1.Nさんの質問
4月の3年生ゼミの授業でのことである。私は口頭発表を終えて約10名の3年生を見まわし「私の“口頭発表のお手本”は以上です。次は“質疑応答の練習”として、1人ずつ質問してもらいます」と告げた。順に学生が質問する中、ゲームをこよなく愛するNさんが問うてきた。 「先生のレジュメの例は明治時代のものが中心で、1人称の『わらわ』はへりくだって使うって話ですよね。でも、今のゲームとかで『わらわ』使うのはめっちゃ高飛車な女性キャラってイメージです」 私が同意するとNさんは続ける。 「もしかして『わらわ』って、先生が去年の授業で言ってた…なんだっけ…『おまえ』とかで敬意がすり減ってくやつ…」 「敬意逓減(ていげん)の法則?」 「そうそう、それです! 『わらわ』にも当てはまりますか?」 「わらわ」の漢字表記に「妾」を使うことばかり考えていた私は、たしかに、と唸った。

近畿大学文芸学部准教授。専門は日本語史。明治時代の日本語を中心に研究を進めている。大学では日本語史や日本語学の授業を受け持つかたわら、日本語教員養成課程の運営にも携わっている。雨後のタケノコのごとく湧き出る大学の仕事をさばいたりさばききれなかったりしながら、授業では学生たちと格闘し、家では2人の子供と格闘する毎日。隙をみて明治期の文献資料を読んだり探したりする。気晴らしは、ジョギングと『ハノン』(ピアノの運指練習曲集)を弾くこと。無心になれる時間が尊い。