こういう報道がありました。
税や保険料を納めない永住者、許可の取り消しも 政府が法改正を検討:朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASS2544Z5S21UTIL01R.html
なんとなくの印象をズラズラと書いてみます。感想と、あと、いろんな角度であれこれ考えてみるみたいなことです。
- まずは、外国人締め付けなのかもという印象は強い。
- 長く住んでいる人にとっても、急にこんな規制が出来るのは後出しジャンケン的なもので厳しい措置。
- 一方で、おそらく就労系の制度の整備で永住への道が開かれるので、それを想定した締め付けなのかも。
- 年金など財政厳しいので、社会保険料の徴収目的もあるのかも。
- 一方で、滞納で即剥奪は、いくらなんでもないだろう。
- 永住的なものはいろいろ種類があるけども、どこに適用されるのか?
いずれにしても、日本語教育関係で仕事をする人にとってはあまりよい印象のニュースではないですが、アレコレと考えることで、一旦落ち着け、結論を出すのは早そうだ、ちょっと調べようとなります。
もうひとググり
こういうニュースの際、一旦判断を保留して、特に自分の仕事や生活環境に近いことの場合は、SNSでリアクションをみて自分の考えを決め「感想」を投稿するのではなく、ちょっと時間を作って「ひとググり」して考えるという習慣をつけたほうがいいと思います。SNSを情報源にしていると、常に誰かの感想付きで情報が流れてくるので、ついついそれに影響を受けてしまいます。その流れてくる空気は、自分がフォローしている、自分と同じような人達が作った空気です。これをあまり信用しないほうがいいです。
何を知るべきか
多分、永住と日本国籍を取得することと同じと考えている人も、結構な割合でいそうな気もします。そういう人がいるだろう、と頭の隅に置くことも結構重要だと思います。
で、判断するためにどんな材料が必要か?も重要だと思います。考えるために知るべきことは以下みたいなことでしょうか。もっとクレバーな人なら、もっと多いんだろうと思います。私はこれくらいです。一般的に時間軸に近い「そもそも」を調べるという方向と、空間的に広げていく、他の例を調べるという方向があると思います。今回は法律なので他の例は海外の例になるでしょうか。
- 永住とはどんな権利か
- まず永住取得の条件はどんなものか
- では、永住の剥奪はどういう理由によるものがあるか
- 海外ではどうなっているか
報道をみると「永住者」と「永住権」と書くケースがあります。このへんどうやら難しそうという気もします。そのへんも頭の隅におきます。
法律や制度について考えを深める際に、海外の例は欠かせません。違う考え方で作られた例があるということは、考えを深めるのに便利ということでもあると思います。
検索する
永住 とは 取得 剥奪 維持 条件 海外 国名 みたいなキーワードが思いつきます。
日本語で調べるとしても、海外では名称が違うかもしれないので、英語ではどうなのかも調べてみます。
https://www.deepl.com/translator#ja/en/%E6%B0%B8%E4%BD%8F%E6%A8%A9
調べる際にこういう傾向もあるんじゃないか?みたいな要素も加味したほうがより正確なことにたどり着けることがあります。今回なら、例えば永住の取得や維持は、おそらく人気がある国ほど厳しいだろう、みたいなこともそういう要素の一つだと思います。日本は人気があるかは疑問ではありますが、とりあえずアジアでは環境が厳しい国より住みやすいことは多そうです。となると、比較するなら、やはり人気がある国になるだろうとなります。G7の国々みたいなことでしょうか。共産主義の国はまた特殊な例になりそうです。調べるけど、同じような比較はできないかも、という予感もあります。
調べていくと、日本を含め、だいたい犯罪歴があると取得も維持も無理なことがほとんだとわかります。取得に関してはそれまで納税関連は厳しくみられます。次は、海外では、納税や社会保険料の納付が維持に関してどうなのか?です。
「とは?」はほどほどにするしかなさそう。
永住とは で調べると、永住にもいろいろ種類があることがわかります。入管のサイトに在留資格の一覧がありますが、「永住権」という言葉は使われていません。国が許可したという形です。
在留資格一覧表 | 出入国在留管理庁 https://www.moj.go.jp/isa/applications/guide/qaq5.html
永住許可申請 | 出入国在留管理庁 https://www.moj.go.jp/isa/applications/procedures/16-4.html
権利を付与する、ということではなく、永住者として認定する。帰化ではないので権利の制限は残る。永住は在留資格のひとつであることは変わらない。あたりが正確なようですが、もうちょっと調べると、さらに細かい考え方や違いがある模様。今回、そこまでは踏み込めませんでした。
永住者には特別永住者という枠組みがあることは知られていると思います。
特別永住者の制度が変わります! | 出入国在留管理庁 https://www.moj.go.jp/isa/publications/materials/newimmiact_2_index.html
定義はかなり複雑ですが、主に朝鮮半島や台湾などから強制的に連れてこられた方々のことという認識でほぼ間違いないと思います。
特別永住者 – Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%89%B9%E5%88%A5%E6%B0%B8%E4%BD%8F%E8%80%85
今回の改正は特別永住者には適用されないと報道されています。このことがあまり理解されていないケースもあるようです。
定住者というのもあります。これは「第三国定住難民、日系3世、中国残留邦人等」が対象例となってます。元々永住者とは違う在留資格なので、今回の改正は対象外ではないかと思います。
在留資格「定住者」 | 出入国在留管理庁 https://www.moj.go.jp/isa/applications/status/longtermresident.html
定住者 – Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%9A%E4%BD%8F%E8%80%85
永住関連は国によって事情が違う
日本には日本の事情をふまえた定義があり、枠組みがある。欧米では難民受け入れが多いので、日本には無い枠組みがある。みたいなことです。単純に「××国ではこうだけど日本はこうだ」とは言えないかもしれない。ただ、ここはあまり深掘りはできそうにありません。今回のテーマだといろいろ複雑になりそうです。でも、一応知っておくことは重要だとは思います。
報道について詳細を調べる
今回の場合は、今のところ報道だけで、詳しいことはわかってません。納税や社会保険料の納付がどうなったらアウトになるのか、みたいなことです。多分、ウッカリで即剥奪にはならないだろうという気もしますが、そこのところは最終的な判断材料としては、そこそこ重要です。
ということは、詳細がわかるまでは、最終的な判断は保留にしておいたほうがいいかもしれません。しかしここまでの深掘りで、納税で剥奪は問題だと考えるとする人もいるかもしれません。
AIではどうか
これは、検索して調べるという流れになっていますが、AIに聞くということになる可能性もあります。ちなみにChatGPT3.5だと以下のようなカンジでした。
https://chat.openai.com/share/7726199a-caff-42aa-8ea8-1aa93ada070b
ざっとみたカンジでは、税金の滞納などが直接剥奪になるとは言えないようです。難民向けの仮永住権みたいなものがあるようだということもうかがえます。母国で問題が解決すれば帰国しなければならない、みたいなことも、なるほどと思いつつ、なかなか難しそうなところだなという気もします。
一気に解決したように見えますが、よく読むと、雑なところもあります。他国の例では質問によって国が抜けたりします。データがないというより、こういう抜けはよくあります。「可能性があります」「剥奪が考えられます」と、語尾もあいまいです。
カナダの例が目をひきますが、念のため検索してみましたが、確実なことはわかりませんでした。カナダはトルドー首相の印象で移民に寛容というイメージがありますが、前の政権ではかなり厳しい措置を講じています。どこの国もそうですが、移民は大きな政治的課題なので、政策は揺れ動きます。
カナダにおける移民政策の再構築
http://iminseisaku.org/top/pdf/journal/004/004_002.pdf
この他、各国の移民制度については論文アーカイブやシンクタンクなどに文書がたくさんあります。
やはり、やはり確実なことを知るにはググって確実なソースを見つけるほうがよさそうです。
ChatGPT4(Copilot)でも似たような結果でした。こういうすでに十分なデータがネット上にあることが期待されていて、あとは整理するだけみたいなテーマは、3.5と4であまり変わらないと思います。WIkipediaのデータがソースになっていることはわかってますから、そこを比較するだけでも、そこそこの解答が期待されます。ただし、WIkipediaをみたほうがはやいかもしれませんし、正確性も高い可能性があります。
永住権 – Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%B8%E4%BD%8F%E6%A8%A9
しかし、今後は、このAIに聞いた解答で「ほとんどの欧米諸国では~」などとSNSに投稿する人は増えることは確実です。十分に知的で妥当な解答に見えるからです。これが最も深刻な問題かもしれません。
検索したほうが正確か?
これは多分テーマによって変わります。永住は、法律のことで、海外との比較研究もおそらく多い。文書もネット上にある可能性が高い。WIkipediaも充実してそうです。「野菜の甘味についての情報」みたいなものとは情報量も出てくるものの正確性も全然違う。移住も、実際に考える人が多いテーマであり、ガイド的なサイトも多い。で、その種のサイトも情報提供の精度も求められますから、検索して上位に来るサイトが提供するものの正確性は高そうなテーマです。
もうひとつの重要な要素、いつの情報か?
こうやって調べる時、実は最も難しい要素として「時間」があります。情報が古いかどうか、みたいなことです。特に今回のようなテーマの法律は修正されたり改正されたりしますから、いつの時点のものかは重要になってきます。最新ではこうだ、ということは一応の説得材料にはなりますが、かつてそうだった、ということも意味があります。さらに、この種の在留資格関連の法律は、ここ数十年の移民問題で最も揺れ動いているテーマです。
検索して調べる場合、その文書などがいつのものかは、わかることが結構あります。今回のテーマだとWIkipediaのページの更新頻度も高そうですし、より一時ソースに近いものだと、新しさは保証されていきます。
AIのソースは、その辺が弱いです。いつのデータを基にしたものかがわからないという大きな弱点があります。ソースはアップデートされているとは言っても、ネット上のリソースが元なら、そこが古ければ古いものを持ってくるみたいなことになります。この点、ChatGPTより検索性を生かした仕様だと言われているGeminiも同じというわけです。でも人は、AIは最新のソースを元に解答していると信じています。
「故意に」
NHKの報道。「故意に」がつきました。こうなると、やむなくなら大丈夫そうで、かなりニュアンスが変わってきます。
「就労系の在留資格の変更で増加が見込まれるから、という理由であったこと。また「永住者になっても税金や社会保険料を納めなかったり、資格を取り消されない、窃盗など1年以下の懲役や禁錮にあたる罪を繰り返したりするケースがあるということです。このため出入国在留管理庁は、故意に税金や社会保険料の未納や滞納を繰り返した場合や、窃盗などの罪で1年以下の懲役や禁錮になった場合は永住許可を取り消すか、ほかの資格に変更できるように在留資格制度を見直す方針を固めました。」
とのことで、資格を取り消さされない範囲でスキマを狙った行為が実際にあるので、ここの手当て的なものである模様。また他の資格に変更などもあるらしく、剥奪で帰国というものではなさそう。もちろん、実態がどうなのかはわかりませんし、例えば永住者すべてに適用ではなく、永住者となって10年経過するまででもいいような気もします。このへんも含め、まだ分からないことは多いので、今回のこういう措置が妥当なのかは、また別に考えることですが。
故意に税金未納や滞納繰り返した場合 国が永住許可取り消しへ | NHK | 法務省 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240219/k10014364291000.html
故意じゃないは、たぶん、未必の故意を使ってくるんじゃないかな?
そうなると、結構厳しいよ。
— 行政書士 辻太輔 (@visa4you_tokyo) February 20, 2024
他の在留資格に変更も?
強制帰国に該当しない場合は他の在留資格に格下げになる?
より詳しい報道も増えてきました
以下がまとまっていました。
「税未納なら永住許可取り消し」今国会に入管法改正案 一方で「貧困など悪質ではない事情もあり得る」との指摘も | 文春オンライン https://bunshun.jp/articles/-/69197
「現行法では、永住許可後に要件を満たさなくなった場合、資格を取り消すことは原則としてできない。」
ここを変える、ということなんでしょうか。
ただし…
「1年超の懲役刑や禁錮刑(来年6月から「拘禁刑」に一本化)を受ければ現行制度でも強制退去の対象となるが、新たに1年以下の懲役・禁錮刑を受けた場合も取り消し可能とすることを検討している。」
と現行法でも例外があり(上の「原則として」が示すところ?)、そこが強化される、ということのようです。この「1年以下ならセーフ」というスキマを狙った犯罪が増えているから、というのがその理由とのこと。
この方向性は、永住許可の条件となっていることは、許可後も監視を続けるということで、それは納税や社会保険料も対象になる、というニュアンスのようです。まだ、こっちはどういう規定が想定されているのかは、ハッキリしません。
自治体から入管に通報するというルートができるのも、新たなところらしいです。税金関係は地方でやるので、改正になるなら、それはそうするしかないでしょう。
永住者の納税の状況に関しては、以下のような解説もありました。
大阪独自に永住権付与
大阪府・市、資産運用特区で30提案 海外投資家に永住権付与など – 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF196FX0Z10C24A2000000/
元々どうだったっけ?と思っていたら…
ガイドライン『日本国内の企業の経営におおむね3年以上従事したことがある者で,その 間に継続して1億円以上の投資を行うことにより我が国の経済又は産業の発 展に貢献のあった者』
ハードル上げてる(笑)
大阪府・市、資産運用特区で30提案 海外投資家に永住権付与など https://t.co/ly8wXhScgp
— 行政書士 辻太輔 (@visa4you_tokyo) February 22, 2024
同じくらいですけど、気前よく付与しますよ、くらいのことなんでしょうか。選挙アピール用?
ここまでで
で、改めて自分はどう考えるのか、に戻って考える、ということになるんだろうと思います。
ニュースの度に自分が知らないことを調べたりは面倒ですが、今回調べたことは、次の別の問題を考える時にも役に立ちます。次から検算の精度が上がると思います。世の中すべてのニュースでこれをやるのは無理ですが、自分の仕事の周辺のことくらいは、やっぱり、ちゃんと調べて理解してから、自分のスタンスを考えるということを続けるのは大事という気がします。
そして、自分のスタンスを決めてから、情報を収集するのではなく、一旦、態度を保留して、ニュートラルな気持ちで収集し、収集した情報で、改めて考えるという順番です。これは、日本語の教え方など、すべてのことを考える順番としても守るべきものだと思います。
このブログ記事はここまでです。
追記
【追記】 行政書士の方々の反応など
検索して調べたところによると、永住権が取り消されるケースはレアだが、年に数件あるとのことでした。ドラッグなど犯罪や不法滞在助長で捕まると取り消しになるとのこと。
新しい「永住者ビザの取り消し制度」が開始する見込みです。十分にご注意ください!① | 東京 新宿 かかりつけの外国人ビザ専門の行政書士 ソフィア国際法務事務所 https://ameblo.jp/yokotahoumu/entry-12842402157.html
→ 数年前から取り消し制度は政府で検討はされていたので、既定路線だという見解。イギリスやシンガポールにも取り消し制度があるとのこと。(2021年12月にNHKの国会答弁中継の自民党の議員に対する答弁のやり取り)
日本が税金未納などで外国人の永住権取り消しへ、その背景は―華字メディア(レコードチャイナ)|dメニューニュース(NTTドコモ) https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/recordchina/business/recordchina-RC_929809
どうなる永住権、「殿様枕」って何? 日本のニュースはどう読まれた:朝日新聞デジタル https://digital.asahi.com/articles/ASS363H49S34ULPT001.html
Foreigners with permanent residency could face stricter rules | The Asahi Shimbun: Breaking News, Japan News and Analysis https://www.asahi.com/ajw/articles/15149510
Japan to make it easier to revoke foreigners’ permanent residency : r/japan https://www.reddit.com/r/japan/comments/1amogc4/japan_to_make_it_easier_to_revoke_foreigners/
【追記2】永住者の税金未納率国が公表
永住者、税金など未納は1割 厳格化めぐり国が初公表(毎日新聞) – Yahoo!ニュース https://news.yahoo.co.jp/articles/10ac9d47883d7a3c0fb88197683dc6b9ea8885e1
「2023年12月末現在、国内に永住者は約89万人おり、すべての永住者の納付状況は不明とした。ただし、一部の永住許可申請の書類を調べた結果、23年1~6月に審査を終えた1825件のうち、未納は235件(12・8%)あったとした。内訳(重複含む)は、住民税31件▽国民健康保険15件▽国民年金213件▽その他4件――だったという。」
【追記3】
衆院を通過。「故意に納税などを怠った場合」は永住許可は取り消しという方向でほぼ決定に。
出入国管理法などの改正案 衆議院本会議で可決 参議院へ | NHK | 技能実習生 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240521/k10014456301000.html
修正の議論では「今月17日の衆議院法務委員会で自民・公明両党と立憲民主党、日本維新の会の協議により、永住許可の取り消しにあたっては生活状況などに十分配慮することなどを付則に盛り込む修正が行われました。」だったが、最終的に立憲民主党は反対。
改正案は採決の結果、自民・公明両党や、日本維新の会、国民民主党、教育無償化を実現する会などの賛成多数で可決され参議院に送られました。
立憲民主党や共産党、れいわ新選組などは反対しました。
【追記その他】
在留外国人の保険料納付状況など初調査へ 厚労省 | NHK | 厚生労働省 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240524/k10014460081000.html
ま、法律論を言うならば、永住者は権利として設定されてはいないが、在留資格に居住権の一部が含まれていると考えることも出来る。
一方で、今回の永住者の取消においては、退去強制手続きに入らない限りでは、「職権で、永住者の在留資格以外の在留資格への変更を許可するものとする。」とあり、— 行政書士 辻太輔 (@visa4you_tokyo) May 29, 2024
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【追記4】
<独自>永住者の税金滞納、一部自治体で日本人の3倍に 政府内部資料で判明、資格剥奪も(産経新聞) – Yahoo!ニュース https://news.yahoo.co.jp/articles/2baff83a83790ead5e65c0b3b422d3d959d294b4