【memo】恥ずかしい有識者会議

技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議は、これまでに行われた国の会議の中で、もっとも日本語教育に関する理解が低い内容だったと言える。

出入国在留管理庁にポータル的なページがある。

https://www.moj.go.jp/isa/policies/policies/03_00033.html

ちなみに、この技能実習生の有識者会議は、日本語教育関係者の関心は薄く、SNSなどでもまったく話題になっていなかった。なぜかはわからない。結局、これまでも日本語教育関係者は就労ではなく留学で食ってきたので興味がないということかもしれません。留学より人数が多く、日本語教育の制度的なサポートがまったくない就労というジャンルは、サポートが無いことを問題視するでもなく、無限の可能性を秘めた市場と考える人もいません。

第1回(2022年12月14日開催)
第2回(2023年1月31日開催)
第3回(2023年2月15日開催)
第4回(2023年3月8日開催)
第5回(2023年4月10日開催)
第6回(2023年4月19日開催)
第7回(2023年4月28日開催)

中間報告

第8回(2023年6月14日開催)
第9回(2023年6月30日開催)
第10回(2023年7月31日開催)
第11回(2023年10月4日開催)

11回の議事の要旨は出ないまま、23年10月中旬、読売が提言としてまとまった旨報道

外国人の企業転籍制限を緩和、在留期間3年の新制度創設…「技能実習」見直し最終報告書案 : 読売新聞 https://www.yomiuri.co.jp/politics/20231012-OYT1T50060/

この「最初の3年」は日本語学習サポートはなく、1年を経過した時点で転籍の条件として始めて登場し、3年後、特定技能への移行の条件として出てくるという、足切り目安として考えられており、希望せず3年で帰国するならば、来日時も来日後も滞在中は日本語学習のサポートはしなくてもいい制度になりそう。これは、これまでの技能実習生制度と同じ。2019年スタートの特定技能は来日要件に基金の試験の合格を課したことを考えると、退化したとも言える。

3年後の特定技能への移行の日本語能力の要件は一部でN4と報道されているが、現行制度ではN4より明らかに低いA2相当の基金の試験が基準になるはずで、この基金のテストは、やさしい日本語の理解はまったく保証されないことはメディアにも一般の人にも、そしておそらくこの有識者会議の出席者にも理解されていない。

 


 

中間報告では

一定水準の日本語能力を確保できるよう就労開始前の日本語能力の担保方策及び来日後において日本語能力が段階的に向上する仕組みを設ける

となっていたが、

会議では日本語能力に関して、以下のような日本語教育に関してはまったくやる気のない議論が続き、最後に議事要旨が公開された段階(ラス前の第10回)でも

や、以下のようなまったく的外れな意見(N5で自らの権利を守る???)があり(10回目の会議の発言ですよ)

業務内容の修得のためにも自らの権利を守るためにもN5ないしN5相当の日本語能力を必要とするのがよい。ただし、日本語能力を身につけることが費用や期間の面で高いハードルにならないよう、政府ないし国の公的機関によるオンラインの教育などを充実させ、日本語試験も半年や1年に1回ではなく、定期的かつ頻繁に安価で受けられるようにすべきである。

といういい加減な議論となっていた。結局経済界、就労周辺の人達にとっては

  • 日本語教育というのは人手集めの障害でしかないと認識されている。(2020年以降、政府周辺ではいっそうそういう認識が濃くなっているような気がします)
  • 「必要な日本語教育」とは学習者の能力ではなく受け入れ側のコミュニケーションの面倒が解消されるかどうかでN5だとかN4だとかが語られる。(しかし日本語のレベルというものがそもそも理解されていない。バラバラ)
  • 日本語能力は日本に来る人がクリアすべきハードル(義務)として常に語られる。日本が学習の機会を提供すべきもの(権利)だという発想は薄い。
  • 人手不足のところは基本単純労働で日本語能力が不要な仕事が主なので最初の3年くらいは人手として貢献してもらえばいいと考えているフシがある。
  • もっと長くいたいとか、家族帯同とか永住などと言い出すなら、日本語能力をハードルとして課し、その難易度を変えることで(N4とかN5とか)調整弁にすればいいと考えている。
  • おそらくは長期滞在となっても、せいぜい「名誉日本人」くらいの扱いでいいだろうと考えている。(日本語議連の政治家は外国人の権利付与に超消極的な人達でもある)

この会議の出席者

[座 長] 田中 明彦 独立行政法人国際協力機構理事長
[座長代理] 高橋 進 株式会社日本総合研究所チェアマン・エメリタス
[構成員] 市川 正司 弁護士
大下 英和 日本商工会議所産業政策第二部長
黒谷 伸 一般社団法人全国農業会議所経営・人材対策部長
是川 夕 国立社会保障・人口問題研究所国際関係部長
佐久間 一浩 全国中小企業団体中央会事務局次長
末松 則子 鈴鹿市長
鈴木 直道 北海道知事
武石 恵美子 法政大学キャリアデザイン学部教授
冨田 さとこ 日本司法支援センター本部国際室長/弁護士
冨高 裕子 日本労働組合総連合会総合政策推進局総合政策推進局長
樋口 建史 元警視総監
堀内 保潔 一般社団法人日本経済団体連合会産業政策本部長
山川 隆一 東京大学大学院法学政治学研究科教授

座長のJICAの理事長や大学関係者は、2023年の段階でも、就労系の在留資格に日本語学習サポートを入れなかった戦犯として記録されるべきではと思います。日本語教育関係者は、日本語教育の参照枠の考え方からいっても、日本語学習の機会を持てないこの提言は、当然、容認できないはずで、何か声明でも出すのか、と思いますが、まったく話題になっていないので、何もしないままではないかと思います。

そして今後、最も懸念されるのは、日本語能力の改善が期待できないということと、学習機会の提供ではなく、試験などによる足切り基準として日本語能力が活用されてしまうことで起きる問題です。

2015年のこのブログ記事で書きましたが、韓国では(おそらくコスト削減もあって)学習サポートから試験合格に切り替えたことがあり、試験の足切りラインを作ったことで改善はしなかったという報告があります。

韓国の「雇用許可制」と外国人労働者の現況 : 日本の外国人労働者受入れ政策に対する示唆点(1)
http://ci.nii.ac.jp/naid/120005479902

この政府の文書によると入国前は150時間、入国後は20時間、合計170時間(日本は前200時間の後173時間で合計373時間)だったものが、このテストの導入によって入国前の時間が85時間に減ったと書かれている。しかし、現状では、研修の現場では、韓国語ができないという問題が37%となっていて解決したという報告はない。合格率60%(日本の原付の免許の合格率がこのくらい)というところにカラクリがありそうで、学習時間数を減らす名目で導入され、合理化を試みたが、結果、労働需要の声におされてテストは形式的なものになってしまったという可能性があります。

つまり、日本でも、人手確保の障害として日本語能力が考えられている限り、この日本語試験の足切り基準(この3年後や特定技能の2号などで行われるかもしれない試験など)は、人手確保の状況によって、国の意向に忖度して、試験の主催者が合格ラインを下げるということも考えられるわけです。それを日本語教育関係者はレベル認定の妥当性、整合性の見地から、監視すべきですが、そういうことができる人がいるのかは疑わしいという気がします。CEFRのレベル認定の目安は、そのような国の都合で勝手に変えられるものではないはずですが。。。

 


 

この有識者会議の議事要旨を読んでいると、今後、就労系の在留資格において、まともな日本語教育政策は作られることはないだろうと思わざるを得ません。ずっとこれからの日本国内の日本語教育は就労を軸に考えていくべきと書いてきた者として、とても残念です。

追記

日本語教育学会は「外国人介護人材受け入れの在り方に関する検討会中間まとめ」に対して反対の声明を出したことがあります。名前は「「技能実習生としての外国人介護人材受け入れにおける日本語要件と日本語教育に関わる要望書」」2015年。

(1)日本語能力試験の「N4程度」とある、受け入れ時の日本語要件は、抜本的に見直す。
(2)実習開始後の日本語能力の向上は、本人や施設に任せるのではなく、公的な枠組みで担保する。
(3)今後の議論に日本語教育の専門家を加え、専門的な知見を実効性のある制度設計に活かす。

日本語教育学会、厚生労働副大臣に要望書を提出~「技能実習生としての外国人介護人材受け入れ」関連~ | アクラス日本語教育研究所 http://www.acras.jp/?p=3958

しかし、当時のURLをクリックしても文書は消えており、学会のサイトで検索しても、Googleのサイト検索でも出てきません。削除された可能性が高い?(政治家方面から怒られて、なかったことにした?)

 


 

この最初の3年間の名称を募集するそうです。もちろん実現の可能性はゼロですが、こんなことを考えるくらいしか、できることはないなと思った次第です。本当にガッカリしました。

【追記】

23年11月の最終報告の案が報道され、それに対していろいろと声明が出た

方向性がほぼ固まり、最終案が報道されるといろんな団体が反対の声明を出す事態に。

移住連の声明

技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議最終報告書案をうけて 改めて「まっとうな」移民政策を求める声明
https://migrants.jp/news/voice/20231120.html?s=09

日弁連の声明

日本弁護士連合会:技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議の最終報告書たたき台に対する会長声明 https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2023/231026.html

日本労働弁護団の声明

技能実習制度に替わる新制度において無用な転籍要件を設けることに対して断固として反対する緊急声明
https://roudou-bengodan.org/proposal/12456/

ちなみに日本語教育学会は2015年には就労系の制度について声明を出したことがある。

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日本語教師読本では日本語教育関係の制度と会議に整理しています。議事の要旨の文書も独自に保存したものへのリンクがあり、日本語関連の発言の抜粋もありますので、詳しくはこちらを。