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【過去記事】日本語教育あれこれ

日本語教育あれこれ 
2015年3月18日初版投稿 2018年1月31日改訂 約11万8000字
→2021年4月、ここに移動。レイアウトは少々崩れています。2021年6月の追記があります。

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About
はじめに
外国人技能実習制度の問題や留学生の数の話題、日系外国人労働者やその家族、あるいはEPAなどで来日する看護師、介護士、技能実習生など、いろんな場面で日本語教育の話がでます。
これまで個別の議論は多数ありますが、日本国内であるいは世界で日本語学習のニーズがどのくらいあって、俯瞰でみて、どう対応すべきかという議論はほとんどみません。試みに書いてみました。新たに取材をしたわけではなく、ぼんやりと頭にあるものをベースに、資料をあたりながら、ここ20年くらいの国内の日本語教育の状況を加味しつつ、ネット上の日本語教育政策に関するものをまとめて整理しただけです。ともかく「まとめて整理して俯瞰でみて考える」ということが大事だと思いました。
この記事は、まず日本語教師など日本語教育関係者に読んでもらうことを前提に書きましたが、なるべく事情がわからない人にも読める記事にはしました。ただ「なるべく」です。私は、ライターでもブロガーでもないので、補足説明や意見交換などは期待しないでください。この記事は、日本語教育に関して考える際の参考ページになればと作ったものです。wikiのように修正&アップデートしながら掲載を続けていく予定です。
前提となる知識いろいろ
まずは、日本語教育に関して知識がない方、あるいは関係者でも前提として共有できないと混乱するかもという点を簡単に箇条書きで書いてみます。

  1. 日本語教師にはいちおう資格があります。現在は日本語教育能力検定試験に合格するか、民間の日本語学校の養成講座や大学などで420時間に相当する授業を受けて修了すること、です。どちらも国(文科省)が方向付けをして、検定試験は日本語関連の政府系組織と日本語教育学会が、養成講座は、大学と主に民間の日本語学校が文化庁のガイドラインに従って行っています。免許のように「それがないと教えてはいけない」というものではなく、現状では、告示校と呼ばれる留学ビザの人を受け入れてもいいよと認可された民間の日本語学校や専門学校などで採用要件となっているだけです。し、大学では修士、博士が優先されます。自治体や地域の日本語教室では資格の有無は問われないことが多いようですが、ボランティア教室の教師が無資格とは限りません。従って「プロの日本語教師」とは、ひとまず、資格の有無ではなく報酬を得ているか、いないか、で考えるほうがわかりやすいと思います。ここでもそういう意味で使います。
  2. 一般の方はもちろん、日本語教育関係者の間でも認識が危うい人もいるのですが、日本語教師に求められる能力は学習者の違いや目的とはほぼ関係ありません。アフリカで教えるのも、ハーバード大学で教えるのも、東北のどこかの無料の日本語教室で3人くらいを相手に教えるのも、難しさの「違い」はあっても、難易度の高低はありません。要求される教師の基本的なスキルは変わりません。これはキレイゴトで書いているのではなく、ホントにそうなんです。むしろ、私には「大学の留学生別科より方言や日常会話のやり取りの理解、説明を反射的に求められる地域の日本語教室のほうが質の高い教師が必要」という考え方のほうが説得力があります。
  3. すぐ後に出てきますが、文化庁の調査では日本語教師は今、国内で35000人ほどおり正規雇用の教師は1割、非常勤が3割、ボランティアが6割です。ここで「プロの日本語教師」と呼ぶ正規雇用の専任講師と非常勤講師は、大学や日本語学校、公的機関などに限られており、民間の日本語学校では、正規(専任)非正規(非常勤)の比率はおよそ3:7で、専任は1500人前後です。この数字は長い間変わっていません。
  4. 国際交流基金の調査では2015年にはじめて世界の日本語学習者は減少しました。文化庁の調査によると国内の学習者数のピークは2009年、国内外の学習者の数の指標となる、日本語能力試験でも受験者数のピークも2009年です。特に能力試験の高いレベルの試験の合格者数は減り続けています。つまり、世界的には日本語学習者はかなり前から減り続けているはずですが、国内の日本語の学習が必要な人に限り2017年あたりから増え続けていくだろう、というのが正確な理解です。
  5. 国内には永住者を含めて現在200万人くらいの外国人在留者がおり、2018年の時点では、このうち、かなり少なく見積もっても現在58万人に日本語教育が必要だと思われます。この58万人のうち、十分な環境でプロの教師に教わっているのは約20万人です。残りの38万人のほとんど(いわゆる外国人技能研修生や日系の在留者、その家族など)はアマチュアもしくはボランティアの教師が教えています。2015年時点の政府の計画では10年後に日本語学習が必要な在留者は建設、林業、農業、漁業、介護、その家族、などで45万人以上増え、合計で103万人以上になる予定です。
  6. この記事が最初に書かれたのは2015年ですが、公的な機関のデータで最新のものは2012年であることが多く、20年くらいしか遡れないことが多いので、主に、1992年、2002年、2012年に焦点をあてています。その後、細かいところはアップデートしています。

👉 日本のように、外国人在留者に対して資格を持った語学教師が教えない、総合的な言語対策がとられていない、というのはかなり例外的です。国の言語政策の国際比較はこのページの最後の資料1でいろいろと紹介していますが、とりあえず、このPDFの最後にある一覧がわかりやすいと思います。http://www.clair.or.jp/j/forum/forum/pdf_272/04_sp.pdf


 

Table of Contents

概要

 

世界の日本語学習者の数

 

日本語学習者は増えているのか?

まずgoogleのここ10年の検索回数をみてみます。
Japanese language
http://www.google.com/trends/explore#q=japanese%20language
* 2015年3月のキャプチャ(記録として)
japanese lesson
http://www.google.com/trends/explore#q=japanese%20lesson
* 2015年3月のキャプチャ(記録として)


世界の日本語学習者数についての調査は国際交流基金が3年おきに行っているものしかありません。調査票を送ったり通知したりして、回収したものやウェブ上のフォームから送信があったものを元にしているとのこと。2012年の調査までは学習者数の合計は398万5669人と右肩上がりでしたが、2015年の調査では、365万5024人とはじめて減少となりました。

交流基金の調査をみていくと、いろんなことがわかります。まず、学習者の9割は東&東南アジアで半数以上、200万人近くは、中学から高校にかけて第二外国語として日本語を勉強している学習者です。これらの国では第二外国語は必ずしも学習者が自由に選択できるわけではない(学校長の方針で第二外国語が決まるなど)こともあり、同調査でも「勉強不熱心」が最大の課題となっています。また「機関の方針で日本語教育を行っていることが多く、必ずしも学習者が自発的に選択したわけではないという事情があると考えられる」というような記述も2012年の本冊にはありました。特に昨今、飛躍的に日本語学習者数が伸びている東南アジア(ベトナムやインドネシアなど)では政府や州の「指導」で学校に日本語の授業が導入された、というようなことが報じられたりします。(その他、約100万人は大学などで日本語を選択して勉強していて、約56万人が学校制度の外で勉強している人達です)
つまり、365万人のうち300万人前後はそれぞれの国の教育制度の中で第二、第三外国語として選択されて勉強されていて、その「選択」は自分で選んだものではないケースも多く含まれている、ということです。そして世界の学習者における「日本語を学校で選択して学習している」人達の比率は上がっています。
日本語学習者の数は増えているが、いろいろな働きかけの結果、海外の教育制度に日本語が組み込まれ、選択される機会が増えていることが大きな要因のひとつで、少なくとも「世界中で日本語を勉強したいという気運が高まっている」とは言いにくいのではという気がします。

一方で、オーストラリアのように日本との政治的経済的な関係の変化によって極端に減ったりということも起こっています。(2003年は約38万人だったが、2012年に約29万人に。現在は30万人超ですが、毎年の日本語能力試験の受験者数はわずか1000人超です)。こういった「働きかけ」が功を奏した国や地域以外では横ばい、自然減が顕著で、2000年代には南米など各地で大学の日本講座が無くなったり、1990年代にあった海外の民間の語学学校の日本語コースは減っている、あるいは無くなった、という報告が多く、実質的には21世紀に入ってハッキリと学習者は減る流れになったのではと私はみています。
👉  詳しいデータと分析は、「日本語教育関係のデータまとめ」に書きました。日本語学習者数調査のバイアスや能試受験者数、人口との比率など、世界の学習者調査をいろんな角度でみたデータがあります。
👉 論文など
インドネシアにおける日本語教育事情 (特集 : アジアの中の日本)
ベトナムの中の日本 : –日本のグローバリゼーションの一例再論–

* 世界の日本語学習者数の過去のデータPDFはこちらに。
https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/survey/result/index.html
国際交流基金は前回(2009)までは調査結果をすべてサイト上で公開してましたが、今回から概要だけ公開で本冊は2000円で買わなければならなくなりました。毎回、発表と共に日本語学習者数の報道がありますが、メディアの方々も記事を書く際は、概要だけでなく本冊も読んでみることをお薦めします。冊子はアマゾンにあります。 
海外の日本語教育の現状-2012年度 日本語教育機関調査より
http://www.amazon.co.jp/dp/4874246087/
2015年版はまた全編をウェブで見られるようになりました。

👉 海外の大学で、日本語や日本関連の科目があるところは多いのですが、例えば南米では2010年前後にかなりの数が閉鎖となっています。
https://goo.gl/tbJui4

日本語能力試験からみた日本語学習者数

世界の学習者365万人のうち、どのくらいの人達が現在進行形で「日本語学習中」だと考えていいのでしょうか?
「今、日本語を本気で勉強している人」を日本語学習者とするならば、もうひとつの目安に日本語能力試験の受験者数(応募者数ではなく受験者数で考えます)があります。日本語教育において日本語能力試験の影響力は絶大です。介護や看護など日本での仕事の条件、日本語を使う企業での就職、留学などで必ず日本語能力試験のレベルを問われます。現在、日本語の達成度の唯一の指標で、対外的に日本語を学習したと証明するためのほぼ唯一の手段です。教育課程で日本語を専攻している人はもちろん、一般でも力試しで受けてみる人はとても多いと思われます。
日本語能力試験は、日本語の能力をレベル別に認定する英検のようなスタイル(ただし面接、スピーキングはなく、録音音声の聴解とマークシート方式の試験)のテストです。ここ10年で開催国、地域がかなり増え、2009年から年2回になり試験の回数も増えました。これが受験者数の増加や広がりに対応したものか、受験者数を増やすための方策かはわからないのですが、地域と回数を増やしても受験者数は減り続けています。
また、2011年から、1234級の4段階だったものが、N1~N5と5段階になりました。数字が少ないものが上級。上の1,2に関しては新旧の方式でもほぼ同じですが、N3は3級よりやや上位という設定になっていて、基礎的な事項の理解が十分かどうかを計るレベルになっています。従来の3級受験者がN3とN4に分けられたと考えるとわかりやすいと思います。
開催国・地域はここ10年での増え方が大きいようです。
能力試験のデータは推移がみられないので、整理してみました。
合格者のデータはこちらにあります。
http://www.jlpt.jp/statistics/archive.html

1992 2002 2009 2010 2011 2012
実施国・地域数 26 39 54 58 62 64
受験者数 68565 242331 768113 607972 608157 572169
N1(1級合格者) 78688 67608 65629 60272
N2(2級)合格者 90772 88437 76647 72410
N3(3級+α)合格者 61262 38009 35390 33013
N4(4級+α)合格者 22951 25038 31685 25031

2013年~

2013 2014 2015 2016
実施国・地域数 65 67 69 69
受験者数 571075 594682 652529 755802
N1 64197 59544 56262 59929
N2 75400 72818 76687 89185
N3 55184 41882 49057 66333
N4 29469 29309 31058 35752
N5 29884 29732 34731 38045

👉 もうちょっと昔からの数字はこちらにありました。
JLPT主な国・地域別受験者数(1984~2016)
http://www5a.biglobe.ne.jp/~t-koron/jlpt-data1.html

N3以下のレベルは、2010年から3,4級がN3,4,5と分かれたので、2009年のデータはあまり参考になりせん。また、2017年から介護系の技能実習生などで、N4やN3合格相当がビザの延長要件となったので、N3までの受験者数は今後増えることが予想されます。「本気の学習者数」をみる指標としては、弱くなったと考えるべきでしょう。ビザと関係のない、N2やN1の合格者数をみていくことが重要になってくると思われます。
2016年までの推移をみても、受験者数の歴代のピークは2009年です。また、2009年と2016年は受験者数は近いのですが、N1合格者がかなり減っていることも注目に値します。N3の合格者も確実に増えています。以降、開催地域や回数が増え、受験者数は回復基調ですが、N1合格者数は減少する流れです(東日本大震災前に減少がはじまっていることも重要な点です)。
通常、学習者は日本語学校で月金で通って勉強すれば、個人差はあっても三ヶ月から半年でN3レベルに、1年でN1まで行くのは可能ですが、通常は一時学校に通って、その後は自分で勉強したりしながら、勉強を続けるのが一般的です。3~5年くらい継続的に学習が続けば最上級のN1まで到達するかな、というのが平均的なところではないでしょうか。長年学習を継続する人や、継続中の人が学習者としてカウントされつづけるので、新規の学習者が減っていることが数字に現れるのが遅れる、という可能性を考えてみると、N1合格者が減り始めた2009年の年の3~5年前から新規の学習者が減っている可能性がある、ということになります。
日本語能力試験の数を軸に世界の学習者数を出すならば、ここ10年で開催地域を倍近くにして、回数を増やしても、2009年のピーク時で申込者が約76万人、2013年が約57万人。特にここ5年は、学習者は減る傾向がはっきりしてきた。また、2012年の57万人に、すでに能力試験を卒業したレベルの人達、試験を受けない人達を足すとしても、進行形の日本語学習者は、だいたい100万人+α、というのがリアルなところかもしれません。(10年後に日本国内で日本語学習が必要な人が103万人になると、国内外ほぼ同数になります)
👉 2009年以前のレベル別の合格者の数字は非公開
👉 2015年現在、受験料は国内で5500円。海外では日本円で、2~3000円というところらしいです。学校や企業の補助で受験する人も多いのではないかと思われます。
👉 日本語能力試験の収支に関しては、よくわからない。ここに少し報告が。http://www.mofa.go.jp/mofaj/annai/shocho/dgh/kikin_21/pdfs/seat21.pdf
👉 ちなみに、中国文化部によると世界の中国語学習者数は2013年で1億5000万人とのこと。この数字も正確にはどうなのかはわかりません。2015年時点でそのくらいいても不思議じゃないような気がします。ただ、他の言語で学習者数を調べているところはあまりないようです。そもそも「**語学習者数」に信憑性を求めるのは難しいということかもしれません。
この文の目的は、学習者数の正確な把握ではなく、国内の日本語教育がメインなので、以降は、国内の数字を軸に進めていきたいと思います。

 

国内の日本語学習者の数と政策

 

日本に滞在している外国人在留者は何人?

必ずしも外国人在留者=日本語学習者ではありません。2014年の法務省の統計によると2014年6月の時点で235万9461人。このうち観光、商用など短期滞在の人が25万1187人なので、長期在住者は、210万8274人となります。このうち永住者が66万4949人(特別永住者が36万3893人)です。(ちなみに、外国人技能実習生制度関連の人は16万2157人。EPA関係は1580人です)。この数字は、2017年には技能実習生が20万人超となったことは報道で知った方も多いでしょう。
法務省統計
http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_touroku.html
要約版PDF
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000049149.pdf
日系定住者には特別枠があります。上の数字だと統計上は永住者に含まれるようです。現在は18万人前後と言われています。
http://www8.cao.go.jp/teiju/guideline/pdf/fulltext.pdf
👉 ちなみに、2020年までに外国人技能実習制度で補填したいとする人の数は15万人、介護人材の不足が30万人と言われてますので合計で45万人です。210万人が255万人になるわけです。ちなみに、日本の人口1億2700万人に対する比率は1.6%から2%になります。
欧州の移民の比率はだいたい10%前後、カナダで約20%
各国の移民人口の推移
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1171.html
各国の移民人口比率
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1170a.html
OECD International Migration outlook(ソース、動画あり)
http://www.oecd.org/migration/international-migration-outlook-1999124x.htm

 


 

 

国内で日本語学習を必要としている人はどのくらいか?

国内の学習者数に関しては、文化庁の調査があります。文化庁で把握している日本語教育機関に調査票を送って回答があったものの統計です。


http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/nihongokyoiku_jittai/
この「日本語学習者数」は、国内の機関で勉強している数です。大学や日本語学校で学ぶ留学生に地方自治体の学校などで学ぶ人を加えたもの。約20万人程度となっています。日本語の学習が必要な人の数ではありません。
ここから漏れた数として考えられるのは、まず外国人技能実習生の20万人超、南米などから来て永住権を得ている約18万人です。この計約38万人は今のところ、日本語の学習が必要な可能性が高い。公立小中学校にもすでに1校あたり約2名、合計6万人以上の学習が必要な児童がいると文科省の調査にもありますし、その他、カウントされない学習者(あるいは学習サポートがされるべき人達)はまだいるはずです。在留資格でいえば「家族滞在」の12万人も無視できない今後拡大する枠だと考えられます。
長期在留者の合計210万人のうち、仮に上の38万人だけに絞ったとしても、これに文化庁の約20万人をプラスして、約58万人が現状で国内で日本語教育を必要としている人達だと、ひとまず、考えられます。(「ひとまず」です。いわゆる中国在留邦人、難民など、まだまだいますが、まず数を仮で確定したほうがこの後、進めやすいので)
これに、10年後の2025年まで不足すると言われている介護士30万人と、オリンピックまでにのべで必要と言われている技能実習生の15万人が、10年後にはプラスされる予定です。介護士は永住までの道が整備されることもあり、「家族滞在」も飛躍的に伸びる可能性があります。もちろん日本の国籍を持っていても日本語学習が必要な人もいます。ただここは、確実に一般の人にもわかりやすく、かつ多くの人に理解が得られる最小限の数字で試算してみます。すると、単純に、今58万人で10年後には少なくとも45万人が増える、合計で103万人ということになります。
国内の総合的な日本語教育施策は、2013年に関係省庁で調整しながら対策を出すことになっています。
http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/nihongokyoiku_suishin/
が、第一回の議事録の「関連組織、団体、関連省庁」をみると、とても連携が可能とは思えないとタメイキが出ます。国やいろんな省庁や関連法人にとって「日本語教育」は、総合対策をやると大変だ、ただ、ちょこちょこ予算がとれる便利なテーマだ、ということなのかもしれません。
http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/nihongo_suishin/01/pdf/shiryo_1_1.pdf
👉 「留学生の数」は時々話題に上がります。1983年に留学生10万人計画が始まり、2003年に達成(目標は2000年)、2007年に留学生30万人計画は2020年が目標。数字を出しているのは日本学生支援機構です。
この「30万人計画」達成のためかなのかはわかりませんが、2010年より数え方が変わり、それまでカウントしていなかった日本語教育機関(民間の日本語学校)の数(5万人前後)も2011年から入れることになりました。経緯はこちらに。海外では短期留学生もカウントすることが増えてきたので、日本語学校のビザも「就学」から「留学」にしてカウントすることにした、という理屈ですが、日本語学校は昔から、語学の短期留学はごく一部で、専門学校や大学の予備校的な存在であることは明らかなので、それを大学の下請けと考えるならいいんですが、大学には留学生別科という短期留学制度があるので、かなり苦しい理屈なのでは、という気がします。

 


 

すこし個別にみてみます。

 

介護士、看護師への日本語教育

看護師は今後もEPAを中心に受け入れを続けていくようです。EPAルートの場合は、日本語能力試験を来日の要件にする方向で進んでいます。ただしEPAでは年間でも百人から千人程度のペースなので、より人手不足が深刻な介護士は技能研修生枠でということになりそうです。
2014年に政府から出された「外国人介護人材受入れの在り方に関する検討会中間まとめ」があります。
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000073122.pdf
これに対し、日本語教育学会は次にような抗議を出しました。
http://www.nkg.or.jp/oshirase/2015/kaichoseimei.pdf
日本語教育関係者には、日本語能力試験そのものの評価はともかく、N3合格が基礎的な能力の証明に最適、というコンセンサスはあるので、N4は不足であることは一致するところかなと思います。N3なのかN2なのかは議論があるところです。日本語の学習が不要ということではなく、N2が必要と考える人と、N3以降は日本語能力試験ではない別の指標でやったほうがいいというような意見です。
日本語教育に関する方針決定
2017年9月29日に厚労省は正式に発表しました。
外国人技能実習制度への介護職種の追加について
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147660.html
告示
概要
詳細(ここにいろいろと書いてあります)
来日要件はN4程度、来日して1年以内にN3合格程度にならなければビザ延長なし。来日後の研修は日本語教師は有資格者マスト、来日前の研修も来日後の研修免除になるには有資格者でなければならない。N4,N3程度の「程度」は、J-TEST、NAT-TESTでそれに相当するレベルであること。
という妥当なものとなりました。ただし、試験はまだ追加されることが示唆されており、「程度」には「外国の政府及び関係機関が認める者」というものがあります。試験だけではないようです。関係者によると、介護技能実習生は来日2ヶ月で240時間の有資格者の教師による日本語研修を受け、来日8か月目には日本語試験を受験しN3程度に合格しなければ帰国、というスケジュールになるそうです。
👉 ただし、能試はともかく、他のテストに関しては、民間の試験でもあり、情報公開もされておらず、受験者数も少なく、実施する地域もアジアだけと、効き目が弱めの能試のコピー、という印象で、日本語能力の判定に使うのは疑問が残ると、私は思います。
介護士、看護師はどんな枠組みで来日するにしても、地域で実際に人と接する仕事をすることになりますから、日本での継続的な日本語研修は必須であることは間違いありません。N3合格でビザ延長となった後の日本語教育に関する総合対策が待たれます。

 

日系定住外国人への日本語教育

日系の在留者18万人は、そのほとんどが南米から来た人達です。現在、減少しつつあります。しかしながら無視できない規模の数であり、家庭を持ち定着している人達も多数います。比較的新しい政府の報告では、今のところ下げ止まりとみたのか、「日系定住外国人」と位置づけ、定住を支援していくという姿勢があるようです。
日系定住外国人施策の推進について
http://www8.cao.go.jp/teiju/suisin/sesaku/index.html
日本語教育関係の話の前に基本的なプロセスをざっくりと。
80年代の後半はバブルで人手不足、ビザ免除の協定がある国からたくさんの外国人労働者が来たが、不法就労問題などもあり、80年代後半に方針を転換。1989年に入管法改正で日系の人達に家族を含めた移住を許可することになった。ただ当初は永住前提の移住が目的だったようで「出稼ぎ」は想定してなかったとのこと。
http://archives.bukkyo-u.ac.jp/rp-contents/SO/0040/SO00400L001.pdf
例えば、ブラジルでは、日本とブラジルの間で、あまり法的なすりあわせが行われていなかったようで、日本に来て、日本国籍を取得する人も増えたが、ブラジルは国籍離脱を認めておらず、日本国籍を取得した場合は、結果としてブラジルとの二重国籍ということになるとのこと。日本政府は二重国籍は認めていないので、ブラジルでは国籍を離脱したことになってないけど、日本では「事実上の日本国籍者」として扱われる、というかなりこみ入ったことになっている。こういう実態上二重国籍になる可能性はブラジルに限らずあるので、日本も二重国籍は認めるべきでは?という気がします。
原案を作成した当時の法務官僚、入国管理局の中の人の話
http://jipi.or.jp/?p=779
興味深いので一部少し引用します。

🗨 1988年4月、私は法務省入国管理局の総括補佐官というポストにあったが、そんな私に、突然上司から、「入管法の在留資格はいまの時代に合わない。外国人労働者問題に対応するため在留資格の全面的な見直し案を作るように」との特命が下った。

🗨 役所に入ってまもない私は、日本政府が最優先に入国を認めるべき外国人は、日本人の子供であり、また日本人の配偶者であると思っていた。それは、国民の福利を守るという行政目的から導かれる自然な考えであった。実際、英国など諸外国の入国管理法制を見てみても、自国民との間で、血縁関係や婚姻関係を有する外国人がもっとも優遇されていた。そのような考え方は、世界のどの国でも同じで、入管当局の共通認識だと思っていた。ところが驚くべきことに、当時の入管法は、「日本人の子」と「日本人の配偶者」を正面から受け入れる仕組みになっていなかったのだ。

🗨 法改正にあたって私は、「日本人移民の子孫たちに対して入管行政は何ができるのか」という視点を在留資格に反映させたいと考えていた。私が原案作成で主導的な役割をはたした入管法の改正法は、1989年の国会で成立し、翌年6月から施行された。改正入管法の施行により、私の悲願であった日本人の配偶者および日本人の子として出生した者を受け入れるための「日本人の配偶者等」の在留資格と、日系人の子孫(「日本人の実子」および「日本人の実子の実子」に限る)などを受け入れるための「定住者」の在留資格が新設された。

「出稼ぎ」は想定されてなかったとしても、「労働力補填」という意図はあったようです。
まず「日系」の定義はいろいろと難しそうだと思ったら、やはりいろいろ議論があるようです。
1990年入管法改正を経た〈日系人〉カテゴリーの動態
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsce/ce/2009/ic01a.pdf
その後、15~20万人で推移していたが、2000年代後半、仕事が激減し、2009年4月から一年間、帰国希望者に30万円、家族に1人当たり20万円、を支給し、3年間は再入国できない、という「帰国支援制度」を実施し、この制度を利用して2万1675人が帰国した。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/gaikokujin15/kikoku_shien.html
しかし、3年を経過しても日本は、再入国を認めておらず、問題となっています。
http://minorityyouthjapan.jp/projects/view/5
この帰国支援制度に関しては、海外でも、いろいろと報道されています。
http://www.globalpost.com/dispatches/globalpost-blogs/weird-wide-web/top-5-worst-countries-for-immigrants
http://foreignpolicy.com/2010/04/29/the-worlds-worst-immigration-laws/
👉 2017年に再び日系人に対しビザを与えるべきということになりましたが、この日系人に対する枠組みは、若者を対象にワーキングホリデー的な方法で、年間数千人程度ということになりそうです。小さなものですが、これが一時的なものなのか、今後の単純労働者に対するビザのテストケースとして行われるのかは、まだわかりません。
本題の日本語教育について
元々、出稼ぎは想定してなかったとするなら、定住前提の方策だったとなります。なおさら国に日本語教育のサポートをする義務はあるわけです。帰国支援で一旦帰国して再入国を希望している人も多いと聞きますし、政府の方針によっては、また増加する可能性も残しています。
先にあげた政府の報告にもあるように、日本語教育が不十分であるという認識は国にもあり、基本的には、文化庁の日本語教育推進会議
http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/nihongokyoiku_suishin/
で決まったことをベースに文化庁主導でやっていくようです。ここは、各機関の「情報交換」が目的で、日本語学習に関しては、「各種手続の機会を捉え、日本語習得状況について確認し、必要に応じ日本語教育を受けることを促す」と、今のところは「日本語勉強したほうがいいよ」と啓発していく程度のことみたいです。そして学習のサポートは基本、自治体まかせです。また、この会議の目的は定住者で日本語のサポートが必要な人、特に児童の日本語教育が主なテーマで、ここには外国人技能研修生などは含まれません。
文化庁の基本政策、日本語コーディネーター。
http://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kyoiku/seikatsusha/
年間の予算2億では、1県あたり500万円ですから、コーディネーターの謝礼と、地域の教室にわずかな補助金が出て終わり、という可能性が高いです。しかも「日本語コーディネーター」は、地域によって偏りがあり、定着が進めば進むほど(例えば学習者が結婚して引っ越すとか)カバーできなくなっていきますし、後述する近い将来の日本語学習者の広がり(介護や看護で国内にまんべんなく日本語学習のニーズが広がっていく)にも対応できなくなるはずです。
その他、児童の日本語教育に関しては、文科省が公立学校ベースでは100億円近い予算(H24年度で80億円規模)で、「不就学・自宅待機となっている外国につながる子ども」には、国際移住機関を通じて「虹の架け橋教室」という日本語サポートを展開していましたが2014年で終了し、その後は、文科省が総合対策を出すということになったようです。

虹の架け橋教室での補助の概要
国際移住機関(国連の機関)
http://www.iomjapan.org/japan/kakehashi_top.cfm
H21年(2009年)度の国際移住機関への補助金は約37億円。
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2011/08/15/1309746_05.pdf
この37億円の基金を軸に数年運用していくことになった。地域の教室などが国際移住機関に申請し認可が下りれば補助金がもらえる仕組み。
http://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kyoiku/todofuken_kenshu/h27_hokoku/pdf/shisaku02.pdf
この機関がサポートするのは公募で決まり、2014年は22の機関。
http://www.iomjapan.org/img/usr/2014_jisshidantai_ichiran.pdf
この基金でのサポートは2009年にスタートし、2014年で終了。約6年間。

□ その後の進展
虹の架け橋教室の基金は、2014年で終了となり、文科省が本格的に対応することになった。
その後文科省で
学校における外国人児童生徒等に対する教育支援に関する有識者会議
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/121/giji_list/index.htm
が2015年の12月から2016年の4月にかけて5回行われ、提案が出された。内容は、すでにいるとされる1600人の日本語指導員を増員すること、教職課程に日本語の単位を盛り込む準備をすること、集住散住のバランスをとるために拠点校を設けてそこを軸にやっていくこと、高校入試で受け入れ枠を作り便宜を図ること、など。就学している児童へのサポートは強化されるとのことだが不就学の子供などがどうなるかは不透明。

有識者会議 委員
文書
池上 重弘  静岡文化芸術大学 教授
伊東 祐郎  公益社団法人日本語教育学会 会長
東京外国語大学留学生日本語教育センター センター長
各務 眞弓  NPO可児市国際交流協会 事務局長
古角 美之  兵庫県教育委員会事務局 人権教育課長
佐藤 郡衛  目白大学 学長
佐原 光一  豊橋市長
菅原 雅枝  東京学芸大学 国際教育センター 准教授
高田 和明  愛知県教育委員会 義務教育課長
高橋 清樹  NPO多文化共生教育ネットワークかながわ 事務局長
神奈川県立橋本高等学校 教諭
竜澤 規之  甲府市教育委員会 学校教育課 指導主事
藤巻 秀樹  北海道教育大学 教授
松本 一子  愛知淑徳大学 非常勤講師
吉住 健一  新宿区長

参考までに、ここで言及されている「日本語指導員」とは、93年から行っているというJSLカリキュラムに従った研修をうけた教員、ということになっている。おそらく独立行政法人教員研修センターで行われる外国人児童生徒等に対する日本語指導指導者養成研修で、修了証書を取得した人ということだと思われる。管理者向け研修は2日間、教員向けは4日間、20人クラスの授業。
以下、この研修の内容(2016年4月)を引用します。
🗨 
目的
 日本語指導が必要な児童生徒等の増加等を踏まえ、これらの児童生徒に対 し適応指導・日本語指導を行うとともに、関係機関と連携し、受入れ体制を整備するなど、学校全体できめ細かな対応を図ることが重要である。本研修では、学校全体での外国人児童生徒の受入れ体制の整備、関係機関との連携、日本語指導の方法等について、必要な知識等を習得させ、各地域において本研修内容を踏まえた研修の講師等としての活動や各学校への指導・助言等を行うことのできる指導者の養成を図る。
内容
・外国人児童生徒教育の現状と課題、「特別の教育課程」による日本語指導の要件、日本語能力の評価の在り方等に関する講義
・外国人児童生徒教育の先進的な取組に関する事例発表・協議
・外国人児童生徒等の受入れ体制、JSLカリキュラム・外国人児童生徒の生活背景や学習経験等を踏まえた日本語指導や学習支援の内容と方法、日本語能力測定方法(DLA)等に関する演習
【管理者用コース】
外国人児童生徒等の受入れ体制について、管理者としての役割や関係機関との連携の在り方の理解を深めるなどの具体的な対応について行う。
【日本語指導者用コース】
「初期指導プログラム」「中期・後期指導プログラム」及び「教科指導実践プログラム」に分け、基本的に受講者の希望を参考に行う。それぞれのプログラムの内容は以下のとおりである。
「初期指導プログラム」
  来日直後等の児童生徒に対する日本語指導を中心とした内容 
「中期・後期指導プログラム」
  日常会話ができる児童生徒を対象とした「読む力・書く力」を高めるための日本語指導を中心とした内容
「教科指導実践プログラム」
  日常的な会話はある程度できるが、学習活動への参加が難しい児童生徒に対するJSLカリキュラムを活用した「日本語と教科の統合学習」を中心とした内容(「国語」「社会(地理・歴史・公民を含む)」「算数・数学」「理科」のうち希望する教科をもとに研修を行うが、班編成の関係上第1希望に沿えない場合がある。)
受講者
【管理者用コース】
1)都道府県・指定都市・中核市教育委員会の指導主事及び教育センターの外国人児童生徒等教育担当者並びにこれらに準じる者。
2)小学校、中学校、高等学校、中等教育学校並びに特別支援学校の校長、副校長、教頭であって、各地域・学校において本研修の成果を活用できる者。
【日本語指導者用コース】
1)都道府県・指定都市・中核市教育委員会の指導主事及び教育センターの外国人児童生徒等教育担当者並びにこれらに準じる者。
2)外国人児童生徒等に対する日本語指導等について経験を有する小学校、中学校、高等学校、中等教育学校並びに特別支援学校等の主幹教諭、指導教諭及び教諭等であって、各地域・学校において本研修の成果を活用し、外国人児童生徒等の教育の中心的な役割を担うことができる者。

過去の実施要項などをみるかぎりでは、集住地域の人と散住地域(ここでの表現は「分散地域」)の人は別クラスになる。集住の定義は、このPDFによると、外国人児童生徒」が10名以上在籍する」となっている。
ある程度日本語指導の経験があることが前提となっているが基準はないので、基本、この研修を受ければ「日本語指導員の指導」つまり日本語指導のリーダー的な存在として活動することになるということのようです。
JSLカリキュラムは、2006年の文科省の方針では、これを軸に定着促進ということになっているが、2016年の有識者会議でカリキュラムの見直し(どの程度かはわからない。誰が関わるのかも)も言及された。会議の最後(すでに骨子は出された4回)では非就学児童に関する意見も出たが骨子には反映されていない。
👉 参考までに、一般的な教職の単位数は、小中学校でいうと、だいたい40~90くらい。日本語教師の資格は、日本語教育学科ならば大卒までの単位数すべて、日本語教育に特化したものなら文科省のガイドラインをふまえて、最低でも26単位となっており、民間の学校などでの養成講座では420時間が目安。現場での経験と4日間の研修で「日本語指導員の指導」ができる修了証書が取得できるのは前述の日本語教師に求められる文科省のガイドラインからみても疑問。

日本語教師の有資格者は公立学校では教えることができなくなりました
2014年、文科省は、公立学校での日本語指導が必要な児童(現在約6万人前後?今後増えることは確実です)への日本語教育について、リタイアした国語教師などをあてる方向で検討をはじめました。報告書には「日本語教師」「資格」という言葉は一切出てきません。教員養成系の大学や、小中学校の教員の既得権の壁はあつかったということかもしれません。しかし、元々、日本語教師養成講座の420時間は、文化庁の指針がベースに作られたものです。それにも関わらず、完全にスルーされてしまったという事実は重い。日本語教師養成講座は、今後、国内で信頼をとりもどし、日本語教師という仕事が職業として確固たる地位を確立するためにも、少なくとも、ここに認めさせる方向で改革していくべきだと思います。きちんと管理、監視をし、まともな資格として育てていってもらいたいものです。
以下、文科省の報告書の「指導者」に関する部分の全文です。
🗨 「特別の教育課程」による日本語指導は、小学校、中学校、中等教育学校の前期課程、特別支援学校の小学部及び中学部に在籍する日本語指導が必要な児童生徒に対して、学校教育の一環として行うものであることから、日本語指導担当教員(主たる指導者)は、教育職員免許法により授与された、実際に指導を行う学校種に相当する教員免許状を有する教員(常勤・非常勤講師も含む。)とする。なお、定年退職した元教員を再任用して活用することも考えられる。
○ さらに、日本語指導担当教員には、児童生徒一人一人の実態を的確に把握した上で、当該児童生徒が学校教育において各教科その他の教育活動に日本語で参加できるようにすることを念頭に、指導計画の作成や児童生徒の学習評価の実施等も含め、きめ細かな指導を行うことが求められる。したがって、日本語指導に関する専門的な知識・技能及び個々の児童生徒の実態に応じた指導を行える指導力を有した者を充てることが適当である。
○ また、日本語指導補助者として、これまで地域や学校において日本語指導に携わってきた経験を有する支援員等を活用することは極めて有効であり、日本語指導担当教員が作成する指導計画に沿って、当該教員が行う日本語指導や教科指導等の補助を行ったり、学校と保護者との間で母語による連絡調整等を行ったりすることなどが期待される。

👉 ここに「420時間の日本語教師養成講座を修了したものをあてる」とかかせないとダメです。なぜ、日本語を教える勉強をし、経験を経てきた専門家が「補助」なのか?と日本語教育関係者は声をあげるべきです。
👉 日本語指導が必要な児童生徒を対象とした指導の在り方に関する検討会議の議事録は以下に。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/003.htm

 


 

内閣の定住外国人ポータルサイトはこちら
http://www8.cao.go.jp/teiju-portal/jpn/
一般就労者には日系人就労準備研修というものがあり、日本語資格コースとして240時間が割り当てられているようです。この一般財団法人 日本国際協力センター(JICE)というところは、元々外務省所管の組織で、JICAと連携して国際的な人材派遣などをしていたところみたいです。ここでも独自の「JICEならではの日本語講習」をするそうですが、授業、カリキュラム、教材、いずれも不明です。講師の資格が問われるのかは不明です。
http://sv2.jice.org/jigyou/nihongo.htm
在留者は「一定の質が保証された」日本語教育を受ける権利があると考えるのは自然なことで、現在の状態は、日本が批准している国連人権A規約、子供の権利条約に違反しているという指摘もあります。
http://www.kanaloco.jp/article/84593/cms_id/127849
国連人権A規約
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/2b_004.html
子供の権利条約
http://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_rig.html

 

外国人技能実習制度の日本語教育

外国人技能実習制度は、1993年スタート。日系移住者の政策に次いで、大きな方針転換。バブル後期のビザ免除国からの出稼ぎ労働者問題からの転換で労働力確保はこの制度でやっていくとなった、ということだと思います。
この制度で来た人達は、ピーク時の2008年ごろは20万人近く、現在は、日本にいるだけで16万人、公益財団法人 国際研修協力機構(JITCO)によると、8割が20才代、今後、オリンピックの建設需要などで2020年までに15万人、さらには介護士もこの枠でやることになり、これがだいたい30万人必要とされています(介護は、他のルートもあります)
これまで多くの問題点が指摘され、報道されています。
外国人技能実習生の現状と課題
http://r-cube.ritsumei.ac.jp/bitstream/10367/4899/1/as36_yoshida.pdf
外国人受入れ制度検討分科会 議事
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri06_00032.html
外国人技能実習で検索すると最低賃金での試算結果を示して「コストを削減!」「人手不足解消!」をうたい文句にした組織がたくさんヒットします。また、よく農業、漁業に焦点があたりますが、対象職種はかなり幅広いです。
http://www.jitco.or.jp/system/shokushu-hanni.html
しかし、ここでは、なるべく日本語教育に焦点をあてて書いていきます。
介護の技能自習生枠では、国内の日本語教育に関しては、有資格者で200時間超の学習が義務づけられ、来日要件もN4相当、来日後も1年以内にN3合格相当でないと帰国という比較的妥当なものとなったことはすでに書きました。しかし、それは介護だけの話で、大多数の技能自習生に関しては、日本語教育のサポートはほぼありません。厚労省は、日本語教育に関しては関与しようとしません。
介護以外の技能実習生の日本語教育について書いてみます。
これまでの派遣前の日本語教育に関しては、このJITCOのガイドラインが基準となっています。
日本語の授業は最低でも、例として月金で一日3時間で3ヶ月、などと、まとまって200時間程度の日本語研修が示されています。
http://www.jitco.or.jp/pdf/guideline_hakenmaenihongo.pdf
*上のPDF、2015年3月22日に削除されました。改訂中とのこと。新しいものがアップされるまで保存したものを以下に。2007年版です。
研修生派遣前教育ガイドライン 日本語教育編
実際に200時間以上実施されているようです。
http://www.jitco.or.jp/nihongo/data/enjo_jittai_okuridashi.pdf
ただし、このPDFを読む限りでは、日本語教師に関する規定はないようです。ガイドラインの中であるのはこれだけ。短いので全文引用します。

🗨 
派遣前日本語教育の目標を設定し、その達成に向けて必要なカリキュラムをこなしていくためには、相応の日本語指導員を配置することが必要です。日本語指導員は、派遣前の日本語教育を担当する者として、日本語指導に関する基本的な知識やノウハウが必要であることは言うまでもありません。送出し国の事情にもよりますが、その送出し国出身の指導員であれば、地元の高等教育機関等で日本語を学んだ人や、日本への留学経験者等が考えられます。日本の生活や社会情勢、経済事情等についても精通し、指導員自らの経験もって説明できるような経歴があれば、なお望ましいでしょう。
日本人の指導員であれば、日本国内で一般的に日本語教育の専門家に求められる要件、すなわち、日本語教育能力検定試験の合格者や所定の養成講座を修了した人が考えられます。しかし、一般的に、送出し国で日本人の日本語指導員を継続的に確保するのは難しく、現状では、送出し国出身の日本語指導員が派遣前の日本語教育を担当する場合が大勢を占めています。母国語で説明することにより、指導内容を十分理解させることができるのは送出し国出身の指導者ならではの利点といえるでしょう。
他方、こうした送出し国出身の日本語指導員がより効果的な日本語指導を行うためには、正しい発音を伝えることに留意する必要があります。日本人の発音を吹き込んだCD教材等を適宜活用すると、発音練習や聞き取り練習を行う際の不便さを補い、正確な発音を指導することができます。

「日本人の発音」「母国語」というような表現は、日本語教育の専門家は使わないと思われますが、それはともかく、いろいろ大変だろうから、そっちで決めていいよ。ということでしょうか。
ガイドラインにも、JITCOの日本語指導の手引き
http://www.jitco.or.jp/download/data/nihongo_shido.pdf
にもありますが、日本に来る前に、1)ひらがな、かたかなの読み書き2)聞いたことが書き取れる。3)簡単な文が書ける。4)「禁止」などの実用漢字が読めなくても意味がわかる。5)数字、日付が聞き取れ言える6)簡単な指示を理解し行動できる。まではやること、入国後は日本の生活習慣を学び、生活の中でふれる表現になれる。となっています。
「8割以上が20才代」と言われる学習者相手に、200時間の日本語研修をするにしては、この「手引き」の目標設定は極端に低いと言わざるを得ません。
さらに入国後は、最初の受け入れ機関(第一次受け入れ機関)で平均173時間(うち方言に関しては2時間)の日本語研修を受けているようです。(その後日本語研修を続けるところは6割となっていますがアンケートの回答率が65%なので、全体の比率は実際はもっと低いことが予想される。3割以下?おそらく、ほとんどの研修生にとってこの373時間で日本語の研修は終わりです)
実際に研修を行う機関(第二次受け入れ機関)に行くまで、最低でも平均で373時間の日本語研修を受けていることになります。

日本語の学習時間と到達するレベルの目安
日本語の学習時間と達成できるレベルに関しては、明確なものがありませんが、ある程度の目安として日本語能力試験が以前設定していた時間があります。4級(=N3~N4)で300時間、3級(=N4~N5)で600時間というものです。ただし実際は、毎日勉強できるような環境ではもっと短く設定されています。また、日本語教育の場でも最も使われている初級の総合教科書である「みんなの日本語」では、300時間で終了するとなっています。「みんなの日本語」を終えて理解度が高い学習者は、N3は合格すると見込まれています。N3は介護や看護の入国基準として有力とされている基準で、日常会話はなんとかこなせるだけのレベルと言ってもいいと思います。(日本語学校では、漢字圏の学習者は多少有利なので必要な学習時間は七掛けか八掛けくらいで考えることが多いです)
まずは300時間で基礎的な部分の学習時間は終わる。個人差もあるし、学習したことが定着して「使える」ようになるまで+200~300時間、合計500~600時間で、「日常会話ならなんとか大丈夫」というところまで行くかな、というところでしょうか。もちろん、これはN3レベルで漢字は300~500時間くらいです。この後の継続的な学習は必要です。学習を継続するための最低限の準備として最初の300時間は必要と考えたほうがいいでしょうか。(参考までに、日本の義務教育の英語の学習時間はだいたい900時間、オーストラリアやカナダなどでも外国人在留者への英語教育では500時間前後が「初級」の目安になってるようです)
👉 ちなみに、日本における英語の学習時間は、中学で262時間でしたが、2011年に英語学習強化となって350時間となり、高校は、今も昔も600時間前後です。「中学英語をきちんと理解し使いこなせば日常会話はなんとかなる」と言われますが、日本語のN3は中学英語とほぼレベルも学習時間も同じだけど、勉強したからといって話せるわけではない、ちゃんと使いこなすまであと200時間くらい必要だよ、ということです。N2までの学習時間が、高校の英語学習時間と同じくらいでしょうか。

しかし実際は、373時間の学習を経て、実際に研修を行う段階になっても、ほぼ話せない聞き取れないということが起こっているというのは、まず、母国での200時間が形骸化していること、国内との連携に問題があること、国内の日本語学習環境(後述しますが有資格の日本語教師は3割という調査結果)など、いろんなところが機能していないということが原因だと思われます。
日本に入国後の日本語教育に関しては、外国人研修制度を請け負っている公益財団法人 国際研修協力機構(JITCO)では研修生の日本語教育に関して以下の調査をしています。(前述のように調査のアンケート回収率はとても悪く、第一次受け入れ機関が65%程度、2次受け入れ機関だと50%です。日本語教育に関する質問もあるのですが、日本語教育の専門知識もない人に「どこに問題があるか」と尋ねてもあまり意味がないように思います。例えば、「母国で日本語ネイティブ教師の指導を受けていないからダメ」という回答がありますが、資格をもち経験を積んだ日本語教師であれば、日本語ネイティブかどうかはその質には関係ありません。
👉 第一次受け入れ機関とは、入国後最初に受け入れる組織団体などのことで、第二次は実務を行ういわゆる「現場」ということのようです。
日本語教育実態調査ホーム
http://www.jitco.or.jp/about/chousa_houkoku.html
第一次受け入れ機関の日本語教育研修のアンケート調査
http://www.jitco.or.jp/nihongo/nihongotyousa.html
ここに日本語研修の中身、達成度などがあります。ただし、どのレベルにまでいったかは、具体的な記述なし。以下のような記述があるのみ。以下のような記述のみです。
実際に日本語学習が十分なのかについては、以下のような結果がありました。引用します。
まずは仕事上の問題。

🗨 日本語に起因する実務研修実施上の問題点
研修生の日本語が不十分であることに起因する実務研修実施上の問題については、企業の担当者や経営者から「問題などを聞いている」と回答した第一次機関が66.0%、「問題などを聞いていない」としたところが33.3%であった(第33図)。
第33図 日本語に起因する実務研修実施上の問題点
「問題などを聞いている」と回答した347カ所の第一次機関が聞いた問題点は、「日本人社員とのコミュニケーションができない」が61.7%と群を抜いて高かった。このことは、研修生の未だ十分でない日本語能力が隘路となっているものと考えられる。さらに、「報告・連絡・相談などが行われない」が37.5%、「社内の約束事や取決めが守れない」が36.0%、「技術・技能の移転が思うように進まない」が35.7%と、これらの3点も比較的多い問題点であった

🗨 研修生の日本語が不十分であることに起因する日常生活上のトラブルに関し、企業の担当者や経営者から「問題などを聞いている」と回答した機関が54.6%、「問題などを聞いていない」機関は45.4%であり、「問題などを聞いている」方が9.2ポイント上回った

繰り返しますが、調査で戻ってきた調査票は65%なので、実態は上よりも悪い可能性があります
ただ、結論はこうなっています。
🗨 「集合研修終了時」では「殆どできない」が激減して1%程となり、「少しできる」が30%程度と半減し、「ある程度できる」が50%台になる等、大幅な改善がみられた。さらに「かなりできる」が10%台となり、1%台とわずかではあるが「とても良くできる」との評価も出現した。このことから、研修生の日本語能力の改善に関し「集合研修」がいかに重要であるか理解できよう。

なにがどう「できる」のかはよくわかりません。集合研修とは、第一次受け入れ機関の研修終了時(その後日本語研修は行われいるところは3割以下)つまり373時間の実質的な研修が終了した時点ということだと思われます。
また、この国内の日本語教育のほぼすべてを担当すると思われる第一次受け入れ機関の日本語教師について
🗨 第一次機関が実施する集合研修における日本語教育の教師は誰かとの問いに対しては、「当機関又は傘下企業社員(海外勤務経験なし)」が31.4%、「当機関又は傘下企業社員(海外勤務経験あり)」が27.0%であり、次いで「外部委託した日本語専門機関の教師」が30.6%(161カ所)、「地域のボランティア」が15.2%であり、ボランティアの協力度も高い。
また、「その他」も34.0%占めたが、その具体的内容は「元中学・高校の教師」、「通訳」、「日本人と結婚した中国人」等であった

とあります。「海外勤務がある」かどうかが日本語を教える能力とどのような関係があるのか、よくわかりません。少なくとも、有資格者のプロの日本語教師は、3割以下、(繰り返しますが)調査票の回収率が65%であることを考慮すると2割以下、ということでしょうか。これでは、入国前の200時間の教師の質に関してあれこれ指導を期待するのは無理でしょう。つまり外国人技能研修制度を利用して日本に来る人達が受ける日本語の研修は、そのほとんどを素人が教えているということです。
研修生の日本語教育の一部はこの国際研修協力機構から(あるいは日中技能者交流センターという組織を介して?)委託をうけ公益財団法人国際日本語普及協会(AJALT)が主に行っているようです。
http://www.ajalt.org/study/tech/
あたらしいじっせんにほんご (技能実習編)
http://www.amazon.co.jp/dp/4906096204
という教科書も作っています。
日本語教育の指導方針として日中技能者交流センターのサイトにAJALTの講師による「日本語教育再考」という連載があります。
http://www.jcsec.or.jp/files/archives02.html
「現場のニーズにこたえる」「重要なことは、教室活動と現場を結びつけること」とするこの「あたらしいじっせんにほんご」という教科書をベースにした日本語教授の考え方における「現場のニーズ」は、学習者のニーズというより雇用者のニーズに近いようです。例えば、日本語教育・再考のその4には「現場」を見学したという講師が以下のようなことを書いています。
🗨 しかし学習者の実習の現場、働く現場は、その丁寧な言い方より、「こっちへ来い」「まだ!」「向こうへ運んで」「ここに置いて」「スイッチ切れ!」などの表現をよく聞きます。学習者は教室の中での日本語と現場の日本語のギャップにびっくりします。もちろんギャップはあるのは当然ですが、できるだけ、少しでもそのギャップを少なくすることが大切だと考えます。『あたらしいじっせんにほんご』は一課から両方が出てきます。一課から慣れていくことが大切だからです。

その6には
🗨 実習生や働く外国人にとって一番大切な、仕事場での日本語の指示を聞きとって、すぐに行動出来るようになるための練習をします。

などという記述があります。
これは、すでに200時間を学習した人が対象の教科書にしては、レベルが低すぎるということがあります。ほぼ0スタートなっている。また、実践的な場面設定が、まるでブラック企業の現場を設定しているように思えることも問題です。実際には、ほとんど始めて受ける授業の最初の一課が「こっちへ来い」から始めるという日本語の教材を使うことに憤りを感じます。AJALTの関係者は、そのへんをどう考えているのでしょうか?ただ仕事を請け負って、現場からの要請という声(実際は雇用者の都合)、にそった教材を作り、教えることが「新しい日本語教育」なのでしょうか?
また、日本語教育・再考 その9には、興味深い記述があります。「現場」からの質問として
🗨 来日前に自国で200時間以上も日本語を学習し、教科書も2冊くらい終了していると記載されている実習生達が実際にはこちらの質問にほとんど答えられないのですが、虚偽の記載ということでしょうか。そのような学習者にはどのように教えたらいいのでしょうか。(漢字圏の実習生の例)

という問いがあり、これに「その9」の執筆者は次のように答えています。
🗨 確かにオーバーに書かれていることもあるかもしれませんが、ほぼ事実です。しかし、学び方が違います。教科書を読んだり、書いたりすることが中心の学習を自国でしてきたのです。来日前の日本語研修の視察に伺ったときに、教室内から聞こえてくる言語は自国語がほとんどで、日本語は皆で読んだり、書いたり、暗記して発表しているときだけでした。また、先生方の多くは来日したことがないということでした。しかし、その学習は無駄ではありません。頭の中にはたくさんの日本語が入っているからです。ただそれをどのような場でどのように使うかを学習していないのです。せっかく学んだ日本語を使えるように指導する。つまり、日本語の運用能力をつけることです。

母国で200時間でインプットされているのだから、後は日本でアウトプットすることを学べばよい、という主旨だと思いますが、まず、JITCOが設定した200時間の達成目標は、日本語教育におけるせいぜい50時間分程度であり、「たくさんの日本語が入っている」状況にはほど遠いようですし、おそらくほとんどの日本語教育関係者は、最初からインプットとアウトプットをバランス良く教えていけばいいのでは?と考えると思います。
現在、日本語の教え方は「生活者としての日本語」「Can do と日本語教育」「タスク優先」いろんな新たな考え方を軸に再構成されつつあり、転換期といえます。個々の是非はともかく、これらの言葉の表面的な意味だけが流通し、現実に、技能研修生相手の日本語教育を考える際に「学習者が学びたいこと」ではなく単純に「現場のニーズにあった」と安易に読み替えられていく動きをみると、やはり、今、日本語教育関係者は、一旦「日本語教育の多様化」という紋切り型はNGワードにして、日本語学習者、日本語教育を政治的経済的なプレッシャーから守る戦略として、例えば「初級の学習者に対しては、ゴール設定のいかんに関わらず、最低でも**時間は必要で、**までは達成目標とするべき」というようなガイドラインを示し、政策の中に、安全装置として、今のうちに織り込むことを働きかけておくべきではないでしょうか?それがやれそうで、やるべきなのは日本語教育学会しか思い当たりませんが、いかがでしょう?

他の国の例
技能を学ぶ場」というより事実上、単純労働者確保の国際競争であるという側面も一般の知るところとなってきました。いろいろと比較研究もあるようです。以下は直接的な競合相手となる(と考えられていた時代のレポなので)アジアの例ですが、最初のほうでご紹介したように、(いろいろ国に入ってくるプロセスが違うとか政策も変わったりしているようで一概にはいえませんが)一般的にカナダ、オーストラリア、欧州では、特に区別することなく、在留外国人すべてを対象に無償の言語サポートが作られています。利用率は高くはないようですが、希望すればプロの教師としっかりしたプログラムが用意されている、ということが重要です。
👉 移民政策としての言語教育に関しては、このページの一番下に「資料 1」として、リンクを中心に紹介してます。
韓国
韓国の「雇用許可制」と外国人労働者の現況 : 日本の外国人労働者受入れ政策に対する示唆点(1)
http://ci.nii.ac.jp/naid/120005479902
韓国でも送り出し国と入国後で語学研修を分けているようですが実務研修に入る際、雇用時に韓国語の試験があり合格しないとアウトとのこと。
この政府の文書によると入国前は150時間、入国後は20時間、合計170時間(日本は前200時間の後173時間で合計373時間)だったものが、このテストの導入によって入国前の時間が85時間に減ったと書かれている。しかし、現状では、研修の現場では、韓国語ができないという問題が37%となっていて解決したという報告はない。合格率60%(日本の原付の免許の合格率がこのくらい)というところにカラクリがありそうで、学習時間数を減らす名目で導入されたか、合理化を試みたが、結果、労働需要の声におされてテストは形式的なものになってしまったという可能性があり、学習時間を削る目的で「独自の試験」を作るのはリスクが高い。日本でやるなら独自試験ではなく客観性を担保できる日本語能力試験しかないように思える。(変更前も韓国語が話せない問題は散見され、その際「日本に較べて学習時間が少ないからではないか」という声があがっていた)
👉 その他の国々に関してはこちらに
http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g50924a01j.pdf
言語教育に関する項目はほとんどありませんが、仕事が遂行できるレベルが要件となっていることがわかります。

まとめ

  • 外国人研修生の日本語学習時間は、実際に研修に入る前に入国前に200時間、入国後173時間、合計373時間。
  • 日本の373時間は他国と比較してもかなり多いが時間数に相応の成果をあげていない。
  • 最初の200時間のゴール設定も、入国後の研修のゴール設定も373時間の学習のものとしてはかなり低い。
  • 入国前の200時間の時点、第一次受け入れ機関の173時間を修了した時点での達成度をチェック、確認する手段がない。
  • 373時間は、資格をもった日本語教師が指導することはかなり少ないと思われる。入国前の200時間は講師の資格は事実上問われず入国後も有資格者の日本語教師の比率はおそらく3割以下。
  • 技能実習生は、現在20万人、今後10年で倍以上になることが見込まれている。
  • さらに介護士をこの枠組みで入れるならプラス30万人で、60万人近く。
  • 技能研修生制度の日本語教育はもう何十年も現在の体制で行われており、成果も出していないし、客観的な質のチェックを受けていない。

どうすべきか?
A案:入国の要件としてN4合格にするかそれに準じた統一試験を設定する。
B案:入国前の研修は廃止し、入国後に300時間程度を正しいカリキュラムでプロの日本語教師の元で行う。
→ A案は、韓国のように「独自試験」を採用するとなると学習時間が削減され結果として機能しない可能性が高い。(人手の需要に応じて恣意的に試験の難度を調整可能)B案、もしくはN5を入国の要件にして、入国後に最初の受け入れ機関、できれば公的な日本語教育機関&施設を新設して、そこで、しっかりとしたカリキュラムで日本語の指導を行うほうが有資格者の教師の確保も簡単で、合理的でかつ、効果も高いと思われます。カリキュラム、講師が整った施設で集中的に行い、修了試験を次のステップの要件にするなど、きちんとした管理下で行えば、300時間の学習時間ならば、ほぼ日常会話ができるレベルに持って行けるはずです。
一般的な日本語学校では、一日4~5時間の授業なので、月金で20~25時間、約15週分です。3ヶ月以内に日常会話が可能なところまでいけば、その他の研修も圧倒的にスムーズに進むばかりでなく、しっかりとした基礎力が養われれば、次の受け入れ機関で地域の日本語学習期間に通うことで、より高いレベルまで行くことも簡単になります。
今のところ、技能実習生は、長くても5年で帰国することが前提となっています。しっかりとした日本語サポートがあれば、5年で「日本語」という技能を身につけた人達が帰国して世界に広がっていくメリットは果てしなく大きいのではないでしょうか?
最後に
技能研修生の日本語教育の在り方と日系在留者の日本語教育の政策に対し(現在のAJALTの「新しい日本語教育」に対しても)日本語教育学会が積極的に意見し、議論し、関与してくべきではないでしょうか?今のままでは、日本語教育関係者は「留学生にはよい学習環境が必要だが、日系在留者や単純労働者にはそれなりの日本語学習環境でよい」と考えていると捉えられても仕方が無いのではないでしょうか?
入国時にN5合格が保証されているなら、入国後300時間で日常会話はもちろん、実務上の会話が問題ないレベルまでもっていくのはたやすいのではないかと思われるが、送り出し国の講師確保が望めない現状が改善されないなら、入国前の研修は無駄であり、N5を要件にしても意味はない。まじめに学習する意欲があるかのチェックのみで、日本語は、入国後の研修ですべてやる、でもいいかもしれない。(ただ、N5レベルというのは、前述の、現在、JITCOが日本語指導の手引きで定めている入国前にクリアすべきレベルとさほど変わらず、プロの日本語教師がしかるべきカリキュラムでやれば、200時間どころか50時間で十分に達成できるはずなのです。送り出し国でプロの日本語教師が確保できない現状なら、やらないほうが合理的という意味です)
少なくとも、現状、技能研修生の日本語能力がどうなのか、JITCOの回収率の低い(6割程度)アンケートだけで、客観的な指標がありません。「日本語能力に問題がある」のはあきらかだとは思いますが、日本語能力試験など客観的な指標になるものが必要です。そして、AJALTが、今後も技能研修生の日本語学習に関わるのならば、研修生の日本語能力の客観的な評価を出すべきですし、その結果に対して責任を負う、場合によっては、他の委託先に変更もありえるようなシステムを(今後も他の組織に委託するような体制を続けるならば、ですが)構築するべきではないか?と考えます。
👉 後述しますが、私は技能研修生の日本語学習は、もう関連法人に丸投げするのではなく、入国前の学習は無くすか簡素化して、入国後に公的な「日本語教育ネットワーク」でやるほうがトータルでのコストも圧倒的に低く、効果も期待できると考えています。
👉 論文、資料など
日本の外国人研修制度・技能実習制度とベトナム人研修生
送り出し国の法令など
外国人技能実習制度における講習手当、賃金及び監理費等に関するガイドライン

👉 JITCOによる日本語教育に対する助成(9名まで1人5000円、10~30名は1クラス5万円と)のPDFは2017年12月に削除された模様。
👉 送り出し国の200時間の日本語の授業にも助成金が支払われているが詳細はネットで不明。国以外にもいろんな組織から助成がある模様。

 

日本語教師の数

国内の日本語教育に関しては、この文化庁の調査(H24年度)に、ここ10年の推移のデータがあります。常勤、非常勤、ボランティアに分けた数の推移です。
http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/nihongokyoiku_jittai/

さらに、ここにその前の10年のデータがありました。(2015年のリニューアルでページが消えました)

データは、平成だとわかりにくいので西暦にしました。

この20年での推移です。専任、非常勤、ボランティア、数と比率。

1992 2002 2012 2016
教師数 16276 27372 34392 37962
専任 2317 (14%) 4042 (14%) 3975 (11%) 4648(12%)
非常勤 6325 (38%) 10091 (36%) 9631 (28%) 11271(29%)
専任+非常勤 8642 (53%) 14133 (51%) 13606 (39%) 15919 (41%)
ボランティア 7634 (46%) 13239 (48%) 20786 (58%) 22043 (58%)

2002年からの10年間の変化が大きいことがわかります。非常勤の減少分の10%がそのままボランティアに移動したというところです。専+非 は、報酬を得て教えているプロの教師という意味です。日本語教師の数の需給のバランスに関しては、後に「日本語教師の需給のバランスはどこ?」で、表とともに触れます。
👉 ボランティアの教師の数は、これより多いという報告もある。ここでは2009年の段階で16000人を超えている。
http://www.clair.or.jp/tabunka/portal/learn/japan_japanese.html



日本語教師のデータで最も深刻なのはこれです。

・日本語教育能力検定試験の全科目受験者 年代別比 推移

1994 2002 2012 2014 2017
50才以上 587 (24%) 702 (11%) 1225 (25%) 1290 (29%) 2126 (37%)
45-49 362 (5%) 323 (15%) 356 (7%) 396 (9%) 627 (11%)
40-45 482 (19%) 359 (5%) 490 (10%) 425 (9%) 582 (10%)
35-39 468 (7%) 450 (7%) 488 (10%) 415 (9%) 471 (8%)
30-34 667 (10%) 724 (11%) 545 (11%) 452 (10%) 559 (10%)
25-29 1137 (18%) 1402 (22%) 787 (16%) 675 (15%) 680 (12%)
20-24 2429 (39%) 2153 (35%) 863 (17%) 678 (15%) 652 (11%)
20未満 0 0 44 (-) 32 (-) 36 (-)

ここでも、2002年から2012年の10年間に劇的な変化があったことがわかります。しかも、ここ数年で大幅に高齢化が進んでいます。2017年には、37%が50才以上、58%の新人教師が40才以上。この新人教師達が新人を脱するころには、もうリタイアする年齢になっています。これは日本語教師が高齢化しているという話ではなく「日本語教師の資格を取得した年齢が高齢化している」という話なのです。この高齢から日本語教師のキャリアをスタートするということです。キャリアのスタートラインがこれだけ高齢化しているということは、若い教師が中堅、ベテランというキャリアを積む道は、崩壊しているということです。
👉  小中学校の教員が教員免許を取得して就職する年齢はだいたい35才までとなっています。教師のキャリアを考えると、やはり35才あたりからスタートし経験を積むのが一般的というわけです。
👉 受験者数のピークは、2004年の6688人。20才以下の受験が可能になったのは2003年から。
👉  私にも、日本語教師の需給のバランスが崩れ、供給過剰がはっきりしたのが2003,4年ごろではないか、という実感があります。東京都心のプライベートレッスンの相場は2000年までは1時間6000円弱(90年代は8000円前後でした。高いようですが往復の時間入れて3時間で割るとなかなか厳しい額です。移動時間があるので一日3レッスンで週10コマが限界、3コマで一日4時間電車になることになり、仕事ができるのは年間45週ほど。かけ算で出た金額が一生続くのです)でしたが、2003年前後に、ネットをベースにしたいろんなグループの参入もあり、突然3000円を切りました。
👉 主催する日本国際教育支援協会のデータはこちら http://www.jees.or.jp/jltct/result.htm
やや古い時代のデータ
http://retirement.jp/files/ne09-01-3.pdf

 

学習者数と教師のバランス

まずは、2012年までのデータに基づくものです。学習者数の数は文化庁の調査でほぼ留学生の数と同数です。文化庁の調査は日本語が勉強できる機関で学習している人しかカウントしないので、技能実習生や日系の人達のほとんどは数に入りません。

1992 2002 2012
学習者数 126305 127372 139613
教師数(総数) 16276 27372 34392
教師数(専任) 2317 4042 3975
教師(総数)1人あたりの学習者数 7.76 4.65 4.05
専任1人あたりの学習者数(ST比) 77.63 46.53 40.59

以下は、2017(実数)は、留学生数を20万人として、そこに含まれていない日本語学習者が必要な数を概算で加算(技能実習生の20万人と日系の人達の18万人)したもので計算しました。教師の数は文化庁が把握している数は、国内で報酬を得て教えている日本語教師の数とほぼ同じなはずなので、そこは同じです。2024(推定)は、現在、予定されている介護や外国人労働者の増加分を推定で加算したもの。専任の数は文化庁の調査の平均的な比率(文化庁調査の教師数の1割)で出してみました。

2017(実数) 2024(推定)
学習者数 580000 1030000
教師(総数) 37962 50000?
教師数(専任) 4648* 5000?
教師1人あたりの学習者数 15.27 20.6
専任1人あたりの学習者数(ST比) 124.78 206

👉 *専任の教師数は、2017年のものがないので、2016年のデータです。
2017年の段階でも日本語教育が必要な実数(58万人)で計算すると、専任と非常勤(をひとまず日本語教師の報酬で生活しているプロの教師とします)で対応するとしても、現状の15919人ではまったく間に合っていないことになります。通常専任教師と学習者の比率は、ST比として知られています。ST比は低いほど良いわけですが、公立小中学校でだいたい20以下、大学でも20前後、多くても40を超えるケースはほとんどなく、法務省による日本語学校の規制でもST比は40を超えてはならない(認可の取り消しもありうる項目)ことになっています。
つまり、資格を持った日本語教師は圧倒的に足りないし、将来はもっと深刻になる。しかし、それは日本語学校においてではなく、日本語学校以外のところで不足する、必要なのだ、ということです。

日本語学習者の数と受けられる日本語教育との関係まとめ
2017年の時点では、留学生が20万人、技能実習生が20万人、日系の人達が18万人として、合計58万人。このうち留学生のすべては有資格者の日本語教師によって日本語教育が行われている(ただし学費は学習者負担)、技能実習生のほとんどは質的に保証された日本語教育は受けられていない。日系の人達の半数以上もボランティア教室だのみとなっている。つまり、58万人中、十分な日本語教育が保証されているのは、多く見積もっても半数の約30万人。
これが近い将来、留学生と日系の人達の数は横ばい、技能実習生だけが増えて100万人を超えることになるので、十分な日本語教育を受けられる比率はどんどん下がっていく。仮に介護の技能実習生は日本語教育が保証されるとしても、技能実習生の増加分の半分に満たないはずで、しかも、これも学費は自己負担です。最初に示した海外の言語政策では、どこもほぼ無償での学習機会が与えられていることと比べると、日本の日本語教育のサポート体制は極端に貧弱であると言わざるを得ません。

 


 

 

国内の日本語教育の諸問題

 

正規、非正規の比率について

前提となる一般的な知識として。

職業としてみた場合、正規、非正規雇用の正しい比率はどこなのかはいろいろと議論がありますから、それは横におきますが、今、非正規の比率が増えた、問題だとなっている話は一般企業や大学で非正規が「25%」を越えた、というものです。もちろん職種によって違いますが。
日本語教師は、正規、非正規の他に、ボランティアがあるので、一般の仕事と比較できませんが全体の比率では正規雇用が約1割という日本語教育業界は、マクドナルドや牛丼屋以下です。
これは2015年の記事です。
 http://toyokeizai.net/articles/-/61506?page=2
正規、非正規の比率とその仕事で求められるスキルと関連はあるかなど記事の表をみながら、いろいろと考えてみて下さい。もちろん、日本語教師の6割はほぼ無給のボランティアであって、非正規ですらないので、ちょっと比較にならないのですが。。。

 

なんらかの規制で改善するか?

現在、日本語教師は、仕事と呼べるものではなくなってしまいました。ただ、国内で日本語学習が必要な人達に十分に学習できる環境を提供し、その学習環境の質の維持に関して、国は責任を負うべきです。特に後者の質的保証は、今後、とても重要になってくるはずです。
例えば、すべての日本語が教えられる場所に投網をかけるように、、、

■ 地域の日本語教室、日本語学校、大学を含む国内すべての日本語の教室では必ず資格を有した正規雇用の教師が授業を行い、補助的な資格の教師が補佐する。
■ 比率は、正規3:非正規1を基準にする。一時的に下回ったとしても年間の平均で上回らなければならない。(後述する国際交流基金の日本語専門家の配置にほぼ準じています)
■ ボランティアにも、一定の条件、もしくはなんらかの資格の取得を課し、単独での授業はできないことにする。専任教師が認めた場合に限り、カリキュラム外での練習、教室での補佐は可能。(これも2014年にスタートした国際交流基金の3000人派遣プログラムにおけるボランティア教師の在り方に関する説明を整理してあてはめたものです)

というような規制をかけ、これを「政府公認の日本語教室」と認定し国がサポートする、という体制を作ることで質保証は可能になります。
これまでのデータからもわかるように、日本語教育が必要な人達は現状でも、留学生20万人の他に38万人ほどおり、今後留学生以外の比率が高まってくことが確実なので、これまでのように日本語学校や大学だけに規制をしいても、日本語教育の質的保証にはなりません。地域の日本語教室も含めすべての日本語教室に対する規制、ルール作りが必要です。
もちろん、日本語の授業の質を管理するのは、まずそこで働く日本語教師の生活を保障し安心して経験を積める環境を作ることが大事で早道です。同時に専任教師、非常勤の待遇も、公務員に準じたものになるべきです。
外国人労働者に対するいろいろな考え方の違いはあっても、日本が呼び、日本で暮らす日本語を母語としない人達に「しっかりとした日本語教育が行われるべきだ」というのは、ほぼすべての人達が認めるところです。そのためには学習時間の保証や無償化などはもちろん、日本語教育の質を高める方策が必要で、そのコストは必要なものだという社会的な合意を作るのは可能だと思います。
👉 長年、技能実習生制度に平均、300時間を超える日本語学習時間が設けられていても、質的管理がなかったためにまったく効果をあげてこなかったということは、上に書きました。

 

「日本語学校の時代」の終わり

日本語学校とは何か?一般の人は、海外から語学を学ぶために留学する学校だと考えている人は多いようです。しかし語学の勉強のために日本語学校に留学する人は超少数派です。少し詳しい人は、「日本の大学や専門学校に入るための予備校みたいなもの」と言います。おそらく実態は「予備校と言ってもいいが、受験予備校とは違って、かなりの日本語学校は大学や専門学校への推薦枠を持っていて、実質的に大学の留学生集めの下請け機関のようなものでもある」というのが正解なのではないでしょうか。
日本語学校 推薦 でググると、どの日本語学校も大学や専門学校の推薦枠を持っていることを宣伝しています。少子化で留学生の確保が生命線の大学と日本語学校や専門学校とは持ちつ持たれつの関係があります。日本語学校への留学は最長で2年間ビザがおりますが、2年間でさほど日本語も上達せず、推薦枠でなんとか大学や専門学校に入るという人も多いようです。300人超の学生がいて、N1,N2合格者ゼロ、
日本語学校には、3つの種類があると思います。1つ目は、昔からある母国で学習環境に恵まれなかったり、日本の高度な研究環境で学びたい若者のための進学予備校、2つめは、これも昔からあるのですが、少子化で学生を補填したい大学や専門学校、時には同じ学校法人グループの学校に学生を供給する学校。3つめは、2010年代に増えた、地元の企業や自治体の人手不足の労働力補填のために留学ビザを使って日本に来るための学校、です。

日本語学校概観

民間の日本語学校は大都市、特に東京に集中しています。業界団体組織は日本語教育振興協会が有名です。2004年に全国日本語学校連合会という組織もできました。組織に関しては「日本語教育に関わっている官庁など」で少し触れます。
基本的には、法務省で留学生を受け入れてもよいと認められた学校を日本語学校と呼ぶということでいいかと思います。正式には「日本語教育機関」と呼びます。
かなり細かい届け出が必要で、認可されたら「告示校」ということになります。告示校のリストはこちら。600超の学校があります。
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyukan_nyukanho_ho28-2.html
2017年から文科省が日本語学校の基本的なデータを収集し公開することになりました。現在公開されているのは400校前後、休眠中の学校を除く、現在稼働中の学校はほぼ網羅されていると思います。
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ryugaku/1382482.htm
👉 これまでも法務省が告示校のデータを政府刊行物として出版していましたが、ネットでの公開は民間だのみでした。文科省の情報公開は始まったばかりで、未提出の学校もいくつかあるようです。
教師に関わる調査は、まず、専任と非常勤の数があります。
基本的なデータは文化庁の実態調査があります。しかし、これは国内の日本語教育機関すべての数で、日本語学校を分けて出すようになったのは最近のことです。
http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/nihongokyoiku_jittai/
2012年の日振協の調査などもありましたが、中途半端なものでした。2017年以降は、日本語学校に限った調査は、文科省の提出データが基礎になると思われます。
この文科省の2017年のデータによると、日本語学校に在籍している学生数は、定員が95326人で在籍学生数は80046人。定員充足率は85%です。能試のN1,N2に合格者の数は12316人で15%、N3の合格者数は4315人。大学、大学院、短大の合格者数は9549人で12%、専門学校の合格者数は14108人で18%です。N3に到達するまでの学習時間は多く見積もっても500時間、N2は1000時間程度だと言われています。日本語学校でのビザ滞在可能な期間は2年、学習時間は年間約700時間以上であることを考えると、これは悲惨な結果です。
👉 私どもでこのデータを一覧にし、進学率などを調べました。上のメニューの「日本語教師」> 日本語学校の選び方 にまとめましたのでご覧下さい。
留学生の半数以上は、N2くらいなら合格するのが常識だった90年代と比べると明らかに成績は低下していると思われます。これはもちろん、2000年以降、特に2010年代に入ってからの大多数の留学生は、留学目的ではないからです。
ここ数年の流れ
2010年には大きな変化がありました。事業仕分けで、日振協の権限がなくなったこと(しかし事業仕分けはグズグズになったので、今も継続してますが)、ビザが日本語学校の就学ビザと専門学校や大学の留学ビザで違ったのが統合されたことです。
2010年以前は、留学生は、日本語学校などの学生を「就学生」、専門学校や大学の学生を「留学生」と呼び区別されていました。日本語学校の学生のアルバイトは1日4時間、週5日で20時間という規制がありましたが、2004にできた全国日本語学校連合会をはじめとする日本語学校業界が28時間への拡大を求め、署名活動をはじめ、政府に強烈な陳情を繰り返し、ついに2010年の就留一本化で実現したという経緯があります。よく「留学生30万人計画」の実現のために、就学生を留学生としてカウントすることにしたのだ、と言われますが、日本語学校(と日本語学校から留学生を確保した大学や専門学校などの学校法人)はこれを後押ししていた大きな勢力だったということになります。

アルバイト時間拡大は、学生募集で圧倒的に重要です。日本語学校は学生確保のためにも常に増やしたいものであるようです。韓国は20時間ですが、90年代に比べて今は時給もあがってきた、というような事情もあると考えられます。

👉 2010年以降の日本語学校のことは、この政府の会合で方向性が決まりました。
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ryugaku/kaigi/1300405.htm



少し角度を変えて考えてみましょう。現在、日本にいる日本語の学習が必要な人数58万人のうち日本語学校にいる学生の78,658人は約13.5%に過ぎず、民間の日本語学校は、その13.5%を600超の機関、大卒で有資格者の日本語教師を約15000人を使って手当てしているということになります。後述する「日本語教育ネットワーク」が5000人のフルタイムの日本語教師でほぼ58万人を手当てできるのと比較してみてください。しかも日本語学校は都市部に偏在しており、今後全国にまんべんなく広がっていくであろう日本語学習者に対応するのは不可能です。
👉 資料 外国人留学生在籍状況調査 日本学生支援機構
http://www.jasso.go.jp/about/statistics/intl_student_e/index.html

👉 このマップに2016年の時点の日本語学校をマッピングしてみました。分布がわかります。
https://goo.gl/tbJui4

一般的に民間の日本語学校の一年間の学費は授業料が60~80万円、その他入学金など最初に払うお金が15万くらいというのが相場です(ちなみに、この最初に払うお金は、昔から学生募集のコストと考えられています。ブローカーに支払うお金は1人10~20万が相場でした)。コースは最短で1年3ヶ月というのが多く、長くて2年、最短コースを選んでも80万前後で、日本はもちろん海外の大学の学費とあまり変わりません。大卒の資格もとれないうえに滞在費を考えると高額で「アルバイトで稼ぐことができる」というアドバンテージがなければ国際的には戦えないということになっているのだと思われます。

民間の日本語学校の非正規の比率は約7割

さて、民間の日本語学校を含むすべての日本語の教室に先に述べたような投網を投げるように規制をかけることは、現状では、ほぼすべての民間の日本語学校にとっても、規制強化となります。現状、日本語学校で日本語教師の比率を正規3非正規1にするのはほぼ不可能です。しかし、国際交流基金の日本語専門家の配置の比率がそうであることからも、国としてこれが適正な比率であるという見解があるのだと考えることができます。国内の日本語学習者に限って非正規の比率が増えてもいいという理屈は成り立ちません。
20年以上にわたり、日本語教育機関の専任の比率は「50%以上が望ましいが」「全教員の3分の1以上でもよい」という規定がありました。しかしながら、これは認可取り消しなどの罰則がなかっため、まったく守られておらず、日本語学校関係の団体の役員の学校でも、2割程度が続いているということが普通でした。
2017年に法務省と文科省は新しい基準を設け、比率ではなく、ST比(学生の「定員」が分子、専任の数が分母)で管理することにし、このST比は40以下でなければならないということになりました(2022年までは移行期間として暫定的に60以下でよいとなっている。ただし、認可取り消しもありえるということになった)。
これは新しい基準前の2016年の時点の日本語学校の専任と非常勤の比率の一覧です。
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1JRxu2RL4mpDYd4tZixGF2xNysMMeuG8WSFXuWxuqpJ8/edit?usp=sharing
新しい基準が発表された後、40以下に調整をする学校、脱落する学校、以前のままの学校と、今のところは様子をみながらという段階です。
👉 記録のために関連PDFを保存しておきます。
意見募集の結果について
日本語教育機関関係
日本語教育機関の告示基準(修正見え消し版))
日本語教育機関の告示基準(確定版)
日本語教育機関の告示基準解釈指針

ちなみに、大学の非常勤の比率は、平均値で、「国立は39.0%,公立は45.8%,私立は56.4%」とのことです。
http://tmaita77.blogspot.jp/2011/12/615.html
上のブログに以下のような記述があります。

🗨 非常勤教員を増やす増やさないは,各大学の自由ですが,非常勤教員率があまりに高くなることは,好ましいことではありますまい。この指標が8割や9割を超えるということは,自校の教育の大部分を部外者に「丸投げ」していることを意味します。

民間の日本語学校の場合は、研究職、テニュアという出口もありませんし、非常勤は3~5年やって常勤になれるかどうか。常勤(専任)の席もきわめて少なく、初任給は高くて300万円。運良く勤め続けても20年で400万円台。数少ない例外を除いて、ほぼすべての学校で7割以上が非常勤です。つまり教育を「丸投げ」しているのですが、かといってどこかが日本語教師を育てているわけではありません。離職率が極端に高いのですが、業界自体が、事実上、自ら日本語教師養成講座で日本語教師を過剰に供給する状態を作り、5年程度で教師を新しく入れ替えながら維持しているという構造になっていると思われます。
👉 この日本語学校の規制に対する国会での質問が2014年にありました。
質問は以下のとおり
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a186242.htm
一部、規制緩和してもいいのではという主旨のようです。


これに対する回答は以下のとおり。
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b186242.htm
「とりあえず文科省が1988年に方向付けして、法務省が管理する日本語振興協会で自主規制的にやってることだよ」
というところでしょうか。

 

日本語教師養成講座の問題

民間の日本語学校や専門学校などが行っている日本語教師養成講座は、修了するまで規定の420時間でだいたい60~70万円あたりが相場です。これは日本語学習者の1年間のクラスの授業料とほぼ同じです。日本学校にとっては、教室あたりの学生の人数などの規制も、留学生の審査や管理の手間もないですし、毎年入ってくる人数が不確定で不安定な日本語クラスよりも確実な利益が望めるのではないかと思われます。ある時期から経営上は、こちらがメインとなった、いうところも少なくないはずです。
ここも大幅な改革が必要です。養成講座が今のままでいいと考えている日本語教育関係者は(利益をうる人達、例えば講座の講師や日本語学校関係者、養成講座の広告収入を得ている人達、日本語教師の「研修」が仕事の人達、を除いて)いないはずです。
日本語教師の資格についての政府の議論の経緯
主に文科省、文化庁で行われてきた日本語教師養成の経緯はこちらに文書があります。
http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/nihongo_kyoin/02/pdf/sanko_1.pdf
これによると、昭和60年(1985年)に検討が始まり、それに基づき、1988年に日本語教育能力検定試験が始まり、同年に日本語教育振興協会が審査認定の基準として運用を始めたことになっている。
平成3年(1991)に有識者による日本語教育推進施策に関する調査研究が始まり
平成5年(1993年)に[日本語教育推進施策に関する調査研究協力者会議の報告書として出された。
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/t19930714001/t19930714001.html
その後、平成11年(1999年)に[今後の日本語教育施策の推進に関する調査研究協力者会議として受け継がれ、平成12年(2000年)の日本語教員の養成に関する調査研究協力者会議によって、大きな方針が出された。
平成12年(2000年)に出されたペーパー。
日本語教育のための教員養成について(報告)(抄)
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/t20000330001/t20000330001.html
👉 念のため、ダウンロード保存したPDFを以下に
420_H12

2016年の10月から届け出制になりました。届け出をして管理はしていく、でも審査、チェック、認定までいくかは、わからない。
420時間日本語教員養成研修 日本語教育機関の法務省告示第1条第1項第13号ニにおいて日本語教員の要件として適当と認められる日本語教育に関する研修について|文化庁
http://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kyoiku/kyoin_kenshu/
👉 文化庁は2015年のサイトリニューアルですべてのリンクが外れ、元文書が探せなくなったこともあり、文書保存のためにこういう措置をとってます。
その後平成24年(2010年)にアップデートされています。
http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/nihongo_kyoin/
報告書はこちら
http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/nihongo_kyoin/pdf/hokokusyo.pdf
*念のため、ダウンロード保存したPDFを以下に
420_H24
👉 「420時間」に関しては、昭和60年、1985年の文科省の 「日本語教員の養成等について」の送付について にすでに記されている。そこでは、一般の養成機関420時間、大学の副専攻26単位は同等のものだと書かれている。
2017年の文化庁による規制強化
2017年から文化庁による本格的な管理が始まりました。これまでは、日本語教師養成講座は「文化庁のシラバスを守ってます」と言えばOKという無法地帯でした。経験2年くらいの非常勤講師が養成講座の講師をしていたケースをたくさん見ました。明らかにシラバスを守ってない通信講座や、講師の名前はなく、3ヶ月の合宿で取得できる、先着10名無料、ただし、ウチの学校で働くこと、みたいなところもありました。
ただし、この新しい管理は「届出と受理」であって、許認可になったとは言えないようです。受理の条件がいろいろと厳しいようですが、基本的には運営管理の体制に関するチェックが主で、講座の内容まではチェックしきれていないように思います。かなり疑問がある講座も受理されています。
文化庁の日本語教師養成講座に関することはここにまとまっています。
日本語教育機関の法務省告示基準第1条第1項第13号に定める日本語教員の要件について
http://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kyoiku/kyoin_kenshu/
ここにある
日本語教員養成研修実施機関・団体(121KB)というリストにある日本語教師養成講座が受理された講座で、ここを修了した人でないと有資格者とは認められず、告示校では仕事ができなくなりました。養成講座の細かいルールなどに関しては、上のメニューから行ける「日本語教師養成講座の基礎知識」にあります。
今後、本格的な管理に進化することを期待したいと思います。
文化庁の調査をもとに、日本語教師養成講座の講座数の推移の一覧を作ってみました。

1993 1998 2004 2005 2006 2007 2008
大学院・大学 100 180 200 203 214 215 223
短期大学 11 37 21 12 12 10 13
一般の施設・団体(日本語学校など) 108 167 169 261 302 316 285
合計 219 384 390 476 528 541 521

2004年から2005年にかけての変化が目を引きます。
2008年から調査の区分けが変わり、「大学」と「短大」が一緒になり「一般の施設団体」が「地方公共団体・教育委員会」「国際交流協会」「上記以外」になりました。この「上記以外」はいわゆる民間の日本語教育機関を中心にしたものだと考えられます。2008年は民主党政権により事業仕分けが始まった年であり、公的機関に対する目が厳しくなった時です。この変更は「一般の施設・団体」から公的な組織と民間の団体を分けて、需要に応じた設置をしているよ、ということを示す目的があったと考えられます。新しい区分けでは、「一般の施設・団体」のうち半数は「上記以外」つまり民間によるものだとなっています。従って、上の「一般の施設団体の」約半数は民間だったと考えてもいいかなと思います。
以降は以下。分類が変わりました。(2008年だけダブリます。いわゆる一般の日本語学校は「上記以外」)

2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
大学等機関 236 205 207 207 213 217 214 174
地方公共団体・教育委員会 37 54 62 55 66 86 68 84
国際交流協会 131 130 137 106 161 139 136 164
上記以外 117 171 146 157 160 165 139 101
合計 521 560 552 525 600 607 557 523

2006年以前のデータは
http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/9218806/www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/jittaichousa/
改めて養成講座の数の推移をみると、明らかに、2004年から2005年の一年間で飛躍的に民間の日本語学校の日本語教師養成講座が増えています。2004年はそれまで民間の日本語学校の管理組織が日本語教育振興協会の独占状態から全国日本語学校連合会の新設があった年でもあり、なんらかの働きかけで、規制緩和もしくは暗黙の了解が壊れたなどの動きがあったのかもしれません。

前にも書きましたが、あくまで、東京で日本語教育関係のプライベートレッスンのビジネスをしていた者の実感ですが、2002,3年ごろは、学習者の減少がじわりと始まり、日本語教師の供給過剰が明らかになり、それまで教室で教えていた日本語教師達が一斉にプライベートレッスンに流れてきたころです。学習者と日本語教師の需給のバランスが崩れはじめたころに、日本語教師養成講座が一気に増えたことが、日本語教師の供給過剰に拍車をかけたのではないかと思われます。
また、養成講座の講師は、ここ15年、ずっと4~5000人前後で推移しています。これは、日本語教師の専任講師の全体の数と一致します。民間の日本語学校でも養成講座の講師の数は1000人くらいなので、専任+長期契約の非常勤で講座を担当している可能性が高く、専任講師のかなりの部分は、日本語の授業と養成講座から収入を得ている人が多いと思われます。(給料制だと比率はわかりませんが、養成講座がないと自分の給与の保証は怪しくなる、日本語学校の経営も立ち行かない、ということは少なくとも民間の日本語学校の専任の講師は感じているはずです)
👉 ちなみに、1998年以降、大学および短大の日本語教師養成講座の数はそれほど変わっていません。留学生10万人計画がはじまったのが1985年、90年代はじめは、まだ未整備だった大学も、90年代後半には、受け入れ体制が整い、同時に日本語学科が設立され教師養成もはじまったということだと思われます。
👉 ある程度仕方のないことですが、どうしても、民間の日本語学校が主体になると、日本語教師養成講座も、その業界の平均値が基準になってしまうという側面があります。業界の平均的な学習者像、業界が主に利用する教材の使いこなしが中心になり、多様な教授法、特殊な環境、学習者の資質の違い、という面がおろそかになる。
もうひとつは、例えば、PC関連の知識は日本語のみならずこれからの教師に必要ですが、日本語教師養成講座では一切扱われない。なぜなら民間の日本語学校のIT化なんて現時点では可能性はないからです。教材の音声は未だにCDで供給されています。それはMP3でサイトでダウンロードといっても理解されない可能性があるのと、教室でMP3を再生する方法を知ってる学校関係者はおそらく超少数派だからです。養成講座でHTMLやePub、タブレット前提の教授法を学んでも使う場所がないのです。

 

日本語教師の需給のバランスはどこ?

日本語教師の「需給のバランス」に関しては、どこにもはっきりとしたデータがありません。日本語教師を使うのも作るのも民間の日本語学校業界であり、足りなくなると困るけども「国際的に活躍」「海外でもチャンスが!」とやれば養成講座に人は来るので、誰も考えてこなかった、というのが正しいのではと思います。正しい数字が出てくることを願って、なるべく客観的な数字を元に勝手に試算してみます。
文化庁の調査はここです。
http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/nihongokyoiku_jittai/
2012年以降の2018年時点での最新版(2016年)までの講座の数と受講者数の推移です。

 

2012~

2012 2013 2014 2015 2016
大学短大など 20230 17403 13723 15754 14531
地方公共団体・教育委員会・国際交流協会 6686 7922 11467 10487 9076
日本語学校など 4881 4785 11467 2771 5660
合計 31797 30110 35818 26142 29267

👉 2012年から地方の公的機関と日本語学校などを分けるようになった。
👉 2014年の倍増からの2015年の激減の変化が目を引きます。2013年ごろから人手不足対策で次々と新設校ができ、日本語教師不足が囁かれ始めたことです。しかも、文化庁の規制前ですから、養成講座は作りたい放題でした。定員の増員もあったと思います。急激な拡大と、その影響を受けた翌年の激減、ということかもしれません。同時期に着々とキャリアスタート年齢の高齢化が進んでいたことも見逃せません。
毎年、有資格者は何人生まれているのか?
まず、「地方公共団体・教育委員会」「国際交流協会」の養成講座は正規の420時間ではない可能性が高いのでひとまず除外します。資格を得ることができるのは、大学や短大で学んだ人と、日本語教育機関の420コマ時間の修了者です。
大学や短大などでは、2010年代に入り、日本語教師の資格がとれるという学部が増えましたが、すぐに萎みました。日本語教師の待遇が厳しいことは知られており、新卒者の進路としては選ばれない傾向は続いています。いくつかの通信の講座を持つ大学を例外として基本は微減が続いています。それでも、毎年15000人が学んでおり、資格を得て卒業する学生は毎年4000人ペースは守られています。日本語学校もここ数年は毎年4000人前後の修了者がいます。
つまり1年で8000人の有資格の教師が生まれていることになります。大学での資格取得者は、たいてい文学部などの人で、就職先としては日本語学校はほぼ視野になく、日本語教師を続けるなら大学院に進むしかないと考える人が多数です。その他、大多数は、一般企業に就職するケースがほとんどです。この大学の新卒者の一部に加えて、日本語学校の養成講座の修了者のかなりの部分は日本語教師として仕事をす気はあるでしょうから、少なくとも半数の4000人は新規の教師として考えることができると思います。
年間の求人数は?
一年の非常勤講師の募集の数がどのくらいあるか? 人手不足がはじまったころ(2015年)の日本語オンラインの求人でざっと出してみます。
http://nihongo-online.jp/net/
「若干名」は基本1、2名でよい人がいれば3名でもいいかなというケースが多いので、2名とします。登録だけというケースもあるので除くと、募集が多い月(入学時期が4月10月なので、年に2回程度)で100~200名、少ない時期は50名いくかどうかです。年間で約800名近くの募集があり、おそらく採用されるのは500名程度だと思われます。
年単位で試算
■ 自然減の補填分
自然減もありますから、新規の増加分だけでなく、補填しなければなりません。「日本語教師の数」で述べましたが、国内の総数でいうと、ここ数年の日本語教師の数は、専任で約4000人、非常勤が約一万人で推移しています。比較対象としては一般企業と公立学校の例が考えられると思いますが、一般企業の採用比率は景気や業績によっても変わるので、ひとまず公立学校の教職員で考えてみます。分母が大きいですし「自然減の補填」の比率を出すという意味では、それほど間違った数字はでないはずです。
後にも出てきますが、全国の公立の小中学校の教員数は約66万人です。文科省の2012年の教員採用試験のデータがあります。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/senkou/1329248.htm
小中合わせて採用数が21754人(受験者は122023人、競争率は約5.6倍)、補填するべき比率は3.2%となります。日本語教師にあてはめると、専任だけで計算すると毎年128人、専任と非常勤を合わせた数で出すと、448人です。後者は、ちょうど、求人数よりちょっと少ない数です。
→ 離職率の高さを加味する
離職率は、大卒の3年後離職率の平均が32.3%パートの離職率は約15%。職場環境に問題があるとされている業種で3年離職率が40%超えです。
業界はデータをとっていませんが。日本語教師の場合はおそらくかなり高いと思われます。最初は、非常勤は年収100万ちょっとで数年過ごさなければならず、仮に専任の道がみえても、この最初の数年であきらめる人が多い。また、新規の教師の大部分が50才以上ですから、当然キャリアも短いことになります。公立学校の教師の自然減の3.2%は終身雇用のものであり、公務員の離職率は1%台と極端に低い。ので、この「自然減の補填に必要な数」の数値が違う可能性があります。
計算しなおしてみます。
3年離職率が仮に40%なら、非常勤1万人のうち4000人がやめてしまう計算になります。1年で1333人。この補填が必要になります。
日本語教師の自然減の補填は、毎年1500人程度が必要ではないか?としてみます。
👉 日本語学校業界は離職率に関してはこれまで言及したことはありません。大卒の有資格者が民間の日本語学校で働く選択をしないことと、この離職率の高さは、民間の日本語学校が職場としていかに過酷か、ということを示しています。ひとたび日本語教師養成講座に人が来なくなれば完全にバランスが崩れてしまう脆弱さがあります。ここが最大の問題である可能性があります。
■ 留学生が増加したら
学生の増加が仮に1万人だったとして、単純に法務省のルール(学生40人に1人の専任)だと専任は250人、平均的な非常勤の数が588人、合計838人が必要ということになりますが、定員を超えての募集はできませんし、専任のST比ルールは定員が基準ですから、専任はほぼ増やさなくても大丈夫なはずです。また、非常勤は新規で雇うよりも、これまでの契約者の担当コマ数を増やすことが多いので、新規で必要になるのは、588人のうち多く見積もっても半分程度ではないかと思います。つまり1万人の増加で新規に必要になる日本語教師は多くても200~300名というところではないでしょうか。
👉 これまで20年間、日本語学校の留学生数は増えても年に5000人程度。しかし2013年以降は、年間1万人前後増えることも起きている。
👉 2017年の文科省提出データによると非常勤の数が5491 学生数は95326人なので、17人に1人非常勤が必要ということになる。

 


 

実は日本語教師は供給過剰である
以上のことから、需給のバランスを考える際の数字は、基本的に毎年、自然減で1500人近く必要で、留学生が1万人増加すると300名、合計1800人が新規に必要になる。ただし、実際の求人は500名前後で、おそらく非常勤のコマ数を増やすことで対応している。これに応募者数が3倍いればいいとすると、1500人。これに対して、有資格者の日本語教師は、民間の日本語教師養成講座で毎年約4000人、大学で約4000人、合計約8000人が、毎年生まれている、ということになります。
数のうえでは供給過剰と言ってもよい状況であり、日本語学校の働く環境さえ改善すれば、離職率も下がり、大学で資格を得た新卒の若者が民間の日本語学校を就職先として選ぶようになるはずですから、民間の日本語教師養成講座はそのままそっくり消えても大丈夫なはずです。

 


 

日本語教師が日本語学校でキャリアを積む茨の道
ここで、リアルな日本語教師像というものを一般の方にも知っていただくために、いろんな日本語教師から聞いた話を総合して平均的な日本語学校像を書いてみます。この記事のいろいろな提案をご理解いただくために助けになるかもと思いますので。
■ 養成講座修了後の困難
運用面での問題はあるにせよ、養成講座は420コマ時間数とシラバスを見る限りでは、大学で取得する公立学校の教職と比較しても遜色ありません。ただ、他の資格もそうですし、公立学校の教職もそうですが、資格というものは、スタートラインにたてる権利を得た、というだけでその後にきちんと経験を積んで一人前となるという仕組みになっています。
しかし最も問題なのは、養成講座修了後にしっかりとキャリアを積む道がないことです。
→ 民間の日本語学校は、職場としては

  • ほとんどの場合、社員は数人から数十人の零細企業である。
  • 顧客(学生)が集まるかは時代により大きく変わる。国の審査もあり超不安定。
  • 正規雇用は3割以下の状態が10年以上続いている。
  • サービス残業が常態化しており離職率がかなり高い。
  • 教師の供給過剰は明らかで20年以上買い手市場が続いている(「日本語教師不足」は2013~17年までの一時的な現象)。
  • 最低でも最初の3年ぐらいは非常勤で、時給は1500円前後でほぼ上がらない。年収で100万前後。
  • 数年後、運良く専任になっても、年収は平均300万、長年勤めても400万円代。保育士とほぼ同じ。

なのですが、雇用する側は買い手市場であることもあり強気です。最低の条件として

  • 大卒(文科省は4大卒に限定したいようで規制強化中)
  • 420時間の養成講座を修了、かつ日本語教育能力検定試験に合格
  • 外国語をひとつできること(その学校の学生の多数が話す言葉ができるほうが圧倒的に有利)
  • 他の教員ときちんとコミュニケーションできる。
  • 人前でもものおじせず話せて20人くらいを前に教室をコントロールできる

を要求し、さらに

  • やる気があり、海外滞在経験があるといい。
  • できれば英語+もうひとつの言語ができる。
  • 日本語教授に関して常に勉強を欠かさない。
  • 学歴は高いほうがいい。
  • 報酬、待遇について要求が厳しくない(面接でいろいろ尋ねたらアウトだと思います)

という人から採用していくのですが、あらためて見ると、これは一般企業でも欲しい人達の条件です。でもわざわざ日本語教師という仕事を選んで入ってきた人達、特に若い人が数年で仕事に希望が持てず辞めていくのを「やる気がない」「(最近の若い人は)続かない」と批判する関係者をよく見ます。だから「日本語教師は供給過剰くらいの状態で均衡がとれている」と考えているフシがあるように思います。
■ 教師として経験が積めない構造
まず、教師にとっての経験はどういうものかを考えてみます。OECDの調査によると、日本の公立学校の教師の「授業時間数」は年間約600時間となっています。
http://www.huffingtonpost.jp/2014/06/26/teacher-oecd_n_5532451.html
http://www.oecd.org/edu/eag.htm
公立学校の教師としてのキャリアをスタートして5年で3000時間。10年で6000時間です。私達は一般的に公立学校の教師に対して、5年目ならば「ひとまず新人教師の期間は終えた」と考え、10年で「経験不足とはいわない、一人前」と考えるのではないかと思います。
しかし日本語教師の場合は、資格を取得して運良く非常勤講師の職を得て、いくつか掛け持ちしても1年目は最大で年300時間程度(年収でいうと時給1500円で計算して45万円)、その後増えることはほとんどなく(次から次へと養成講座を修了した日本語教師志望者が応募してくるので)3年目あたりから、学校から「見込みなし(サービス残業してくれないとか)」とされたら担当時間数は減っていきます。なんとかがんばっても公立学校の教師と較べて「新人教師の期間を終える」までに倍の10年、一人前になるまで20年かかることになってしまいます。年収は公立学校の教師(生涯の平均年収は600万前後)と較べて半分以下でしかも昇給の可能性はほとんどない、で、たいていは、本気で日本語教師を生涯の仕事として考えている人から早い内に心が折れてやめてしまうというわけです。
続けられる人は、他に収入が確保できる人だけになってしまいます。その結果、3~5年目以降は、日本語教師の仕事は非常勤として細々とキャリアを積むことになる。結果、年数は長いけど授業時間が少ない教師、例えば、最初の10年で5000時間以下というキャリアの教師が増える。このそこそこ経験がある非常勤は、フルタイムではないので若い教師に十分な指導ができない。ほとんどの日本語学校には、フルタイムで働ける経験十分(10年以上1万時間以上)の中堅の若めの日本語教師(どんな職業でも中核を担う重要な世代で、ここが本来多くないといけない)がとても少ないという印象です。
教師の育成環境もこの影響を受けます。専任が3割、非常勤7割という比率で、中堅の教師が非常勤というバランスでは、0の教師を3にすることはできる。本人の努力と資質があれば3から5の教師になることができる。5の教師は「経験者枠」として他の学校でも非常勤としてやっていける。(ただしよほどのことがないかぎり一生非常勤)しかし5の教師を10に育てる日本語学校はどこにもない。ということになっているのではと思います。
👉 しかも、教師としてキャリアをスタートする年齢は年々上がっていることは上に書きました。2017年の検定試験の受験者の調査では、新人の37%が50才以上、58%が40才以上です。公立学校で新人を脱した6000時間に達するために20年かかるとすると、58%の新人教師は20年後にほぼリタイアする年齢になっているのです。
■ 日本語学校以外の選択肢
非常勤になり、どうしても日本語教師を続けたい人は、早めに民間の日本語学校の道はあきらめて、(こちらも今や厳しい道ですが)大学で修士を取得して大学で教えるか、海外で仕事を探す人もいます。ベトナムやインドネシアなど、日本語教育の仕事があるところで就職しキャリアを積む道です。
ただ海外の道の先に何か希望があるかはわかりません。例えば、ミャンマーでは月給は2万程度で上がりません。ベトナムでは初任給は月給で5万程度。経験を積んでも、せいぜい10万です。政変でも起こったら一発でアウトですし、政権が変わり「日本シフト」の風向きが変わったら学習者が激減することは、これまでの他国の例からもわかっています。順調にその国が発展して人件費があるラインを越えたら、ごっそり工場が他国に移転することもよくある話です。日本語教育のような「後方部隊」は、そのまま置き去りにされるわけです。
帰国しても実質的に就職先は民間の日本語学校しかなく、海外体験はあまり歓迎されないという話をよく聞きます。少なくとも「海外」は加算されない。3年の経験は3年です。たいていの人は海外で数年仕事をした後は外国語の能力を活かして転職する道を選びます。
「教師の養成」は、資格取得後のキャリア設計とセットでないと意味がありませんが、これまでの日本語教育業界は、日本語教師が安心してキャリアを積める場ではまったくなかったのです。
日本語学校の現場の空気
非常勤講師
最初は非常勤講師です。時給や担当コマ数で計算されることが多く。まずは数コマやることになり、無難にこなせば学期の変わり目、三ヶ月後、六ヶ月後、にちょっと増えるというカンジです。コマ給1500~1800円前後。この「コマ給」はクセモノです。1コマはたいてい45分なので時給にすると、1500円は2000円になりますが、このコマ給には、授業前の打ち合わせ、授業後のチェックなどの時間が1時間ほど含まれているところがほとんどです。特に新人時代は最初に「この1コマは実質2時間拘束です」と説明されることがあります。中には説明なしに拘束をする、義務じゃないとと言いつつも参加しなければ「やる気がない」と次の学期(3ヶ月後)には契約は延長されない、ということになります。コマ給で1500円ということは、時給だと750円ということで、これは東京だと最低賃金以下です。
👉 これは、日本語学校の管理職の人の2016年のブログですが「ウチは(よそとは違って)実質2時間拘束だときちんと説明して納得してもらってから契約しています。」と書いています。しかし元々1コマコマ給で2時間拘束すること自体が違法(2016年の同校のコマ給は1600円。東京の最低賃金は907円)なんですが、日本語学校関係者の経営者や校長はそういう基本的な知識がないのです。ベテラン教師などから「きちんと説明するなんてさすが!」的なコメントが来ています。。。

👉 日本語学校の求人をみると、ほとんどの学校がコマ給で募集しています。時給で2時間分を払う余裕がないんですね。このコマ給でサービス残業をさせるというのは、かつて、学習塾や予備校などで行われていましたが、裁判などで学校側の敗訴が続き、時間給か、コマ給ならきちんと明示したうえで、4000円などと額も上がったという歴史があります。なぜか日本語学校では続いています。
2,3校かけもちしたり、プライベートレッスンを紹介してくれるところに登録したり、合間にバイトをしたりで、なんとか家賃を払う。というのが非常勤講師の一般的な姿だと思います。
専任教師
専任、常勤などと言います。日本語学校は社員として雇わなければならない枠、社会保険加入の義務もあります。2017年のデータをみるかぎりでは現在国内で、日本語教師でゴハンが食べられるのはこの専任の4000人程度です。専任の仕事とは、大学の留学生別科や民間の日本語学校にある席のことです。留学生別科は修士以上の資格が必要ですし、国際交流基金の募集も年に数名程度ですから、一般的な大卒の日本語教師にとっては民間の日本語学校の専任の席がほぼ唯一の「固定給」の道です。
専任の平均年収はいくらなのか? ちゃんとした調査がないのでわかりませんが、中途採用の募集で250万円から。平均300万円前後で、あまり昇給は望めない、というところだと思います。専任の募集は少なくとも数年から10年程度の経験が条件となっているので、まずは非常勤の募集に申し込むことになります。非常勤だと民間の日本語学校で常時若干名の募集が途切れない程度にはあります。
👉 専任の教師の待遇に関する調査は日本語学校の業界団体が行うべきだと思いますが、日本語学校業界は日本語教師養成講座の主な主催者であり、資格業界でもあるので、非常勤や専任の待遇を表に出し無くないという思惑があるのだと思います。
2016年にアンケートを行いました。回答は70件ちょっと。日本語教師向けのツイッターで宣伝したものなので、あまりおかしな回答は含まれていないと思います。

大手の学習塾や専門学校で長年やっている主任教師などは、例外的に500万円以上ということがありますが、大多数は200~300万のようです。
非常勤と専任の関係
教師全体で専任が1割、非常勤は3割というデータがありました。また、実際の学校での比率は専任3に非常勤7くらいであることは日本語教育振興協会の調査でもわかっています。数字では表れない部分ですが、この非常勤の「7」のうち、専任になりたいという人はおそらく(多めに見積もって)2くらいです。残りの「5」は、フルタイムの仕事はしない。非常勤のままでいい、そのほうが都合がいい、あるいは資格をとったので経験のためちょっとやってみたかった、という人達です。
日本語教師に興味があり、ボランティアからスタートし次にステップアップしたい非常勤になりたいと考えた時、現実的には、この全体の「5」の「非常勤でいつづける」ことが最重要という腰が重い非常勤教師達の席が空くのを待つか奪わなければなりません。この「5」の人達が非常勤のままでいるために行わなければならない最大の努力は「待遇や賃金に不満を言わないこと」です。買い手市場になれば、サービス残業も厭わずやる、簡単な**語の翻訳、通訳的な仕事も無償あるいは時給の範囲内でやる、みたいなことも、じわじわと増えてくる。
この「5」の、自らの待遇に関して諦めた非常勤講師達が作る空気は、やる気のある新人日本語教師の心を折ります。もちろん、これらは長年かけて雇用側の意識が育ててきた空気が生んだ人達であり、さらに、脆弱な経営基盤でも、教師を育てず、日本語を教える力で競争しなくても、あるいは学生数が少々減っても、生き延びられるような業界の体質、構造に問題はあるのではないかと思います。
もうひとつ、日本語教師志望の方のために付け加えると、ボランティアから非常勤になるためには、上や横だけじゃなく下からの圧力も大きいことも忘れてはいけません。つまり、今、ボランティアで熱意をもってやっていて学校でも教えてみたいという人、あるいは養成講座を終えて日本語を教えてみたいという人(あなた?)が運良く非常勤になったとして、(そろそろ「選別」を受ける)3年後には、あなたの日本語学校がやっている日本語教師養成講座を修了した3年前のあなたのような人があなたの席を奪いにくるわけです。「とにかく教える経験がしたい」「時給はいくらでもいいですから!」と。
この20年間、日本語教師の離職率は極端に高いままです。しかも、職業としてまじめに続けようと考える人から辞めていきます。最初の数年はどんな仕事でも勉強が必要な時期でハードです。時給の安さだけではなく、雇用の不安定、将来性などを考え、心が折れて転職、というパターンです。今、民間の日本語学校は、3割の経験20年以上のベテラン専任講師とベテラン非常勤、残りを5年以下の非常勤を入れかえながらまわしているようなところがたくさんあるはずです。

 

大きな改革が必要

もし、日本語学校が今後も存続していきたいと考えるのなら、ですが。。。
ほとんどの民間の日本語教師養成講座は不要
すでに20年以上、200の大学の日本語教育学科で日本語教師の資格をもった新卒生を毎年約4000人以上出し続けていますが、残念ながら、この人達は民間の日本語学校に就職を希望せず、一部、院に進んで大学で教える道を選ぶ人を除き、ほとんどは一般企業に就職するということは書きました。本来ならば、民間の日本語学校はこの人達の有力な就職先となるべきですし、そうであれば、民間の日本語学校が自前で養成講座を行う必要はなく、入社後の研修プログラムだけでいいはずです。新卒の日本語教育学科の学生の就職先となるためには、給料体系や雇用のシステムも大事ですが、何より、業界に健全な競争があり淘汰を受ける中で、将来も勝ち残れる経営力があると学生に思わせなければなりません。日本語学科の学生は冷静にみて判断しているのだと思います。
需給のバランスをみても、日本語教師養成は、本来なら大学だけでも十分なのです。民間の日本語学校が新卒で就職するに値するところであるなら。
また、日本語教師養成講座には、より強い監視と規制が必要です。
例えば、講師は修士もしくは博士課程修了者に、講座の運営も、学校法人格の学校に限定するなどの措置をこうじる。また、強い規制下におくことで、日本語教師の需給のバランスを考慮した調整も可能になります。まずは教師の供給を日本語学校業界から切り離すことをやるべきだと思われます。日本語教師養成講座に依存している日本語学校は多く、学校はそこそこで資格ビジネスがメインというところを無くす方向で規制を強化していってほしいものです。日本語教育は、留学生の一時的な学習ではなく、今後は永住者の家族、児童など、より重要な役割を担っていくことになります。その教師の育成は、民間の資格業者が担うべきものではないはずです。
日本語学校は養成講座を手放し、日本語教育だけで勝負することになれば、良質な学校は、学費の値上げも可能になります。もし民間の日本語学校が「教えるノウハウ」をビジネスに活用したいなら、資格取得とは別に、既存の教師のブラッシュアップの講座に力を入れればいいと思います。受ける価値がある講座だと認知されれば人はあつまるはずです。新宿日本語学校なら、長沼なら、と考える現役日本語教師はいるはずです。
同時に場合によっては、国会質問にあったような教室での学習者数の一部規制緩和をしてもよいと思います。「日本語教育力」だけで勝負していくためには、民間ではどうしても大教室の利用など、ある程度の大規模化を進める必要が出てくるはずです。規制緩和によるスケールメリットが明らかになれば、提携、合併、他業種との提携など整理統合が促進される可能性があります。長く日本語教育に関わってきた日本語学校が救われる可能性が高くなります。民間の業界本来の競争が生まれ、きちんと「戦える学校」が残れば、次の時代に向けてのIT化なども進むはずです。
日本語教師養成講座と日本語教育能力検定試験の棲み分け
現在、日本語教師として民間の日本語学校やJICAなどで出される条件にこの2つがあげられることが多いようです。で、なぜか採用条件は「どっちかでもいい」「ふたつともが望ましい」「試験合格者のほうが」「420時間修了者が」とマチマチです。結局、2つあったほうが有利だろうと、講座を受けて試験勉強をすることになります。勉強することはほぼ同じです。

日本語教育能力検定試験の受験者、合格者数はこちらに。
http://www.jees.or.jp/jltct/result.htm
「どっちもあったほうが就職に有利」となっている以上は、毎年、養成講座の修了者のうち日本語学校などで就職しようと考えた人は受けると考えてもいいかもしれません。ピークは1992年の8772人、ちょうど一般企業から日本語教師に転職したりという時代でドラマの主人公が日本語教師であったりと、第何次かの日本語教師ブームでした。(90年初頭は、日本語教師はまだ「職業」だったのです)その後2003,4,5年あたりに8000人に到達して以降は減少に転じ、現在は5000人前後、ただ、合格者は、常に1000~1500人前後と一定です。
2017年に日本語教師養成講座の修了者は、4大卒でないと有資格と認められないことになり、短大や高卒などの人にとっては、唯一の資格取得のルートとなりました。また、養成講座の管理が強化されたことにより、養成講座は日本語学校全体の利益とはいえなくなったこともあり、今後は検定試験も重視されるのでは。いや文科省は4大卒にこだわっているので、検定試験は軽視になるのでは、といろいろと言われています。
この養成講座の4大卒限定の問題点のひとつは、現在も日本語教師養成講座は学歴を問わず募集している、ということです。修了しても有資格とはならないのに、募集はしてもよいということになっています(事前の説明はしろと指導はあるようです)。そして、日本語教師養成講座を主催している日本語学校は、高卒、短大卒も採用するけど検定合格だけではダメ、養成講座の修了も必要、というような求人を出しており、中には「検定の合格者で4大卒でない方は応相談」と書いて、自校の養成講座の修了者は特別枠で面接します、となっていることも多いのです。
つまり、養成講座修了と検定試験合格は、それぞれ独立して有資格として扱うのではなく、曖昧なままにすることで、養成講座ビジネスの間口を広げておこうというような考えがあるようだ、ということです。
事実上、長年、日本国内の日本語学校業界は検定試験よりも420時間修了を重視してきましたし、今後もそれは変わらないと思います。しかし、それはあくまで就職に有利かどうかという問題で、資格としての有効性はどれひとつを満たしていればよいことになっていて、後は、その時々の業界の都合で決められてしまっています。
私は、この混乱を生む資格の重複も無駄だと思います。420時間の日本語教師養成講座は、内容を精査し、修了試験などを管理し、きちんと立て直せば、元々、公立学校の教員の勉強と同じくらいの学習時間なわけですから、十分に日本語教師の公的な資格として生まれ変わることが可能だと考えています。正式な唯一の資格とするためにも、4大卒の学歴要件も外すべきです。日本語教師は、今後、留学生だけでなく、技能実習生やその他のルートで来た人達を教えることになり、留学生の20万人から100万人を手当てする必要が出てきます。質と量共に対策が必要なのです。(養成講座の修了試験を分離して講座修了と修了試験をセットで要件にしてもいいと思います)
日本語教育能力検定試験は所詮試験です。一発勝負で公教育の教師として認定するものにしていくのは無理があります。ここは、必要ならややレベルを下げて、ボランティア教師の採用条件として作り直す。ということで棲み分けするのが合理的です。日本語教師のアシスタント教師としての資格にすればいいのです。正式なシラバスでは有資格の教師と共にでないと教壇にはたてないけれども、シラバス以外の練習や補講では、授業ができる教師として、ここも厚みが必要な部分です。
検定試験に関わっている日本語教育学会は、日本語教育の研究で得られた知見をペーパーテストではなく、養成講座の立て直しのほうに使うべきなのではないでしょうか?

 

未来を見据えた方向転換

国内の日本語学校というビジネスモデルは時代遅れ
かつては海外には日本語の学習のためのリソースは少なく、日本に「語学」留学する意味はありました。
しかし、現在は、90年代に較べると、海外にいながらにして、ネットを介して、日本語の学習リソースを手に入れることができます。インフラがもうちょっと整備されれば、日本語学習者が多い東南アジアでも大都市ではスカイプなどを通じてのリアルタイムレッスンやMOOCなどで安く日本語を学ぶ機会が訪れるはずです。日本に留学しなければ日本語が上達しないという時代はもうすぐ終わります。留学は語学ではなく、大学の質勝負になるはずです。きちんとした高等教育を提供できるかどうかになるはずです。
自由な社会で、大学で得られる多様な価値観や様々なジャンルでの先端技術、日本語に翻訳された学術関係のリソースにアクセスできることなど、まだまだ日本に留学する価値はあるでしょう。しかし、日本語の学習のためだけに日本に留学する(しかも日本語学校は学位も提供できないし、1年の学費は海外の大学並みの70~80万です)価値はあるでしょうか?あったとしても、今後、どうなるだろうか?と考えた方がいいのではと思います。
民間の日本語学校に日本に留学したいという若者を託すには、他にもいろいろ問題があります。例えば、先にICT化している大学や専門学校と較べると、基本零細企業の日本語学校にはICT化は無理ということ。留学生を地震国で耐震性に疑問のある日本語学校の校舎や「雑居ビル」で勉強させてしまうリスクも考えなければなりません。
👉 諸外国 外国の大学の学費(文科省)
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/data/syogaikoku/1379305.htm

おそらく近い将来、国は初級から中級レベルにかけて日本語学習のための公的なネットワークを作らざるを得なくなるはずです。他国と同じように、少なくとも初級から中級までは無償でプロの日本語教師から日本語教育が受けられる体制です。現在、日本語学校でカバーできるのは、日本語の学習が必要な人達のわずか13%です。100万人の日本語学習需要には、対応できないことはあきらかです。
留学ビジネスは、黙ってても一定数の留学生が来る国々、例えば留学中のアルバイトは全面禁止であるにも関わらずすでに50万人を超えつつある中国のようなところと比較しても仕方ありません。アルバイト時間は留学ビジネスにおいて、ディスカウントがわりに使われています。アジアが豊かになればなるほど、留学ビジネスは質の勝負になります。いつまでもアルバイトを売りにしていては、まっとうな土俵で勝負できなくなってしまいます。留学生は、一時的に減ったとしても、大学や専門学校が自らの力で獲得できるような方向で見直すしかありません。
今の延長線上では無理
そもそも、これまでも日本語学校は学生のバイト時間の管理は事実上できていませんでした。日本語学校の業界団体が規定違反でペナルティを与えたとか、日本語学校の業界の調査によって日本語学校が摘発されたということを聞いたことがありません。留学ビザは風俗営業以外どこでも働けますから、普通は技能実習生と見分けるのは無理です。また、2015年以降、技能実習生だけでなく、地方自治体の枠での実習生のような資格で来た人や、特区など、いろんな資格で日本に来て仕事をしている人が増えています。その中で日本語学校の学生だけをピックアップして28時間以上であると見分ける、摘発するのはますます難しくなるはずです。
留学生を再び2つに分ける
2010年までは、専門学校や大学で学ぶ人を留学生(留学ビザ)、日本語学校はその留学生になるための予備校生的な存在なので就学生(就学ビザ)と呼ぶ、という区分けがありました。ビザも別。それぞれバイト時間も留学生は週28時間、就学生は一日4時間でした。日本語学校は過去も現在も、日本語を勉強するために留学する学校ではなく、専門学校や大学に進学するための予備校的な存在です。
この就学と留学の区分けを復活させて、大学や専門学校は「留学生」と日本語学校は「就学生(留学予備校生)」と位置づけます。他国でもこれがスタンダードなやり方です。
就学生のアルバイトに強い制限を

中国では留学生のバイトは全面禁止です。それでも留学生の数は増加の一途で50万人クラスです。そして、実はたいていの国で、大学の留学生はOKでも、進学準備の語学学校の留学生のアルバイトは禁止です。OKなのは豪州くらいではないでしょうか。留学生と就学生に分けるなら、就学生のアルバイトは全面禁止でも問題ないと思います。それが現実的でないならば、週14時間などとして20時以降はアルバイト禁止でもいいでしょう。後述する奨学金でサポートすればバイト時間は半分で十分なはずです。
人手不足で日本語学校を作ろうというような自治体は、就労ビザで人を呼べる制度を作ればいいだけです。学校を作って学費を借金として若者に負わせる意味はまったくありません。その上で、就労ビザで来た若者が日本語能力試験のN2に合格すれば、奨学金で大学に進学できるルートを作ればいいのではないでしょうか?
留学したい人は勉強して直で大学や専門学校に行くか、奨学金を得て日本語学校経由でいく。就労目的ならば技能実習生枠などにきちんと誘導する。技能実習生枠も広がってきましたから、そっちでカバーできるようになるはずです。入口で留学と就労をきっちり分ける。技能実習生枠は、問題山積ですが、送り出しから受け入れまで、政府が強く関与していますし、斡旋自体が禁止です。いろいろ問題も起きていますが、監視の目は、留学ビザより圧倒的に厳しいのです。それほどおかしなことはできません。新しい管理機構もできることになりましたから。国内での外国人就労がらみの問題は減少していくはずです。
👉 外国人留学生の受入れとアルバイトに関する近年の傾向について
http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2015/09/pdf/098-115.pdf
ベトナム人、ネパール人留学生の特徴と増加の背景
http://www.jasso.go.jp/ryugaku/related/kouryu/2016/__icsFiles/afieldfile/2016/06/07/201606satoyuriko.pdf

能試によるビザ延長管理
バイト時間に制限ができれば、ほとんどの場合、就労目的の人は無理して留学ルートを使わなくなるはずです。技能実習生制度や他の就労ビザのルートに自然と仕分けられます。しかし、就労ビザルートは、急には広がりませんし、ブローカーは、留学ビザのほうが利益が大きいと留学ルートを使おうとするかもしれません。そこで、さらに就学目的であるかの2つめのフィルターとして能試による足切りが有効だと思います。
日本語学校入学時の日本語能力をN4に限定する、来日後1年でN3不合格ならビザ延長をしなければいいのです。この2つで、今の日本語学校の留学生の6~7割くらいは足切りされるはずです。介護の技能実習生と同じルールです。進学するには、少なくともN2以上の日本語レベルは必要ですから、理屈のうえでも当然の処置です。
来日のN4は高いハードルです。少なくとも100時間の勉強は必要になります。留学が目的ならばクリアできるはずですが(日本でも、中学英語くらいはできるようになってから留学するもんでしょ?N4は中学英語の半分くらいです)、就労目的の人には厳しい投資になるはずです。来日1年でN3合格しないと帰国となると、1年以上は働ける保証はなくなるわけですから、国内企業や自治体は人手を留学ルートで確保しようとはしなくなるはずです。
進学目的の留学生を奨学金でしっかりサポートする
おそらく、バイトで稼げない、能試で足切りとなると、東南アジアからの留学はかなり厳しくなるはずです。日本語学校では2万人程度(現在は7万人超)確保できるかどうではないでしょうか。ただ、これは、それほど少ない数ではありません。以下は、90年代からの日本語学校の学生数の推移です。

 

1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995
18631 22154 25643 31251 41347 35576 35953 33107 20580 14585
1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005
11224 13234 15269 21787 30631 33757 39205 42729 35379 25860
2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
30607 31663 34937 42651 43669 25662 38085 50295 62647* 71231*

留学生10万人計画は1983年にスタートしましたが、1993年以降5万人程度が続き、2000年以降になって再び増え始めて2003年に10万人を超えたとされています。この「5万人程度で推移していた期間」とは92年前後に中国からの留学生の不法滞在者が増え、入管がビザを発給の引き締めをした時期でもあります。つまり、正常な留学目的にしぼると留学生数は5万人前後であり、そのうち日本語学校への留学生は2万人前後だったというわけです。しかも、この90年代は、バブルが崩壊したとはいえ、日本の経済は現在とは比べものにならないほどまだまだ強く、アニメやマンガが本当に強かった時代です。
👉 留学生10万人計画の達成の経緯
http://www.iic.tuis.ac.jp/edoc/journal/ron/r13-2-4/r13-2-4b.html

この間の日本語学校の数は、90年代はじめが400校前後、2000年にかけて300校を切るようになり、2000年代に400校に戻ってからは回復基調で、2010年代には、一気に600校、ここ数年は年に50校ペースで増えています。ここ15年くらいのバブルを終わらせれば、300校、2万人ペースで落ち着くはずです。
そしてその本気の2万人のうち、奨学金が必要な東南アジアの学生に対して手厚いサポートをするほうがよいと思うのです。
週28時間のバイトで得られるのは月112時間、時給800円で89600円、約9万円です。このうち5万円を1万人に奨学金として月5万円支給すると、年額で60億です。能試による足切りをするならば、来日1年でN3合格を条件に学費の負担が難しい学生に支給でもよいと思います。住居の補助があれば、とりあえずバイト無しでも最低限の生活はできる。ベーシックインカム的な補助となるはずです。60億は人口1万~2万の小さな町(村)の年間の予算程度の額です。基金を作り、国公立と私立の大学、専門学校など、留学生1人あたり、あるいは留学生を雇用するアルバイト先も一人あたりで定額を納める、つまり留学生が日本に来ることで恩恵を受けるところに奨学金を負担させる、ということです。
👉 おそらく現状でも来日1年でN3に合格する学生は1万人強です。実は今も本気の留学生数はそんなものなのです。
日本語学校データ
https://goo.gl/BGimfW

👉 また、日本語学校の寮は、住居費はどこもだいたい月3万円で、都心だと6畳に2人くらい、地方だと3LDKで5人くらいというところです。7万人の住居確保は厳しいですが、2万人ならば、自治体はじめ公的なサポートが期待できます。
👉 現在も日本語学校の留学生が対象の奨学金はあります。月額3万円。しかし、2015年での支給対象はわずか700人(1.4%。年額2億5000万円)です。月3万円は結局アルバイトをしなければならない額です。
http://www.jasso.go.jp/ryugaku/tantosha/study_j/scholarship/shoureihi/

👉 2013年に安倍政権は「オリンピックの応援団を作る」という目的で東南アジアに日本語ボランティア3000人を派遣する300億円の「日本語パートナーズ」という事業をスタートしました。しかし東南アジアの日本語学習者はインドネシアを始め減少傾向は変わりません。それよりも、私は、本気で勉強する若い優秀な若者に毎年60億で日本でお金の心配をせずに勉強してもらうほうがいいのでは?と思いますがどうでしょうか?
抵抗勢力
留学生5万人、日本語学校は2万人となれば、地方の私大、専門学校のほとんどは終わりです。日本語学校もバイトが週14時間、能試で足切りになれば、東南アジアからの学生のほとんどは消えますから、600校超の学校は半減するので反対するでしょう。
もうひとつの抵抗勢力は、人手不足の補填を留学生でやろうとしている人達です。日本語学校の誘致をする自治体、それを媒介している会社、日本語学校周辺の学生集めのブローカーと、そこと契約している日本語学校周辺の中小企業、不動産ブローカーなどなど。。。
でも、後者は、技能実習生枠の拡大や独自の就労ビザ、特区などで手当てができれば、元々日本語教育などには関心がない人達です。アジアから来る若者も学校の学費の借金が減るだけハッピーです。
それに、そもそも、この人達、そんなに大事ですか? と問いかけたいです。少子化なんだから大学は淘汰されるのが自然だし、日本語学校はつい15年前は300校ぐらいだったんです。
未来を先取りする
就労と就学をきちんと分けてしまうと、留学目的で日本に来る人は激減しますから「留学生としてカウントできる数」は見た目上は減ります。留学生30万人計画は2020年までの達成は不可能だと思います。しかし、元々、予備校生的な学生と就労目的の学生の日本語学校の学生数を入れて水増ししてたわけですからより実態に近い数字で再出発するしか仕方ありません。
今後、アジアは今後急速に豊かになっていくはずです。事前に留学費用が準備できる人達の選択肢になれるか?という競争の中で、やっていけばいいと思います。近い将来は、そこが主戦場となるはずです。なるべく早く「自前で費用を負担して留学するという国際レース」に参戦して、その中で切磋琢磨をして鍛えていく。「稼げる留学先」ではなく、「勉強のために留学する価値がある国」を目指すべきです。
世界の日本語学習熱はずっと前からさめつつあり、学習者は減っています。ここで無理をして、見た目の数のために、日本語学校や大学や専門学校が就労目的の学生も取り込まないとやっていけないという延命治療を続けてもいいことなど何もないのではと思います。
現実を直視して身の丈にあった規模で、数を追求するのではなく、進学と就労は早めに切り離して、質の高い学生を確保するためにも、留学サポートを手厚くすることで質を追求していくことにシフトしたほうがよいのではと思います。一旦リセットボタンを押して2万人からリスタートする決断をしたほうがよいのではと思います。
留学生が5~10万人、日本語学校の留学生が2万人規模になれば、民間の日本語学校は、淘汰を受け、適正な規模に縮小しながら、新しい行政サービスとしての日本語教育との棲み分けを余儀なくされます。まだ方向転換はできます。技能実習生や介護の日本語サポート、進学予備校として生き残る、ビジネスやプライベートレッスン、ネットの日本語教育、法人需要など大都市で特殊なニーズに応える、あるいはアジアやアフリカに進出して現地で国内で積み上げてきたノウハウを生かすこともできます。
ごくわずかな例外を除いて、日本語学校を中心にした民間の日本語教育業界は、もう長い間(少なくともおそらくここ20年ほどは)教師が安心してキャリアを積める場所ではありませんでした。今の延長線上では、教師を育てノウハウを蓄積し日本語教育の発展に貢献するといったことができる業界構造ではなくなっており、経営規模からいっても、人的資源に対する投資ができないだけでなく、設備の充実、例えばITへの本格的な先行投資なども、ほぼ不可能だと思われます。
今後ますます厳しくなっていく国際的な留学生の獲得競争の中、日本の大学が、自らの学位の価値で勝負できるかどうかという時に、年間70万円の学費と割高な都会の生活費が必要で学位もない民間の語学学校に勝算はあるのか、そして、このような業界を守る意義はあるのか、考え直す時期に来ているのではないのでしょうか。
日本語教師も、20年間、多くの教師にとって安心して未来を預ける場所ではなかった民間の日本語学校に、今後も期待しつづけるのはリスクが大きすぎるのではないかと思います。そろそろ日本語教師は、特に若い人達は、日本語学校に決別する時期です。技能自習生や介護ビザ、その他の日本滞在者で日本語の学習を必要とする人は、増え続けています。留学ビザだけを扱う日本語学校は、すでに少数派となりつつあります。日本語教師は日本語学校に頼らなくても、他に選択肢はいくらでもあるのです。

 


 

日本語教師の次の働き場所、それは今後、全国に広がっていくであろう「地域の日本語教育のニーズがある場所」になるはずです。

 


 

 

国内日本語教育の新しい時代

 

「集住」「散住」ではなくまんべんなく学習者が住む時代

日本語教育の政策の議論では「集住」「散住」という言葉がよく出てきます。しかし、これはもう過去の言葉です。
これまでは、日本語の学習は必要な人達は、外国人労働者を大量に採用する企業の城下町みたいなところか、留学生が集まる大学や日本語学校が集まる大都市中心で、それぞれの場所で手当てできればOKという空気がありました。「特殊な自治体」は補助金出すよ、でなんとかなる、くらいのイメージです。文化庁の地域の日本語教育の設計を担当する日本語教育アドバイザーも自治体によって偏りが大きいです。
http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/nihongokyoiku_jittai/h24/pdf/h24_zenbun.pdf
しかし、「国内の日本語学習者の数」で書きましたように、実はこれまでも外国人技能実習制度では農家、酪農家、漁業の現場などで多くの外国人労働者(2012年で16万人、2017年には20万人突破)が働いていて、日系の永住者(2012年で20万人、2014年で18万人、2017年には再び年間数千人単位でビザを出すことになりました)も日本語学習の環境が不十分だったことがわかっています。また、公立の小学校や中学校では平均で一校に2人は外国人児童がいるという調査結果(小中学校は全国で合計約3万校)も出ています。
さらに今後、研修生制度が建築やインフラ整備などへ拡大され、EPA協定などによる介護士看護師の派遣によって、介護や看護での労働者が増えると、特定の職場付近だけでなく、日常の生活圏で外国人労働者が働き生活することになります。特に介護の職場は、特定の地域ではなく、全国に均等に存在します。従って、日本語の学習が必要な人達も日本全国に均等に広がっていくことになります。
これは北海道夕張市(人口8612人)の介護施設の分布です。10の施設があります。過疎地域ほど高齢化が進んでいて介護施設も多い。

【地図リンクはずれ】

 

介護の現状と補填される外国人介護士

介護職員の不足の見通し
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000047617.pdf
平成28年(2016年)介護サービス施設・事業所調査の概況
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/service16/index.html
現在、国内の介護士は150万人。これが2025年に250万人が必要で国内の供給だけでは30万人の不足となると言われています。仮にこれをすべて外国人介護士で補填すると12%。ほぼ9人に1人が外国人介護士となります。(また介護士は、滞在期限を設けず永住の道を用意しないと集まらないのではないかと言われ、実際に検討されています)
2012年で、国内で介護士が働く施設が約9万なので、25年には施設も、15万くらいになる可能性があります。介護施設の1施設あたりの介護職員数は介護施設の種類や規模によって違います。2014年の厚労省の報告によると、訪問介護、通所介護の職員数は平均8人程度、施設は40人前後です。
介護施設は、2016年の段階で、「訪問介護が 35,013 事業所、通所介護が 23,038 事業所、平成 28 年4月に通所介護のうち小規模なものが移行した地域密着型通所介護が 21,063 事業所」なので訪問通所介護の施設は79114。「介護保険施設では、介護老人福祉施設が 7,705 施設、介護老人保健施設が 4,241 施設、介護療養型医療施設が 1,324 施設」なので13270です。
2017年の法律改正
2017年に、介護人材は、これまでのEPA(年間1000人程度)に加えて、技能実習生枠と介護ビザという2つのルートが作られ、また、これまでは、介護施設の正規職員の1割までという制限がありましたが撤廃され、職員と同数まで可能となりました。これも大きな変化です。

 

中学校の学区で考えてみる

全国に人口比に応じてまんべんなくある施設として、中学校を軸に考えてみます。学校は教室にも使えますし、日本語教師が常駐する基地としても便利です。いろいろと活用できるという意味もあります。
👉 ただ、過疎地域では高齢者が多く子供が少ない、高齢者が多いということは介護施設がありそこで働く外国人介護士がいる、というわけで、やや調整が必要ではあります。例えば、上にあげた夕張市は介護施設は10前後ありますが、中学校は1校です。離島でもないかぎり、調整幅は小さいはずです。
中学は全国に約2万あります。中学校の学区で全国を2万の地域に分けた時に、2016年の時点では、訪問通所介護の施設は約4つあり、滞在型の施設が3つの学区で2つくらいあることになります。介護職員数は、4×8人で32人と、80人÷3で27人なので合計59人です。このうち外国人介護士は最大約30人です。この30人は、全国どこでもこのくらいの数がいる、ということが重要です。これまでのように外国人を大量に雇う工場がある地域だけでなく、都会も田舎も同じです。しかも、どちらかというと田舎のほうが、高齢化が進み介護施設で働く若い人は不足しがちです。
介護では団塊の世代が75才以上となる2025年ショックということがよく語られます。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/
2025年に向けた介護人材にかかる需給推計(確定値)について
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000088998.html
ここでは2013年の介護職員数が約170万人に対して、2015年には250万人の需要が生じることになっています。約1.5倍必要になるという試算です。この試算で必要になる(不足する)介護職員は約38万人です。少なくとも10万人以上は外国人介護士でカバーしないと無理では無いかと言われていますが、ここでは、上の2016年の数字で考えます。
中学校の学区で考えると、2025年には、施設は通所介護系が4つだったのが6つに、滞在型施設が1つ。職員数は、通所系が平均8人なので48人、滞在系が40人なので合計88人。このうち半数の44人が外国人介護士になる可能性があります。半数としても22人です。この22~44人も全国等しく、このくらいの日本語の学習が必要な人の数です。
2025年近い将来、ある地域で日本語学習者がいる、日本語学習のニーズがあるというのは次のようなイメージになっていくのではないでしょうか。

2025年のある地域の姿
平均的な地方の校外の町、車で片道15分以内に、モールかスーパーがある生活圏、そのエリアに中学校がひとつ、小学校が2,3校くらい。介護施設は大小あわせて6つくらい、療養型が1つ、通所訪問が5つ。中規模の病院が1つ。駅から離れると田んぼがある…。
→ これですでに外国人児童が3,4人(全国平均)、外国人介護士が30~45人程度。技能実習生制度などで道路整備や農家などで例えば10人が働いているとして、どこにでもある普通の街で50人前後は日本語教育が必要な人達がいて、日系の人達などがいる工場があったり、水産加工や農家、酪農をしている地域はもっと多い。そして、どの地域も将来増える可能性は高いのです。

👉 この地域に大学や専門学校、日本語学校があればそこの学(留学ビザ)も数に加わりますが、ここは資格をもった日本語教師によって授業が行われています。
ここで、問題になるのは、後述する「日本語教育に使われる税金」でもふれますが国内の日本語教育に関わる監督官庁がバラバラだということです。
留学ビザは、文科省と法務省が管理しています。外国人児童は、文科省が2014年にリタイアした国語教員と地域の教室などで手当すると方針を出しました。日系の人達は文化庁が「日本語教育コーディネーター」でできるだけカバーすることになっています。
EPAで来る看護師、介護士は、厚生労働省が担当で厚労省系の「国際研修協力機構」で「日本語指導アドバイザー」がやることになっています。水産加工や工場などで働く技能実習生は最初に書きましたが、JITCOを中心に日本語をやってきて、まったく成果をあげておらず、仕事が始まったら日本語の勉強をする時間はないままです。技能実習生の介護士は、技能実習系の受入団体が最初に200時間の授業をしたら終わりです。介護ビザルートで介護士になった人は、そこそこ話せますが、サポートは介護施設任せです。
この50人前後の日本語の学習が必要な人達は、それぞれに分断されて、監督省庁や日本に来たルートによって、手厚かったり、ほったらかしだったりになっているわけです。もちろん、これら国のサポートとは別に、自治体はまた別にボランティアの日本語教室などに年間十万円単位で補助金を出したり、自前で日本語教室を主催したりしています。これも文化庁が一部サポートをしていますが、基本は自治体頼みで、有資格の教師を雇うほどの資金はありません。

 

国内日本語教育の一元化&ネットワーク構築を

 

日本語教育を学習者単位ではなく地域単位で切りわける意義

まず、これは一般の方にご理解いただきたいことなのですが、おそらくは行政上の効率だけでなく、日本語教育からいっても学習者別に分けるより地域単位のほうが合理的です。なぜなら教える方法は、学習者の違いではほとんど変わりは無く、職業などによって専門的な用語などが加わったとしても、日本語教師が職業上必要な勉強の範囲で十分対応できるからです。(例えば学習者の母語が、ポルトガル語、中国語、インドネシア語だったとして、それらの母語をもった学習者に対する注意点や基本的な言語の知識と日本語教育上おさえておくポイントの勉強程度なら専門の日本語教師は不要で、一般の日本語教師の守備範囲です。
介護や看護、児童教育、それぞれに研究や勉強は必要ですが、これも「専門の」日本語教師は不要です。学習者の環境は仕事によって常に違いますし、そこで使われる日常会話も違いますが、それを考慮して教えるのは日本語教師にとって普通のことであり、例えば、金融関係者、スポーツ選手、高齢者など、それぞれに専門の日本語教師が必要ということはないのです。(英語や中国語で考えてみて下さい)
国内の学習者の環境を考えた時、おそらく最も日本語を教えるうえで困難になり、日本語教師が時間を割いて勉強しなければならないことは、方言です。日常会話レベルで、学習者がふれる日本語で、文法や発音そのものが変わることがあるわけですから。教師は、初級レベルであってもいろいろと対応せざるをえないケースが出てくると思います。「介護士向けの日本語教育」というものがあるとして、そのカリキュラムで勉強したとしても、実際に仕事をする地域の言葉がわからなければ、どうにもなりません。介護、看護の仕事では時に方言の理解が生死に関わる可能性もあります。
👉 【ド真面目】弘前大学医学部では津軽弁を学習します。 – Togetter http://ow.ly/xaxv30hQF5I
日本語教育は、学習者別ではなく地域ごとに切りわけるほうが合理的です。ただし、これは地元の言葉がわかる教師でないとダメということではありません。その地域の出身者であるかどうか、方言のネイティブかどうかは関係なく、そこの方言を、日本語教育として教える枠組みに組み込んでいく、という作業が大事になってきます。これも、その地域で継続的にプロの日本語教師が仕事をすることになればしっかりとしたものができあがるはずです。地域でプロの日本語教師が継続的に雇用される必要があり、地域ごとにノウハウを蓄積することが重要です。
👉 日本語教育の研究者、関係者の方々もこの点、ちょっと注意してください。児童、医療の日本語の専門性は強調しすぎると、それが省庁や関連法人の縄張り争いの根拠として利用されてしまう可能性があるということです。もちろんすでにその「**日本語教育の専門化」というジャンルから利益を得ていて、細分化したほうが都合がいい、という関係者もいるわけですが。

 

公立小中学校をベースにした日本語教育ネットワーク

今、全国で小学校が約2万、中学校が約1万校あります。日本語の指導が必要な児童に関しては以下にデータがあります。
文部科学省 学校教育に関する統計調査
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/main_b8.htm
文部科学省  帰国・外国人児童生徒教育情報
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/003.htm

🗨 日本語指導が必要な外国籍の児童生徒数は 34,335 人で前回調査より 5,137 人増加した。また、日
本語指導が必要な日本国籍の児童生徒数は 9,612 人で前回調査より 1,715 人増加した。

公立小中高校などに在籍する外国人の児童生徒は8万119人。日本語指導が必要な3万4335人のうち、実際に特別な指導を受けている子どもの割合は76.9%(2万6410人)となっています。ざっくり言うと、小学校、中学校の1校に1人以上は日本語の指導が必要な児童がいるということになります。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/genjyou/1295897.htm
👉 文部科学省の「日本語指導が必要な児童生徒を対象とした指導の在り方に関する検討会議」の議事録。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/kaigi/1321199.htm
こちらに必要な数に関するレポートが。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/25/04/__icsFiles/afieldfile/2013/04/03/1332660_1.pdf

小学校の数は全国で約2万で、教員は、約31万人で教頭以上が4万人です。、中学が約1万、教員数は約19万5千人、教頭以上が2万人です。
国内の日本語教育において最も予算が割り当てられ(公立学校での手当てだけで約80億)権限をもっているのは文科省です。学校を軸に地域をカバーしていく方策が最も自然で無理のないやり方ではないかと、平均の数をベースに考えてみました。

日本語教育ネットワーク
国内のすべての日本語の学習が必要な人に対応可能なネットワーク

  • 中学校2つの学区(日本を5000に区分けする)に一人の日本語教師を置く。
  • この中学2つの学区には小中あわせて6校がある。公立教員と同じ身分で雇用し、学校を基地に活動する。
  • 日本語教師は児童の他に担当エリアの介護、看護、技能研修生などすべての外国人在留者の日本語教育を担当する。
  • すべての外国人在留者と日本語の学習が必要と認められた人は無償で500時間の授業を受けることができる。
  • 日本語教師は担当エリアでこの無償授業を担当し、日本語教育が必要な人の「掘り起こし」もする。
  • エリアの担当教師は、学習者数に応じて増員するが、最低1人の配置は維持する。
  • 県に50~100人、全国で最低でも5000人の日本語教師が地域に常駐することになる。
  • 国 > 県 > 方言区域 > さらに下位のユニット、という区分。
  • 県か方言区域単位でひとつ施設を作り、そこで技能研修生や介護看護の人への集中講座を行う。これにより方言学習(&研究)のサポート体制も確立できます。

このセクションの最初の試算では、2016年の時点で外国人介護士で中学校1学区で制度上最大30人(2025年には最大44人)なので、2学区だと、最大で60人程度はいる可能性があり、また、文科省の発表では小中6校に平均6人の日本語指導が必要な児童がいます。ここまでで、中学2つの学区には、少なく見積もって、介護士が半数の30人だとしても36人です。これに技能実習生が20万人で計算すると、5000で割ると中学2学区には平均40人がいます(この40人と児童の6人は地域差がありますが、外国人介護士の30人はほぼどこも同じはずです。この30人が基本の数になります。)。技能実習生がちょっと多いエリアならすぐに100人になるはずです。1人でやれるのは100人がリミットでそれ以上だと増員でしょうか。つまりだいたい1人の教師で最大100人くらいをみるイメージです。外国人介護士が全国に広がることによって、集住、散住とは関係なく地域に1人置く意義が出てきます。それに地域によって増員をすればいいわけです。
👉 さらに2025年には介護士の数が1.5倍になる可能性があります。技能実習生は倍くらいでしょうか?定住化が進めば当然、児童の数も増えます。
👉 500時間は、ざっくりと初級で300時間、初級で学習したものの定着と地域日本語で+200時間としました。海外の移民の言語教育の時間もだいたいこのくらいです。細かい時間数は専門家で決めればいいと思います。
👉 2つの中学校の学区はだいたい車で30分くらいの移動距離です。なんとか1人の教師でまわせるのでは、と思います。
これで、5000人のフルタイム勤務の日本語教師で、現状、全国をほぼカバーする日本語教育のネットワークができ、かつ、外国人児童と介護、看護、技能研修生、その他の地域特有の日本語教育のニーズにもすべて応えることができます。学習者数が増えても、非常勤などでカバーし、ボランティアでサポートしていけば、近い将来、学習者が増えても、倍の1万人を越えることはないと思います。ベースとなる5000人だけなら中学2校+小学校が4校、合計6校に1人日本語教師が増えるだけです。

実現すれば、県に50~100人の専任日本語教師が常駐することになります。これで県単位で日本語教育センターのようなベース基地作りができるはずです。県か方言区域単位にひとつ日本語教育センターがあり常勤の日本語教師が教室を持つことができれば、外国人技能実習生の一時受け入れの日本語研修の場所にもなります。実際に実務研修をする県で集中的に日本語研修をプロの日本語教師から受けることが出来ます。実習生がじっさいに働く現場では、方言が使われている可能性も高く、実務研修が行われる地域でプロの日本語教師のサポートを受けることは、とても重要だと思います。
そこで方言と日本語教育の研究もやれます。県単位で教材も作ることができます。防災など日本語を母語としない人達の言葉の問題をカバーできます。今は、県にひとつは日本語教育関連の学科をもつ大学があるのではないでしょうか?研究面で連携できます。事務職も含めて大学の日本語教育学科の卒業生の就職先としても魅力的です。
ネットワークが整備されたら、次はオープン化です。例えば曜日ごとに日本語教室を開放して、研修生や日系在留者、外国人児童以外の在留資格者に対しても、日本語を勉強できるチケットを配布したり、(中上級レベルは)販売したりというような制度も可能だと思います。先進国では一般的な「在留資格を持ったすべての人が無料で受けられる公的サービスとしての日本語教室」となるわけです。
もちろん、5000人強の日本語教師の安定雇用が生まれることで、日本語教育に厚みが生まれます。様々な日本語教育のノウハウの蓄積と共有が効率よくできるようになります。児童教育だけでなく、介護、看護、研修生に対する日本語教育の研究も進みます。インターネットの活用も、このネットワークにのせるだけです。海外の日系の方々への継承日本語教育やもちろん一般の学習者、教師との情報の共有のベース基地になると思います。
民間の日本語学校を中心に続いてきた「教材とサイト、教え方のマニュアルを作り、あとは丸投げ、教師は5年くらいでやめていく」という今の日本語教育の状況に較べて、しっかりと現場からのフィードバックがあり、議論があり、それをきちんと職業として何十年も続けてきた教師達が現場でしっかり授業をしてくれるほうがいいに決まっています。
行政の縦割り問題など障壁は大きいですが、一本化して質の高い日本語教育を提供するほうが、効率的ですし、必ずトータルのコストは低くなるはずです。それぞれの地域で、外国人児童と介護士と技能実習生の日本語教育を分ける理由はありません。このネットワークがきちんと構築できて地域に日本語教育の基地ができれば、ゆくゆくは、地域の大学と連携して地元の留学生の日本語学習のアウトソーシング先、地域の文化、方言研究の基地(収集し発信する基地)として機能するところまでいけるかもしれません。
文科省の下で、ということになるのかもしれませんが、移民庁ができるなら、そこでやればいいと思います。いずれにしても、一元化することが重要です。中学2つの学区に1人の日本語教師は、たとえ学校に日本語の学習が必要な児童がいなくても置きます。介護施設だけでも必ず需要は出てくるからです。学校はあくまでベース基地。地域の日本語教育の担当者として常駐し、地域で日本語の学習が必要な人を掘り起こすことも重要な仕事のひとつとなるでしょう。もちろん、より大きな枠組みの中で、時には近隣のエリアのヘルプに行くこともありえます。ネットワークをどういうエリア単位で作っていくかは、今後の課題ですが、県を方言の区分でエリア分けすることも検討されるべきでしょう。
👉 日本語学校は先に示したこの地図のように大都市に偏在しており全国に広がっていく日本語学習のニーズをカバーするのはまったく不可能です。
👉 前述したように、大学は毎年4000人の日本語教育を学んだ卒業生を出していますが、ほとんど一般企業に就職します。この準公務員的な日本語教師のポジションができれば、この卒業生の大きな受け皿になるはずです。

日本語教師の待遇の目安

国の事業からみる日本語教師の適正な給料とは
フルタイムの日本語教師に対して、国が直接給与を出しているのは国際交流基金の「日本語専門家」ぐらいなので、これをまず軸に考えてみます。給料だけでなく、日本語を教える組織としての在り方も、国のお墨付きのモデルとして参考になるはずです。国際交流基金では、日本語教師は教材の開発もしますが、基本、日本語の授業をして経験を積んだ後、日本語教師の育成にも関わる、というのが主な業務のようです。これは、一般の日本語学校や大学の業務と同じです。
👉 国際交流基金の予算などは下の「資料」にあります。
■ 日本語教師の構成(専任、非常勤)
国際交流基金は、日本語教師を、日本語上級専門家(39)、日本語専門家(66)日本語指導助手(22)、米国若手日本語教員(22)の4種類に分けています。(数字はポストの数、合計149ポスト。(データは2015年の以下のサイトから)
https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/teach/dispatch/
最後の米国若手日本語教員は、特別枠と考えられるので除外してそれぞれの位置づけをするならば、「指導助手」は見習いで、「専門家」は教師「上級専門家」は教師の育成(ノンネイティブ教師も含めた)にも携わるというようなことかと思われます。
実際の配置のされ方はともかく、この教師の経験に対応した1:2:1という比率が日本語教育を行う組織で、日本語教師の構成を考えた時に必要なバランスだと想定されているということだと考えられます。
国内の状況にあてはめると、経験豊かな専任が1人、中堅の専任が2人、非常勤が1人というところでしょうか。専任3に対して非常勤1というバランスです。
■ 給料
事業仕分けは、不意打ちのような形で行われたので、そこで出た数字はそこそこにリアルで、今も、だいたいこんなところだという大きな目安になると思います。日本語教育専門家の平均年収の「だいたいこのへん」というものを出してみます。

日本語専門家は原則業務委託という形式なので正式な雇用関係はなく社会保障費などは自己負担とのこと。ただ基本的には継続的な雇用の保障はある程度はあるようです。また、募集要項によると、原則、交流基金の規定で報酬が決まり、上級専門家で経験年数15年で800万前後、専門家(7年未満)で500万前後で、住居費の8割が支給されるとのこと。住居費の負担と社会保険自己負担で相殺されるとして、「平均年収」は勤続20~25年目あたりの額と同じであることが多いので、ひとまず事業仕分けにあった国内外の職員の平均年収である904万円(ただし社会保険費無し)がひとつの目安になります。
事業仕分けでは高いという指摘でしたが、一般的な収入にプラスして専門知識が必要な領域での仕事なので、という主張が通り、最終的には、事業仕分けでも承認されたということは、日本語教師という仕事に払われるべき金額は少なくとも公務員の平均額くらいはあってもよいという考えが国際交流基金や国にあるというだけでなく社会のコンセンサスにも見合っていると判断されたと見てもよいのではないかと考えられます。
👉 初版(v.1.0)で事業仕分けのやり取りを元に「864万円(社会保険費含む)」と書きましたが、2015年3月19日に国際交流基金の関係者の方(確認済)から匿名で「「仕分けの答弁にある平均額は国内勤務の平均額ではないかと思料します。」というご指摘がありました。「思料」は「思います」というようなことでしょうか。事業仕分けの議事録をみるかぎり言葉使いは双方ともにあいまいでハッキリしませんので、事業仕分けで出た「内外職員の平均年収の904万円」をベースに新たに募集要項などから概算で出してみました。
(「日本語専門家 募集要項」などで検索すると最新の給与の条件が出てきます)

👉 参考 国際交流基金 事業仕分け(2010)
http://webjapanese.com/blog/j/data/files/KokusaikouryuukikinShiwake.pdf
*2015年8月に国際交流基金の事業仕分けのPDFだけリンクが外れたので、上は私どもで保存したファイルへのリンクになってます。
国際交流基金法人シート(2011)
http://webjapanese.com/blog/j/data/files/KokusaikouryuukikinHoojinsheet.pdf

この「目安」は、日本語専門家と日本語上級専門家は、修士の取得が応募条件になっていますし、海外勤務の過酷さも加味された額でもあります。国内で公的な機関で働く教員の給料としては、少々高すぎるかもしれません。しかし、たびたび書きますが、日本語を教える、さらに教師を指導することに関して日本語教師に要求される能力はアフリカでも、イギリスでも、東北の地域の日本語教室でも同じです。従って、国際交流基金の日本語専門家がやや好待遇であっても妥当性があるのは専門性の高さというより職場環境が過酷な点だと考えるべきでしょう。
小中学校の国語教員というモデル
もうひとつのモデルとして提案したいのは公立学校の国語教師です。国際交流基金の日本語専門家の仕事から環境適応の厳しさなどを割り引いた例としてわかりやすいのではと思います。「日本語教育ネットワーク」では、公立学校の教員と同じ身分で国が雇用することが前提となっています。校務が少ないかわりに地域の日本語教育を一手に担うわけなので、同等の評価は得られます。
公立学校の教師は、国が給料を決めます。現状、高いという批判はありますし、実際に今後地方では勝ち組に所属することになるのかもしれませんが、しかし日本語教師が要求されているスキル、条件は、国語教師と同等かそれ以上だと考えてもいいと思います。
公立の中学校の国語教師の年収は検索すればでてきます。平均で約600~700万です。この金額、というより、平均的な金額でいいのだ、という意味です。公立の小中学校の教諭の給料は変動します。今後下がる可能性もありますが日本語教師の適正な報酬としての目安としては、その変動も含めちょうどいいのではと思っています。
前述の「日本語教育ネットワーク」では、ひとまず5000人を公立学校の教員と同じく公的な資金で雇用することが前提になっています。地域によっては増員、また将来学習者の数によっても増える可能性がありますが、基本の配置だけで5000人で、一人の日本語教師は中学2つ小学校4つ、合計6つの学校の児童の日本語教育(平均6人)と、そのエリアの日本語の学習が必要な人(介護士、技能実習生などいろいろなタイプの学習者)100人をカバーします。
平均年収600万円として単純に掛けると300億円。金額でみると大きな額ですが、これは全国の公立の小中学校の教職員の総数66万人に+5000人が加わるだけ、中学校2校、小学校4校あわせて6校に1人+α教員が増えるだけで、国内すべての日本語学習者をカバーできる可能性があるのであれば、これ以上に費用対効果が高い、効率的な施策はないのでは、と思います。

 


 

 

さいごに

2014年は移民に関する議論、児童の日本語教育に関する方向性、介護、看護における日本語教育の議論の迷走など、いろいろと話題が多かった年でした。2015年からの数年間で今後数十年の日本語教育政策の枠組みが決まりそうです。
→ (追記)これは、本当にほぼすべての政策が決まりました。
ここであげた事項からも、これまで日本語教育が不十分、問題だとされていたところは、そもそも日本語を教える訓練を受けたプロの日本語教師が日本語を教えていない、という実態が明らかになったのではないでしょうか?
少なくとも国内の日本語の学習が必要な人達に公平に質の高い日本語教育を提供する新たな枠組みが必要です。そのためには、まず、日本語教師が安定してキャリアを積める環境と道筋を作るべきです。日本語教師に興味を持ってくれた、特に大学で日本語教育を勉強した若い人達が、日本語教師を生涯の仕事として続けられる道筋を作るべきです。EPAなどや外国人児童などの問題を通して国内での日本語教育のニーズに注目が集まる今は最大の変化のチャンスだと私は考えています。
いろいろと数字をあげました。私は教育政策に詳しいわけではありませんが、やはり現状をあれこれ言うだけでなく提案もしたいと思い、少々余計なことも書いてみました。
規制強化やネットワーク作り、可能性があるのかはわかりません。思い切って公的な補助で、正規雇用でネットワークを作る方向に転換するほうが、長い目でみればトータルでは低コストで効率的だと信じています。なんとなく応急処置をしているうちに手遅れになる前に、根本的な治療を早めに、ということです。日本語教育では、今がそのタイミングです。2020年に国内の学習者が2倍以上になるのなら今のうちに、抜本的な対策をしいておくほうがよいのではと思います。
この記事であげたデータは、ほぼ政府機関のものです。今後、日本語教育に関して何かを議論する時、何かを考える時の材料にしてください。何かを考える際のたたき台にでもなればうれしい限りです。「あんなじゃダメだよ、こうすべきだよ」という記事がネット上に増えればうれしいです。
インターネットの活用に関しては本編ではあえて書きませんでした。現状の分析だけ、下の資料で少し触れます。日本語教育政策の一元化で資金や資源を集中できるようになり、日本語教師のノウハウの蓄積も一元化されれば、本格的なネットの展開も簡単になるはずです。ネットの活用はその先です。まずは国の日本語教育のグランドデザインが必要なのです。

 

私は、日本語教師としてのキャリアのスタートは93年。1年弱の民間の日本語学校の事務職経験を経てフリーで主に東京都心(現在は群馬)で英語教師やビジネス関係者相手にプライベートレッスンを中心に日本語教師をしてきました。早い時期(97年)にネットを活用しはじめたこともあり、運良く、これまでのお客様はすべてネットを通じて直接依頼をいただきました。日本語教師として一度も日本語教育関係の組織に所属したことはありません。一度もどこかの「お世話」になっていません。おそらく今後も同じです。つまり、常に、業界の一步外にいました。今後、日本語教育業界がどうなっても、多分、私はそのダメージもさほど受けないし、よい変化があったとしてもメリットはほぼありません。(書き手とこのサイトに関してはAboutの「はじめに」をどうぞ)
2000~2015年の15年間は、日本語教師グループの責任者として、多くの日本語教師と面接をし、話を聞いたりしたので、日本語教育業界に関して、まったくの門外漢ではありません。業界を一步外からぼんやりと見てきたというところです。多くの優秀でやる気に満ちた教師が業界の将来に絶望して転職する場面もたくさん見てきました。同時期に日本語教師をしていた若い人はほとんど辞めました。そういう経験も、この記事を書いた動機のひとつです。
日本語教師達に「この業界、まずいんじゃない?」と尋ねても「仕方ない」あるいは「私の周囲は良心的で、善良な人達ばかりだ」と答える人が多かったように思います。ただ、日本語教師は、もうちょっと自分が働く業界や社会を俯瞰でみたり、横からみたりということをしたほうがいいように思います。日本語教師は基本的に「善意でコーティングされたポジショントーク」に弱いところがあります。
この記事で提案した公費でまかなう「日本語教育ネットワーク」は、民間の日本語学校関係者はもちろん、日本語学校が重要な留学生の供給源である大学周辺、ほぼすべての現存する日本語教育関係者の組織、団体、関連省庁だけでなく、現役の日本語教師、NPO、ボランティア団体も抵抗勢力になる可能性があります。しかし長い目でみれば、日本語教師はもちろん、日本語教育にも大きなメリットをもたらすはずです。
この記事に対し、細かいところはともかく、大筋で「悪くない」と思われた方は、ツイッター(いいねではなくRTしてほしい!)やFBで広めてください。あるいは、お近くの政策に関与する可能性がある方(官庁方面でも、地方自治関係者でも、地元の政治家でも。どこの党でもかまいません)もしくはその周辺の方に、ダメ元で「国内の日本語教育の現状に関してそこそこまとまっている記事がある」と、このページのURLを知らせるか、印刷して送ってみて下さい。
2017年にできた日本語教育振興議員連盟(日本語議連)は、2018年に日本語教育振興基本法を成立させようと活動中です。この議連の方向性に関しては、いろいろと思うところがありますが(【資料】 日本語教育振興基本法 周辺のことを参照してください)、超党派の議連でもあり、少しでも日本語教育に関する知識がある議員が増えればと期待しています。政治や官庁、関係者などにこの記事が届けばいいなと思います。
👉 議員のお名前、SNSのアカウントなどは「【資料】 日本語教育振興基本法 周辺のこと」にあります。

 


 

このブログは時間をかけて長いものを書いて、公開後も、修正したり更新しながら、掲載を続けるというコンセプトでやっています。間違いの修正、データの更新などはやりますが、議論をする時間は基本的にありません。
ここから先は誰かにまかせます。日本語教育の研究者にも政策研究の専門家もいるでしょうし、全国で展開していく具体的なノウハウは国にあるはずです。特に日本語教育の研究者の集まりである日本語教育学会にリーダーシップを発揮してほしいと思っています。どこの国も、外国人在留者向けの国の言語政策には大学の研究者がきちんと関わってカリキュラムの策定や講師の基準などを作っています。この記事が何かのきっかけになればうれしいです。
了。

 


 

 

2021年6月の追記 国の公的な日本語教育の研究機関が必要

この議論を見て、改めて考えたことです。この議論と同時期に進められていた日本語教育の今後の方針に関する会議(文化庁小委員会)でも、日本語教育の類型化を含め、担当省庁間の調整の議論のように見えることがあります。今は、生活者、留学、就労の日本語教育のパイを各省庁が奪い合っているような構図があり、この教科書の議論も間接的にその影響を受けています。

しかし国内に日本語の学習者人が100万人を超えるようになってくると、省庁の垣根を越えた総合的な対策が必要です。それがあれば学習者のニーズに応じた十分な日本語学習の提供が可能になるはずです。つまり、教科書や教授法の議論では、もう少し大きな視点も必要です。

日本語教育では、起きたことに対してどう対処するかという話しばかりで、日本語教育から提案することはほぼなく、こういうことは誰も書きませんが、もっといろんな意見が出ることを期待して、書いてみます。

 

日本語教育の公的サポート体制の確立が重要

上の繰り返しになりますが、再掲します。豪州やカナダなどの移民の言語教育体制がモデルになっています。つまり形は違えど、他国では普通にやっていることです。

日本語教育ネットワーク
国内のすべての日本語の学習が必要な人に対応可能なネットワーク

  • 中学校2つの学区(日本を5000に区分けする)に一人の日本語教師を置く。
  • この中学2つの学区には小中あわせて6校がある。公立教員と同じ身分で雇用し、学校を基地に活動する。
  • 日本語教師は児童の他に担当エリアの介護、看護、技能研修生などすべての外国人在留者の日本語教育を担当する。
  • すべての外国人在留者と日本語の学習が必要と認められた人は無償で500時間の授業を受けることができる。
  • 日本語教師は担当エリアでこの無償授業を担当し、日本語教育が必要な人の「掘り起こし」もする。
  • エリアの担当教師は、学習者数に応じて増員するが、最低1人の配置は維持する。
  • 県に50~100人、全国で最低でも5000人の日本語教師が地域に常駐することになる。
  • 国 > 県 > 方言区域 > さらに下位のユニット、という区分。
  • 県か方言区域単位でひとつ施設を作り、そこで技能研修生や介護看護の人への集中講座を行う。これにより方言学習(&研究)のサポート体制も確立できます。

海外の移民の言語教育についてはこちらの記事がわかりやすいと思います。また海外の公的なオンライン学習サポートについてはここで少し紹介しています。

日本語学習のサポート体制の一元化が必要

現在、日本語教育の研究関連として教材を作っているところは、文化庁、文科省、経産省、外務省、厚生省とバラバラです。それぞれが関連機関で教科書を作り、ウェブコンテンツを作っています。そのうえ、国内の地域では、地方自治体がまた少ない予算で同じような教材をたくさん作るということになっています。日本語教育は今、比較的予算がとりやすいジャンルということなのか、それぞれが既得権を手放したくないという姿勢に見えます。行政の縦割りの弊害は大きくなる一方という気がします。

海外の移民向けの言語プログラムは国内の学術関係者によって作られますが、日本にはそういう日本語教育に関わる総合政策を請け負う所は無く、特定技能ならそこで担当省庁で対策が練られ、有識者会議などで検討され、決まったら終わり、留学でも、技能実習生でもEPAでも、同じことがバラバラに行われます。

 

各省庁その他が作った教材の乱立

ほぼすべて初級の教科書です。

👉 自治体などが作っている教材、webコンテンツの一部はこのページをご覧ください。

👉 公的な日本語教育のデジタル、ネット関連の詳しい評価についてはこちらに少しまとめています。

ほぼすべて初級で、それぞれ細々と予算が投じられ、多言語訳されています。ウェブ関係のアクセスは基金関連のもので、最高でも月10~20万ページビュー程度で、だいたい地方のご当地アイドルのサイトと同じくらい。平均だと1万アクセスくらい、だと思います。内容もかなり古いと言わざるを得ません。

これら税金で作られた似たような教材は無数にあり、ウェブの学習コンテンツもバラバラ、多言語化のルール、優先順位もそれぞれ違う。学習用や教師の教材シェアサイトも、複数あります。自治体では無数に似たような初級教材が少ない予算で作られています。おそらく合計すると数億円規模ではないかと思いますし、かつ、とてつもない時間、労力がかかっていますが、どう考えても、児童用、就労用(技能実習と特定技能は同じ学習者ですし)、生活者用の3つに分けて、基本部分は共有しつつ、予算を集約して、教科書+ウェブコンテンツで幅広く対応できる良質なコンテンツを作ったほうが圧倒的に良いモノができると思います。

👉 留学生用はすでに民間からいろいろと教材も出ていますので、手当てはそれほど必要というわけではありません。手数なのは、児童、生活、就労です。

 

基金の役割の転換

これまでは基金が、日本語教育の研究のハブのひとつを担っていたと思います。予算規模も圧倒的です。しかし、現在のように、市場でそれなりの価格(標準的な教科書の価格より高価)の教科書を出版し、特定の教授法への強い執着がある、海外のサポートも2005年の方針変更以来、地域差がかなり大きくなっており(日本語パートナーズがなぜ東南アジアだけなのか、教育政策としては説明がつかないと思います)外交方針の影響、政治色が濃くなっています。2017年以降、特定技能に関連して日本国内の日本語教育への参入も始まっていますが、生活日本語に関する蓄積は、文科省、文化庁、厚労省と比べると、ほとんど無いのが実情だと思います。国内外の公的な日本語教育の研究のハブとしての機能を託すのは不安です。

日本語専門家は日本語教育関連の修士号の取得者であることが条件にはなっていますが、70年代と違い、省庁が「専門家」を内製する意義はほぼなくなっていると思います。現実にも、研究者として日本語教育を牽引していく人が育つ場所というよりは、コンサルティング業務のスキルが求められる場所ではないかと思います。

基金は、日本語教育の研究機関のハブ的な役割からは退き、日本語教育の専門家よりも、最初から、そういうコンサルティング的資質を持った人を探し、育てることにして再編成し、海外の日本語教育のサポート(継承日本語やノンネイティブ教師の育成、能試などの実施、各地に大学の研究者を派遣する窓口業務など)など海外の日本語教育の「窓口&コンサルティング業務」に徹することにしたほうがいいような気がします。国内外の大学の研究者と海外の現場を結ぶ紹介役です。「いろどり」「まるごと」などの教材開発などは次に述べる統合的な機関に移譲すればいいと思います。

👉 ネットやデジタル関係のレクチャーも、今は、ハードの知識に加えて、個人情報保護法など細かい知識が、教育関連では重要です。つまり「ちょっとデジタルに詳しい人」はもちろん「eLeaerningの研究者」でさえ難しいという仕事になってきています。日本語専門家には重荷に見えます。資格を取得した人などが行うような体制作り、組織作りが必要です。(著作権関連もです)。

公的な日本語教育機関は別途作るほうがよいと思います。

 

「本格的な」公的な日本語教育の研究機関が必要

国内外の日本語教育の体制を統合し、学術関係者による科学的な検証のもと、しっかりと研究や教材の提供などを進めていく公的な研究機関が必要なのではないかと思います。良質な継続性が高いコンテンツを作るには予算を集約し、専門家が働けるような場所を作ることが重要です。

移民庁ができるなら、そこでもいいのですが、ひとまず日本語教育の研究の実績がある国立国語研究所に、日本語教育の研究機関を正式に設置し、そこで教材開発や研究などの仕事を移管するのはどうでしょうか。国研はネット上のコンテンツ開発力もあり、国内だけでなく国内外の日本語教育の研究と開発のハブとしては最適という気がします。文科省の関連組織ですし、大学の研究者との連携もとりやすいはずです。国内の大学の日本語教育の研究者を、国内外の日本語教育の柱にすえるほうが自然です。

日本語教育は国内外ともに教育関連行政であり、経済政策や外交政策の中で進めるのは不自然です。

👉 大規模な予算が投じられた基金の「まるごと」や「いろどり」「みなと」は、統合したり再編成して改めてこの組織で運用していけばいいと思います。ひとまず国内は、「まるごと」や「いろどり」「みなと」を活用しつつ、地域で使いやすい生活日本語ベースのモジュール的な教材をひとつしっかり作ればかなりの部分をカバーできるはずです。その他のウェブコンテンツや関連教材などは残す価値は?です。統合、再編成を視野にゼロベースで見直しでよいと思います。

👉 各省庁の下には日本語教育関係者がぶら下がっており、既得権はがっしりとしている。行革のテーゲットになるほどの規模でもない。メディアの関心も、ここまでは届いていない。日本に来る日本語学習者予備軍にとって利益が大きいことだが、実は日本語学習者の利益という立場に立つ人は誰もいない。本当に古く、利益を受け取る者が多く、問題を抱えているものは変わらないという気もします。しかし、10年後、国内に日本語の学習が必要な人が増え、本格的な対策が必要だということになった時、この省庁の縦割りの問題は再び大きなテーマになると思います。

 


 

 

資料

 

資料1 各国の在住外国人に対する言語教育政策

→ いわゆる移民の言語教育どうあるべきか、に関しては、いろいろと議論があるところですが、少なくとも、学習の機会は公平に与えられなければならず国がそれを負うべきだという考え方では古くから各国ほぼ一致しており、移民政策が変化しても変わらないままです。
欧州、北米、豪州などでは、移民への取り組みはかなり早い段階から行われ、在留者すべてを対象にした質の高い言語学習の無償でのサポートの整備はほぼ終えて、今は、移民の人達の母語の尊重という考え方から移住者の母語の教室を国が補助金を出して作るという国が増えている、さらに、相互学習としてその言語を自らの教育制度の中に取り入れる、という流れのようです。
ただ、2010年あたりから、単純労働者の移民の数のコントロールが行われるようになり、一部の国では、2007年ごろから、いわゆる「再序列化」が始まっています。「ポイント制」で滞在許可を出すというような方向で、2008年ごろに日本でもさかんに研究され(検索すると当時のレポや論文がたくさんでてきます)2013年ごろから、日本の政策もこれをベースに整備を進めています。ただし、2007年までに整備されていたもの、言語サポート(無償、講師の質的保障、初級から中級にかけての十分な保証)は原則として崩さずに、滞在条件として要求される言語能力、あるいは入口で要求されるレベルは若干厳しく(といっても日本語能力試験でいうとN3程度のはず。ざっくりとみた印象ですが)なりつつあるという傾向です。
これらのことは、将来、永住権を取得して「国民」として共に生活していく可能性があるかぎり人権上の必要な措置としてやるべき、ということもありますが、長い目でみれば、十分な言語能力をつけることで、コミュニケーション可能な関係を築いていったほうが様々なトラブルの未然の防止にもなる、例えば、労働者がちゃんと自分で労働基準局なりに告発できる環境を作るほうが管理上合理的というような側面もあるように思います。日本だと防災上の観点なども大事になってきます。つまりヨキコトだから日本もやるべき、というより、一定数を超えると、もうこういう施策が合理的で必要になる、という現実的な方法として、参考になると思います。以下、古いものもありますが、リンクとちょっとした補足だけをズラズラと。

 

海外における在住外国人の言語学習制度と日本との比較
(最初にちょっと紹介しました。このリンク先だけでも目を通してください。比較の表は必見)
http://www.clair.or.jp/j/forum/forum/pdf_272/04_sp.pdf
→ 日本とドイツ、フランス、カナダ、オーストラリア、韓国との比較。講師の資格が問われないのは日本だけ。ドイツの予算が230億円という記述がある。
ヨーロッパの移民に対する言語教育のレポート
:2008年11月の調査。AT, BE, BG, CZ, DE, EE, ES, GR, HU, LT, LV, MT, NL, PT, SE, SI, SK, UK
European Migration Network Ad-Hoc Query on LANGUAGE AND ORIENTATION COURSES FOR IMMIGRANTS
http://www.emn.fi/files/37/SI_Language_civic_courses.pdf
外国人児童生徒の言語教育に関する一考察 : 言語共生のために 
http://ir-lib.wilmina.ac.jp/dspace/handle/10775/32
→ 日本の問題点と各国のとりくみが簡単に紹介されている。
独立行政法人 労働政策研究・研修機構
http://www.jil.go.jp/foreign/index.htm
→ 海外の労働政策が整理されている。
欧州の移民政策の変化(2008)
http://www.jil.go.jp/foreign/labor_system/2008_4/world_01.htm
文化庁によるドイツ、米国のプログラムの説明
http://prmagazine.bunka.go.jp/pr/publish/bunkachou_geppou/2011_08/special/special_04.html
ドイツの滞在法について
http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/legis/234/023401.pdf
オーストラリアの成人移住者用英語学習プログラムのサイト。
http://www.immi.gov.au/living-in-australia/help-with-english/amep/

ビザ保持者は500時間程度無料で受講できる。
同じくオーストラリアの英語プログラムについて
http://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kyoiku/seikatsusha/h19_kenkyu_kaihatsu/komyunika_gakuin/pdf/hokoku.pdf
少し古いですが2007年の時点のオーストラリアが受け入れた移民は約20万人で英語のプログラム利用者は約5万人前後となっている。また、AMEPは初級の約500時間でその上はまた別のシステムで対応することになったという記述がある。
アメリカの「英語を母国語としない人向けの英語教育」について
http://www.scarsdalemura-kara.com/esl.htm
カリフォルニア州ロサンゼルス統一学区における英語教育の試みと日本における小学校英語教育への示唆
https://www.kandagaigo.ac.jp/kuis/about/bulletin/en/021/pdf/001.pdf
カナダの成人移民に対する国の無償英語教育プログラム ELSA Net
http://www.listn.info/site/what-is-linc
カナダにおける移民政策の再構築
http://iminseisaku.org/top/pdf/journal/004/004_002.pdf
比較的新しいデータ。2010年で留学生の数約25万人、一時就労者の数が40万人強というのは、数年後の日本と同じ。カナダは移民の申請が100万人近くになり、2008年に移民政策を転換している。言語に関してだけいうと、在留者に無料で提供されていたプログラムは一部制限が加えられた。また移民申請時の言語のハードルが高くなった。しかし、大多数の外国人在留者はサービスは受けられるようです。いろいろと示唆の多い論文。
外国人住民の受け入れと言語保障 : 地域日本語教育の課題(オーストラリアの例が紹介されています)
http://ci.nii.ac.jp/naid/110005857936
フランスにおけるニューカマーの子どもへの言語教育支援 : CASNAVの取り組みと複言語主義教育の可能性
http://ci.nii.ac.jp/naid/120005367817
ドイツ連邦共和国教育現場からの報告 : 統合の鍵は言語習得
http://jairo.nii.ac.jp/0016/00009393
アメリカ合衆国における移民のための3つの言語教育プログラム(英語)
http://sucra.saitama-u.ac.jp/modules/xoonips/detail.php?id=BKK0000043
スペインの移民に対する言語教育
http://ci.nii.ac.jp/naid/110005050272
ベトナムの海外労働者送出政策及びシンガポールの外国人労働者受入政策
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_9227946_po_077103.pdf?contentNo=1

 


 

 

資料2 日本語教育に使われるお金

全貌はわかりません。わかっているだけで書きますと、、、

 

日本語教育に関わっている官庁など

省庁で今の日本語教師養成講座の修了や日本語教育能力検定試験の合格者が正式な日本語教師の資格であると明記してあるところは、外務省のJICAと経産省のEPA関連、技能実習生の介護以外にあまり聞きません。この資格の方向付けをしたのは文科省なのですが、文科省も公立学校の日本語教育では完全にスルーしています。
さて、前にも書きましたが、各省庁は日本語教育に関わる人をそれぞれ呼称で、それぞれが認定した、もしくは周辺にいる教師を「日本語教育の専門家」だとして、それぞれの政策を進めています。外務省は「国際交流基金」で「日本語専門家」と呼び、EPA関連の仕事の場合は「日本語講師」と区別しているようです。文部科学省は「CLARINET」で「国語教員」が担う、とし、文化庁は「日本語教育コーディネーター」で地域日本語をサポート。経産省は国内のEPA関連で「日本語講師」を時々募集しています。「国立国語研究所」では「研究員」が関連研究をし、厚生労働省は「国際研修協力機構」で「日本語指導アドバイザー」が行っています。。。
日本語教育にしぼって、各省庁別にみてみます。
外務省
おそらく日本語教育で最も大きな予算枠を持っているところは外務省です。1972年設立の国際交流基金=外務省は近年、日本語教育を大きな柱のひとつにしていおり、年間100億近い予算があるようです。一部国内の日本語教育でも使われているようですが、ゲーテインスティテュートのように国内の語学教育にはほとんどタッチしておらず、大半は海外の日本語教育のサポート、普及のためで、日本政府の海外日本語教育の仕切り役といえます。
主な事業としては、日本語能力試験の実施、日本語教材の開発、日本語専門家の育成、海外の大学や政府機関における日本語教育のコンサルティング、海外のいわゆる2世、3世のための日本語教育のサポート、などがあります。
国際交流基金のH25(2013)の予算計画はこちら。
https://www.jpf.go.jp/j/about/admin/plan/dl/3ki_chuki_25.pdf
運用収入を除くお金だと年間で、、、
運営費交付金が 124億9千3百万円
国庫補助金が  200億3千5百万円
H29年の予算計画
https://www.jpf.go.jp/j/about/admin/plan/dl/4ki_chuki_29.pdf
みなとの登録者の目標が1万2千人、能試の受験国を拡大(82 か国)海外受験者数の目標については、年間46万人、まるごとの販売部数5万部超え、パートナーズに600人派遣などの目標が書いてあります。などとあります。
👉 「本部 SNS 利用者数は平成 27 年度実績である134,548 件以上」「日本語教材及び日本語教育情報に関するウェブサイトへのアクセス数の目標を 24,190,680 件以上」という謎の目標もあります。SNSはフォロワー数?投稿数?閲覧数? サイトのアクセス数は本体?コンテンツの合計?そしてPV?訪問者数?
国際交流基金の他にも外務省にはJICAを通じて日本語教師を派遣したりしてますから。外務省の毎年の予算として日本語教育に使われるのは百億円前後とみて間違いないようです。国庫補助金は形式的には「日本語パートナーズ」のような名目があっての補助、なので、通常の運営費としては使われないようです。
2013年の国庫補助金の200億は2013年からスタートした日本語パートナーズ事業のことです。総予算は300億。ここ10年くらい、官邸から海外の日本語教育の特別枠としてこのような大きな事業を請け負うことが多くなっています。この日本語パートナーズは「2020年のオリンピックの応援団を作る」という謎の理由で始まったのですが、アジアの事業所なども拡大しましたし、おそらく、その後も同じような事業が継続される様子です。(2017年に安倍総理はアジアでノンネイティブ教師の育成などに大規模な予算を割くとスピーチしています)ほとんどは、東南アジアに集中的に使われます。
国際交流基金は、このように海外の日本語教育の仕切り役にしては、かなり偏った、戦略的なお金を使い方をするようになりました。特に日本語教育に関して、2005年ごろに大きな方針転換をしました。外務省のソフト戦略への転換のひとつとして、サポートから学習者開拓へと舵を切っています。外務省の方針もあり、地政学的な展開にそった日本語教育のサポートということになっています。簡単に言うと「親日国重視」です。
以前から国際交流基金のことを知っている人は「2000年以降、なんか変わったな、変だな」と感じているはずです。日本語学習者の発掘、学習者数増加のための効率的な投資」「国益としての日本語教育推進」ということになっています。この方針転換によって組織は拡大しているようですが、学習者は減り続けています。
→ 方針転換に関する外務省の資料は以下に。
日本の発信力強化のための5つの提言
http://www.mofa.go.jp/mofaj/annai/shingikai/koryu/pdfs/h18_teigen.pdf
我が国の発信力強化のための施策と体制~「日本」の理解者とファンを増やすために~
http://www.mofa.go.jp/mofaj/annai/shingikai/koryu/pdfs/toshin_ts.pdf
関連論文:日本語普及による我が国のプレゼンスの向上―経済成長を推進する知的基盤構築のために―
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_3533036_po_20120111.pdf?contentNo=1
この件には研究者などから批判も出ています。
国際交流基金の日本語教育政策転換について
http://www.arskiu.net/book/pdf/1347330374.pdf
国際交流基金のレトリックが日本語教育から見えなくするもの 
http://ow.ly/tt0p302Bx3g
👉 外務省は、2013年の海外における日本語の普及促進に関する有識者懇談会で「2020年までに世界の日本語学習者数を500万にする」という目標があると発言しています。日本語パートナーズ事業(300億円)やアジアセンターを作るのもそのためだとのこと。学習者を増やすという目標の妥当性は横に置くとしても、もう学習者数が増えないと困る、みたいなことにはなってそうです(2015年の海外の日本語学習者の発表では始めて減少となったのですが「減っているところ以外は増えている」と変なグラフを作って発表をしていました)。そしてその海外の学習者数を調査しているのも国際交流基金なので費用対効果はどうなのか、チェックはできないことになってます。
👉 また、国際交流基金のこういう文書の比較の対象としてよく出てくるイギリスの同様の機関であるブリティッシュ・カウンシルは2013年の政府からの補助金は227億円、2009年の数字ですが、ドイツのゲーテ・インスティチュートに使われる公的資金もほぼ同じくらいではないかと思われます。孔子学院の政府からの補助は約100億円で国際交流基金より少ない予算です。ブリティッシュ・カウンシルは公的資金外の収入が700億近く、ゲーテ・インスティチュートも100億近くあるようです。国際交流基金は事業収入は数億円ほどです。英語、ドイツ語のように世界中の公教育で採用されている言語や中国語のように現在圧倒的な人気がある言語(中国はアルバイト禁止ですが留学生数はすでに日本の倍以上、おそらく100万人達成も間近だと思います)をライバルとして進めていくのは無理があります。
👉 国際交流基金の情報公開ページはこちら
http://www.jpf.go.jp/j/about/jyohokokai/

国際交流基金の日本語普及事業費
国際交流基金の日本語普及事業費
仕事内容と内訳は、事業仕分けでもハッキリしませんでしたが、国際交流基金のサイト内検索で「日本語普及事業」で検索すると、日本語普及事業に必要な経費、という文書がヒットします。出てくる最新のものは2011年のようなのです。国内と海外で合計2つあります。長いので、折りたたみにしました。それによると、、
■ 国内
https://www.jpf.go.jp/j/about/result/pr/2011/pdf/pr2011_japanese_1_2.pdf
日本語普及事業に必要な経費 付属機関日本語国際センター事業費
ノンネイティブ教師研修           2393万5223円
同上級研修                 473万1122円
同長期研修                 6437万6544円
同短期研修                 6842万8868円
非公募(各国推薦)の教師研修         372万17583円
依頼された研修など              154万2055円
依頼された研修(ASEAN)           2887万1188円
依頼された研修(サーク)           1210万2844円
埼玉での国際交流活動研修             2万8000円
日本語専門家などの研修             681万2328円
教材、JFスタンダード開発など        9870万9519円
図書館運営                  123万18007円
■ 国内(関西)
https://www.jpf.go.jp/j/about/result/pr/2011/pdf/pr2011_japanese_1_3.pdf
日本語普及事業に必要な経費 付属機関関西国際センター事業費
図書館運営               1535万2170円
日本語研修(外交官)          4913万1666円
日本語研修(公務員)          1460万5548円
日本語研修(研究者など)        3668万2399円
日本語研修(各国成績優秀者)       2410万3761円
日本語研修(大学生招聘)        3056万3019円
日本語研修(高校生)           2059万5154円
日本語研修(韓国李秀賢記念)       511万1632円
日本語研修(地域)             27万2491円
日本語研修(委託)             157万2135円
日本語研修(委託ASEAN)          5173万0980円
日本語研修(委託サーク)         1767万1366円
日本語研修(大学生招聘)         3926万6648円
事業費(Elearning)           3919万5544円
*アニメ、eな、ケアナビ、まるごと
■ 海外
https://www.jpf.go.jp/j/about/result/pr/2011/pdf/pr2011_japanese.pdf
日本語普及事業に必要な経費 日本語事業費
日本語機関の調査          1597万0428円
拠点での教室運営         3億0987万5921円 (派遣20名)
米国拠点での教室運営派遣      6230万8009円 (派遣15名)
日本語派遣 日本語ネイティブ派遣  8123万4508円 (52名)
日本語上級専門家派遣        4億9788万8177円 (61名)
日本語専門家派遣         2億2979万2691円  (64名)
国内の学生の海外への派遣     1億0429万7580円 
日本語指導助手派遣          5958万2173円 (24名)
シニア専門家派遣           607万1015円(1名)
さくら中核事業(拠点支援)     2855万9521円
さくら中核事業(非拠点)      4305万4013円
非拠点支援              3175万4173円
EPA研修関連 交付金         25922万3681円
EPA研修               6599万4113円
能力試験実施            2億1689万9140円
能力試験 制作関連          1236万10401円
となっています。海外におけるリアル教室運営(約3億)と専門家の報酬(約8億)、能力試験(約2億)が予算の大部分です。
国際交流基金の設立は72年。留学生数が2万人程度で大学に日本語教育の専門家が少なかった80年代には、教科書や教師を育成する意義はあったと思われますが、90年代以降、大学に十分な数の日本語教育の学部、学科、大学院が整備され、個々の大学が海外の大学とも提携し教師を派遣するようになった今、いち省庁が教科書を作り「専門家」を自製する意義と、大都市でリアル教室を運営する費用対効果は、チェックされるべきではないかという気がします。
専門家は研究者として大学に引き受けてもらい、リアル教室運営は廃止、(日本語を教える専門家ではなく)コンサルティング、コーディネーター職を要所要所に配置するほうがいいのでは、などと考えます。
また、国際交流基金は唯一日本語教育の学習コンテンツを国の予算で作り続けているところですが、学習コンテンツのほとんどは時代遅れで、業務での活用もほとんどなされていないようです(さくら事業やノンネイティブ教師、継承日本語などではほぼ活用されている気配がありません)。外部から専門家(ネットの活用を知ってる広告代理店などではなく、SNS設計、運営のプロのような人を)を招き、ネットの展開を重視したほうがよさそうです。国のウェブの活用に関しては、後でまたまとめて書きます。ちなみに、ネットにおける活動への予算はわずか4000万弱です(上の赤字の部分)。
👉 ちなみに、日本語専門家は国際交流基金の職員ではなく、職員並みの待遇の委託先で、業務委託という形で雇用しているとのこと(事業仕分けのやり取りでは「職員にしたかったがお認めいただけなかった」と回答していました)。
👉 日本語専門家の専門性に関しても、近年、疑問を持たれるようなことも起きています。元々専門家も上級専門家も修士は条件ですが、博士はほとんど見かけません。40年近くで査読付き論文もほとんどなく、以前のように海外の大学への再就職も難しくなっており、日本語専門家は出口のないポジションとなりつつあるのではという気がします。突然、電通と共に日本語教育的にはまったく意味のないあやしげなインバウンド調査を行ったり、自己啓発系(?)のネットのツールのエバンジェリストに名を連ねたりということも起こっています。正直、日本語専門家のICT知識は貧しく、この点から言っても、若い大学の日本語教育関係者にまかせたほうが…という気がします。
→ 日本語教育再考 > 日本語教育業界の謎の神話 を参照


独立行政法人 国際協力機構(JICA)
http://www.jica.go.jp/
外務省系の組織、日本語教育関係では、海外への派遣事業の一環として日本語教師を派遣している他、継承日本語の事業などのサポートを行っている。予算は全体で200億近く。
継承日本語関連
http://www.jadesas.or.jp/kenshu/jicanikkei.html
事業シート(2010)
http://www.jica.go.jp/information/info/2010/pdf/20101117_02.pdf
👉 参考
国際交流基金 紀要 対外日本語普及を考える
11YAMAGUCH

👉 ブリティッシュ・カウンシル 情報公開
http://www.britishcouncil.org/organisation/transparency(英語)

👉 ゲーテ・インスティチュート アニュアルリポート(独語)
https://www.goethe.de/en/uun/pub.html

👉 孔子学院に関する論文など
中国語国際化の推進施策について
http://www.waseda.jp/w-com/quotient/publications/pdf/wcom431_12.pdf

文科省
文科省は、使う予算枠だけで言うと、最大なのですが、公立学校の日本語関連教員の配置(人件費)を別にすると総額でも100億行きません。
文化庁や国立国語研究所など関連組織を含めて、国内の日本語教育政策では最も影響力があるところだと思われます。本体の文科省では主に公立学校周辺と大学、つまり児童の日本語教育と大学の研究者などを中心に日本語教師の資格の要件などを決めたりをしています。
文化庁は、全国のボランティア教室のネットワーク作りと、日本語教師養成講座の運用管理などを。国立国語研究所では、日本語教育関係の研究のための開発などを行っています。日本学生支援機構などの関連組織でも留学生の住居サポートや奨学金などを行っています。
概要
文部科学省 予算・決算、年次報告、税制
http://www.mext.go.jp/a_menu/kaikei/index.htm
ややこしいんですが、その他の資料をみるかぎりでは、うちわけはだいたい以下のようになっています。
義務教育における外国人児童教育 
 総数1385人の教員配置   約1兆5596億
 受け入れ促進 約85億1600
 学習支援 約800万
 指導者研修 約10億
JSLカリキュラムに基づく独立行政法人教職員支援機構による日本語指導者研修 10億 
REXプログラム(教員海外派遣) 800万
日本学生支援機構日本語教育センターの運営(告示校、大阪東京)) 2億8000万
👉 ちなみに日本語教育センターは、旧名を国際学友会日本語学校といい歴史ある名門校ですが、教員の配置には問題があり、長年、専任教員の比率が3割以下、2017年のデータでもST比は70以上と完全に規定違反の状態でした。
外国人児童に対する施策
文科省の外国人児童への公立学校でのサポートが予算化されたのは1992年で本格的にはじまったのは、2001年。JSLカリキュラムという外国人児童向けの指導要領を作成しました。
帰国・外国人児童生徒教育等に関する施策概要
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/003/001.htm
👉 公立学校の日本語教育はリタイアした国語教師や地域のボランティアなどで手当する方向だと有識者会議で決まり日本語教育関係者をガッカリさせました。(学校教員の既得権を守った?)日本語教育は学校教育の枠内でやるという方向らしいです。
ウェブに関しては、外国語としての日本語教育としてはこのCLARINETというサイト
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/main7_a2.htm
とカスタネット
http://www.casta-net.jp/
があります。
👉 これら児童教育への取り組みは、外務省が行っている海外の2世、3世などへの継承日本語教育と連携できるはずですが、ここでも分断があるように感じます。
文化庁
文化庁は文科省の外局、つまり事実上の下部組織で、国内の日本語教育においてそれなりの影響力をもっていますが、予算は少なく、日本語教育機関の調査と、日本語コーディネーターによる全国の日本語教室への指導、日本語教師養成講座の審査(届出と受理)などを行っています。
噂では、日本語教師養成講座の受理などは、担当者は2人しかいないとのこと。。。
文化庁 国語施策・日本語教育 
http://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/
予算の総額も、H28(2016年)の予算のペーパーによると、総額で約2億円程度で内訳は
日本語教育に関する調査及び調査研究 765万
→ ここでもたびたび引用している日本語教師の実数などの調査、その他
協議会の開催 515万
難民への日本語教育 4300万
生活者としての日本語教育事業 1億4900万
→ 日本語コーディネーターを中心とした地域の日本語教室の支援
コンテンツ作りなど 397万
となっています。 国際交流基金の海外の20箇所のリアル教室の運営費(約3億)や日本語専門家の報酬の総額(約8億6千万)を考えると、文化庁が担う、全国の日本語教室の支援をする日本語コーディーネーターの事業や全国100以上の日本語教師養成講座の質的チェックの総額が約1億5千万というのはバランスを欠くように思います。
国立国語研究所
ここも、文科省系の組織ですが、日本語教育に関しては、研究部門がある他は、地味な研修があるくらいで特別に日本語教育にフォーカスしてやってはいない、という印象です。予算は全体でも10億円。
http://www.ninjal.ac.jp/database/bunken/
👉 ただ、日本語教育関連のシンポジウムなどは国が行うものとしては圧倒的に質が高く、また、日本語関連のツールの開発は最先端で、ウェブでの日本語教育への貢献度は外務省以上です。日本語教育のウェブ展開は、国研に託すほうがよいと思います。
日本語コーパス
http://nlb.ninjal.ac.jp/

厚生労働省
意外と日本語教育に関わりが深い省庁です。「外国人研修制度」(現在の外国人技能実習制度)を80年代に始めて、管轄している省庁。
研修生の日本語教育は、厚労省系の財団法人国際研修協力機構(JITCO)が担当し、一部、AJALTに委託しているようです。ただし、実習生に対する日本語教育は積極的に関わらない方針のようで、基本、JITCOに丸投げでした。国会でも「ウチは日本語教育はやってない」というような答弁をしてました。
その他関連法人で、日本語教材の開発、日本語研修、日本語教師の派遣、サイト作りをやってますが、全貌はわからない。ここに関わっている日本語教育関係者をネットでみたことがありません。EPAも厚労省が関わっています。サイトなども、いろいろとアチコチにあるので予算が使われているかはわかりません。文化庁より多く、文科省ほどじゃないとすると数十億くらい?(国際研修協力機構については後述)
法務省
ここは留学生として日本に来る人達の管理を日本語学校と連携してやっているところ。民間の日本語学校にとっては最も怖いところですが、留学生に関しては、その許可の裁量権など、大きな影響力を持ってはいますが、日本語教育そのものには関与しているわけではないと考えていいと思います。
👉 日本語学校に関わるのは入管ですが、職員数は少なく4000人程度。そのうち半数は出入国の審査官で、不法滞在などの捜査ができるのは1500人前後だそうです。留学生以外も扱う必要があるためビザを出す出さないに関しては、口利きなど政治の関与も大きく、政治や経済の都合に振り回され、問題があったら批判され、厳しくしたら日本語学校に文句を言われ、2017年の日本語教育振興基本法の議論では文部省系の議員がほとんどの議連から「国内の日本語学校管理は法務省から文科省に移す」と言われ、ということになってます。いろいろ大変そうです。
経済産業省
国内の日本語教育は、1972年に経産省系の団体が作った教科書「日本語の基礎」とその出版社、販売をする凡人社という会社によってスタート下と言っても過言ではありません。実は日本語の教授法に対する影響力は最も大きかったところです。今も、世界の日本語教育は経済産業省的な路線(「人材確保としての日本語教育」)の延長上にいるといってもいいかもしれません。
しかし特に日本語教育で直接関与するということではなく、日本語教育はあくまで、総合的な経済戦略のごく小さな別働隊のさらに小さな枝葉のひとつ、くらいだと思われます。関連組織で粛々とサポートする他は、直接の関与は少なく、時々、数億円規模で予算が組まれて、最近だとクールジャパンで国際交流基金といろいろとイベントをやったりしています。

 

独立行政法人、政府系法人

国の日本語教育政策がらみ、で維持されている組織といってもいいと思います。それぞれ関係の深い省庁があるようで、事業規模は数十億から、というカンジでしょうか。詳しくはわかりません。いろいろと調べていくと、まったく知らない財団法人が出てきたりますので、まだあると思います。
それぞれの組織の評価はいろいろと意見があるようで、客観的な評価に近いものとして参考までに事業仕分け(2009年)の資料があるものはリンクをのせました。しかありませんので、該当箇所がある場合は資料へのリンクをつけました。文書、検索しないと出ないので、もっと知りたい方は組織名と「決算」とか「事業仕分け」などで検索を。(事業仕分け関連の文書、各省庁のサイトからはほぼ探せませんがググればでてきます。Youtubeにもあがってます)
財団法人 国際研修協力機構(JITCO)
外国人技能実習制度の監督官庁である厚労省系の組織。
事業報告書はこちら。
http://www.jitco.or.jp/about/joho_kokai.html
事業報告、通称「JITCO白書」は販売されているようです。
http://book.kanpo.net/category/select/pid/29979/
わかりにくいので、こちらからとると
http://www.mofa.go.jp/mofaj/annai/shocho/koeki/koku_ken/yosan.html
補助金が厚労省を中心とする各省庁から1億8千万、受託者収入(国などから仕事を依頼されるかわりに受け取った額)がこれも厚労省を中心に約7億8千万。合計9億6千万。この機構の収支の規模はだいたい20億前後のようです。
外国人技能実習機構(OTIT)
http://www.otit.go.jp/
技能実習制度に批判が高まり、取り締まりをやる新組織として2017年にできました。入管などからも捜査権をもった人が出向となっているようで、摘発なども含めいろいろとやるようですが、まだJITCOとの棲み分けなどは不明です。
公益財団法人 国際日本語普及協会(AJALT)
http://www.ajalt.org/about/kaikei/
いろんな場面で出てきます。例えば、厚労省の外国人技能実習制度の日本語教育はこの組織がやっているようですし、中国残留孤児の日本語教育なども担当することがあるようです。技能実習生の教科書「新しいじっせんにほんご」を作っています。ビジネスパーソン向けのベストセラー初級教科書「Japanese for busy people」も作っています。元々文化庁との関係が深いようです。
このページの説明によると
http://fields.canpan.info/organization/detail/1109909273

🗨 また、難民への日本語教育については(財)アジア福祉教育財団難民事業本部が運営母体であるが、1980年我が国でインドシナ難民を受け入れて以来、現在の条約難民、第三国定住難民まで30年にわたり日本語教育を当協会の教師団が担当している。日本に定住し生活する人々への生活者のための日本語教育のカリキュラム開発、教材開発等を行い、現在、国の政策である「生活者としての外国人」に対する日本語教育を実践している。また、政府関係者からの問い合わせに答え、政府の難民政策への協力、支援、意見具申等を行っている。

とのことです。AJALTは、作っている教材の改訂もほとんどなく、どういう教え方をしているのかなど、まったく情報がありません。教材開発、教授法などに関する関係者の論文もほぼ皆無です。またネット学習のコンテンツは古く、ほとんど動作しないまま長年放置されています。AJALTは国内の日本語教育において政府系の組織から委託されることも多いのですが、大学の研究者などによる最新の知見を生かした新たな国内の組織が必要なのではないかと思われます。
公益財団法人 日本語国際教育協会
http://www.jees.or.jp/
事業報告
http://www.jees.or.jp/about/disclosure.htm
日本語教育能力検定試験を主催していて、日本語能力試験を国際交流基金と共に主催している。
公益財団法人 日本語教育学会
http://www.nkg.or.jp/index.html
日本語教育関係の研究者の組織としてはここが一番大きいんでしょうか。国際日本語普及協会と共に日本語教育能力検定試験を主催しています。
日本学生支援機構
http://www.jasso.go.jp/
所轄は文科省。2004年に学生への学費支援の組織をひきついで出来た組織。大学の学費の件で出てくるところですが、その他、日本への留学関連の組織もひきついだので日本語教育関連、特に留学生関係では、留学試験以外にもいろいろ。例えば、上の日本語国際教育協会はここと資金面で連携してると報告があります。
そしてここは「日本留学試験」をなぜか主催しています。この試験は日本に留学を希望する学生が受けるセンター試験のようなもので、現在国公立大学を中心に留学生の4分の1程度が受験しているとのこと。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/dokuritu/0022/002c/gijigaiyou/1351719.htm
事業規模は1500億円ほど。調べた限りでは、日本語教育関係の組織では動かすお金が突出して多いですが、貸し付けなどを行う機関なので例外とみるべきかもしれません。
こういう記事もありました。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/miwayoshiko/20140810-00038140/
事業仕分けでの議事
http://webjapanese.com/blog/j/data/files/GakuseeShienKikooGiji.pdf
結果
http://webjapanese.com/blog/j/data/files/GakuseeShienKikooKekka.pdf

大学日本語教員養成課程研究協議会(大養協)
https://daiyokyo.com/
大学で日本語教師養成をやっているところの連絡協議会的な組織とのこと。ニュースレター発行したり。
その他
□ 一般財団法人 日本国際協力センター(JICE)
http://sv2.jice.org/
国内で日系定住外国人向けの就労研修としての日本語研修を担当している組織。
□ 一般財団法人 自治体国際化協会
http://www.clair.or.jp/
JETプログラムなど。JETの教師や国際交流員相手に日本語講座も開催。児童の日本語教育なども。
□ 国際移住機関(国際組織)
http://www.iomjapan.org/japan/kakehashi_top.cfm
文科省からの拠出(H21年度で37億円)で外国人児童の日本語教育、公立学校との橋渡し事業をやっていたが、2014年に終了。
□ 一般財団法人海外産業人材育成協会(HIDA)
http://www.aots.jp/
海外技術者研修協会(AOTS)と海外貿易開発協会(JODC)が合併してHIDAという名前になりましたが、またAOTSという名前に戻りました。経済産業省の所管。事業規模は90億円(2012)。現在最も使われている日本語の教科書「みんなの日本語」を作っているところです。
□ 独立行政法人日本貿易振興機構 JETRO
→ ビジネス日本語能力検定
http://www.jetro.go.jp/indexj.html
□ 中国帰国者定着促進センター
→中国・サハリン帰国者を支援、年少者教育
http://www.kikokusha-center.or.jp/
□ 財団法人海外職業訓練協会
→海外からの研修生への企業サポート
http://www.ovta.or.jp/
□ 公益財団法人 日中技能者交流センター
→ 外国人技能研修生度で国際研修協力機構(JITCO)、国際日本語普及協会(AJALT)と連携し日本語教育なども。
http://www.jcsec.or.jp/index.html
□ 自治体国際化協会(CLAIR)
→ 最初にご紹介した世界の言語政策と日本との比較のこの文書を作ったところです。
http://www.clair.or.jp/
□ 外国人集住都市会議
→ 群馬、静岡、その他の外国人の住民が多い市などが集まった組織
http://www.shujutoshi.jp/

 

民間の組織・団体など

日本語教育関係の団体は民間といっても、事実上政府が作った、作らせた、みたいなものも多いのですが。。。
日本語学校関連の組織
□ 一般財団法人 日本語教育振興協会
http://www.nisshinkyo.org/article/index.html
民間の日本語学校の業界組織です。
事業仕分けでの議事
http://webjapanese.com/blog/j/data/files/NisshinkyoooShiwakeGiji.pdf
結果
http://webjapanese.com/blog/j/data/files/NisshinkyoooShiwakeKekka.pdf
👉 かつては日本語学校のほとんどが加盟していましたが、現在は6割強。法務省から指導をいただくための受け皿組織ですが、基本、自ら発信したりはしないのが特徴です。加盟校が不祥事を起こしても、裁判で有罪になり廃校になってもコメントは無しで、半年くらいしてそっとリストから削除します。
□ 全国日本語学校連合会
http://jalsa.jp/
ここも同じく民間の日本語学校の業界組織です。2004年にできたようです。日本語教育振興協会から独立し、かなり日振協とは仲が悪いところです。加盟率は25%程度ですが、新規にできる日本語学校は、日振協と同じくらいの数が加盟していますのでシェアを伸ばしている最中といういうところでしょうか。
文科省系の国会議員との関係も深く、アルバイトの週28時間への拡大も、就学生と留学生の統合もずっと主張しており、署名活動などもしています。今は、アルバイトは週36時間に拡大せよ、いっそ無制限に、と主張しています。
サイトには「コラム」のコーナーがあって独特の味わいの文章が連載されています。
http://www.jalsa.jp/kiji.html
□ 全国専門学校日本語教育協会
日本語学校のうち、専門学校と分類される学校の組織。1986年設立。2015年に各種学校の団体(下の組織)と合併して全国専門学校各種学校日本語教育協会(専各日協)となったが、2017年の3月に分裂して、元に戻った。2017年に専各日協として行われた議連のプレゼンでも路線の違いがハッキリしていた。この専門学校日本語教育協会は親睦会的な路線でやっていきましょうということでしょうか。
http://na-cje.jp/
□ 一般財団法人 全国各種学校日本語教育協会
日本語学校のうち、各種学校と分類される学校の組織。2015年に全国専門学校日語教育協会(全専日協)と合併して全国専門学校各種学校日本語教育協会(専各日協)となったが、2017年の3月に分裂して、元に戻った。2017年に専各日協として行われた議連のプレゼンでも路線の違いがハッキリしていた。この各種学校のほうは、政治に対しても強く関与していくロビー団体的な路線になったもよう。
http://npjs.com/
□ 一般社団法人日本語学校ネットワーク
2014年にできた主に東京近辺の日本語学校による組織。日振協関係の学校が多数を占める。日本語議連のヒアリングでは、日本語学校の滞在期間を2年から3年に延長せよと主張していました。
https://www.nihongonetwork.com/
□ 日本語学校共同組合
http://www.jlic.or.jp/
2011年発足、2014年文部科学省認可、とあります。日本語学校対象の傷害保険の窓口が主な業務ですが

🗨 (1)日本語教育の共同受注に関する事業
組合は、団体及び企業が行う外国人研修生及び労働者に対する日本語教育について一括受注し、これを組合員に適正に配分することにより、組合員の事業量の増大を図り、経営の安定化に寄与する。本事業に関し、組合設立時より事業化を目指しているが、社会的需要が熟していない。前期につづき今期も事業として検討はするが、継続して白紙のままとする。
(2)学生募集支援に関する事業
組合は組合員の学生募集活動を支援するために、平成24年11月23日に中国・共青団中央(中国共産主義青年団)直轄組織の「中国国際青年交流中心」と友好協定を結んだ。中国国際青年交流中心と協同し、日中双方の大学間の交換留学を柱とした「日中窓口間交換留学生」を企画し、大学、日本語学校、高校を含めたコンソーシアムづくりを目指す。

とのこと。近い将来、技術研修生などの受け皿として、という考えがあるようです。公的な組織でまかなう「日本語教育ネットワーク」の考え方とは対立しますね。
http://www.jlic.or.jp/pdf/jlic_h26_business_plan_2606_sub.pdf
□ 一般社団法人全国日本語教師養成協議会(全養協)
http://www.zenyoukyou.jp/
事業報告
http://www.jees.or.jp/about/disclosure.htm
日本語教師養成講座を持つ日本語教育機関の組織。独自の日本語教師検定もやっている。2001年設立。ただ、加盟校は少ない。独自の資格は従来のものとどう違うのか、どの程度有効な資格なのか、資格試験の具体的な数字もウェブ上では、公表されていない。養成講座はどうあるべきだと考えているのかもよくわからない。

その他
□ アジア福祉教育財団
1979年、インドシナ難民受け入れに伴う日本語教育に関して作られた財団。
http://www.fweap.or.jp/
□ 特定非営利活動法人 国際日本語研修協会
http://www.ijec.or.jp/
日本語教師の求人や。日本語コミュニケーション能力検定を主催している。とのこと。アークアカデミーが商標を取得しています。
□ 海外日系人協会
継承日本語(日系の方々の日本語教育)をJICAの協力を得て行ったりしているもよう。
http://www.jadesas.or.jp/
などいろいろとあるようです。
□ 公益財団法人国際文化フォーラム
→ 日本語教育素材製作?
http://www.tjf.or.jp/jp/index.html
□ 一般社団法人 アクラス日本語教育研究所
→ 日本語教材開発など。「できる日本語」出版。
http://www.acras.jp/
□ 日本国際化推進協会
→ 比較的新しい団体のようです。「 外国人留学生及び訪日者の増加を目指します。」とあります。
http://japi.or.jp/
その他、海外の日本語教育では民間の

日本財団
http://www.nippon-foundation.or.jp/
http://www.tkfd.or.jp/fellowship/program/detail.php?id=2
東芝国際交流財団
http://www.toshibafoundation.com/jp/index.html
の存在感も大きいという声を聞きます

国の日本語教育関係の予算の問題
□ 総額は?
日本語教育として出ているお金だけだと国内で(関連法人などの維持費などを考慮すると)100~200億の間?国外では国際交流基金とJICAでこれも、200 億いかないくらいで、国内と国外はほぼ同額。合計で300億前後でしょうか?(ただし、文科省の公立小中学校での日本語関連の教員の配置の予算と関連法人の運営維持費などは考えないとしてです)
これらに加えて、ここ10年は、官邸主導で、いろいろと予算が組まれることが増えています。海外での日本語教育普及はトレンドです。2013年に日本語パートナーズに300億、これは2020年に終わるのですが、2017年には、別の東南アジアの日本語教育への事業を政府は発表しています。これもおそらく100億単位になりそうです。児童の日本語教育対策にも数十億拠出されました。ここ数年は日本語教育バブルといってもいい様相を呈し得ています。
👉 しかし、これは政権の好みであり、バブルであることは明らかです。これらが無くなる前提で考えていかねばなりません。無くなるだけではなく、これらの巨額の投資がどうだったのか?と厳しく問われる日が来る可能性は高いはずです。
👉 地方自治体の予算は、県単位だと、例えば比較的外国人居住者が多く、サポートも手厚いほうだと言われている静岡県では県の国際交流協会
http://www.sir.or.jp/about/
に毎年、五千万円の補助が出ているようです。静岡県内の大きな市では1千万単位でNPOに補助金が出たりしています。これらは必ずしも日本語教育に特化したものではないので、すべてが日本語教育への予算だとは言えません。その他、県や市での日本語教室の運営や補助金などもあると思われますし「国際なんとか課」はあるでしょうから、国際交流関係に使われる予算は総額で数億単位であることは間違いないですが、日本語教育に直接使われるお金はそれほど多くないことが予想されます。1県で平均1億(もないかも)として47億あたり???

□ 行政の縦割りの問題
日本語教育は、監督する象徴は、国内は、法務省と文科省、海外は外務省、ということになっています。しかし、いろんな省庁が、関連の事業で必要になったのでとちょこちょこと日本語教育をやっていて、省庁ごとに日本語教育に関わる系列の法人が細々とあり、そこでもあれこれとやっています。日本語の試験をやったり、教師の派遣プログラムをやったり、学習サイトを作ったり、です。
省庁別にみると、海外の日本語教育は外務省が事実上の唯一の仕切り役。国内はバラバラ。国内外のバランスで見ると、やはり海外の日本語教育への配分が大きい印象は否めません。
世界には、365万に学習者いるということになっていますが、そのほとんどは学校での義務的な者や地理学習の一環であって、自分の意志で日本語を学んでいるのは、おそらく100万人くらいです。
これに対して、国内の58万人強の学習者は、日本語の教育が必要な人達で、国として手当する義務があります。2020年には100万人を超えることは確実です。国内は、これらの関連法人の整理統合が必要で、日本語教育の質的保証のためにも、日本語教師の資格の統一も必要です。
これまでの延長上で、それぞれの省庁が自分の「縄張り」の日本語学習者を、関連法人に委託し、その関連法人から日本語教育関連の法人に枝分かれする、あるいは、民間の日本語学校の組織に委託ということでは、見た目のコスト以上に、その関連法人の維持、経営基盤が脆弱な民間の日本語学校を支えるための方策など、トータルでとてつもないコストがかかるばかりでなく、実質的な日本語教育の質の向上にはならない(これまでも出来なかったわけですし)ことは明白です。
日本語教育に割かれる予算は、現在のバランスをどう考えるか、限られた予算の中で国内外のどちらに軸足を置くべきかは、は今はどの政党も特に考えはないようですが、今後、移民政策への姿勢の濃淡で政党別に分かれる、政治色がでるポイントになるかもしれません。
□ 今後は
これまでのように、国内は留学生や技能実習生など3,4年しか滞在しない状況ではなくなってきました。国内の日本語教育は、外国人労働者の増加や介護など長期的な滞在の可能性があるビザもスタートしました。日本語教育が必要な児童も右肩上がりです。国内の総合対策、日本語教育の整備が必要です。長年、国内と海外の予算が同額だったわけですが、予算が限られているならば、考え直す時期だと思われます。
海外の日本語教育は全体としては減少が続いており、今後も縮小は避けられません。ここに際限なく大きな投資を続ける意味は無くなってきています。
海外の日本語教育の仕切り役は、できれば省庁(省益)から遠い新たな独立行政法人などに託し、国内の文科省と協調しながらネットの活用(ネットは国内、海外関係ありませんから、窓口を一元化し集中的に投資すべきです)を軸に総合的な、偏りのない、政策を行って欲しいものです。

 


 

 

資料3 公的な補助を受けて作られたウェブサイトなど

紙の教材はいろいろあるのですが、ここではウェブサイトを中心に書いていきます。
👉 紙の教材(国際交流基金の「まるごと」AJALTの「Japanese for busy people」文科省の児童用教材、自治体の教材)に関しては、上のメニューの日本語教師の「日本語教材ガイド」に少し書いています。

 

概要

補足の文は、2015年3月に以下のサイトを利用してトラフィック(月ごとの訪問者数、その他利用者数、データなど)、サイト評価、サーバー情報(サイト開設時期など)を調べたものが元になっています。各サイトから調査結果へのリンクがあります。そこにサイトのURLを入れて調べてみて下さい。
サイトの重さ
学習サイトは本編の任意のページのスピードもチェックしました。1ページあたりの読み込みファイルの重さ(Page size)が目安になると思います。そこそこ快適に表示されるギリギリの上限で、ダイアルアップなら500KB以下、ISDNで1MB以下、ADSLもしくは3Gで3MBまで、光なら5MBまでなんとか、というところでしょうか(ただ、これは重いけどなんとか表示できるという上限のサイズです)。ブロードバンドしか知らない世代のために補足すると、ISDNはスカイプは音声ならなんとか。単純に動画があるから重いということではないんですが、基本、動画をストリーム再生するのはほぼ不可能。ブリティッシュ・カウンシルのコンテンツがだいたい1ページあたり2MB以下なのは、欧州の平均回線速度を意識しているのかなと思われます。日本の国が作ったサイトはバラバラです。
世界のインターネット回線事情
世界のネット事情はいろんな調査があるのですが、一般家庭で光回線が普及していると言えるのは韓国日本台湾と北欧ぐらいで、次に北米は光は半分くらいで残りはADSLレベル、欧州はADSLのほうが多いくらい、欧州の周辺国や東南アジアの大都市でADSLからISDN、あたりが目安になると思います。中国は国外のサイトは「壁越え」の品質にもよるらしいですが、だいたいADSLとISDNの間くらい。東南アジアでは大都市と工場団地があるような場所以外は基本、家庭ではネットに接続できないところのほうが多いようです。接続できてもISDN以下。モバイル網のほうが先に整備されるケースも多いようです。だいたい日本の3G回線よりちょっと遅い程度とのこと。ただし回線品質はいまいちで途切れがちらしいです。地方の大学でISDNくらい。
下のOECDのICT環境調査(2015。調査年は2012)によると、自宅でネットに接続できるのはベトナムで4割、インドネシアで25%とのこと。
世界のネット環境に関する資料
AKAMAIによる世界のネット環境調査
https://www.akamai.com/jp/ja/our-thinking/state-of-the-internet-report/
OECDの世界のICTに関する調査
Students, Computers and Learning Making the Connection
http://www.oecd.org/education/students-computers-and-learning-9789264239555-en.htm
OECD Telecommunications and Internet Statistics
http://www.oecd-ilibrary.org/science-and-technology/data/oecd-telecommunications-and-internet-statistics_tel_int-data-en
そのサマリーのスライド
http://www.slideshare.net/OECDEDU/students-computersand-learningmaking-the-connection-andreas-schleicher-director-oecd-directorate-for-education-and-skills
ISOC(インターネット協会)による年次報告書
http://www.internetsociety.org/globalinternetreport/
インターネットに関する統計など
http://www.internetworldstats.com/
👉 以下は、2016年5月30、31日にツイッターで国際交流基金の方とツイッターでやり取りした経緯とそれをふまえてまとめた単文です。日本語学習者のネット環境についてメモ程度にかいたものです。
日本語学習者のネット環境に関する考察

アクセス数の目安
国際交流基金の「アクセス数」は何を指すのはマチマチであるようです。例えば「ヒット数」はサイトを訪れた時に読み込んだファイルの数です。画像が多いと1ページで数十ヒットになりますから、あまりアクセス数の指標にはなりません。
今はPV(ページビュー。ページを訪れたら「1」とカウントするだけ)と訪問者数(人を区別して何人がそのページをみたか、サイトに来たか)の数がサイトの人気の指標となっています。特に、訪問者数はサイト政策において、どのくらいの人に届いているのかということなので重要な指標です。(PVも重要な指数ですが、学習サイトの評価としては、ひとつ選ぶなら訪問者数かなと考えました)
訪問者数の目安ですが、国内の人気ブロガーで月20~50万くらい。10万以下は、かなり少ない。1万以下だとかなり寂しい。5000以下だと、実質的に仲間だけ。サイト制作者とか関係者と、あと少し、というところでしょうか。学習者サイトとしては、利用者がいるというカンジではありません。「参考」にもありますが、長年にわたり圧倒的な訪問者数を誇るのはNHKの日本語レッスンのサイトです。
「サイト評価」では特に「Accessibility」に注目してください。ここが低い(5以下あたりが目安?)ということは、サイトを表示出来ない人がいる可能性があります。スマホやタブレットでどう映るか、も確認できます。
*解析、分析は以下のサービスを利用しました。いずれも大手のサービスです。
トラフィック
http://www.similarweb.com/
サイト評価
http://nibbler.silktide.com/en
サーバー情報など
http://toolbar.netcraft.com/site_report
サイトのスピード重さなど
http://tools.pingdom.com/fpt/
まずは日本語学習サイトから。

 

外務省系(国際交流基金)の日本語教育関係のサイト

→ 2018年現在、残念ながら、ほとんどのサイトは、モバイルOS上やPCでも表示されない動作しないということになっています。
□ エリンが挑戦! にほんごできます。
https://www.erin.ne.jp/jp/
2010年スタート。英、西、ポルトガル、中(簡体字)、韓国語、フランス語、インドネシア語対応。
訪問者数は月12万人。サーバーはイギリス。DVD教材の実写動画をベースにWEB版にしたもので、唯一の初級から学べる総合学習系サイト。アクセスは米英などが上位で日本語学習者が多いアジアの国からは少ない(おそらく実写動画中心だと重いからではないか?)
ただし、動画やログインなどにフラッシュという技術が使ってあり、現在、スマートフォン、タブレットなどのモバイルOS上では表示されません。2017年以降は、PC上でも表示されないことが多いです。このフラッシュの問題は2012年に、数年後は動かなくなるとアナウンスされ、ほとんどの企業は、2013年には対策は完了しています。
トラフィック(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://www.similarweb.com/
サイト評価(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://nibbler.silktide.com/en
スピード(6.9MB)
http://tools.pingdom.com/fpt/#!/cqctEP/https://www.erin.ne.jp/jp/lesson01/basic/index.html
□ NIHONGO eな
http://nihongo-e-na.com/
2010年(9?)スタート。日本語学習者向けサイトを収集し、簡単に分類しているポータルサイト。英語のみ。
月の訪問者数は5~7万。モバイルOS対応。アクセス国上位は米、日。ソースにgoogleのsite-verificationがありgoogleでアクセス解析をしていると思われる。制作後も定期的にアップデートがされている様子。
トラフィック(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://www.similarweb.com/
サイト評価(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://nibbler.silktide.com/en
□ アニメ・マンガの日本語
http://anime-manga.jp/index.html
2009年スタート。英、西、中(簡体字)、韓国語、フランス語。訪問者数は月4万前後。米、日、仏からのアクセスが上位。文字通りアニメ・マンガを元に意味や音声をまじえて日本語を学んでいくというもの。
ここも動画やログインなどにフラッシュという技術が使ってあり、現在、スマートフォン、タブレットなどのモバイルOS上では表示されません。2017年以降は、PC上でも表示されないことが多いです。このフラッシュの問題は2012年に、数年後は動かなくなるとアナウンスされ、ほとんどの企業は、2013年には対策は完了しています。
トラフィック(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://www.similarweb.com/
サイト評価(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://nibbler.silktide.com/en
スピード:本編(4.9MB)
http://tools.pingdom.com/fpt/#!/eptlQx/http://anime-manga.jp/CharacterExpressions/
□ インターネット日本語しけん すし テスト
momo.jpf.go.jp/sushi (2017年に消えました)
2007年スタート。英、中(簡体字)、韓国語、タイ語、インドネシア語、ポルトガル語対応。月の訪問者数は5000前後。登録しないとテストは受けられない。ブラウザはIEのみ対応と書いてある。ソースのコピーライトは2012年なので、おそらく2012年以降、誰も手を入れていない。軽いからか、アクセス国は日、台湾、ベトナムが上位。情報がアップデートされている様子はなく、アクセス数も日に166ということは、実質的に活用されているとは言い難い。
トラフィック(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://www.similarweb.com/
サイト評価(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://nibbler.silktide.com/en
□ みんなの教材サイト
https://minnanokyozai.jp/
2002年スタート。日本語教師用の教材や素材の共有サイト。サーバーはアマゾン。訪問者数は月1万前後。うち半数が日本で次に米と続く。ソースのメタキーワードには「みんなの日本語」とあるので、おそらく「みん日」を想定して作られたのでは。コピーライトは2011年のまま。
サイト構築を担当したという日本ユニシスの2008年の報告によるとのべ登録者は伸びていて6万人で利用者が4万5千人、アクセス件数が年間140万とのことですが、これはヒット件数(すべてのファイルへのアクセスの合計かと思われます。
2008年前後はともかく、今は、訪問者数やPVでの評価がサイトの評価としては一般的なので、訪問者数で書きます。年間なら2014年はのべ12万です。月の訪問者数が1万というのは、日本語教師すべてに向けて作られたサイトとしては、かなり寂しい数です。ものすごく活用されているということですが。。。
ただし、動画やログインなどにフラッシュという技術が使ってあり、現在、スマートフォン、タブレットなどのモバイルOS上では表示されません。2017年以降は、PC上でも表示されないことが多いです。このフラッシュの問題は2012年に、数年後は動かなくなるとアナウンスされ、ほとんどの企業は、2013年には対策は完了しています。
トラフィック(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://www.similarweb.com/
サイト評価(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://nibbler.silktide.com/en
□ JF日本語教育スタンダード
http://jfstandard.jp/
2010年スタート。サーバーはアマゾン。主に日本語教師を想定していると思われる。交流基金の新しい教科書「まるごと日本のことばと文化」を軸にした国際交流基金が考える新しい日本語の教授法のサイト。教師用の教え方のポイントなども他に、教材共有の「みんなのCan-doサイト」(要ユーザー登録)もある。訪問者数は月6000~8000。
トラフィック(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://www.similarweb.com/
サイト評価(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://nibbler.silktide.com/en
👉 このサイトの問題に関しては、「日本語教材のウェブサポートへの提案」でも少し触れています。
□ まるごと日本のことばと文化
http://marugoto.org/
2013年スタート。上のJF日本語教育スタンダードのサイトから教材の「まるごと」だけを独立させた?ドメイン内では教材のダウンロードもできるようだが、今のところは、JF日本語教育スタンダードのサイトへのリンクが多い。「『まるごと』の公式のポータルサイト」と説明がある。訪問者数は月5000程度。アクセス国上位は、米、日、仏となっている。
トラフィック(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://www.similarweb.com/
サイト評価(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://nibbler.silktide.com/en
👉 まるごと系のサイト展開の問題に関しては「日本語教材のウェブサポートへの提案」でも少し触れています。
□ 日本語でケアナビ
http://nihongodecarenavi.jp/
2007年10月スタート。介護、看護の日本語に特化したサイト。日本語、英語、インドネシア語。専門用語を含む簡単な辞書を基点に音声、意味、例文をみることができる。自動的にスマホやタブレット用サイトに誘導される。サーバーは日本でかなり早いがEPAを想定したのなら、webではなくアプリもしくは、ソフトで提供するほうがいいのでは。。。(インドネシアでは家庭からネット接続するのはかなり難しい。回線速度も遅い)訪問者数は月3万前後。アクセス国は米、日、西、英。4位の独で4.19%となっており肝心のインドネシアからのアクセスは?
トラフィック(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://www.similarweb.com/
サイト評価(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://nibbler.silktide.com/en
サイトスピード(123.3KB)
http://tools.pingdom.com/fpt/#!/xfLdc/http://eng.nihongodecarenavi.jp/jpn/search-top.html
□ みんなで聞こう日本の歌
http://nihon-no-uta.jp/
2016年6月に公開。「聞こう」というタイトルなので歌うことは想定されていない?コンセプトの説明はこちらに。サーバーはアマゾン。さすがにFlashではなく、各種モバイルOS対応。
歌には一定のニーズはあるけれども、同様のサービスは多い。Youtubeもあるので、どこまで利用されるのかは未知数。ほぼ英語に最適化されている。字幕でのアシストは学習者に配慮されたものだと思われるが、カラオケ用の無意味な映像とかJPOP風の歌い方(歌詞はっきりしない)は、オリジナルではないので、いろいろと残念。タブレットで再生すると音が小さく教室で鳴らずならアンプ付きの外付けスピーカーが必須になると思われる。
トラフィック(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://www.similarweb.com/
サイト評価(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://nibbler.silktide.com/en
👉 もうアクセスはほとんどなく、廃墟サイトへまっしぐらという気もします。
□ みなと&まるごと日本語オンラインコース
みなと
https://minato-jf.jp/
まるごと日本語オンラインコースは以下の情報ページのみ
https://www.marugoto-online.jp/info/jp/
2016年の7月スタート。みなとでユーザー登録をし、eLearning はまるごとのほうで、という構成。2017年の予算報告では、12000人の登録が目標とあったので、これ以下であることは確実だが、何人なのか、アクティブユーザー(過去一ヶ月にログインしたユーザーで調べるのが一般的)もわからない。訪問者数は2017年に15万になり20万にいくこともあるようになりました。「エリン」においついたというところです。
まるごと関連のドメインはこれで5つめ。「みなと」には簡易SNS的なコミュニティがあり、まるごとのコースは自習と教師のコーティングがある二種類に分かれている。まるごとの教科書がなくてもやれるとなっているが、どこまで独立したコンテンツとなっているかは、サンプルからはわからない。elearningは、サポートページのウェブコンテンツとの棲み分けが不明。
「まるごと」を使っている国際交流基金の学習者数万人いるので、その学習者加入のコミュニティになるのかも。
👉 英語のみでしたが、2018年1月にスペイン語、中国語、インドネシア語、タイ語、ベトナム語が追加されました。
トラフィック(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://www.similarweb.com/
サイト評価(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://nibbler.silktide.com/en
□ ひろがるにほんご
2016年8月開設。「自分の楽しみを通して、いろいろな日本や日本語について学べるサイト」とのこと。本格的な学習者というより、ライト層をターゲットに、いろんなトピックから初級前半くらいまでを紹介するというコンセプトという印象。動画、音声中心。
https://hirogaru-nihongo.jp/
トラフィック(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://www.similarweb.com/
サイト評価(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://nibbler.silktide.com/en
👉 学習素材の提供ということかもしれないが、コンセプトが弱く、国の予算で作る意味は?
□ 日本語教育通信
http://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/teach/tsushin/index.html
国際交流基金内にあるページです。日本語教師向けの情報発信が目的。
ちなみに国際交流基金のサイトのデータも置いておきます。月の訪問者数は14万前後。
トラフィック(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://www.similarweb.com/
サイト評価(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://nibbler.silktide.com/en
参考までにブリティッシュカウンシルのサイト。月の訪問者数は800万。
トラフィック(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://www.similarweb.com/
サイト評価(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://nibbler.silktide.com/en
スピード(1.6MB)
http://tools.pingdom.com/fpt/#!/c5h9LT/http://learnenglishkids.britishcouncil.org/en/word-games/group-the-words/family

 


 

 

その他の省庁、関連法人によるサイト

ほとんど日本語教育関係者には活用されていないと思われます。
□ CLARINET
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/main7_a2.htm
文科省による、海外子女教育、帰国・外国人児童生徒教育関連の情報集約のポータルサイト。
□ かすたねっと
http://www.casta-net.jp/
CLARINETの姉妹サイトらしい。2011年7月スタート。訪問者数は数字がでない。順位からいっても、ほぼ本文者はいない様子。
トラフィック(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://www.similarweb.com/
サイト評価(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://nibbler.silktide.com/en
□ JITCO日本語教材ひろば
http://hiroba.jitco.or.jp/
公益財団法人 国際研修協力機構が作った技能実習生の日本語教育担当者のためのサイト。JITCOのサブドメインで運営。サーバーはかなり重い。2010年スタート。訪問者は数字が出ません。サブドメインでも通常なら数字は出るので、事実上だれもアクセスしていないと思われます。登録制ですが、登録者がいたとしてもアクセスされた形跡はありません。ここにある「みどり」という教材も、ほとんどの日本語教師は知らないはず。
トラフィック(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://www.similarweb.com/
サイト評価(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://nibbler.silktide.com/en
□ Online教材で学ぶ
http://www.ajalt.org/online/
公益社団法人 国際日本語普及協会が作ったオンライン教材のポータルです。1997年スタート。訪問者は月15000前後。
トラフィック(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://www.similarweb.com/
サイト評価(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://nibbler.silktide.com/en
□ HIDAにほんご elearning
http://e-learning.hidajapan.or.jp/SITE/
2014年10月スタート。英語・中国語・タイ語・インドネシア語・ベトナム語対応。「みんなの日本語」を作っている一般財団法人海外産業人材育成協会(HIDA)が作ったサイト。まだ実質的にアクセスはない様子。HIDAは、今は、またAOTSに戻っている。
トラフィック(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://www.similarweb.com/
サイト評価(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://nibbler.silktide.com/en
□ 公益財団法人 国際文化フォーラム
http://www.tjf.or.jp/
1997年スタート。いろいろな素材などがあるようす。月の訪問者は意外と多く3万人ですが財団のホームを兼ねているので学習者や日本語教師のアクセスとは考えにくい。(日本からのアクセスが半分以上)
http://www.similarweb.com/website/tjf.or.jp
http://nibbler.silktide.com/en/progress/www.tjf.or.jp
□ 中国帰国者定着促進センター
http://www.kikokusha-center.or.jp/tokorozawa/enkaku/jp/enkaku01.htm
サハリン帰国者定着促進センターも。
http://www.kikokusha-center.or.jp/tokorozawa/enkaku/ru/rujp01.htm
→ 主に電話などで通信教育をしているとのこと。
参考
□ 東京外語大学の日本語学習のページ
http://www.similarweb.com/website/jplang.tufs.ac.jp
スピード(616KB)
http://tools.pingdom.com/fpt/#!/R9HVM/http://jplang.tufs.ac.jp/en/ka/1/1.html
□ NHKの日本語講座のページ。
老舗で、もう10年以上、実質的な日本語学習サイトのトップです。月の訪問者650万人ですが8割が日本からのアクセスなので必ずしも日本語学習者のアクセスだとはいえませんが、昔からの超人気サイトであることは確かです。
トラフィック(以下のサイトにURLを入れてみてください)
http://www.similarweb.com/
スピード(500KB)
http://tools.pingdom.com/fpt/#!/ctQNUO/http://www3.nhk.or.jp/lesson/english/learn/list/49.html

 

日本語学習者向けサイトについて

概要

私は、サイト作りの知識は素人に毛が生えた程度です。2007年ごろに更新をストップしましたが、97 年から日本語学習者向けのサイトを作ってきたのでちょっとだけ知識はあります。公的な組織の日本語学習サイトに関して、ざっと見た限りでは客観的な評価をしたものはないので、勝手に個人的な印象をズラズラと書いてみます。
できたばかりの文科省のCLARINET かすたねっとの評価は、これから。その他、国際交流基金系のサイト以外はアクセスもほぼなく、後述する日本学習総合サイトに吸収されるべきだと思います。独自教材がある場合はそのページはあってもいいとは思いますが。(MP3などサイトがないとサポートできなくなるので)

国際交流基金のウェブ戦略は?

ここでは交流基金のサイトを中心に書きます。国際交流基金が作る日本語教育関係のサイトの一番の問題点は、「日本語学習者向けサイト制作に関する総合戦略がない」ということです。もちろん、他の省庁の「とりあえず作りました感」とは違ってそれぞれ、その時点では、本気で作っていることがわかります。ただ、すべてが別ドメインで、サーバーも別、バラバラです。例えばブリティッシュ・カウンシルのサイトのように、組織のトップページから同じドメイン内で、学習者が自分の目的に従って学習コンテンツを探すような道筋がありません。ソースで確認できる範囲では、アクセス解析は個々のサイトまかせで、本作りのように時々「改訂」をするようなノリでアップデートされるようです(「ケアナビ」と「eな」は、まめに更新されています)。学習者向けサイト作りは、作った後のメンテだけでなく、アクセス状況をみながらの軌道修正など「後の運用」がとても大事です。
→ 追記 「戦略がない」は変わらないと思います。「みなと」でコミュニティー建築をやるなら、もうそれ一本にしたほうがいいのでは。サイトに滞在して学習するコンテンツをちょこちょこ作るのはやめて(時代遅れだと思います。作るならDuolingの日本語版に勝てるものをひとつ作るしかない)
ターゲットは?

また、ターゲットがハッキリしていないという印象もあります。日本語学習者の25%以上を占める中国からのアクセスはありませんし(ただし簡単なアクセス解析では中国からのアクセスははっきり出ない面はありますから何とも言えませんが)、東、東南アジアからのアクセスも少なく、順位にはかろうじてベトナムと台湾が数%という程度です。つまり日本語学習者の8割以上がいる地域でまったく活用されていないのです。
最初の回線のところで書きましたが、サイトをみる側のネット環境を考えて、そこから作っていく、という発想ではなく、作り手側の論理で作ってしまうということだと思います。

ここ20年くらいの推移をみても、まず中国語(簡体字)、次に韓国語、少し差があって、繁体字、英語、安定しているタイ語、までは確定で、日系の方々が多いポルトガル語あたりが次の候補というのが妥当なとことかなと思います。
「エリン」は日韓、欧州北米では大丈夫ですが、他の地域(東南アジア、中国、アフリカ、南米)では、一般家庭からはほぼ見られないはずです。「アニメ」も厳しい。「ケアナビ」は大丈夫そうですが、ここはおそらくインドネシア、フィリピンなど特定の地域がターゲットだと思われるので、どんなに軽く作っても一般家庭からのアクセスは望めない可能性が高いです。
ターゲットは基本、ブロードバンド回線がある国々、あるいは総合学習系はブロードバンド前提、というような方針があるのかもしれません(それにしても重いです)。しかし、なるべく多くの日本語学習者を対象にするなら、基本、テキスト主体、もしくはテキスト主体を選べるような形でやっていくのがベストで、「ケアナビ」のようなサイトは無償のアプリで提供していくほうが現実的という気がします。(ブリティッシュ・カウンシルはおそらくブロードバンド前提ですが、それでも、かなり軽く作る工夫がなされていますし、アプリでの提供も多いです。特に子供向け学習など)

古いサイトの処理

「寿命」も近づいています。
FlashはネットでHTML5が本格的に使われ始めた2012年ごろには、消える可能性が高いという声が主流になり、おそらく世界中のサイトが遅くとも2013年はじめにはHTML5に書き換えられたと思います。モバイルOSでは最初からブラウザが対応してませんので、現在、タブレット、スマホでは、かなり工夫しないとFlash関連のコンテンツは動きません。去年、いろんなところからサポート終了宣言が出て、数年のうちにPC上でも動作しなくなる可能性がでてきました。特に、アジアでは、スマホからのアクセスが増えていて、中国もネット閲覧のメインはスマホ。アフリカや東南アジアなど一般の回線状況が悪い国では、家庭より携帯回線のほうが先に普及しているようです。スマホ、タブレットで閲覧できないのは、日本語学習サイトとしては致命的です。上の「サイト評価」のアクセシビリティでモバイルという項目がありますが、そこが5以下なのはアウトだと思います。
フラッシュ多用の「アニメ・マンガの日本語」は、継続するなら、もう作り直すしかないと思います。
同じくフラッシュ多用「エリン」は、総合学習サイトとしては唯一の存在で、高校生が主人公、学校を舞台、初級の半分くらいをカバーしています。かなり前の(2006~2007年にテレビ向けに作られた)実写動画をベースにした(実写動画ベースだとどうしても重くなります)ものでもありますし、HTML5化にお金をかけるなら、一から新たなコンセプトで作り直すほうがいいかもしれません。(ブリティッシュ・カウンシルの学習サイトも軽いけど、Flash多用で放置状態なんですが、アジアに学習者が集中している日本語学習コンテンツでは対応が急務です)
→ 追記 フラッシュ対応はとうとう行われませんでした。今は、「エリン」と「アニメ」はほとんど誰にも届きません。作りっぱなしで予算がないなら、作り替えるよりも、総合学習サイトを作って、そこに組み込むか、さもなくば終了するかではないでしょうか。

コミュニティ作り

教師用教材シェアサイト、なぜか、いろんな日本語教育関係の組織で作りがちですが(お金かければ作るの簡単で仕事した感があるから?教師向け、ひいては国内向けアピール?)基本、不要だと思います。実際利用されてはいないようですし。フリー素材はネット上に山のようにあります。基本、教材制作者が素材を提供する場所があれば、それでいいのです。(ただ「まるごと」みたいにドメインまではいらないと思います。ついでに言うとJFスタンダードも交流基金のサイト内で十分という気がします。ドメインが別だと探すほうが迷います)お互いに持ち寄ったフリー素材を「シェアして共有する」場所をわざわざ作る価値はあるのか疑問です。
交流基金だけでも、みんなの教材サイト、みんなのCan-doサイト、あと「まるごと」の素材提供サイトがあります。特定の教材ごとのページはMP3や動画などの配布やいろんなファイルの配布基地として必要ですが、他は不要なのでは?(後述する「日本語教育ネットワークSNS版」が実現するなら、そこでシェアすればいいですし)。
ユーザー登録管理も、それぞれでしなければならず、バラバラなので、管理側もユーザーも大変です。総合学習コンテンツは、ユーザー登録して個々のユーザー向けにカスタマイズできるような仕組みがトレンドですし、今後どんな学習コンテンツを作ることになっても登録は必須になることを考えると、JFユーザー登録みたいな形で一本化しないと厳しいのでは?そのためにはやはりドメインとサーバーがバラバラなのはアウトです。
また、サイトの言語はどこも中国語は簡体字だけなのですが、台湾からのアクセスはあっても、日本語学習者のかなりの部分を占める中国(前述のように数字はハッキリしないのですが)からのアクセスはほぼありません。サイトの言語対応も、バラバラ。ケアナビが英語とインドネシア語だけなのは理解できるとしても、ポルトガル語があったりなかったりで統一感がないのは、やはり総合的なウェブ戦略が欠けているという印象です。いっそ多言語化はやめてオープンソースのCMSの多言語化モジュールなどでいいと割り切るほうがいいのかもしれません。
あと、「すしテスト」は、事実上、廃墟サイトです。もういいんじゃないでしょうか。。。
→ 教師のためのシェアサイト、SNS時代に掲示板でやるのはもう無駄だと思います。国際交流基金はサイトを作る時に、そのサイトをどう運営していくか、ロードマップを作るべきです。基準のアクセスがなければ閉鎖することも視野に開発したほうがいいと思います。個別のコンテンツで安易に登録式にすると、やめづらくなるので、JFユーザー登録など、統一ユーザー登録式にしたほうがいいのでは。

 


 

JMOOC。。。

JMOOCで国際交流基金の動画のレッスン提供が始まったようですし、サーバーなどいろいろ投資が必要な動画コンテンツはJMOOCなど共同プロジェクトに託して、交流基金は東南アジアなどインフラが弱い地域でも動く総合学習サイトやアプリの提供、と棲み分けしたほうがいいのではないでしょうか。テキストベースの学習者サイトでは、NHKの日本語サイトの存在感が圧倒的ですし、おそらく素材の宝庫であるNHKに託すか、監修というスタンスで共同で何かやるほうが合理的かもしれません。
構成にも問題が
少なくとも、学習コンテンツは、交流基金のドメイン下で一本化するか、日本語学習者向けのドメインで統合したほうがいいと思います。せめて現状、交流基金のトップからスムーズに学習者をガイドする設計が必要なのではないでしょうか。
日本語教育でサイト作りにちゃんと税金が使えるのは今のところ国際交流基金だけなので、予算が少なく、ブリティッシュ・カウンシルのように、世代別にコンテンツを揃えるのが無理なら、ひとつでいいので、成人を対象にした初級から中級までカバーできる学習コンテンツの決定版を、しっかり、じっくり作って欲しいところです(その枝葉のひとつとしてなら、学校を舞台にしたものがあってもいいと思います)。残念ながら、今のところは、国際交流基金にとっては、ウェブ教材はあくまで補助的なものという位置づけなのかな、という印象です。
今後は
Duolingoが2017年にスタートしました。初級レベルだけですが、今後は中級まで有料コースも開発するそうです。優秀な日本人開発者が独自のアイデアを盛り込みながら作っていて、人気も高いようです。
今後の日本語学習者向けのサイト作りですが、この記事でも書きましたが、国内で日本語学習が必要な人が10年後には100万人になります。ネット戦略はなにも海外だけをターゲットにする必要はありませんので、やはり、国内外問わず、ネット環境が少々悪くても参加できる初級からの学習サイトの決定版をまず一つ作るべきではないでしょうか?Duolingoよりも日本での生活に即したものであれば、棲み分けもできるはずです。
オーストラリア、カナダなど、みたかぎりでは、政府系の移民向け語学学習サイトは基本ひとつでそこから児童、成人、高いレベルに枝分かれする形式です。日本のように、いろんな公的な組織がそれぞれ、狭いターゲットに向けてちょこちょこ作ってるケースはありません。
ネット環境がまだまだな日本語学習者に対して、これからWEBで何ができるかと考えた時、個人的には、特にインフラが厳しい国や地域に学習者が多い日本語の場合は、これからは、動画方面はJMOOCと国内の大学が始める(あるいはNHKが新たなものを作る)のを期待してそこにまかせるとして、サイトに滞在して学習するようなコンテンツを作る方向よりも、アプリを軸にした展開と、テキストベースのSNS活用のほうが可能性があるかなと思います。
2015年の初版で日本語教育ネットワークSNS版を提案しました。その後、それは「みなと」で実現しそうですが、今のところ、ただ作っただけという印象です。アクセス数もかんばしくなく、ネット上の学習ユーザーのきたいには応えていないようにみえます。
国際交流基金は、やはりウェブでどうやるのか、総合戦略を考えることができるディレクターが必要です。身内や周囲で「ちょっと詳しい人」にやらせるのではなく、コミュニティ作り、教育コンテンツ制作のプロが必要です。Redditの日本語コミュニティの関係者など第三者、外部の意見、人材を活用するのはどうでしょうか。

 

国内の日本語学校が使う教材と教授法のはなし

以下は私の個人的な「だいたいこういうことなのではないか」という推察です。
教材と教授法も時代や政策に強く影響を受けてきました。

現在、日本教育の教室授業で圧倒的なシェアを持つ「みんなの日本語」という教科書は、経済産業省の所管だった海外技術者研修協会(AOTS)という組織が作った「日本語の基礎」という教科書が元になっています。出版社はスリーエーネットワークです。
👉 海外技術者研修協会(AOTS)は、経済産業省所管の海外貿易開発協会(JODC)と合併して一般財団法人海外産業人材育成協会(HIDA)なりましたが、現在は、またAOTSに戻っています。事業規模約90億円(2012)。
現在、この「みんなの日本語」という教科書を出版しているスリーエーネットワークという出版社は元々、海外技術者研修調査会という名前でした。実質的に海外技術者研修協会(AOTS)の教科書を製作販売するためにできた出版社だと思われます。同年創設の凡人社と共に、日本語の基礎をベースにした日本語教育の歴史をスタートさせました。凡人社は、今も国内の多数の日本語学校に教材を提供する日本語教育関連の最大手の出版&販売会社です。

1974年は、日本語教育においてひとつの流れがはじまった年といってもいいかもしれません。
1973 現スリーエーネットワーク、株式会社海外技術者研修調査会としてスタート。
1973 12月 凡人社 設立
1974 日本語の基礎 出版
1990 新日本語の基礎 出版(場面に工場などがあるのは残ったまま)
1998 みんなの日本語 出版 (「技術研修生」の文字は消え、教材の中でも工場の場面は消えた)

その後80年代の私費留学生の増加にともなって、民間の日本語学校の需要が増し1983年の中曽根内閣の留学生10万人計画で日本語教師のニーズが急速な学習者の増加に追いつけず、媒介語(学習者の母語)を使う教師で手当てするのは間に合わないと判断したのか「日本語を日本語で教える方法で」「しっかりとしたマニュアルがある教科書をベースに」という流れになり、「日本語の基礎」をベースに進めていく流れは強化されたのかなと推察されます。(当時は2つの要件を満たしえるものは事実上日本語の基礎しかなかったと思われます)

結果として、決して当時の語学教授法の主流とはいえなかった直接法が主流となり、技術研修前提で工場が場面として使われる「日本語の基礎」が留学生相手の日本語教育の場で使われてしまうことになり「工場」の場面や語彙が出てくる教科書が留学生の日本語教育に使われ続けました。98年に日本語の基礎は「みんなの日本語」で技術研修的なニュアンスは取り除かれましたが、直接法という教え方は主流のままです。
現在、日本語の教え方は、日本語だけで教えるのではなく、適宜学習者の母語の補足をいれつつ行うほうが効率的という考え方が主流です。また、欧州の言語教育の指標となっているCEFRを意識したものに変わりつつあり、74年以降続いてきた「日本語の基礎~みんなの日本語」の影響力は低下する可能性があります。

ただ、次の主流教科書の座を現在有力候補と言われている「できる日本語」や「げんき」、国際交流基金が作る「まるごと日本のことばと文化」が担うためには、「日本語の基礎~みんなの日本語」の教科書が担ってきた日本語教育の「教師需要に対する対応力」が求められます。
つまり、教科書作りには、それをしっかり教えられる日本語教師を作ることを含めた総合的な戦略が必要だということです。「できる日本語」「げんき」は手厚い教師用指導書を作ることで、「まるごと」は教師用リソースをウェブ上で提供することと、おそらく教師向けの研修で対応する考えのようですが。研修には限界がありますし、その先の戦略があるのかは疑問です。

おそらく新しい流れをくんだ教材ベースの教え方は、教師に要求されるハードルはあがります。これらの教材を用いて授業を進めていくのに必要な能力は、じっくりと経験を積んでいってはじめて身につく類いのものです。今後、再び、特に国内の日本語教育の需要が高まっていく中、教師に、型どおり、マニュアル的でない柔軟な教え方ができる能力を期待し、学習者の多様な母語(インドネシア語、マレー語、タガログ語。。。)の学習を日本語教師に課すならば、まずは、少なくとも、日本語教師に安定した雇用と報酬が保障されないと不可能ということは明らかで、ここでも、日本語教師の職業としての確立が大事になってくるということになるわけです。

今のところ、聞こえてくるのは、教材を軸にした机上の教授法の議論や、業界の中のグループ、組織の生き残り戦略ばかりで、肝心の日本語教師を長期的視野で育てていくという声はまったく聞こえてこないのは残念です。「これまでも教師を育ててこなくてもなんとかなったじゃないか」ということがあるのかもしれません。2010年代に入って、また「人材開発としての日本語教育」的な方向に引っ張られているような気もします。日本語教育の大きな転換期の今回も、日本語教育業界は近視眼的な政策の後をついていくだけの存在になるのかもしれません。

👉 国際交流基金が作成した「まるごと 日本のことばと文化」は、国際交流基金の教室などを中心に年間数万部は売れているようですが、みんなの日本語の圧倒的なシェアは変わらないままです。
 

 


 

更新履歴
基本的に、現行バージョンは指摘があれば、その都度修正し、元のバージョンから随分修正したかなというところでバージョンを0.1上げます。従って掲載中のものは、バージョンとして固定されているものではなく、すでに新たな修正が施されている可能性が高いことに注意してください。バージョンごとに保存はしています。
PDFは、現行バージョンのものがダウンロードできるようになっています。ただ、このページのほうが新しいです。
2015年3月18日 投稿 ver.1.0
2015年3月23日 ver.1.1 
:日本語専門家の年収の額の指摘を受け修正。JITCOのリンク外れ対応。養成講座の修了者の数を修正し整理して補足。など。
2016年2月1日 リンクなど修正。
2018年1月30日 本文中のデータを最新のものに入れ替え、すべてにわたって修正、削除など全面的に改訂しました。ver.2.0