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【memo】日本語教育と「犯罪率」

これも、調べたり考えたりしたメモ程度の記事です。

 

 

犯罪率とは何か?

いわゆる外国人の犯罪率についてはここで少し整理しています。以下はここから一部を抜粋したものです。

犯罪率の定義は曖昧~認知件数と検挙件数~

犯罪の数は認知(警察が認知している数)と検挙(捕まえた数)がある。統計によって違うので混乱の元になっている。

刑法犯 罪種別 認知件数の構成比(警察庁)
https://www.npa.go.jp/toukei/soubunkan/R02/pdf/R02_01.pdf

これは認知件数

警察庁では、人口あたりの犯罪「件数」となっている。率ではなく件数であることに注意。上の文書では人口10万人あたりの件数が出ている。ネットなどで出る「何パーセント」という数字は、誰かの独自計算。

つまり、犯罪率は、きまった定義は無い模様で、犯罪率なるものを出した人次第で変わります。どこまでを犯罪とするかも違うし、例えば外国人の犯罪率なら「外国人」を帰化した人、永住の人、その他の人、観光や留学、を入れるかどうかも、マチマチ、どの期間、一年か、半年か、一年ならどの年か。。。つまり、これまでも今後もいろんな人が勝手に作った数字に踊らされることになります。

従って、数字が違うとか多いとか少ないをその都度やるのはあまり意味がなく、そもそも犯罪率はどういうもので、犯罪率と何かとの関連はどうなのか、みたいなことを考えて、それぞれのだいたいの数字をざっくり把握するしかありません。

犯罪率は警察庁が出さないと計算できない。

法務省:犯罪白書 https://www.moj.go.jp/housouken/houso_hakusho2.html

犯罪白書では何かの属性と犯罪件数が出ることは少ないが、白書スタート時から定点観測的に行われているものは以下。

  • 性別(女性の犯罪)
  • 年齢(高齢者)
  • 外国人
  • 精神障害を持つ人
  • 公務員

日本人の国外での犯罪などもある。外国人犯罪は昭和36年版からあり、白書によってテーマがあり、フォーカスがあてられる。

外国人の犯罪の調査が国籍別など詳しく発表されることになったのは(ざっと見た限りでは)2000年以降で、法務省の組織の法務総合研究所が調査を行っている模様。

法務省:法務総合研究所フロントページ https://www.moj.go.jp/housouken/houso_index.html

外国人は国籍別に出るので計算できるが、日本人は対象ではない。日本の犯罪率という数字はありません。つまり犯罪率が出せるかどうかは、警察庁が数字を出すかどうかで決まるとも言えます。例えば、警察庁が左利きと右利きで犯罪の数を出せば、利き腕と犯罪率の話題が出ることになるでしょうし、「公務員」というククリではやっても、小学校教員とか警察官の犯罪数は出さないでしょう。

白書には地域別の犯罪件数はありませんが、白書ではなく警察庁の発表では、県別の犯罪率が出されてます。

これをもって、××県は犯罪率が高い県だとはメディアではあまり書かれません。やはりそれは地域差別に繋がりかねない難しいところだと考えられているんだろうと思います。つまり、犯罪率が出せるようなデータを公開することは、その是非から議論されるべきことなんだということだと思います。

 

「外国人犯罪率」の現状

現状では、外国人の犯罪率は日本国内の平均より高いが、数は激減しているし、日本語能力との関連も無い

この統計は検挙の件数となっている。

ちなみに最新版の白書(2023年令和5年)の外国人犯罪の推移の図です。2005年がピークで減少傾向です。さらに、これは率ではなく数なので、2005年の外国人人口が201万人、2023年が322万人と、100万人以上増えていることを考えると外国人の犯罪数は激減していると言ってもいいと思います。国内全体の犯罪件数も減少中ですが、それよりハイペースで減少していると言えます。

そしてもう一点、重要なことは、この外国人人口の増加のほとんどを担っている技能実習生は日本語の学習機会が提供されておらず日本語の能力は低いままですが減少している。つまり日本語能力と犯罪との関連も無いと言ってもいいということになります。

犯罪率はおそらく外国人のほうが高い

現状、10000件前後で推移ですから、300万人で計算すると0.3%です。同白書によると、日本のすべての犯罪検挙数も減少中で約17万ですから、1億2千万で計算するとだいたい0.14%。全体よりも外国人の犯罪率は高いと言えます。

ただ、日本すべての認知件数だと約60万人なので、0.5%となり外国人犯罪より多くなります。外国人は比較的監視の目が厳しく、認知から検挙に至る可能性が高い可能性もあります。見方によって変わる微妙な結果と言えそうです。

不自然な統計

あと、この騒動で引用されたこの図は、外国人の数が633万人となっているのがよくわかりません。

ソースは以下のようです。

https://www.call4.jp/info.php?type=items&id=I0000128

出典は:國﨑万智「取材から見えた、日本のレイシャルプロファイリング現在地」宮下 萌(編)『レイシャル・プロファイリング 警察による人種差別を問う』2023年・大月書店)とのこと。

外国人の数は300万前後はずなのでは?と気づくと思います。教師養成のプロセス(養成講座とか検定試験とか)などでその種の基本的な規模感を掴んでいるなら。

https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/13_00036.html?hl=ja

これは以下は含まないので「600万」は以下を足したと思われます。

  • (1) 「3月」以下の在留期間が決定された人
  • (2) 「短期滞在」の在留資格が決定された人
  • (3) 「外交」又は「公用」の在留資格が決定された人
  • (4) (1)から(3)までに準ずるものとして法務省令で定める人(「特定活動」の在留資格が決定された台湾日本関係協会の本邦の事務所若しくは駐日パレスチナ総代表部の職員又はその家族の方)
  • (5) 特別永住者
  • (6) 在留資格を有しない人

しかし、上で書いたように特別永住者は30万人弱、外交その他は数万人なので、300万人は、短期滞在を加えたと思われます。短期滞在はほぼ観光です。現在月200~300万人で推移してますので。短期滞在はすべての在留資格の中で失踪が最も多いので犯罪の統計に加えるケースはあっても、移民の議論において加えるのは不自然と言えます。国連周辺で語られる(国連の定義というわけではない)移民の定義である「1年以上の滞在」にあたりません。

こういう売り言葉に買い言葉みたいなやり取りの結果、危うい数字を振りかざしたり、犯罪率の数字の比較に陥ってしまうのはとてもSNS的だと言えます。結果として犯罪率みたいな問題のある数字をたがいに振りかざすことになってしまっています。犯罪率という数字自体の問題については次に書きます。

 

犯罪率自体が持つ問題

犯罪率は出してもいいのか?

最も議論されるべきポイントだと思います。

例えば「慶應大学を卒業した人の犯罪率」を出すことは人権上問題はないのか?特定の地域の犯罪率を出すことは? という問題があると思います。犯罪率が高ければ偏見、差別に繋がることは明らかで、つまり犯罪率を出して言いのかは、人権問題と言えます。出すからには相応の理由が必要になる。犯罪捜査に必要というのも理解できますが、それを公表する必要はあるのか?という点も議論されるべきだと思います。特に、率が計算できる元になる数字は、原則出すべきでないと思います。

仮に外国人の犯罪率と比較するためであれば、同じ条件の数字を出さないといけないかもしれません。技能実習生や特定技能が主になるので、日本人の中で…

  • 中卒もしくは高卒
  • 年齢は20~30才
  • ブルーカラー
  • ほぼ最低賃金で働き、建築など離職率が高い職種が多く、労基法の違反率も7割前後

の人達の犯罪率との比較になると思います。学歴、年齢、職業、職種(例えば建築業界だけとか)を対象に調査をして数字を出すこと自体が人権問題だとなり不可能だと思いますが、外国人となると調査対象になっているという現状があるわけです。

こういうことも言えます。

となります。これは一見「政治家の犯罪率だって酷いだろ!」と主張しているようですが(この犯罪率関連のプチ炎上も政治家発信だったので)、そうではなくて犯罪率出されると気分悪いでしょ?というのが主旨でした。つまり犯罪率を出すこと自体、考えるべきテーマだということで、このブログ記事の主旨でもあります。しかし、実際に逮捕された人数だけでも、日本人の平均である0.14%の4倍、「政治資金規正法違反という違法行為を自分のお金でやっていたが、自身が知っていたかは判定できないから不起訴」を犯罪とするなら約25倍となりますから、外国人の犯罪率が高いから帰国という理屈でいうなら、衆議院議員はまとめてどこかに捨ててきたほうがいい、ということになってしまいます。

このように犯罪率は、調べさえすれば、簡単に、「日本人の平均」を上回る数字になる属性や地域などを出すことは簡単にできるということでもあります。犯罪率が3割ぐらいの政党は他にありますし、日本語教育関係者の犯罪率もどうなるかわかりません。長く日本語学校のルールであって告示でも犯罪を犯した人も、刑期を終えて5年経過すれば日本語学校を作れることになっています。凶悪犯罪は少ないかもしれませんが、入管難民法はもちろん、私文書偽造、著作権法違反、など多くの犯罪を耳にします。仮に800校の「0.15%(日本国内の犯罪率とされているもの)」は、1.2ですから、2校が犯罪を犯せば、平均犯罪率を超えてしまいます。年に2校くらいなら余裕で違法行為で報道されてたりしてませんか?

法務省は近年、外国人との共生、差別解消に力を入れています。

外国人との共生施策 | 出入国在留管理庁 https://www.moj.go.jp/isa/support/coexistence/index.html

こういう取り組みをする一方で、外国人だけ犯罪調査をし統計として数字を出していくことに問題はないのか?という視点があってもいいと思います。

警察庁が提供している数字

基本は犯罪の種類などです。属性は年齢、性別があり、その他、ピックアップされているのは外国人と暴力団だけです。地域は都道府県までですが北海道だけ地域で分けられています。

犯罪統計|警察庁Webサイト https://www.npa.go.jp/publications/statistics/sousa/statistics.html

以下は外国人の国籍別の犯罪統計。犯罪の種類別に細かく数字がでてます。

以下は地域別の外国人犯罪の統計

外国人の犯罪率を出す根拠

外国人の犯罪率が話題になるのは警察庁が国籍別で数字を出すからと言えます。しかし、何か特徴がなければ出すだけの根拠に欠けると言わざるを得ません。外国人の犯罪の調査と数字を公表する習慣は戦後すぐから始まっているので、今の移民の増加とは関係ありません。それも、極端に多いとか、ある時期から増減が激しいということにはなっておらず、調査を続ける根拠は危ういと思います。

犯罪関連のデータは相互監視が必要

それでも外国人の犯罪の統計、調査が必要であるなら、非公開にしたうえで、警察庁、国会、司法、大学の研究者などが守秘義務を負った形で共同管理するのなら、おかしなデータが出ることはなくなるのではと思います。おかしなデータが出たら管理している組織が正式に否定のコメントを出せば終わりになるからです。

 

「海外」との比較

「海外」は対象が広すぎますが、欧州の移民問題が例として取り上げられるケースが多いので、欧州のことを調べてみます。

欧州の移民と日本の移民となるであろう人達は単純に比較できない

2023年に特定技能の2号(1号の5年を経て2号となる人達)が実質的な移民ではないかということになり、外国人の犯罪率は高いのだから不安があるということになっていて「欧州のように」移民問題が噴出するのではということになってますが、これもかなり的外れだと思います。

欧州や北米で移民問題として語られる人達の多くは政治、経済難民的な人達です。突然国を追われて入国することになることがほとんどで、家族で来るケースも多い。ほとんどの場合、難民の犯罪歴はチェックされないとされているし、犯罪歴があっても入国は許可されることが多いとのこと。そういう人達が、そのまま就学する必要があったり、仕事を探す必要もあります。

一方で、日本で移民問題として語られる人達は、就労系の在留資格を経ます。犯罪歴があればほぼビザは出ない。学歴は中学以上がマスト、30才くらいまでです。この最初の選別だけでも、かなり違います。その後日本でも、監視下で年単位の面接を受けるようなことになります。

最初の5年で…

  • 来日時、中学卒業、技能によっては高校に+して看護などの資格を持っている必要がある。
  • 犯罪歴が有る場合はほぼ来日は無理。
  • 来日後、5年滞在するには、それぞれ技能試験に(場合によっては数回の)試験に合格する必要がある。
  • 試験合格のための学習、日本語学習はほぼ自腹。
  • 滞在中に犯罪を犯したら帰国。雇用者とトラブルでの帰国も多い。

次の5年以降は、技能試験に合格して、さらに日本に残りたい人は5年ごとに無期限で更新が可能になります。

  • 特定技能の2号は家族滞在が認められ、永住の道も開かれるが、高度な技能試験がある。
  • 日本語能力B1の試験に合格するハードルが課せられる可能性が高い(B1は英検の2級くらい。漢字は500~1000字)
  • 日本において税金など支払いを守る必要がある。
  • 交通事故などの不慮の事故でも有罪となったらアウト

で、10年に達して、この寄宿舎生活のような10年を経て、その中で再更新をし続けるのではなく、永住したいと考えて、永住の申請をして、審査があり、合格すれば永住許可となります。10年の審査期間を経て、さらに申請して合格した人なわけです。例えば、日本人でもパスできる人は限られるハードルと言えます。原付で事故を起こしたらアウトなわけですから。

このプロセスを経て永住許可となった人達の犯罪率はまだ出ていません。あと5年くらいで数人、10年で数十人か数百人になるかもしれません。普通に考えれば、犯罪率は日本人の平均より低くなることは確実だと思います。

こういうケースと、欧州や北米の移民の比較するのは難しいと言えます。欧州の調査や論文が、例えば、言語学習と犯罪率のようなデータが、そのまま日本の就労系の外国人に当てはめて議論するのは無理があると思います。

 


 

 

言語能力と犯罪は関連があるのか?

ここからは日本語教育の話です。言語能力と犯罪の関連は、あるかのように語られますが、とくにエビデンスは示されていません。かつては特別永住者という在留資格の在日韓国朝鮮人の人達の犯罪が多いのではないか?と言われ、それは就職などでの差別があることも原因のひとつだという議論がありました。80年代の中東系の労働者の麻薬取引などの犯罪が連日報道されたことがあり、定住者と呼ばれる80年代以降の南米からの移住者の犯罪に対する懸念などもありました。これらの議論は一旦横に置いて、今の就労系の在留資格の人達に向けられている点に絞ります。

欧州のケース

欧州で2010年代後半から移民政策が厳しく転換することになり、そのひとつとして言語能力による選別が加わるケースがありますが、

  • ドイツでも言語能力を選別の基準にするかは与野党で議論があった
  • 選別が始まる前からほぼ無償で500時間超の言語学習機会は提供されている(ので言語学習機会は当然提供されるべきという前提になっている。つまり「するしない」の話ではない)
  • ドイツ以外の国では、言語能力と在留資格を絡めない国も多い
  • CEFRの考え方では言語学習は個人のものであり権利。「日本語教育の参照枠」でも国は学習機会を提供する義務があるが、学習を義務づけることではないとなっている。在留資格と言語能力を紐つけることには当然反対だと思われる。

となっています。欧州でなぜ選別の基準にすべきではないとなっていたかというと、言語教育の機会は基本的な人権のひとつであって、選別の基準ではない、という考え方があるからです。これはCEFRも同じでEUはCEFRの影響下にありますから。

前述のように、欧州の難民と日本の就労の在留資格で来る人達は全く違うという点も重要です。

変わる移民政策 : 移住者に対するドイツの言語教育 : 母語教育を中心に https://ci.nii.ac.jp/naid/120002014558

その他、資料、論文は以下にあります。言語政策に関する資料・記事・論文

日本の就労制度では日本語学習機会はほぼ「0」だったが犯罪は減少傾向

90年から技能実習生制度はありますが、日本語の学習機会は今日まで一切提供されていません。その中で、犯罪数は減少し、犯罪率は下がり続けていますから、日本においては今のところ、犯罪と日本語教育は何の関連もないということは証明されているわけです。帰国前提の制度であったからで、永住を視野に入れるなら必要という主張なのかもしれません。しかし、犯罪抑止になると主張する人は、関連がないなら不要、あるいは、今後、日本語教育が提供されて犯罪率が上がればやはり意味がなかったから日本語教育の提供は止めると言われたら反論できません。つまらない理屈に日本語教育を絡めてしまう罪は重いです。

言語学習は当然受けられる「権利」ではないのか?

言語の学習機会はその国に来た人が受けるべき権利であり、国は学習機会を提供する義務があると言えます。(今のところ日本語教育関連の法律では権利という語は無く、提供する義務があるというところにとどまってはいます)

言語の学習機会を設けないことは人権問題でもあるのでやる。という理屈がまずあります。つまり、犯罪率がどうこうと関係なく、言語の学習機会は提供すべきなわけです。統計上、言語能力と犯罪に関連があるかのエビデンスは関係ないと言えます。「犯罪の抑止として必要」という理屈は、外国人を潜在的な犯罪者予備軍とみなすことでもあり、言語能力が犯罪と結びつくというエビデンスの乏しい無用なネガティブな印象を与えてしまう言説と言えます。

個人的には、言語の学習機会というような大事な事柄を、言語教育関係者自らが、犯罪抑止であるみたいな単なる損得のチープな議論にのせること自体が愚かなことだと感じます。日本語教育関係者が、そういう議論に加担してはいけない。あくまで言語を学習する機会は、日本で生活する人には保証されなければならない基本的な人権だから、提供されるべきだと主張するべきだと思います。


この記事は、外国人_に関するアレコレの検証 [日本語教師読本Wiki] の外国人の犯罪率 からの転載です。(日本語教師読本Wikiの閲覧はユーザー登録が必要です)