一般書 < インド下水処理場生活1800日
『インド下水処理場生活1800日』
「日本の下水処理技術でインドの水をきれいにしてほしい」思いがけないインド政府からの依頼。エアコンのないインド北部の下水処理場に次々と派遣される原田研究室の若者達の闘いの1800日の記録です。
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日本の下水処理技術でインドの水をきれいにしてほしい」思いがけないインド政府からの依頼。実証実験のために研究室から次々と現地へ派遣される学生達の1800日の闘いの記録です。
現地のスタッフとの軋轢、友情。無数の蚊に襲われ、ハングリーな犬の群れに追われ、ネズミに耳をかじられ、迷い牛を助け、オオトカゲにバッタリと遭遇する。
エアコンの無い住まいで、ファンが停電で止まる。感電しながらトーストを焼き、チャイで安らぐ。血と汗と涙とカレーの結晶としてデータを積み上げ、論文を書く。そして、インド日本をまたにかけての入院体験…。
環境問題に興味がある人のみならず、これから世界で、世界と共に生きていくすべての人、必読の書です。
著者紹介
小野寺 崇
国立環境研究所 主任研究員
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プロローグ
1章 研究室での実験からインドでの実証実験へ
1 大学の研究室での試行錯誤の始まり
2 ブレークスルーは突然に
3 インド政府が実証実験を熱望
4 実証実験がインドで始まる
5 このバスは何処へ行く?
6 カルナールに降り立つ
7 ホテル住まいで送迎付きの研究生活
…
2章 いよいよインドへ
1 予防接種の「アジアメニュー」
2 花火が夜空を焦がす中で実験室に籠もる
3 ゼミで知るインドでの研究
4 灼熱のインドから帰国した先輩
5 そしてインドへ
3章 サバイバル研究ライフ
1 下水処理場に住むということ
2 爽やかな下水処理場の朝
3 午前中はルーチン分析
4 サンプルの水質分析
5 午後は生き抜くための活動時間
6 グッタじい
7 血と汗と涙とカレー
8 ネット環境
9 インドの下水道事情
4章 カルナールをウロウロと
1 歓迎の宴
2 ディワリ祭と花火
3 州政府のVIPの視察
4 グッタじいが「This is India」と言い放つ
5 桐島とランパラガスの衝突
6 カルナールでの休日の過ごし方
7 カルナール・オープン
8 食に注ぐ情熱
9 札束を握りしめ生肉を持ち帰る
10 研究時間を削ってくる娯楽
11 インドのサバイバル交通事情
5章 インド国内を巡る
1 カルナールにあるもう一つの下水処理場
2 カルナールの喧騒からの脱出
3 桐島が帰国し、日本から段ボールが届く
4 初詣はタージ・マハルとヤムナ川
6章 一時帰国の前の大仕事
1 大久保の再来印
2 夜勤のムンナを起こす
3 ヤムナ川の下水処理場を一斉調査
4 スポンジ工場へ
…
7章 2度目の滞在 ~インドの夏の洗礼~
1 インド班の新体制
2 源流ヤムノトリ
3 断水
4 人に襲われたコブラが暗闇に消えた
5 実験用品の現地調達
6 インドの熱帯夜で停電
…
8章 日本とインドでの非日常的な毎日
1 河川敷の大花火大会
2 集中豪雨
3 2度の地震
4 大久保的インド生活に染まる後輩草野
…
9章 あらたな研究と実験
1 インドの暑さで蘇える
2 デリーの川岸のゴミと湧き出すメタンガス
3 ゴミを捨てる人に「なぜゴミを捨てるのか?」と尋ねてみた
4 インド亜大陸を疾走するバイク
…
10章 黄昏のカルナールでモニタリングを終える日
1 研究の出口戦略
2 バラナシでのサンプリング
3 1800日計画
4 連続運転1800日達成!
5 論文の修正をしていたら帰国前夜の晩餐が遅れる
6 カルナールの夜道を走るリキシャ
…
エピローグ ~1800日+α~
あとがき
本編からちょっとだけ…
「カルナール、カルナール・・・」
ナショナル・ハイウェイを疾走する長距離バス。
このバスの最前列に二十歳を過ぎたばかりの青年が座っていた。ひどく揺れるバスの車内はエンジン音と音楽で騒がしい。青年は目の前の鉄格子を両手で握りしめながら、ときおり低い声で「カルナール、カルナール」と連呼していた。その姿はまるで、牢獄の鉄格子の間から看守の動きを見据えているようであった。
顔を合わせると「フォフォッフォ」と笑いながら快活に挨拶をしてくれる。桐島が僕を紹介する。彼の名前はグッタという。背筋は伸びて、声は大きく、愛嬌のある人だった。インド人スタッフたちは、敬称である「じい」をつけて「グッタじい」と呼んでいた。我々も「グッタじい」と呼んだ。そして、日本でも桐島と大久保の会話の中で、しばしば「グッタじい」が話題に上がっていたので僕も名前は知っていた。
僕は仕事をサボっているスタッフをみて最初は「なぜ仕事をしないのか?」と思っていたが、いつの間にか仕事をしているスタッフをみて「なぜ仕事をしているのか?」と疑問に思うようになっていた。そうすると仕事をしていないスタッフをみてもストレスを感じない。そして、仕事をしないことに理由があるのではなくて、なにかの理由があるから仕事をしているのだという、当たり前のことに気づくことになった。
河が汚いことは知識としては知っている。ただし現場に立つと、知識だけの過去の自分を蹴っ飛ばしたくなるほどの衝撃を覚える。いわゆる水質データだけでは、視覚、嗅覚、聴覚的な情報が欠落しているのだ。
一つ驚いたことがあった。以前に草野と来たときには、川沿いにはスラム街があって人々が普通に生活していたが、いつの間にかスラム街がなくなっていた。スラム街が無くなって河川敷がきれいになっているというが、その裏では強制的に住居が取り壊されたのだろう。
川岸には、ゴミが散乱して、牛糞、犬糞、人糞などの汚物も沢山ある。川岸ではゴミは積み重なって層を成している。川に視線を移せば、遠くを見ると美しく見えてしまうが、近くの川の水は黒く淀んでいて、表面には油でも浮いているようで微かに七色に光っている。
そして川の表面からはポコポコと細かいガスが絶えず湧きだしている。汚れた川の水や底に溜まったヘドロの有機物が発酵してメタンが生成されている。
ヤムナ川を前にするとため息しか出なかった。
(現在のカルナール市街地の様子)
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