👉 この記事はかつて「仕事としての日本語教師」にあったものですが、独立した記事にしました。
日本語教師は、そもそも育児や介護などのサポートが期待できない非正規の比率が7割という時点で「働きやすい職場」とは言えないわけですが、女性が多いこともあって、そういうイメージはあるようです。最近はパートタイマーでも社員並みの手厚いサポートをする業界は増えています。育児や介護で休業できるように、法律的に時間数が足りないパートの人でも雇用保険に加入することにして会社が負担するとか、法律で定められた育休産休よりも休めて支給額も多い、などなど。。。それらと較べると、日本語学校は、女性が多いので子供が病気だから休むみたいなことが「言いやすい」という程度のことはあっても、制度としてサポートをするみたいな話は、20年間で一度も聞いたことがありません。非常勤を常勤にという動きは2017年の法務省のルール改正で専任をもっと雇わなければならなくなって少し出てきましたが、例えば非常勤に常勤並みの待遇を、というようなことはまったく聞きません。
できる範囲で検証してみます。
女性の比率
女性が多いという印象がある日本語教師ですが、いろいろな調査があります。
まず日本語教育学会の会員の男女比があります。
女性が75%(?)ということでしょうか。一般の日本語教師も会員ですが、大学の研究者がメインなのでやや男性が多いのかなという印象です。民間の日本語学校は90年代は90%以上が女性でしたが、男性も少しづつ増えています。
文化庁の日本語教育実態調査では男女比の調査ありません。
日本語教育能力検定試験の調査では、男性は20~30%です。転職を考えた時、検定試験は420時間よりも働きながら取得しやすいので男性が多いのではないかと言われています。
http://www.jees.or.jp/jltct/result.htm
大学や公的機関では男女関係なく採用されるので男性がやや多いという印象です。民間の日本語学校は女性が8割以上なのでは?と感じます。ただし専任講師は男性が若干増えるという印象です。専任になるには男性のほうが有利という声はよく聞きます。人事権をもった経営者はほとんどの場合男性で、男性を選びがち、というようなことが理由のようです。
文科省が新たに2017年に公表した日本語学校の基本データからみてみます。ここには校長と教務主任の名前がありますので、名前から男女を推測して、数えてみました。(一部記載がないところもあり、数え間違いもあると思います誤差は+-5前後?比率にはあまり影響ないはずです。)
校長:360校中 男性は275人で76.3% 女性は85人で23.6%
主任:354校中 男性は107人で30.2% 女性は247人で69.7%です。
主任の女性の比率は男女比の構成(8割)からすると、若干女性が少ないという印象です。校長になると、女性はわずか23.6%。日本語学校の場合、経営は理事長なので、校長は教務のトップということになるんですが、校長は理事長と仲のいい人が雇われ校長みたいな形で座ることもあります。つまり女性は日本語学校での出世は、主任どまり、ということになります。ただし、大きな学校では複数の主任がいて、そのトップという役職もあるとは思います。
前にも書きましたが、この主任という役職は法務省でも規定があるので、多少は給料など待遇はよくなるはずですが、「経営的な」「出勤退勤時間が自由」という管理監督者にはあたらないのではと思います。つまり管理職にはあたらず、残業代も受け取る権利がある。管理責任者と言えるのは、校長からではないでしょうか。この点、注意が必要です。
校長になると急に男性の比率が76%になるということは、校長は教務のトップではなく、経営者にとっては経営の片腕という要素が大きいということだと思います。つまり主任など教務の仕事の延長上にあるポストではないということです。従って、経営者の意向が強くでる。雇われ校長でなく元教師が校長になるケースは、ほとんどの場合、教師感で尊敬を集めているとか、国際感覚とか知識教養(修士や博士持ってるとか)ではなく、まず中小零細の経営者に信頼されるような要素が優先され、どちらかというと「熱血」みたいなことが重要になるのかなという気が(外からみてると)します。ケースバイケースだとは思いますが。
👉 民間の日本語学校の男女比は90年代は女性は9割を超えていたと思いますが、2010年以降は、男性も少し増えてきました。今は女性7~8割ぐらいではないかと思います。就職先としてはかなり難しい民間では、研究職が含まれる日本語教育学会の比率(75%)よりやや女性が多いとみて間違いないと思います。
👉 法務省の規定では、校長が有資格者の場合、専任の教師としてカウントしていいことになっています。ST比の規定などをクリアするためなるべく専任を雇いたくない学校は雇われ校長ではなく、有資格者を校長に据える、というケースがあります。
日本語教育関連団体の役員の女性の比率
以下、名前からの類推ですが、、、
日本語教育学会の役員は22名中女性は10名。評議員40名中女性は17名と会員の比率(女性が75%)とはかなり違います。
http://www.nkg.or.jp/guide/g-meibo2017.pdf
(調べたのは2015年の名簿です。このリンクは17年のもの。どのくらい変化があったかカウントしてみてください)
日本語振興協会の役員は12名中女性は1名。評議員25名中女性は3名と圧倒的に男性が多いようです。
http://www.nisshinkyo.org/about/pdf/j46.pdf
全国日本語学校連合会は、役員18名中女性は2名です。
http://www.jalsa.jp/soshiki.html
学会でも女性の比率が役員の数には反映されておらず、民間では経営者から選ばれることもあって、完全に男性優位ということがうかがい知れます。
👉 職業別女性の比率というのがここにあります。
http://tmaita77.blogspot.jp/2015/04/blog-post_28.html
美容師、図書館司書、介護職員と比率が似ているということになります。
東洋経済の「主婦に密かな人気」という記事
「日本語教師」でググると上位に表示される東洋経済の「主婦に密かな人気、「日本語教師」は稼げるか」という記事があります。この記事では「子育てしながら続けやすい」としてその理由を探るという形で書いており、結論でも「効率よく稼げるわけではない。しかし、子育てしながら続けられる日本語教師は「手に職」願望の強い主婦にとって確かに魅力的。「勉強しても勉強しても奥の深い世界」(加藤校長)だからこそなおのこと、やりがいもある。時代も追い風だ。飛び込んでみるのもいいかもしれない。」と結んでいます。
しかしこの記事は、インターカルト日本語学校周辺の取材とインタビューをしたというフリーランスの教師一人だけで、他に取材をした形跡がありません。書いてあるのは、なんとなく業界で知られている相場の時給や報酬ぐらいです。肝心の「子育てしながら仕事がしやすいか」という点、例えば育児休暇はとれるのか、出産後に復職できるのか、というような大事なこと、はまったく客観的なデータもなく、取材も、検証もありません。
それでも最後はなぜか「子育てしながら続けられる」「主婦にとっては魅力的」「飛び込んでみるのもいいかもしれない」とライターは結んでいます。
アクセス数を増やすのもなんなので、アーカイブ化したページが以下にあります。以下からどうぞ。
https://archive.is/MR545
https://archive.is/S739f
https://archive.is/bTYlJ
https://archive.is/gOykQ
👉 そもそもこのライターはこの学校の講師であったということがアルクの体験談などで確認されています。(現在は削除されています)。つまり、ほぼ職場周辺での取材のみです。それが「女性にとって働きやすいか」というようなテーマで、日本語教師でググって上位に来てしまうのは、とても残念です。
女性にとって働きやすい職場とは?
まず採用、昇進で男女による差別がないこと。採用では少ないと思いますが、昇進では明らかに差別が存在するようだということは書きました。校長の比率は23.6%。これは少なくとも50%は超えていなければならない。この点は日振協などの業界団体が、本気で調査して情報公開をしていく。ガイドラインを作り改善していく姿勢を見せないかぎり変わることはないでしょう。
その他、どういうことがあるでしょうか?制度的なサポートはあるか?労働基準法などで女性に対する配慮(育児や出産などを経ての職場復帰など)があるか、みたいなことも大事です。
7割以上の非常勤講師がいるわけですが、勤務時間を調整して雇用保険などへの加入義務が生じないように学校側が調整している、という話は聞きますが、育児や介護休業が取得できる雇用保険をはじめとする社会保険の加入を学校が促進している、という話は聞いたことがありません。アンケート調査でも項目を設けましたが、こんなカンジでした。
👉 アンケート「日本語教師への10の質問」より https://goo.gl/zM1lpI
育児休業(介護休業)
育児も介護も女性の仕事というわけではありませんが、実態として女性の負担が大きい現実があります。子育てと介護が同時に来るとその費用は月額8万くらいという調査結果もあります。高齢で出産するとこの「同時」はかなりリアリティがあります。
日本語学校は法務省の認可を受けている日本語学校は、専任講師は社員で社会保険の加入が義務づけられています。しかし、専任講師は、日本語教師の3割弱に過ぎません。また、この3割弱が育児休業をちゃんと申請し、休暇が取れているか?職場復帰ができているかは、調査をしないとわかりません。私が知る限りでは、育児休暇を法律どおりとっているかはかなり怪しいと思います。介護休暇で休んでいるという話のほうはまったく聞きません。(しかし大手のスーパーなどではパートの人も介護休暇が取れるようになってきています)この点、業界団体の調査が待たれます。
日本語教師の大多数である非正規の非常勤講師は、社会保険に加入しているという話は聞いたことがありません。法律上は、非正規でも育児休暇は取得できます。条件は以下のとおり。
0)雇用保険に加入していること。
1)同一事業主で1年以上働いている(日々雇用される者を除く)
2)子供が1歳になっても雇用されることが見込まれる
3)1週間に3日以上勤務している
4)期間雇用の場合は、子供が1歳になってからさらに1年以上あとまで契約期間があること
まず0)の雇用保険に加入しているかという条件がある時点で、もうほぼ無理です。そういう非常勤の日本語教師は超少数派です。
会社は「週の労働が20時間以上で、30日以上働く人」には雇用保険に加入しなければなりませんが、日本語学校はコストがかかる雇用保険をわざわざ適用させようとしないはずです。社会保険の説明でも書きましたが、学校にとって20時間は重要な数字。20時間以下で済むよう、きっちり調整してくるはずです。
日本語学校の非常勤講師は、おそらく3)と4)もひっかかります。一週間に3日以上勤務している非常勤は半数くらいでしょうか。さらに雇用契約は学期ごとであるケースが多く(契約期間を明示しないケースも多いが習慣として3ヶ月ごとに学期が変わることが多く、担当コマ数も変わる)1年以上の長期雇用契約を交わすことはあまりないはずです。
日本語学校の非常勤講師が妊娠をして、育児休業を申請し、1年休む。その間、手当てを受け取り、1年後に職場復帰した話は、これまで20年間聞いたことがありません。
取得できるのは、産後休業は出産の翌日から8週間。そしてこの産後休業から原則子供が1才になるまで取得できます。この約1年の間 育休前の日給 × 日数 × 67%(6ヶ月以降は50%) の金額を受け取ることができます。これは会社が払うのではなく雇用保険から支払われますから、もし日本語学校が女性を大事にする職場であれば、非常勤の雇用保険の加入を積極的に進めていくはずです。
日振協とかJaLSAなどの日本語学校の業界団体が調査して公表し、非常勤講師の半数以上は雇用保険の加入の義務化、あるいは加入率8割など数値目標を作ってやるなら「日本語教師は女性にとって働きやすいところだ」と言ってもいいかもしれません。週20時間という規定はあくまで「やらなければならない数値」であって、業界でより厳しい規制をかけることはできるので。どちらか一方の団体が明確に数値目標を掲げて、達成度を公表するようになれば、そっちのほうが女性にとって働きやすい、ということになるとは思います。
👉 最近、法律が改正になりました。
育児・介護休業法について
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html
産前産後休暇について
http://www.roudou.net/ki_sanikukaigo.htm
*ギリギリまで働く、出産後すぐに復帰する専任教師は結構いるようです。私もみました。法律的な処理はどうなっているのか。。。
👉 介護も男女問わず大変な問題です。介護休業もほぼ育児休業と同じような条件なので、日本語学校の非常勤講師に適用されることはまずありません。
復職はできるのか?
育児や介護だけでなく病気など長期の休みが必要となった時、復職できるのかも大事なポイントです。
日本語学校では「給料や待遇に文句を言わない、サービス残業を厭わない便利な非常勤としてみとめられれば」便利なコマとして在籍させてもらえる、という側面があります。その意味では、そこに所属していれば、非常勤として復職はしやすいのではないかと思われます。ただし、フルタイムに近い形で働いていた人が1年休業してまた同じ時間働ける形で復職できるのかは、?です。規定上ギリギリのラインなら、抜けた分は補填しないといけませんし、そうなると、復職した際に席はないことになります。おそらく一旦休業するとなると、復職はできても、週数コマくらいで安い時給で働く便利なベテランでよければ、可能、というくらいではないでしょうか。
現状では、日本語学校業界団体でガイドラインを作り、定期的な調査をする、匿名で通報できる窓口を作る、罰則も含めたペナルティを作るみたいなことがないと、零細企業が中心の日本語学校業界では女性が働きやすい環境を作るのはかなり難しいと思います。そもそも非常勤で雇用保険に入っている人はほぼいないので、育児や介護で休業はもらえず、辞めるしかないわけです。この雇用保険加入促進からはじめるべきだと思います。例えば、日本語学校の非常勤で多い「週5コマ以上」で「2年以上事実上(「事実上」は大事。少々途中で途切れても累積で2年あれば認められることにするなどとしないと、適用逃れでぶつ切りにするところもあるので)の雇用契約がある」なら、雇用保険の加入は義務とする、とか。
ともあれ、現状では、一般企業に較べて、常勤、社員という立場では、同じ条件での復職はほぼ不可能、と言ってもいいと思います。もちろん非常勤なら同じ条件で復職できる可能性はあるのですが。
再び、日本語教師は女性にやさしい職場か
ここ数年の政府の積極的な取り組みもあって、今は、中小企業でも、社員でなくても、育児介護休業は、女性はとりやすくなっています。レジの仕事でも事務のパートでも派遣でも、条件を満たしていれば、申請できる会社はいくらでもあります。
日本語学校は、まったくそういう話は聞きません。日本語教師養成講座の広告は、相変わらず「やりがいがある」「海外で仕事ができるかも」です。
もちろん、女性が多いので、妊娠中や子育ての事情で休んだとしても、融通が効くというところはあるかもしれません(そうしないと女性が多い職場ですから仕方なく、でしょうか)しかし、それは、もう今や当然のことで、理解があると評価する次元の問題ではありません。(もちろんすべての職場がそうではないですが)
日本語学校業界では、ごくごく一部の学校を除いて(そういう学校があると思いたいのでこういう留保をつけておきます)、女性が働きやすいように、制度としてサポートしたり、手当てを支払うというようなことは、ほぼないと思います。日本語学校の組織団体でも、女性が働きやすいサポートをするということを聞いたことがありません。女性の経営者がリーダーシップを発揮して発言していくといことも聞きません。「女性が働きやすい」というのは、ちょっとしたことに理解があることは当然で、きちんと制度としてサポートがあり、育児休業もしっかり取れる体制があってこそなのでは、と思います。
「日本語学校は女性が働きやすい」という声があるとしたら、それは、今の一般的な企業の事情を知らない人が、なんとなく女性が多いから子供の病気などで休んでも代講を頼みやすい、くらいの話で言っていることなのではと思います。20年前なら、評価できたことかもしれません。しかし今でも、日本語学校では急な事情で休む場合は理由のいかんを問わず「あなた同僚に代講頼んでくれない?」と代講教員を探させられる、みたいなこともよくあると聞きます。休みがちな非常勤は確実に仕事を減らされます。
90年代からこれだけ女性が多い職場なのにも関わらず、女性にとって大事なサポートがまったくされていないというのは、これまで日本語学校で働いてきた女性達の責任でもあります。なんとなく融通が利くくらいでやり過ごしてきたという側面があると思います。そして、そういう人達が「私たちもがんばってきたんだから」と壁になっているということはないでしょうか?学校の経営は大変なのに、非常勤のくせに介護休業なんて、という発想があるのでは?もうちょっと他の会社、社会をみるべきです。8割近くが女性の職場なわけですから、日本語教師という職業のためにも、女性が働きやすい職場にするために、これからは力を貸してほしいと思いますし、現役で働いている方々も改善に向けて発言していって欲しいなと思います。
ほんとに女性が働きやすい職場なのか?は、女性が働きやすい職場とはどういう職場で、それがすべての日本語学校でどの程度行われているか、業界団体などが、どう考え、女性が働きやすい職場にしようと取り組んでいるかなどが、重要です。業界団体にそれを期待するのは無理かもしれません。現場の日本語教師に名前を出して声を上げろというのも難しいかもしれない。そこをきっちり取材する人が現れてほしいものです。
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