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【過去記事】日本語教育に関する7つの事実

日本語教育に関する7つの事実 
2017年4月2日初版投稿 2018年1月31日改訂 約1万6千字 
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About
はじめに
2016年から2017年にかけて日本語教育推進議員連盟というのも作られたりして、2017年の3月には日本語学校関係者によるヒアリングがあったようです。報告や資料をみるかぎり、陳情みたいな話ばかりで、議連の方々も、基本的な知識がないまま、各団体の陳情を聞くだけになっているという印象です。
児童の日本語教育の問題や日本語学校の不祥事もあり、この議連もありで、日本語教育はいろいろと話題にもあがってますが、どうもいろいろ誤解があるようです。いろいろあるんですが、ひとまず7つくらいに絞ってみました。日本語教育業界の人は、当然誤解のままにしておきたいことは黙っているし都合の悪いデータや資料は出さないようので、「不都合な事実」も含め、ちゃんとまとめておこうと思いました。

 

日本語学校は日本語を勉強するために留学する人がいく学校



95%以上は、日本の大学や専門学校に進学するための日本語能力を身に付けるための予備校、経由地として日本語学校に入ります。最大2年間在籍し、進学できなかったら帰国します。テレビのバラエティ番組などでは、いろんな国籍の人がいる学校が紹介されがちで、そういう学校は日本語だけやって帰る学生もいます。

👉 日本語学校の学生の国籍の比率は文科省で公開された日本語学校の情報をみるとわかります。もちろん大学や専門学校に直で入る人もいますが超少数派です。
👉 多国籍の日本語学校は全体の5%以下で、95%以上の日本語学校は、中国、ベトナム、ネパールの3カ国のうち1国か2カ国に70%前後を依存しています。

 

では、日本語学校は大学への進学予備校のようなものだ



そういうことになりますが、実は日本語学校の毎年の大学への進学率(毎年の短大・大学・大学院への進学数 / 在籍学生数)は77743人中9011人で12%弱です。専門学校へは13650人で17.5%。合計で30%程度です。日本語学校の在学期間は1~2年なので、コース修了時の進学率はやや高くなるとは思いますが、高めに見積もっても、学校修了時の大学進学率は20%前後専門学校への進学率は30%程度なのではと思われます。つまり進学率は50%前後です。進学予備校にしては、進学実績はかなり低いと言わざるをえません。
👉  留学生のうち日本語学校や専門学校にいるのは7万人くらい。大学は15万人くらいです。大学の入学者数が毎年4万人くらいだとすると、日本語学校から進学するのは約22%です。ただし地方の私大や短大が多く、国立大学やいわゆる難関私立はそれほど日本語学校には依存していないと言えると思います。詳しくは、日本語学校の能試の合格率や大学進学率をまとめたものは上のメニューの「日本語教師」>「日本語学校の選び方」をみてください。

👉 日本語学校と同じ学校法人グループの専門学校に進学というケースもかなり多いようです。地方の私大もほぼ無試験で入れるところがたくさんあります。大学や専門学校で日本語ネイティブと一緒に授業を受けられる日本語力の目安としては、日本語能力試験のN2合格以上というのがありますが、年間のN1N2合計の合格者数は11721人で15%程度。2年修了時の合格率は多くて30%くらいだと思われます。7割は本来は進学できない日本語能力のまま日本語学校を修了していますが、そのままグループの専門学校に進学したりしているようです。 

 

留学生のアルバイトの週28時間は適切だ



日本は国際的に比較しても例外的に多い国です。

世界的に留学生のアルバイト時間は、その国の「成人の週の法定労働時間の半分」という了解があるようです。国際労働機関(ILO)で週40時間が目安となっているので、先進国は、どこも20時間までです。すでに留学生数で日本を抜きどんどん増加中の中国は留学生のアルバイトは全面禁止で即帰国です。実は、日本はすでにバイト目的でないと留学生が来ない国になっていて、このままではアジア諸国が豊かになった時には留学先としては選ばれない国になってしまう可能性があります。
👉 参考資料 
外国人留学生の受入れとアルバイトに関する近年の傾向について 2015 志甫啓 
http://ow.ly/xCGh309jxAx
諸外国の労働時間制度の概要 2005
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/05/s0520-7a.html
労働政策研究、研修機構
http://www.jil.go.jp
留学生の資格外活動許可基準の歴史的変遷とその諸問題
https://drive.google.com/file/d/1nDECqH73lMReqJmeMCxd8HZGM7eHY4r3/view?usp=sharing

あと、日本語学校の授業は週20時間です。

 

日本語学校も地方自治体も地元企業もバイト時間は多ければ多いほどいいと考えている
2010年以前は、留学生は、日本語学校などの学生を「就学生」、専門学校や大学の学生を「留学生」と呼び区別されていました。日本語学校の学生のアルバイトは1日4時間、週5日で20時間という規制がありましたが、2004年にできた全国日本語学校連合会をはじめとする日本語学校業界が28時間への拡大を求め、署名活動をはじめ、政府に強烈な陳情を繰り返し、ついに2010年の就留一本化で実現したという経緯があります。

アルバイト時間拡大は、学生募集で圧倒的に重要です。日本語学校は学生確保のためにも常に増やしたいものであるようです。ある種の留学ビジネスにおけるディスカウントのようなもので、日本は留学ビジネスにおいて、欧米各国や中国のように「定価」では売れず、働けて時給もいい、と、世界で最も安売りをしていると言えます。

自治体や地方の企業は「留学生支援と人手不足解消のWin-Win」と称して日本語学校を誘致したり提携したり、校舎や寮建設に便宜をはかったりと「学校」に援助をしますが、奨学金で「学生」を援助しようとはしません。学生個人を支援してしまうと働いてくれなくなるからです。要するに働き手が欲しいので(佐賀の例は定員100人なら、一人10万で合計年間1000万と教師の給料で320万くらい、合計年間1320万円がの助成金が「学校」に出るとのこと。学生には別枠で留学生の25%を「目標」に月2万の奨学金制度があるのみ)。
日本語学校は「貧しい国や地域の若者をサポートするのも役割のひとつ」と言いますが、中国のように例外的に人口が多いところ以外は、豊かになると日本には来てくれなくなるので(その傾向はますます強くなってます)、留学市場として、適度に貧しい国を次々と開拓するしかないという事情があります。途上国の若者を支援したいのなら、まず、その国の教育制度を支援サポートするのが一番です。仮に日本語教育をやるなら、貧しい若者にわざわざ日本に自分のお金で来て貰って、自分の学校の学費や進学先の学費も日本価格で払わせるのではなく、今や中小企業もやっているように東南アジアなどに進出して現地で学校運営をすればいいのではと思うのですが。
👉 こちらにもう少し詳しいデータと説明があります。 
留学生のアルバイト時間の国際比較【資料】日本語教育関係のデータ
http://ow.ly/ZXWm30ajqUS

👉 2017年3月には九州経済連合の研究チームから留学生のアルバイトを36時間にする特区構想が出ました。36時間はフランスやドイツでは、成人の週の法定労働時間を超えます。欧州ではこの労働時間は残業手当の目安ではなく、これ以上働かせると場合によっては訴訟になったりするという基準なので、留学生に課すのは国際的な非難を浴びる可能性があります。日本語学校業界からは反対の声は出ておらず、全国日本語学校連合会は28時間の制限があるのは「悪法」として36時間の特区構想をコラムでうまい試みだと評しています。

 

日本語学校を管理する省庁がない



日本語学校は、入国の際の審査と学校の認可は法務省、学校の教育内容に関しては文科省が管理しています。
法務省に認可を受けた学校のリストはここに。ただし最初に認可されれば、定員増などの変更がないかぎり、ずっと認可したままですが、2017年からこの基準に違反したら認可取り消しになることになりました。やっと本格的な管理がはじまったと言ってもいいと思います。

文科省も2017年から日本語学校に基本情報の提出をもとめサイト上で公開することにしました。日本語教師養成講座も文化庁が同様に届け出をさせるようになりました。ただし今のところ、学校の内容、養成講座の中身までのチェックはしておらず、認可取り消しなどの権限はありません。基本的なデータの提出先というだけです。こちらも国よる本格的な管理は始まったばかりといってもいいと思います。
👉 この平成25年のデータによると、入国管理局で不法就労の摘発に従事する職員はわずか1500人前後です。技能実習生で20万人超、留学生が20万人、その他いろいろがあり、それを1500人でみるというのはかなり厳しいということではないか、という気がします。

元ファイル(PDF)
http://www.moj.go.jp/content/000110204.pdf


👉 これまでは文科省は距離をおいてましたが、ここ数年、強く関与してくるようになったという印象です。どちらの省庁も2015~2017年にかけていろいろと打ち出されている方策を本気でやってくれるなら、多少は改善されるのではと思います。
👉 ただし、日本語学校に対する法務省のスタンスは、入管として犯罪防止、予防なので、その関連で失踪を管理したり、それに繋がる28時間の不法就労をみています。文科省は学校運営だけ。日本語学校が学習者と学費の返済計画を結ぶ労働契約など労基法関連はチェックするところがありません。不法就労で経営者が逮捕されたりしていますが、学生募集時からのかなり悪質な奴隷取引のような事案でも、裁判では結局「知りながら28時間以上働かせた」という点のみが裁かれて、執行猶予付きで終わりです。今の日本語学校は、ブローカーを通じた学費の返済計画などの契約が問題となっているので、そういう奴隷商法的な部分、労基法関連は、スキマとなっているのでは?と思われます。(労基署による日本語学校の強制労働での摘発は2017年にはじめてありました。今後進むかはわかりません)
👉 どういう仕組みかはハッキリわかりませんが、日本語学校は簡単に転校できないようになっています。ダメ学校に入ってしまうと不祥事で廃校にならないかぎり居続けるしかありません。ダメ学校認定制度が必要なわけですが、それが難しいということかもしれません。例えば、入学時の約束と違うというような訴訟を簡単に起こせるような仕組みがあるといいかもしれません。

 

業界団体の審査があったが事業仕分けで国が奪った



審査は一度も中断されずに続いています。これは当時の民主党の事業仕分けの成果を語る文脈で批判的にネットで言われていることが一般にも広まったようですが、全然違います。
事業仕分けで日本語学校の多数が加盟する日本語教育振興協会(日振協)は廃止が決まって、審査も無くなるはずだったんですが、直後に民主党政権のほうが廃止になってしまったので、グズグズになって、結局続いています。新規で2年、既存校で3年ごとに審査をしていますが、もう事業仕分けの何十年も前から形骸化しており、業界は自浄能力を発揮したケースはほぼ皆無です。ある意味では審査の廃止、日振協の廃止は正しかったと思います。日本語教育関係の事業仕分けは大味でピントはずれでしたが。
日振協の事業報告をみても、ここ10年の審査でも、ほぼ100%が合格となっています。ここ数年不祥事を起こした学校のほとんどは、法務省の認可を受け、業界団体の審査を受けて合格した学校です。法務省の日本語学校の認可も、日振協の審査も、書類上のやり取りだけで、日本語学校のチェックにほぼ何の役にも立っていないのは、業界の人すべてが昔から知っていることだと思います。



👉 法務省が認定した日本語学校のうち、日本語教育振興協会に加盟しているのは6割弱で審査を受けてない学校も多く、もうひとつの業界団体である全国日本語学校連合会(JaLSA)の加盟率は25%前後で、学校の審査、情報公開はまったくしていません。2016年、不祥事を起こした学校は4校のうち3校は日振協所属、1校は全国日本語学校連合所属でした。業界団体には、それぞれJaLSAには倫理規定が、日振協にはガイドラインがありますが、それを守るためのチェックも罰則もありません。
👉 日振協の事業仕分けは動画が残ってます。 https://www.youtube.com/watch?v=W3gSUslh6r8&t=304s

 

日本語教師は不足している。



概算で、需要のほうを考えてみます。2017年の国内の日本語学校の常勤の専任の数は2246人、非常勤の数は5419人。合計7665人。このうち毎年補充しなければならない人数を出してみます。日本語教師の離職率はかなり高いはずです。大企業中小で職場環境が厳しい業界で3年離職率が4割ですから基本、零細企業で非正規が7割の日本語学校業界では、3年離職率は5割くらい(あるいはもっと多い)ではないかと思われます。だいたい1年に15%くらいが減る。つまり毎年1149人の補填が必要ということになります。
次は供給です。毎年、大学の日本語教育関係の学科で約4000人の卒業生が出ており、民間の日本語教師養成講座では4000人超の修了生=有資格者を出してきました。合計8000人。大学の日本語教育学科の卒業制は民間の日本語学校の待遇があまりにも悪いためほぼ就職しませんから、供給は養成講座の修了生約4000人超がここ数年の平均的な数です。検定試験の合格者の1000人とかなりダブっているはずなので、合わせて4500人として、このうちの6~7割の3000人前後が求職するのではと思われます。
つまり、民間の日本語教師養成講座でも基本毎年2000人日本語教師が生まれれば大丈夫。本来大学の新卒が就職できる職場であるなら民間の日本語教師養成講座は完全に不要です。
ここ2,3年、日本語教師が不足したのは、新設校が多く、専任や非常勤を0から募集することになったことが大きいと思います。国内の人手不足のピークは2019年あたりと言われていますから、新設校ブームはあと2年。人手不足で日本語学校を作った人達が撤退していくはずなので、その後ごっそり減る可能性があります。新しく作られた介護ビザも日本語学校を経由することになりそうなので、期待されていますが、EPAでも年に1000人くらいは供給可能と言われていて、同時に技能実習生制度でも介護人材募集になるので、どうなるかはわかりません。
教師不足は2014年あたりからはじまった一時的なもので、あと2年くらいでまた供給過剰になると予想されます。ここ20年くらい、ずっと供給過剰の状態が続いてました。それで日本語教師の待遇が改善されないまま今日まで来たわけです。
👉 もうひとつ、2014年に急に1万人となった反動もあってか、翌年の2015年は大きく減少しています。このバランスを欠いた極端な増減の影響も大きそうです。もちろん2014年以降、SNSなどを中心に日本語教師は大変だという生の声が広がっていったという影響も2015年の減少の要素としてあると思われます。

この2014年に就職した教師達がそろそろやめていくころである2016年にも新設校がかなり多かったことも影響していると思います。

今の教師不足は、養成講座の受講者数が4000人近くに戻してくればクリアできる程度のものであるはずです。新設校ラッシュは規制次第です(今は単に働き手確保の手段として留学ビザを利用しているだけなので、技能実習生枠が広がれば留学ビザで来る人は激減するはず)。ただし、待遇を改善しないまま民間の養成講座修了者を数年で使い捨てるやり方では未来はないはずです。なぜなら日本語教育を担う世代はとてもバランスが悪いのです。

日本語教師の世代別の調査は、ちゃんとしたものがありませんが、この受験者数の世代のみです。これは学校の教師の世代ではなく、新規に教師になろうとしている人の世代別です。日本語教師はここ15年で超高齢化しているのです。20代はわずか25%。50才以上が35%。若い世代で就職する人はどんどん減っていて、それを新人の高齢者で補填してきたのです。中年世代はすぐに介護が始まります。ここから人手を捻出するのは難しくなることは確実です。今は、どの業種でも若い世代を確保できない業種は衰退するしかないことになっています。

👉 日本語教育の質を上げるなら、最低でも30才前後でキャリアをスタートして20年目に50台で若手を指導するような中堅の層が厚くなるような年齢構成を目指すべきです。今は、50~60才台の数少ないベテランが、「3-5年でやめてしまう若手」と「同世代の新人」をなんとか使ってやっていくしかないような状況になっていると思われます。ここ数年、新人は高齢者ばかりです。しかもそれは進行しています。
👉 日本語教師養成講座の受講者数の数は文化庁が出しています。
http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/nihongokyoiku_jittai/
日本語教育能力検定試験のデータはこちら。
http://www.jees.or.jp/jltct/result.htm
まとめたものは「日本語教育関係のデータ」にあります。
http://webjapanese.com/blog/j/suii/

👉 日本語の教師の待遇はひどいよ、ということがSNSで広まりはじめたのも、2015年あたりからです。日本語教師はネット関係疎い人が多いので。日本語教師志望者が2015年以降減り始めたのは、やっと日本語教師が匿名で発言するようになった「成果」と言ってもいいかもしれません。

 

日本語教師では生活できない



日本語教師の7割は非常勤です。非常勤の平均年収はおそらく100万円前後。5年働いても専任になれる可能性はかなり低いです。
非常勤講師の時給は今は人手不足で1700円前後になりつつありますが、2013年までは20年くらい1000~1500円の間でした。5年で100円あがるかどうか。自分から上げてくれなどとは絶対に言えない、というのが普通でした。非常勤のうち5年後に専任になれるのは、5人に一人くらいです。
非常勤の間は年収だとがんばっても100万前後です。教える以外にバイトも必要。専任は、上で書きましたが、2017年の国内の日本語学校の常勤の専任の数は2246人です。新設校は増えていますがもうピークはこえたと思いますので、この数が上限です。ここ3年くらいで若い人が専任になるケースが多かったので、しばらく専任のポストが空くことはないでしょう。で、おそらくオリンピック前から下降するのではと思われます。
日本語学校はビザの許可率で入学する学生の数がかなり変動があるので、7割を占める非常勤のコマ数で調整されます。2校ぐらい掛け持ちして週10~15コマ、年間実働は40週くらいで400~600コマ。1コマ1600円で年収で64~96万円ですが、これが年によっては半減することもあり、非常勤のまま5年働き続けるのはかなり難しく、年収100万のまま専任になれるかどうかで数年頑張って、ついにギブアップしてしまう、ということになります。あるいは結婚して非常勤として続ける(といっても年収はレジなどのパート以下なのでよほど結婚相手に恵まれないと続けられません)、という選択です(日本語学校には生活の基盤は他で確保したので非常勤のままでいい、という教師がかなりの比率でいると思われます)。これが上で述べた離職率の高さに繋がります。
運良く専任になれたとしても、かなり厳しいです。
専任の初任給がだいたい20~25万の間です。歴史も長く、安定していて生徒数が多い最大手と言ってもいい学校で「年収300万保証」などと書いてますので、初任給で年齢関係無く、年収で300万を越えるところはほとんどないはずです。ボーナスは年2回で一ヶ月分づつくらいでしょう。300万から、勤続10年~15年で400万円代になってそのままリタイアまで、というのが平均的な姿なのではと思います。
学校法人でも株式会社でも基本零細企業なのでサービス残業は当たり前、の世界です。専任になると、運動会などのイベントや事務仕事の翻訳、通訳など、いろいろとかり出されることになります。専任になってしまうと、なかなか断れない。そしてよく日本語学校はつぶれます。20年同じところで働くということはなかなか難しいと思います。転職するとまた300万くらいから、経験10年で主任として転職ならちょっとプラスで350万からリスタート、というところではないでしょうか。
専任のポジションは、2017年で2246人ですが、ここ数年で新設校では新しい若い専任が増えました。つまり当分専任の席は空かない、ということです。しかも、学校の数は2年くらいでピークになったとしてその後減っていきます。非常勤から専任になれるのは、かなり限られてくると思われます。非常勤のまま5年、10年は無理なので、新人が入り、その新人非常勤が3~5年でやめていくという以前のような日本語教師使い捨てサイクルに戻るはずです。
👉 ちなみになにかと話題の、保育士の給料は初任給が年収で268万、勤続5年で311万、10年で366万、20年で450万、主任保育士になるのでだいたい500万近くになります。基本、ほぼ公務員なので、働く時間は月169時間です。「酷い!」と言われて、いろいろ上乗せされたりしてますが、これでも日本語教師からするとかなり羨ましいです。なんといっても国家資格で、公立ならば公務員としての待遇と継続的な仕事がほぼ保証されていますし。

👉 日本語教師の収入に関するデータは業界団体は一切だしていません。離職率もわかりませんし、専任になって10年目、20年目でどうなのか、わからないと新たな担い手を獲得するのは難しいはずですが、日本語学校業界は資格ビジネス業界でもあるので、ホントのところがわかってしまうと養成講座の集客上マズいという判断があるのだと思います。「海外で活躍!」「就職が簡単!」と宣伝すれば、そこそこ人は集まるので。

 

日本語教師を対象にしたアンケート結果があります。2016年の8月~2017年の3月。回答は53件。一部抜粋します。
ウェブのアンケートでもあり、正確なものではありませんが、実際に日本語学校の日本語教師から聞く話とだいたい一致します。
5年目で非常勤の時給は「あがらない」が39%、50円、100円で過半数です。専任講師の年収は200万円台が半数以上、次いで300万円台が25%、400万円台まででほとんど占めているので、平均は300万前後でしょうか。

「あなた自身の手取りの年収」となると非常勤も含まれるので99万円以下から300万円代で8割。非常勤から専任になれる確率は5年働いても4割ぐらい。

法務省の日本語学校認可の基準として専任は社会保険全加入となっています(しかし審査を終えたら「抜く」学校もあるとのこと)。7割の非常勤はほぼ未加入です。これは7割が育児介護休業が取れないということを意味します。女性は多いのに(75%程度という調査結果があります)女性にはかなり厳しい職場環境であることも、若い人が定着しない大きな理由です。
日本語教師は2017年から4大卒でないと民間の日本語学校での就職は難しくなりました。しかし、日本語教師の年収では子供を大学にやるのは無理「日本語教師は一代かぎりの職業」となってます。
👉 日本語学習者の数は、国際交流基金が3年ごとに調査しています。2015年にはじめて減少となりましたが、関係者の間では日本語学習熱はさめていると以前から囁かれていました。実は日本語教育は衰退産業でもあります。
この学習者数の推移はこちらにまとめたものがあります。
【資料】日本語教育関係のデータ – 「海外の日本語学習者の推移」http://ow.ly/Lec330ahqrx
GoogleTrendでのここ10年くらいのJapanese lessonでの検索回数です。ピークは90年代後半なのではと思われます。

 

おまけのいくつかの事実

■ 日本語能力試験の結果でコミュニケーション能力が測れる
これも知られてないことですが、日本語能力試験(「能試」と呼びます)はマークシートですから「書く」能力はチェックされてません。また話す試験もありません。つまり、「読む」と「聴く」だけです。他にメジャーな試験はなく、長年やっているので、これを変えるのはかなり難しそうです。
👉 日本語能力試験は、N5からN1までの5段階。一番やさしいのがN5、基礎を終えた段階がN3、専門学校や大学で勉強する準備ができたレベルがN2で、N2は、海外の日系企業でも採用基準になっていることが多いです。N1は最も難しく大学で研究活動もできるレベルです。しかし、N1で漢字の数は2000ですから、まだ新聞は読めません(新聞を読むには最低でも漢字は3000字は必要と言われてます)。N1は上級ではなく「上級になる準備ができた」と考えるのが妥当ですが、それも読む能力のみ。N1合格でちゃんと話せない人は結構います。
■ 貧しい国の学生が多いから学費が安い 
これも神話のひとつですが、全然安くありません。入学金とか選考料、設備費などと言って10~15万前後、1年の授業料は70万ぐらい。大学や予備校の浪人コースとほぼ同じです。日本語学校で日本語教師養成講座(こちらも入学金は5~10万で、授業料は60万くらい)は、教室あたりの人数も講師の資格もほぼ規制がないので、やりようによってはかなり利益がでるはずです。
👉 加えて、非正規雇用の比率が7割で、時給も給料も最低レベルです。
■ 学生の数が安定しないから日本語学校の経営は安定しない
 これが正しいかなと思います。ただし、日本語を教えるビジネスに限っては、です。養成講座やセミナーなど、で補填したりは可能です。しかしIT方面は経営者の世代が高齢であったり、教材なども電子化されてないなど、業界自体がかなり遅れており、ネットを活用したビジネスはまったく手つかずです。ネットで出願さえできない日本語学校が多数あります。
■ 日本語学校ビジネスは参入しやすい
 比較的参入しやすいと言ってもいいと思います。学校法人だけでなく株式会社でも個人経営でも作れますが、2017年から校舎は自己所有となりました。ただし学校法人と違って、ビル一棟全部でなくてもよく、1フロアの区分所有でもOKです。あと新設時(最初は定員100名以下から)は2年分くらいの運転資金も求められるようなので、これが2000万くらいと言われてます。「学校」を始めるハードルとしては低いと思います。
ただし、細かい規制は多く、特に、1クラスは20人以下、一年の授業時間が570時間なければならない(今のところリアル授業のみです)、教師は有資格者、というようなものがあります。これらの規制は守られているかは?ですが、大教室を持ち、ICT活用のノウハウがある塾などの教育関連の会社が大手が参入しにくい仕組みになっています。経営安定化のために多角化だとか大規模化ができない仕組みになっており、業界としても、新規参入の壁として規制は緩和しない方向であってほしいという意向があるようです。
日本語学校を始める理由はいろいろあるようです。しかし最近(2010年以降)は地元企業がグループを作って人手不足解消のために留学生を、というものや、人材派遣会社が留学ビザ経由を開拓するために新規で作る、あるいは買収する、というケースがかなり多いです。自治体が日本語学校を誘致するのも同じです。
もちろん、参入しやすい学校ビジネスとして、まずは日本語学校から、という人もいます。100人から始めて、500人規模にまで大きくし、学校法人格をとり、専門学校を作り、そこへ日本語学校の卒業生を入れる、その先は大学も、、、というような。成功例もあります。
日本語教育に興味がある、小さいままでいいからやってみようか、というケースは昔からありますが、2017年から校舎の自己所有が事実上義務化されたので、今後は減るかもしれません。
■ 留学生は週28時間では学費や生活費が払えない。
そうなりつつあります。しかし、これはおかしいのです。かつては20時間で問題ありませんでした。今は28時間でも足りない。進学先の大学や専門学校の学費はそれほどあがってない、時給はむしろあがっている、矛盾します。こんなことではないか、という見立てを書いてみます。
入学前に払うお金ですが、日本語学校にはコースがありますから、そのコースが2年コースなら2年分の学費を入学金は入学時に払うことになっています。入学金が15万、授業料が1年60万で120万、合計135万とします。ただ最近は、2年目の授業料を来日してからバイトで払うというケースが多いようです。なので最初は75万。
最初に必要なお金を考えてみます。寮費は、どこも3万程度です。生活費、月5万円とします。生活に毎月8万円。2年目の授業料が60万です。専門学校に進学すると100万円が必要です。これを0から貯めるとなると、日本語学校に2年いるとして、月66000円の貯金が必要ということになります。これで月14万6000円です。自己資金0で仕送り無しの留学(そもそもこれが無茶なんですが、それは後述します)だと、これを全部自分で稼がないといけません。
👉 入管は留学時に滞在経費などを払える預貯金額がないと留学ビザを出しませんでしたが、2004年から「雇用予定証明書」があればOKということにしました。つまり来日後に稼ぐでもOKということです。これで自己資金が限りに無く0でも留学できる、ということになってきました。

この2004年の時点では雇用予定証明を出すところは少なかったわけですが、2010年以降はいくらでもあるという状況になりました。

さて、月14万6000円です。
週28時間で一ヶ月を4週間とすると、112時間です。時給は今、コンビニでは地方と都会では格差がありますが、ひとまず800円とします。89600円。これだと無理です。居酒屋などだと時間帯によって1200円くらいですから、月134400円。生活費の5万を3万でやればなんとかなります。今は工場など人手不足のところなら1500円くらい出すところはあります。それなら月168000円でクリアできます。(2016年末の栃木の日本語学校の不祥事では、工場の時給は1650円でした)
おそらく2004年あたりから新設校も増え、政府の東南アジアシフトもはじまり、日本語学校は東アジアだけでなく、より為替格差の大きい東南アジアで学生募集をする必要性が高まった。自己資金はほとんどない人を留学生に仕立てあげなければならなくなった。そのために「雇用予定証明」が生まれた。それが効果を発揮するようになったのは2010年あたりからで、結果、ここ数年の学生は自己資金がほぼなく、仕送りもないという学生が多数を占めるようになり、働かざるをえなくなっている。それで「28時間でも足りない」ということになったなのではないか、と思われます。この「雇用予定証明」で「来日後の仕事ありきの資金計画」というものが進んだ、結果、来日後のバイトの負担が増した大きな要因になったと思います。
「28時間では足りない」と言われ始めたのはここ数年のことです。日本語学校の留学生のベトナム、ネパール依存度はかなり高いです。やはり、ここ数年、母国で自己資金がほとんどない人を「日本で全部稼げばいいから」という形で勧誘することになっていることが大きいと思われます。
👉 そもそも奨学金もほぼないのに、まったく資金がない若者を無理やり日本に連れてくる必要はないと思います。他国はそうなのです。繰り返しになりますが、そういう若者を援助したければ留学させるのではなく、現地で学校を作るのが正解です。2004年の「雇用予定証明」と就学、留学統合でのバイト時間を28時間にしたのが失敗です。
■ 留学生は滞在中のバイトで母国に仕送りをして家を建てたりしている。
90年代にそういう話がありました。しかし誰も見た人はいません。そして、おそらく今は全然そんな余裕はないと思います。しかし、仮にあったとしても、日本語学校と専門学校で合計4年間異国に滞在して日本語学校と専門学校や大学に400万くらい払って、毎月10万円近く国内で消費し、いろんなところで労働力として貢献し、日本語も勉強している。余分なお金を母国に仕送りして、たまたま為替格差で母国で家が買えたとして、誰か不幸になる人はいるでしょうか?
👉 失踪したりする留学生はいますが、手引きしてるのは、ほぼ日本人です。1万人以上が失踪してほとんど捕まらないわけですから、プロが手引きしてるのは間違いありません。留学生はどう考えても被害者です。ちょっと考えれば、彼ら彼女らの行く先は幸せなものではないと想像がつくはずです。
■ 日本の奨学金の大半は中国人学生に支給されている。
 これは2013年に当時の文部科学大臣だった下村博文氏がわざわざ記者会見をして否定しています。
https://archive.is/j1Yoz
中国籍の国費留学生は全体の16.4%で、1400人ちょっと。比率に応じて支給されているだけ、ということでした。他国と比較しても留学生のうちの国費留学生の比率はかなり低く、つまり「中国人留学生のほとんどは私費留学生で、他国と比較しても日本の奨学金に依存する比率はかなり低い」ということになります。
文科省のサイトでも詳しく説明されています。
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ryugaku/1338568.htm
👉 逆に、日本から中国への留学は、中国政府のものや、日中友好協会のものなど、かなり手厚い補助があるようです。(枠は少ないですが、今、中国は日本と違って世界中から留学希望者が押し寄せているので。。。)
■ 東南アジアで日本語ブームだ!
ベトナムでは日本語が第一外国語だと報じられたりして、ベトナムの子供がみんな日本語やってると思われているようですが、正確には「ベトナムの第一外国語のひとつになった」です。外国語は選択制で、英語を選択する児童が98%。ついでフランス語で、日本語はその他の外国語のひとつです。
アジアでは、海外は外国語の採用などは国単位ではなく州単位であることも多いので日本企業が進出したところでは企業が援助をして公立学校で選択科目のひとつとしてやることになったりはするようです。
ネパールは国際交流基金の学習者調査では、4000人くらいですが、日本には16250人留学しています(普通は留学生数は学習者数の1割くらいです)。明らかに無理やり留学させていることは数字でハッキリ出ています。人口比でいうと日本語学習者が多いのはこれまでも、今も、おそらく今後も中国、韓国、台湾です。特に韓国は減っているとは言っても依然として学習者数は人口比では突出して多いです。
👉 ベトナムの言語教育政策
― CEFR の受容と英語教育、そして少数民族語 ―  http://ow.ly/lfoQ308DcWA

■ 日本語は難しい
言語学の研究者は、日本語は他の言語と比べた場合、言語としては平均的で平凡、従って難しくはないと言います。言葉の仕組みとして他の言語と比較してこうだよ、という説明は説得力があります。
日本語は特殊な言語か? – Togetterまとめ
http://ow.ly/oQZh30bTdav
ただ、言語学の立場は書かれたものより音声重視というところがあります。教える立場から言うと、やはり漢字がある以上、難しくはないけども「めんどくさい」言葉だとは言えると思います。難易度ということではないので能力差は関係なく、忍耐力を含む勉強力的なものの差は出るかも、というのが実感レベルでの印象でしょうか。
漢字は文字だと考えると大変ですが、単語だと捉えると、そうでもないとも言えます。ある程度おぼえたら語彙力の増え方が加速しますので、超上級まで到達するための負担はトータルではそれほど変わらないと思います。勉強の負担が初級から中級でやや重い言語と言ってもいいかもしれません。
それでも、日本語能力試験でいえば、基礎レベルをクリアしたという目安のN3は300~500時間で達成可能(日本語学校でよく使われている初級教科書は200~300時間で修了となっています)、専門学校や大学に進む最低ラインの日本語能力とされるN2は1000時間くらいの学習時間を想定していると考えられます。これは他の言語とそれほど変わらないはずです。英語圏でも移民の語学プログラムはだいたい500時間くらいで修了で日常生活を送るための基礎力はできるとしています。日本語学校の授業時間は前述のように570時間以上という規制がありますが、実際はどこも1年に700~800時間は行っているようです。1年でN3まで、2年で1500時間なので十分N2までは到達できるはずです。
日本語学校関係者には、漢字圏ではない学生が増えたので日本語学校の滞在期限を2年からもっと延長しろ、という意見があるようですが、私は疑問です。漢字圏だとか非漢字圏ということではなく、元々学習に対するモチベーションの低い人を無理やり留学生にした影響にすぎないのでは?と思っています。日本語学習目的の若者に週20時間という詰め込み的なやり方でやるわけですから、2年で十分なはずです。日本語学校に通うチャンスがない技能実習生でも、来日後、1年でN3合格相当にならないとビザの延長が認められず帰国となる場合があります。
今、留学生は働き手として注目されていて残念ながら、日本語学校もそれにのっかっている。勉学が大事なのだと守ろうとしない。日本にいられる期間は長い方がいい、アルバイトをする時間は多いほうがいい、ということになってしまっています。