、このレベルの試験の合格(ネットの○×式のテスト)で、それが保障できると信じているのは、国際交流基金の関係者ぐらいだと思います。この災害は水害や地震などは意識されていますが、感染症は想定されていません。現在自治体やメディアが使う「やさしい日本語」の理解はほぼ不可能です。

この試験に合格さえすれば日本語学習の機会は提供されません。

「国際交流基金日本語基礎テスト」に関しては以下を参照。
http://bit.ly/322P354

👉 特定技能の職種はほぼ技能実習生制度と同じです。詳しくは私どもの日本語教師読本Wikiの特定技能のページをみてください。

👉 7月から再開となったこの試験に、コロナ状況に関するCan-doが追加されたという話しは聞きません。今後続く感染症下で従来のCan-doや「やさしい日本語」は機能するでしょうか?コロナに関する日本語教育のアップデートが必要ではないか?すべての日本語教育関係者が考えるべき課題ではないかと思います。

 

3)留学生

留学生に当然、対象国の制限はありませんが、今は、中国、韓国、ベトナム、ネパールで8割以上を占めます。2019年に30万人になりました。そのうち日本語学校の数は9万人強です。その他は専門学校、大学の順です。

留学生は来日に日本語要件はありません(建て前上、日本語能力試験のN5、ひらがな、カタカナの読み書きと挨拶くらいはできることになっているがチェックはほぼ無い)。つまり来日時は技能実習生とほぼ同じです。来日後は2年の日本語教育機関の勉強でCEFRのA2をクリアするという到達目標が2019年に出来たばかりですが、このA2は、上記の特定技能の人達が入国の条件としてクリアするレベルです。これを2年(約1000時間の授業が義務づけられています)で到達すればいいという、就労系の人達よりも日本語能力のしばりはユルいということになっています。

留学生のほとんどが入る日本語学校の在留期限は2年で、その後、進学する場合、文科省は以前から専門学校や大学に入るためには日本語能力試験のN2がマストだと「指導」していますが、N3に合格が怪しくても、関連の専門学校やあやしげな大学には入れるという実態は世間の知るところとなってきました。2年(留学の規制では1年560時間の授業が義務となっている)勉強しても、やさしい日本語の理解は怪しい学生が多いわけです。当然、多言語サポートが無いCOCOAの個人情報規定や使い方、その後の対処など、母語によるサポートがないと利用は不可能です。

留学生は風俗関連以外、どんな仕事もやっていいことになっています。コンビニなど日本語能力を活かしたアルバイトのイメージが強いですが、2010年以降、仕事は人手不足の時給がいい職場が増え、就労系の人達とあまり変わらないという状況です。厚労省の監督下で進められている技能実習や特定技能と違って働く場所は自由ですから、健康管理が徹底されているかなどのコントロールはききません。日本語学校からマイクロバスで工場に向かうというような風景が増えています。その工場でしっかり健康管理が行われているかどうか、わかりません。

 

「やさしい日本語」は無料ではない。

日本語教育関係者は、通常の生活をするための日本語学習環境さえ整っていないのに、コロナ下での安全が保障できるのか?を再考するべきです。

現在、ほぼすべての就労系の人に、やさしい日本語を理解するのに到達するレベルに達するまでの日本語のサポートはありません。

👉 上の資料は以下からの引用です。http://www.clair.or.jp/j/forum/forum/pdf_272/04_sp.pdf

 

ほとんどの来日外国人は劣悪な住環境にある

留学生は30万人、技能実習生が約25万人で増加中。特定技能は1万人以下ですが、今後10年で30万人になると言われています。数年で留学生数を抜きます。

しかし、この3つの制度で住環境に関して規制は、技能実習生は、1 人当たり 4.5m2 以上(約3畳)、特定技能は、1人 当たり 7.5 m²(四畳半)以上という規制があります(この規制を元に裁判も起きているようです)。特定技能のほうが厳しいですが、これは個室と決められているわけではないようなので、実際は70m²の3LDKに複数人で住んでいるという可能性も考えられます(単純に部屋の広さで計算することにはなってませんが、管理体制は甘いです)。何より監視やチェックがないので、厚労省や関連組織もどういう住居に住んでいるのかは把握していないはずです。不祥事が発覚して初めてタコ部屋に住まわされていたことがわかるということにになっています。

つまり、感染症下では最悪の、容易にクラスター化しやすい環境であるということです。コロナ以前からインフルエンザなどの感染が起きやすい環境でもあったということです。

そして、見逃されがちですが、留学生には住環境に関する規制がありません。日本語学校に対する国の規制はこの法務省のサイトにある「日本語教育機関の告示基準」と文科省による「日本語教育機関の告示基準解釈指針」のみであり、どちらにも寮に関する規定はありません。

以下は、2016年に、沖縄タイムスで報じられた記事の日本語学校の寮の写真です。「3段ベッドが4台敷き詰められた部屋に8人が生活する。1人当たり家賃は月2万5千円で、数百人の学生を受け入れている=本島南部(提供)」

これは規制がないので違反ではありませんし、現在に至るまで留学生に対する住環境に関する国の規定は作られていませんし、業界団体による自主的なガイドラインもありません。大部屋にカプセルを入れた寮などが、日本語教育関連のメディアで「おしゃれできれいな寮」として紹介され、公衆衛生関係者から批判を浴びていましたこともありましたが、その後改善されたという話しは聞きません。

「日本語学校 寮」で画像検索した結果をみても、画像で出てくるもののほとんどは、宣伝用で公開されている個室やきれいなものですが、それでもワンルームに二段ベッドというケースが目立ちます。学校などが委託している民間の外国人寮なども個室は少なく、個室を借りられるのはごく一部の裕福な留学生か、個室が整備されている大学の寮に住む人だけです。

日本語学校のサイトなどで、部屋のサイズなどの記載があるものもありますが、技能実習生の規定以下であることが多く、公開されていないものは、どうなっているのかもわからないままです。時々、日本語学校の不祥事が報じられると、地方でも3LDKに10人だった、家賃は相場は5万円だが、一人2万円で寮費の水増し請求がされていたなどということが報じられます。この水増し請求も規制がなく、これを監視している組織はありません。

日本語学校業界では、最低でも最初の半年は寮を準備しないと学生募集ができない事情があり、最初のローンで授業料(1年分で70~80万円)に加算される額としては、月3万円(×6ヶ月)くらいが上限。この3万円の部屋はほとんどの場合、ワンルームで2~3人部屋です。中にはワンルームに二段ベッドが二つという寮もあります。個室は5~7万円で、これを払える留学生はほんのひとにぎりで利用率もかなり低いはずです。外部に委託するケースも増えており、委託先の民間の留学生の寮の施設のほとんどは2人部屋で、多くの学生が共同生活をしています。

👉 留学生は法務省(=入管庁)と文科省。技能実習生と特定技能は厚労省が監督省庁です。もしかすると就労系のほうは、クラスター化した場合の連絡は厚労省に届きやすいかもしれませんが、留学のほうは国との連携は不透明です。

👉 多くのアメリカの大学はコロナ禍を受けて、初期(3月ごろ)に寮からの退去命令を出しましたが、クラスター化することへの社会からの批判を避けるためと、訴訟対策があったと言われています(実際に授業料返還など多くの訴訟が起こっている)。日本の場合、住環境についてもリアル授業に関しても、オンライン授業の質についても「訴えられることはないだろう」という考えの元、学校や受け入れ機関の都合で進められているという印象です。

 

個室はマスト

コロナ下では、今後のwithコロナの状況を考えると、まずは本格的な規制の前段階として、一時的な措置でも、最低、個室を準備しなければならない、という規制強化が必要と思われます。

例えば、やや外国人が多い部類に入る、沖縄県の留学生数は2000人前後、技能実習生も2000人強です。地方に空き家は増えており、地方自治体のサポートと国の助成があれば、現在のままの自己負担で、個室を準備することはそれほど難しいことではないと思います。後述する企業の協力があれば大丈夫なはずです。

 

日本語教育業界の対応の記録

日本語教育業界の2020年8月まで対応を書きます。3月以降、民間の日本語学校の「6団体」と言われる以下の組織がいろいろと陳情をしています。

国内で留学生を受け入れる告示校のほとんどが加盟していますが、いずれにも加盟してない学校もおそらく2割くらいあります。

1)全国専門学校日本語教育協会 (http://na-cje.jp/
2)全日本学校法人日本語教育協議会(http://zengakunikkyo.org/) 
3)日本語教育振興協会(https://www.nisshinkyo.org/
4)全国日本語学校連合会(http://www.jalsa.jp/
5)日本語学校ネットワーク(https://www.nihongonetwork.com/
6)全国各種学校日本語教育協会 (http://npjs.sakura.ne.jp/

以下は、省庁に陳情の結果、2020年の8月、日本語学校業界が急遽作った受け入れのガイドラインです。肝心の入国後の管理に関するガイドラインがありません。

→ 上の文書、申し入れのプロセス、陳情などのプロセスに関する詳細は【日本語教師読本】 日本語教育の言語政策 にあります。

それぞれの組織のサイトには学生に対するアナウンスはほとんどありません。これは東日本大震災の時もそうでした。

👉 外務省はこの6団体の入国後のガイドラインがない申し入れを「パーフェクト」と表しており、7月にはすでに東南アジアで特定技能の日本語試験を開始しています。省庁の中でも最も再入国の緩和に積極的という印象です。

以下は2020年3月からネットで実施している無記名のネットのアンケートの結果の一部です。

アンケートはここにあります。結果のサマリーはこちらです。

 

日本語教育関係者は何もしていない

大学も日本語教育学会も、8月の段階でも、少なくとも国内の日本語学習者をどう守るのか、という提案やメッセージを出さないままです。「大学も困るし、民間の皆さんも大変だろうから入国規制は緩和したほうがいいかもね」程度の考えなのかもしれません。ネットでも、再入国を歓迎する投稿はあっても、受け入れ体制は大丈夫なのか?という話題はまったくでません。もちろん、大丈夫ではないことは、皆知っているはずですし、当然、日本語学校で働く教師(日本語教師の平均年齢は54才)、職員、就労系の受け入れ機関で働く人たちにも大きなリスクを負わせることになりますが、この点に関しても言及はありません。

つまり、日本語教育関係者は、ほぼ何もしていません。この状況で日本語教育がどうサポートしていくのか、というような議論があるという話しも聞いたことがありません。学会、日本語学校関係、留学生関連の組織団体は、コロナに関する多言語情報をほとんど提供していません。

日本語教育関係では最大の学会である日本語教育学会は、日本語学校の関係者も多く所属することもあるのか、基本的には「とにかく学生が来ないと困るよね」という共通理解はあるようですが、その先は議論しないという不文律があるのかもしれません。

昨今、日本語教育の世界で盛んに「学習者の立場で考える」「学習者目線」と語られますが、感染リスクやオンライン授業の質的保障に関しては、学習者の存在は忘れられたままです。日本語のオンライン授業に関する情報共有も、質的保障に関する議論もありません。

👉 翻訳能力は高いはずなので、COCOAの多言語化くらいすればいいのにと思いますがサイトには何もありません(日本語教育関係者は極端にICT関連に疎く、よくわかってないという可能性があります)。そもそも、災害時の多言語の情報提供などに協力したという話しを聞いたことがありません。

 

日本語学校にはコロナを乗り切る体力は無い

数千万、あるいは億単位でICTに投資できる大学と違い、ほぼすべての民間の日本語学校はオンライン授業をするだけの準備も資金もありません。Wifiはあっても家庭回線並みで、ルーターも家庭用。マックスで10人程度です。ビデオチャットの法人契約をする余力はないはずです。オンデマ動画を作れるところは無く、その準備もないはずです。おそらく学生のほとんどは格安sim契約です。学校による通信費のサポートも無理です。何より日本語教育業界のICT活用は絶望的に遅れており、何を、どうやるべきかを理解して、ちゃんとしかるべきところに投資できる日本語学校関係者もほぼいないはずです。手弁当のオンライン授業でこれまでの授業の質を維持するのは無理です。

従って、ほとんどの学校にはリアル授業しか選択肢がありません。日本語学校に対しては、3月に法務省から大学のルールに準拠したオンライン授業を規定の授業としてみとめる旨の文書が出たきりです。3月から試験的にやったところもあるようですが、7月からはリアル授業に戻ったようです。つまりリアル授業ができない状況になれば学校そのものが、すぐに行き詰まるわけです。

すでにローンで支払われた学費や寮費を返還する余裕がないという自転車操業の学校は多数あり、日本語学校の経営を回すためだけに学生をとりあえず学生を入れるというようなところはあるようです(両者の間に、授業ができなくてもアルバイトができればいいという暗黙の了解があるというケースもあるでしょう)。この問題はこれから大きくなっていくと思われます。入学のキャンセル、学費の返還などが希望どおり行われているかの監視、増えてくるであろう日本語学校の廃業に伴う学生の転校、受け入れ先の確保、契約の解消、返金、帰国サポート、など整理のスキームの整備も必要です。

 

介護を支える外国人

国内の介護は外国人によって補填しなければ破綻してしまうということが分かっており、2018年あたりから、本格的に外国人介護人材の発掘が進められています。

上の表は以下から引用したものです。
高齢化の現状と将来像|平成27年版高齢社会白書(全体版) – 内閣府
https://bit.ly/2Eh9JQk

介護士は、実は上の技能実習生制度、特定技能、留学の3つのルートで確保することになっています。2020年代で、最低でも10万人を確保するという計画があります。2020年はまさにそれが始まったタイミングでした。

高齢者のリスクが高いコロナで、国の介護を支える外国人の健康管理、住環境の整備は喫緊の課題でもあります。介護で来日した人は、すぐに研修として介護現場に出ることもありますし、当然介護の関係者とも接触します。

つまり「若者から高齢者への感染」という最も注意すべき場面で外国人が関与してしまう可能性が高く、軸になる外国人を受け入れる日本語学校、受け入れ機関にはガイドラインが無いままなわけです。

 

留学生に関するコロナ関連の国の規制

日本語教育機関(いわゆる日本語学校など留学生を受け入れる学校)に関することは、以下でアナウンスされています。追加的なことはQアンドAが更新、追加されます。

かいつまんで言うと「柔軟に対応するが、オンライン授業などはあくまで緊急的措置、その他は状況をみて判断」というところです。学生の住環境、健康管理などに関することは書かれていません。

法務省:1 新型コロナウイルス感染症に関する外国人の在留諸申請について
(4) 留学生及び日本語教育機関に係る取扱い http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri01_00157.html

技能実習生・特定技能の受け入れにもコロナ下での追加的な規制、ガイドラインはない

 

技能実習生

外国人技能実習制度について |厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/global_cooperation/index.html

ここを読む限り、技能実習生に関して、コロナ下での具体的な規制強化はありません。個室の準備や健康管理などに関しても新たな規制、ガイドラインなどは作られていません。

技能実習生の管理団体は国際人材協力機構(JICTO)と外国人技能実習機構(OTIT)の2つですが、コロナ下の健康管理に関しては「依頼」「お願い」までです。

技能実習に係る新型コロナウイルス感染症関連情報(一覧) | ニュース・お知らせ | JITCO – 公益財団法人 国際人材協力機構 https://www.jitco.or.jp/ja/news/article/9029/

新型コロナウイルス感染症について | 外国人技能実習機構 https://www.otit.go.jp/CoV2/

 

特定技能

特定技能に関しては、技能実習制度や留学から移行して引き続き国内で働き続けられるという施策は進んでいますが、技能実習生制度と同様、健康管理やコロナ関連の追加的なサポート、住環境、日本語、多言語サポートなどに関しては具体的なものは何もありません。

法務省=入管庁

法務省:新型コロナウイルス感染症の感染拡大等を受けた技能実習生の在留諸申請の取扱いについて http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri07_00026.html

これはコロナ下での規制強化はありません。

 

何もしないこと

日本語教育の関連団体、組織の人達は、これまで長年、関係省庁の指導を仰いでやれば大過なく無事済んできたということがあるせいか、今のところ、陳情だけで、ほぼ何もしていません。何もしないことが正解だったという長い歴史があるということかもしれません。

今は「何もしない」というこれまでのやり方が、最悪の結果を生む状況ではないかと思います。これまでのように「一部の悪質な学校や受け入れ先が悪い」という理屈は通用しない。「ウチはがんばった」では済まないことになりそうです。問題が起きれば、国だけでなく社会が存続を許さないということになる可能性があり、制度ごと消える可能性もあります

今はただ陳情する時ではなく、日本語学習者をどう守っていくのかという姿勢を内外に示す時です。それぞれの業界組織が自主的に考えて宣言し、実行していくことが求められています。国への申し入れはその先にあるべきでした。

日本語教育関係者は、今、2020年に何もしなかった人達として記録されつづけています。

 

何をすべきか

クラスター化したら大変だということは業界の人達も分かっています。文科省に陳情した際も、責任とれるのか?と言われてしまっています。

就労系の受け入れ機関や、日本語学校が、感染者を公表しない、感染者をださないように検査や健康管理を意図的に行わないという可能性があるでしょう。隠蔽する理由はいくらでもあり、それがより悪い事態を引き起こすこともわかっていながら、やってしまうということになる前に、しっかりガイドラインを作って、透明化をはかり、説明責任がとれる体制を作ることが必要です。感染者が出たり、クラスター化をした時に、これだけのことをやってきたよと言えるものが無いということは避けるべきです。

技能実習生制度、特定技能の受け入れ機関、留学生の受け入れ機関である日本語学校は「入国後の」外国人の健康と安全を守るガイドラインを作るべきだと思います。最初の提案より少し具体的に整理します。

・業界団体が専門家と共に対応マニュアルを作ること。
・母語で説明したパンフと体温計の配布。
・毎日の検温と記録と健康状態の報告を受ける体制を作る。
・管理者は対応マニュアルに従い関係機関への連絡を行う。
・寮を完全に個室化する。
・コロナ関連(検査、治療、後遺症まで)をカバーした保険加入の義務化
・個人情報の管理に注意しながら国と連携し、COCOAの活用を考える。
・授業のオンライン化に対して助成をする。

その他、国の強い関与がないと解決しない問題(授業が受けられなくなった時や、仕事やアルバイトができない状況になった際の補償、来日費用、学費のローン契約の精査など)もありますが、ひとまず受け入れ組織がクリアすべきガイドラインとしては上のようなものが思い浮かびます。

これを、就労系の受け入れ機関と日本語学校などに義務づける。仕事をしなければならないところ、学校に行かねばならないところなど、きちんと結果を出しているところが、どういう管理を行っているかをリサーチし、それを参考にすべきです。学校や芸能関係者など、若者の管理をちゃんとやっているところはあるはずです。

特に寮の個室化や健康管理は、一時的なものではなく、今後の規制強化を見越して地方自治体などの協力などを取り付けながら、長期的、本格的な整備をすることが必要になります。

オンライン授業は現状、とりあえずビデオチャットで時間を消化しました、と自己申告すれば、規定の授業を消化したことになっているようです。半年を経過した今、このオンライン授業の質的チェックも行われるべきです。

質の担保のためにも、一定の水準をクリアしたオンライン授業の提供会社を選別し、そこから選択する式にして、日本語学校の組織が窓口になる。そのシステムの構築に国が助成するほうがよいと思います。同時に第三者によるオンライン授業のチェックを行う。学習者からのフィードバックの評点が低いものはリストから漏れるというようなことも必要ではないかと思います。

日本語教育の研究者は日本語学習者がコロナ下で必要に迫られている新たな日本語の能力のことを考えるべきです。コロナ以降の環境にしっかり対応すべきです。言語教育は大きくアップデートされるべきで、風邪をひいて病院に行くタスクを作るみたいな簡単な話ではないということは分かっているはずです。

 

資金が必要

当然、業界に対する金銭的なサポートも必要です。

技能実習生が働く現場だけでなく、経済界からは外国人の入国規制の緩和緩和を求める声が出ています。

例えば、特に外国人を雇用する企業は一人あたり年額いくらで拠出を義務づけるなどして基金を作り外国人の受け入れ機関と日本語学校などを、サポートすることが考えられます。これらの基金は住環境の資金の補填だけでなく、特に就労系の外国人に対する公的な日本語教育のサポートにも使うことも想定してもいいと思います。入国規制の緩和を求めるなら、外国人労働者の健康と安全を守るためにコロナ後も続く資金作りの仕組みを提案すべきです。

現在、技能実習生で25万人、現在30万人の留学生のアルバイト先も有力な候補です。50万人として、一人当たり雇用主が年間10万円出すだけで年500億です。10年後に特定技能で30万人が増えるなら継続性も期待できます。この10年手当てできるだけでも、始める価値があります。

2010年代後半、中国の一部、韓国、台湾などと最低賃金が同じか下回るケースも出てきており、介護だけでなく、留学も単純労働も人手の獲得競争に負けつつあります。困るから来てくれだけでは厳しい。医療体制や感染症対策でも安心して滞在できる国でないと、人材獲得競争でも厳しい状況であることは、関係者はわかっているはずです。これを一般の人にもしっかりアピールしていく必要もあります。

 

外国人を受け入れるハードルは上がった

日本はアジアの中ではコロナに関しては、高い医療技術はあっても、感染症対策は医療、看護関係者の献身的な(不当とも言える)努力に依存してなんとか維持できているにすぎないということが分かってきたように思います。医療現場に多言語対応は必要ですが、感染したら投げるというようではただ負担を課すことになってしまいます。受け入れ機関が、多言語化のノウハウを提供するなど、外国人の感染症対策の一翼を担うことで、医療現場の負担を減らすことができるはずです。

再入国の再開に関して、技能実習生と特定技能は厚労省、留学生は文科省と法務省、現地でビザを出すのは外務省ということになっており、対応はバラバラです。

日本語教育関係者は、このバラバラの人達を日本語学習者として捉え、健康と安全を考え、学習者の立場から、しっかりとした提案を出せる数少ない人達でもあります。日本語教育は、留学生だけではなく、児童から技能実習生や特定技能など対象は広がっています。国や社会にきちんと具体的な提案をしていくべきだと思います。

仮に、技能実習生や特定技能で来日する人達に個室と十分な健康管理、言語サポートが提供できないなら、制度そのものを見直すべきですし、民間の日本語学校が個室と十分なオンライン授業を提供できないなら、大学の留学生別科を拡充して受け皿にすればよいと思います。

今、日本に、自分の子供を個室がない寮に住まわせる国に送り出す親はほとんどいないのではないでしょうか(8月末の時点で、外務省は、ベトナムなどアジアはもちろん、ほとんどの国への留学は「不要不急の渡航は止めてください。」ということになっています)。では、今、日本の就労の制度、留学生は信頼できるものになっているでしょうか?ここでちゃんとアップデートできるかどうかは、将来を左右するのではないかと思います。

ぜひ入国後のガイドラインを作り、それを海外に向けて大々的に発信して、日本は外国人を大切にする国であるとアピールしてください。

 

追記(2020年9月30日)

再入国に関してのガイドラインが作られ、以下で承認されました。
https://corona.go.jp/prevention/pdf/guideline.pdf

1)日本語教育振興協会
2)全国日本語学校連合会
3)日本語学校ネットワーク
4)全国専門学校日本語教育協会
5)全国各種学校日本語教育協会
6)全日本学校法人日本語教育協議会

で提出→承認されたことになっています。1~3でカバーできるのはおそらく全体の8~9割くらい。残りのうち、専門学校、各種学校、学校法人はカバーされるとして、おそらく1割弱くらいは漏れるのではという気がします。

ガイドラインは以下(日振協が掲載したもの)
https://www.nisshinkyo.org/news/pdf/covid19/covid19guideline2.pdf

*念のため保存したもの。
日本語教育機関における新型コロナ感染症対策ガイドライン(第二版)

具体的なものは「緊急事態宣言下では休校でオンライン授業」「複数人の寮ではパーティションで区切って30分毎に換気」ぐらいで、後は、マスク、ソーシャルディスタンスなど一般的なものを守れということだけのようです。寮での個室の確保は無し。

COCOAの活用については「厚生労働省が勧めている「接触確認アプリ」を利用することが望ましい。」という記述のみ。

感染者が出た場合は「地方自治体と保健所」に連絡の後、公表するかは「感染者のプライバシーに配慮するとともに、マスメディア等への対応をどうするかを定めておく。」となっています。公表は学校判断。つまり事実上、しなくてもよいということでしょう。

このガイドラインは「各校の規定に従う」とされるものも多く、基本的には、一般的に言われている対策をやれよ、というところまでという印象です。

日本語教育機関の関係者は、勤め先が、この(最低限度の)ガイドラインを守っていない場合、このガイドラインがある政府のコロナ対策サイトのフォームで通報しましょう。情報はストックされるはずです。
https://corona.go.jp/form/

*緊急事態宣言では休校となると、今後、緊急事態宣言自体が出しにくくなることになりそうだということもありそうです。これも重要なポイントかと思われます。

 

2020年10月以降の状況

時々、目立ったものだけですが、以下で記録しています。上記のプロセスも転記しています。

「新型コロナウイルスと日本語教育」 – 【日本語教師読本 Wiki】

 

参考、資料など

□ 法務省「1号特定技能外国人支援に関する運用要領-1号特定技能外国人支援計画の基準について-」の一部改正について
(一人あたり7.5㎡の記載がある文書)

http://www.moj.go.jp/content/001306062.pdf

□ 技能実習生が一人あたり4.5㎡が確保されていなければならないという記載がある外国人技能実習機構の文書
(例外規定も多く、かなりユルい規定という印象)
https://www.otit.go.jp/files/user/docs/info_jissyu_06.pdf

□ 外務省 海外安全ホームページ|新型コロナウイルスに係る日本からの渡航者・日本人に対する各国・地域の入国制限措置及び入国・入域後の行動制限 https://www.anzen.mofa.go.jp/covid19/pdfhistory_world.html

□ 日本から留学する際に渡航注意となっている国々(8月27日更新):文部科学省 https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ryugaku/1405561_00001.htm

この記事について

この記事は2020年にnoteなどに投稿したものを転載したものです。

ライセンス

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引用する際は、著作者名のwebjapanese、サイトのURL( http://webjapanese.com/ )とブログのタイトル、記事の投稿年月(2018年12月31日)を記せば、複製、プリントアウトして研修などに使うことができますし、改変、加筆も自由です。詳しくはクリエイティブ・コモンズへのリンク先を参照してください。
 ただし、このライセンスが適用されるのはオリジナルのテキスト部分だけです。本編内の画像、引用したリンク、動画などは制作者に著作権があります。

参考

いろいろなソースや調査の元資料は私どものサイトの日本語教師読本Wikiの「日本語教育関係のソース」に、調査結果のここ20年くらいの推移は「日本語教育関係のデータ」に、言語政策の流れは「日本語教育の言語政策」に整理してあります。
「日本語教師」「日本語学校」という項目も参考にしてください。