地域の日本語教室 提案いろいろ
2016年8月29日初版投稿 2018年1月31日改訂 約47000字
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私はすべての国内の日本語の学習が必要な人は、公的なサポートで対処すべきだと考えていますが、しかし、今も日本語教育が不十分なまま、いろんな方々が努力をされている最中でもあり、ひとまず「こうあるべき」という議論とは別に、何か提案できることを書いてみようと思いました。EPAや技能実習生の現場、児童の日本語教育など、時間がある人がちょっと日本語を教えているようなところで、それほどお金もかからず、簡単にできる提案です。
ただし、日本語教室の運営の経験は当然ありませんから具体的な運営のことなどはわかりません。自治体で助成を受けたり、申請したりは、地域の役所の国際課的なところや現役で実際に日本語教室を運営してらっしゃる方にお尋ねください。地域によって全然違うでしょうし、学習者のいろんな事情もあると思います。ここに書いたことが、何かひとつでもヒントになればうれしいですし「私のほうがアイデアがある、上手く書ける」というような新たな書き手の出現の呼び水になればと思っています。
私どもは、東京を中心にプライベートレッスンを請け負う日本語教師のグループです。ビジネス関係者だけでなく、子供から高齢者まで、あちこちから呼ばれてはそこに行って、事務所の隅や自宅のリビング、ファミレスや喫茶店、時には河川敷で教えたり、と、いろんなリクエストに応えてきました。与えられた場所を教室にして日本語を教えるという経験はおそらく学校で働く日本語教師よりはあります。
また、1997年から日本語学習者向けサイトを運営していて、ずっと学習者向けにウェブ教材なども作ってきました。1999年からは、教師間の会議連絡もすべてオンラインでやっていました。日本語教育におけるネットの活用に関しても多少はノウハウがあります。
ともあれ、いろいろと書いてみます。なにかひとつでも参考になればうれしいです。
👉 時々「日本語教育サクサク」を参照してくれという記述が時々出てきます。「日本語教育サクサク」はデジタル関係が苦手な人(日本語教師)を想定した、デジタル入門から深い活用までを書いた本で、印刷版、kindle版、Web版(無料)の3つのバージョンがあります。印刷版はCCでの販売、web版は無料です。音声ファイル、動画の編集、公開、SNS入門、授業の配信や自費出版、レンタルサーバーを借りて自分のサイトを運用することまで知っている限りのことを書いてみました。このサイトのトップから案内があります。
👉 国内で日本語のサポートが必要な人達は、いろんな呼ばれ方をします。「外国人」「外国籍」「外国にルーツを持つ~」「言語難民」「言語マイノリティー」などなど。私は、すべてを含むことができて、ニュートラルでわかりやすい「日本語の学習が必要な人」と呼ぶのがいいのではないかと考えています。
日本語教室の周辺のいろいろ
場所など
場所の確保、大変だと思いますが、基本的には部屋があって、ある程度静かであれば日本語の授業はできます。工場の片隅の事務室でも工事中のマンションの部屋とか竹下通りのマクドナルド(何度かレッスンをしたことがあります)よりは静かなはずです。
できれば毎回場所が変わるのではなく、場所が固定してあるとありがたいです。そこで何が使えるか、どういう授業をするかといろいろと考えながら準備できます。複数の学習者相手なら、そこにある椅子やテーブルを利用してアレコレ(寸劇的なこととか)やれるな、と考えたりしますし、例えばHDMI端子付きのそこそこのサイズ(32~)のモニターがあれば、ちょっとした電子黒板みたいな使い方もできます。(ちなみにテレビはHDMI端子があるかどうかは使い勝手の上で結構重要です。あればタブレットをテレビに映すみたいなことが簡単にできます。ないならないで変換ケーブルとかいろいろ方法はありますが)
とりあえず最低限、これだけは、、、というものは。。。
□ 隔離された部屋
→ 教材の音声を聞かせてやるといういこともありますので。なるべく仕事をしている場所から離れているほうがいいようです。事務所の電話が聞こえるたびに「私あてかも…」と集中力が途切れるなんてこともありました。パーテーションだけで区切られたところでやったのも音出せないしなかなか辛かったです。
□ コンセント
→ 同様に音声流す際に使ったりします。ひとつあればたこ足でなんとかなります。
ここから先は、できれば、ということなんですが。。。
□ WiFi
→ タブレット使う教師もいます。そういう人にはとてもありがたいです。オンラインの辞書も引けますし。学習者にネットに接続してもらって、というようなレッスンも最近はしたりします。
□ 音を出すアンプ付きスピーカー
→日本語の教材の音声はほとんどCDです。ただもうCDを鳴らす機械は、あまりないので、そのCDをパソコンなどでMP3という形式にしてスマホとかタブレットに入れて持ち歩いて、授業の時はそこから流すという教師は増えています。で、グループで教室でレッスンとなるとちょっと音量が足りない、でスピーカーがということになります。スピーカーは普通のオーディオジャックで接続するものならなんとかなりますがbluetooth接続も可能だったりすると、スマホやタブレットで最初に設定すれば繋がるのでもっと便利です。私は3000円くらいの充電式Bluethoothスピーカーを持ってますが、音質も高く、30人くらいの小会議室なら十分な音量が出ます。
□ ホワイトボード的なもの
→ これはなくてもプライベートレッスンで授業に行くような教師は小さいのを持ち歩いていることが多いんですが、余ってたら会議用のホワイトボードがあると助かります。数名相手にやるならホームセンターで売ってる2000円くらいの大きめのものでも大丈夫です。(ペンはよくつかなくなるので予備も買って置いててください)
□ デジタル対応!的なもの
→ 若い世代の教師(といっても日本語教師は世代問わずデジタル関係弱いんですが…)は、WiFiが…モニターがあれば…という人も多いと思います。これは最後にちょっと書いてみます。
教材周辺
教材をどれにするかは各運営者が決めることですので、ここでは参考の資料のみで。
このブログの教科書に関する解説はメニューの「日本語教師」のサブメニューにある「日本語教材ガイド」を参考にしてください。初級から上級、児童向け、自治体の教材、など、すべてについて「これは」というものをピックアップしました。自治体が作った多言語対応のフリーの教材もほぼ網羅していると思います。
日本語教室では初級が軸になると思います。初級の教科書はいくつか選択肢があり、それぞれ特徴が違います。国内の日本語教室だと学習者の母語も多様ですし多言語対応しているかも重要かもしれません。
価格は、教科書だけなら3000円前後です。(たいてい2分冊など分冊になってますから5000~6000円です)。教科書と練習用のワークブック、漢字などセットで1万円ちょっと、というところです。どの教科書も日本での生活を想定していろいろな場面を軸に作られているので基本的なニーズと大きく違ってしまうことはないと思います。また語学の学習では、少なくとも初級レベルでは、それほどやるべきことに違いはありませんし。
教師用には教科書ワンセットと+教師用指導書が必要です。持っている教師もいると思いますが、半年、1年単位でやり長期的に雇用する可能性があるなら、教師分の教材も買って頂けると助かります。生徒は最新の版、教師は古い版で時々、中身が違うなんてことも起きますから。なんだマニュアルがないとダメなのか、と思われるかもしれませんが、教科書の指導書は、単に教え方のマニュアルというだけでなく、長年のノウハウが詳細に記されているので、教師にとっては大事な本です。
学習者用辞書も学習者の母語の分だけあるとありがたいです。日本語の学習辞書は今あまりいいものはないのですが、例えば、初級の語彙にしか対応してませんが基礎日本語学習辞典―英語版の初版のほう(リンク先は2版)というのがあります。この2版は今のところ英語だけです。高いですが、以下の言語を母語とする学習者がいるならあったほうがいいと思います。凡人社という日本語教育の専門書店で売っています。現在(2015年秋)アラビア語、スペイン語、ポルトガル語、マレーシア語、が入手できるようです。3000~5000円。
👉 辞書や資料などは今は圧倒的にネットのほうが充実しています。こちらに日本語関連のリンクを作りました。ご参考になさってください。
👉 地域の日本語教室などでは、教師がいない時、日本語のことについて質問されたらどうするか?という課題があるようです。単純に「これとこれどう違うの?」という語の使い方や文のニュアンスの違いみたいな質問は最もよくされる質問で、場合によっては日本語教師でも難しい。「えーっと」と参考を調べて答える、無かったら「こんど授業の時に」と答えて、日本語教師に「次これ説明してくれ」とメールしておけばいいと思います。
で、ちょっと調べるのに便利な本は、、、教科書に関することはその指導書を読むのが一番いいと思います。指導書がない教科書もありますので、辞書的にひけて、日本語学習者にする説明が載ってるのは、初級を教える人のための日本語文法ハンドブック、中上級を教える人のための日本語文法ハンドブックが一番近いでしょうか。教室にあると便利です。学習者が参考書として使ってもいいですし。
日本語の授業の設計
カリキュラム作りから
学習者の人数とレベル
日本語教育ではカリキュラムと同じような意味で、シラバスという言葉がよく出てきます。これは一定期間続ける前提のコース設計のことで、かなり重要です。(カリキュラムだと国語数学理科など、いろんな教科合わせての設計、シラバスは数学なら数学だけ、特定の教科ひとつの設計みたいな使い分けがあるようです。ただ、本来、英語のSyllabusは、もうちょっとコース管理的な事務仕事も含むようなニュアンスが強くなるとか…それはともかく…)
どのくらいの期間で、どのくらいをゴールに設定するか、みたいなことを考える必要があります。これはやはり与えられた条件でやれることは決まってくるので、日本語教師と相談しながら決めるほうがいいと思います。(ただ、例えば、隔週1時間、方向性について話し合う時間を設定して、それは教務時間として最初からカウントするという形で時給計算にいれておいてください。そのほうが日本語教師も責任をもってやろうという気になります)
民間の日本語学校は通常、月金で毎日3,4時間、週20時間前後ですからかなり詰め込みです。授業時間は時間数だけでなく、密度が大事で、例えば、同じ10時間でも週に1時間で10週より、1週で10時間のほうが効率がいいと考える教師は多いはずです。
最も普及している日本語の教科書は、初級(300くらいの漢字が読めて、日常会話のための基本的な知識が身についた、というところ)は200~300時間で終わるという設定です。ただ、これは、国内の日本語教育の環境が前提となっていて、一日3時間くらい毎日、フルタイムで勉強する、しかも、やや漢字圏の学習者よりの設定ですから、漢字圏でない学習者が、確実にクリアできるまで300時間以上とみたほうがいいと思います。(1980~2010年あたりまで、日本語学習者の8割以上は中国、韓国からの人でした。漢字の知識がある程度あり、韓国語は文法もやや似ているところがあります。両国とも受験に熱心で「勉強慣れ」しているアドバンテージもあります)。
初級以降は、会話重視なら、会話を、進学ならペーパーテスト対策を、と分かれていくのですが、+200時間くらいで、もうひとつレベルがあがるかなというところでしょうか。合計500時間~、きちんとカリキュラムに従ってやれば、自然にコミュニケーションできる素地はできる、とひとまず考えていいと思います。
日本語学校の週20時間ペースだと、300時間は15週、3ヶ月前後。500時間は25週、約半年です。仮に、週5時間だと、計算上は、300時間なら60週、約一年3ヶ月くらいですが、前に述べた授業の密度の効率からいうと、もうちょっとかかるとみたほうがいいと思います。
例えば、プライベートレッスンですと、やる気があっても週1だと、なかなか上達は厳しいです。週2か3で授業があると「日常的に日本語を勉強している」という気分になってくるせいか、進度も速くなります。週2なら、月火よりも、火金みたいに、授業の授業の間隔が短く一定のほうがいいと思います。
日本語学校は、語学学校というより大学や専門学校への進学が目的の予備校的な要素が濃いところです。おそらく地域のにほんご教室ではそれほど時間をとるのは無理なので、使う教科書から改めて考える必要がでてきます。民間の日本語学校のキャリアが長い教師は、そういう設計には慣れていない可能性があるので、よく相談して話し合ったほうがいいと思います。
技能実習生なら、母語はなにか、どの程度日本語の基礎を勉強してきたか、やる気の度合いは、どのくらいのペースで授業ができるか、でかなり違ってきそうです。やってみないとわからない、ということもありそうです。また、児童の日本語教育は、もっと学習者による違いは大きいようですから、決まったものを作るというよりは、最初は、ざっくりと決めてスタートしてみて、少しわかってきたら微調整、ということになるでしょうか。
学習者(と日本語教育関係者は呼ぶことが多いです。生徒ではなく)の人数ですが、レベルの差が大きい学習者を混在させたまま授業をするスタイルはあるのですが、臨機応変にそれができる能力を持った教師でも、限界はあります。
多くの日本語教師はプライベートレッスンの経験より教室の経験のほうが多いので、3人以上(教師によって感覚は違うと思います)ぐらいまではプライベートレッスンの範疇、それを越えると、クラス授業的に、ある程度スケジュールに従って教科書を進めようとすると思います。
民間の日本語学校などでは、ひとつの教室で、だいたい10~20人前後で授業をします(民間の日本語学校には、20人以下でないといけないという法務省による規定があります)。で、週に20時間というかなり詰め込み的な環境なのであまり参考にならないのですが、20人になると、基本、似たようなレベルの学習者を、スケジュールどおりに進めて、ついてこれない人は三ヶ月ごとに、学期を設定して、上のクラスに入れる入れないで振り分ける、ということになるようです。
仕事や学校のペースに合わせるとか、いろいろあると思います。なんとなく始めるよりは、授業を何コマかやったところで、いろいろ調整してくほうがいいので、その区切りだけでもつけて始めた方がよいと思います。授業時間なら50時間くらいとか。
クラス授業と個別レッスンを組み合わせるほうが効果的
そこそこ人数がいる場合、例えば、初級からスタートするなら、最初にレベル分けテストをして振り分ける、ほぼ似たようなレベルだという場合は、最初の1~3ヶ月くらいはとりあえず全体でやってみて、その後、2つや3つに分けるということが一般的かもしれません。ただ、その分けた後ですが、2つ、あるいは3つに分けるだけではなく、例えば、学習者が10人いてそれぞれ一人あたり週に5時間授業をするなら、週に4時間をグループの授業にして、1時間をプライベートレッスンにする、という方法のほうが効果的で費用対効果も高い、ということがあります。補習的にでもいいですし、個々の能力に応じてえ例えば話すことに特化したレッスンをすれば、かなり伸びが違ってくるはずです。
つまり、10人を進度が速いクラスと遅めのクラスの2つに分けて週4時間クラス授業をする。で、一人1時間づつプライベートレッスンで個別に指導をする。というわけです。この個別指導は確認のテストなどをして、一定水準以下の人だけにして個別の時間をちょっと時間を増やすでもいいと思います。(理想はクラス授業が週3で個別が週2時間くらい?個別は2,3人のグループにしてもいいですし、いろいろ調整可能だと思います)
この例だとクラス授業だけだと、教師は週5時間ですが、ミックスだと14時間で教師の謝礼のコストがかかるわけですが、なんとなく効果があがらない教室授業をだらだらと続けるより、学習者のレベルややる気の格差が大きい場合は効果的だと思います。教室の授業は競争心も出てきたり、ペアで練習ができるメリットがありますし、個別の授業は細かい手当てができる。両方のいいところが生きる時間配分、バランスがみつかれば、理想的です。
複数の授業をするとどうしても時間がたつにつれて格差が出てきます。個別指導との組み合わせは、これの補習的なことをどうするか(あるいはもっと先にいきたい人をフォローするにはということもあります)というひとつの解決策なわけです。(後述する「動画アーカイブ」ももうひとつの補習的なサポート方法です)
日本語教師を雇う
日本語教師の数と種類
日本語教師の有資格者は、大学で日本語教育を専攻するか、日本語教育能力検定試験に合格するか、定められている420時間の授業を養成講座などで修了した人のことです。推定ですが、国内に20万人近くいるはずです。現在国内の日本語学校などで働いている教師は4万人弱、資格を持った元教師は結構いるわけです。国民の650人に一人は有資格の日本語教師ですから、10万人の都市には約154人の有資格者がいます。
ネットで探して直(ちょく)で雇いましょう!
日本語教師を募集するところはネット上にいくつかあります。最近の教師もネットで仕事を探します。「日本語教師 求人」で出てくるような日本語教師専門で求人サイトは掲載条件がかなりユルく申し込めば掲載してくれるところが多数あります。法人でなくてもきちんと住所連絡先があれば大丈夫です。
もちろん、自前のサイトやツイッターやFacebookなどで募集することもできます。ただ、その場合は、自分の会社や日本語教室を紹介した母体となるサイトできちんと情報提供がないと厳しいと思います。特に、住所、代表者名、法人なら法人名、など確かな情報がネット上にないとなかなか応募しにくいでしょう(基本、求人の場合、最低限、応募の時に要求する情報は最初に自ら提供すべきですし、日本語学校ではない新しいジャンルでもありますから、より多くの情報提供は求められると思います。人の顔写真、会社や教室の写真、可能な限りオープンにしたほうがいいはずです)。
日本語教師は、若い世代もネットに弱いです。おそらく現在、日常的にネットを活用している人数は多めに見積もっても1000人いない、500人くらいかなという印象ですが、それでも求人情報はチェックするという人は多いので「日本語教師」というワードを入れて求人のツイートをすれば、目にはとまるはずです。
日本語学校やどこかに委託する?
日本語学校などに相談すれば教師を派遣してくれると思いますが、日本語学校や政府の組織から派遣されてくる教師は、基本的に、来てレッスンして帰るだけです。学校を介する分、当然、割高になる。留学生を大学や専門学校に進学させるのが主な目的である日本語学校は、海外から留学生を集めてくる営業力で決まります。日本語の教育力での競争をしているとは言い難い。予備校的な要素が強いのに大学への進学率はまったく話題に上りません(日本語学校には、多くの推薦枠があるので大学への進学率はそのまま学校の評価ともいいがたい)。というわけで、日本語学校で働いている教師だからといって質的な保証に繋がるとは限りません。80年代からやってるような歴史の長い日本語学校の主任の教師はともかく、普通の日本語学校では、専任の教師であっても経験3年くらいで、うーん…という人は結構います。
また、昨今、日本語学校は留学生から技能実習生の日本語教育請け負いにじわじわシフトしています。生徒を集めやすく、進学させなくてもいい、留学生と違って国内で労働力としての需要があるので、滞在期間も長い、とメリットが多いからです。自治体を介して、あるいは直で協同組合に営業をして、もっと本格的なところは、東南アジアで生徒を募集する段階から留学生と技能実習生で分けて集めてくる、みたいなことになってきています。2010年以降、人材派遣系の会社が日本語学校をはじめるケースが増えました。
ただ、これら新興の学校はもちろんですが、既存の進学前提の日本語学校には、教え方のノウハウを蓄積するノウハウそのものがないところも多いようです。
留学生相手のノウハウの蓄積もままならなかったわけですから、技能実習生や児童の日本語教育に関するノウハウを蓄積するような余裕はまったくないと言ってもいいはずです。日本語学校というところは、基本、生徒集めができそうな国を追い求めているだけなので、おそらくほとんどの日本語学校が、新たに**国の生徒が来ることになった、実習生を教えることになった、となっても、教師に「そうなったから、がんばって」と言うくらいです。そこに所属している教師達が勉強して適応し、成果をあげているかもしれませんが、ともあれ、2018年現在、民間の日本語学校には、技能実習生や児童を教えるノウハウは、ほとんどないはずです(まれに個々の教師にはノウハウはあったとしても)。
政府の機関とか関連団体経由のほうが質が高い教師が確保できる、ということもぜーんぜんないと思います。そういうところで「あれっ?」という人、結構みます。例えば、技能実習生の日本語の教科書を作ったりしているAJALTは、これまで長年担当してきたわりに、製作した教科書の質にも疑問符がつきますし、成果をあげているとは言い難いと思います。
つまり、「学校」や「組織」を手がかりに教師の善し悪しを判断するのは、難しいと思います。よい教師はいますが、大手の学校にいるとも言えないし、歴史が長い名門校とされているところにいる教師がいいとも限らない。名門のベテランはその学校のやり方に習熟しているだけで柔軟性に欠けるかもしれない。ということです。「ここでキャリアを積んだ人なら安心」というようなものはないはずです。大学に日本語教育学科が増えてきましたからそこの卒業生はちょっといいかなぐらいです。資格をもった教師であれば、個人を雇うのと学校に頼むのとでは、よい教師に巡り会う確率はそれほど変わらないはずです。
結局、あなた自身が教師を見る目を養いながら客観的な指標をつくって「ふるい」をかける、個々の教師と三ヶ月、半年など段階を踏んで契約し、いいなと思ったら年単位で契約を更新する、というやり方で、じっくりよい教師を探すほうがいいと思います。日本語学校の雇用は超不安定なので、きちんとした待遇を準備すれば、必ず技能実習生や児童の日本語学校のスペシャリストになろうという日本語教師が確保できるはずです。
どんな教師がいい?
□ 条件、資格
「**語ができる」を条件にしたいと考える方は多いと思います。何かと便利ですし。もちろん学習者の母語(日本語教師は、ぼご、と言う事が多いです。母国語ではなく。ひとつの国でも2つ以上の言語ということがありますしね)を知ってる人のほうが授業もスムーズという傾向はありますが、決定的なものではありません。それよりもその言語を母語とする学習者を教えた経験があるかどうかのほうが重要です。
海外で日本語を教えていた経験は、国内の日本語学校での経験よりも高く評価してよいと思います。違う環境での適応力みたいなことだけでなく、まず海外で日本語を教える仕事に就くハードルそのものが国内の日本語学校より高いからです。JICAなどでは2年単位で海外で日本語を教えたりしますが、2年だとちょっと少ないかもしれません(ただ、2年くらい海外で教えていたのに、その国の言語をまったく勉強してないという教師はダウトです。「海外経験」がしたかっただけかもしれません。結構います)。
「修士を持っている」日本語教師もいます。日本語学校では修士があっても時給があがるわけではありません。それに日本語教育の修士の資格は、玉石混交だと思います。基本、2年間通う経済力があれば、取得できる、という話をよく聞きます。
日本語教師の学歴はいろいろです。基本、日本語学校では大卒以上であったり、四年大卒じゃないとダメと言うところも多いです。大卒がほとんどで、有名大学出身の人もいます。ただ、大学は日本語教育学科(結構あります)を出たのでないかぎり、あまり参考にならないと考える人が多いような気がします。語学のセンス、教えるセンスと学歴はほぼ関係ないと私も思います(私達のグループでは資格を持っていれば学歴不問で、履歴書も不要でやってきました)。
□ 適性
おそらく児童の日本語や技能実習生は、留学生のように試験対策をやればいいということではないと思います。どんなゴールがあって、どういうものが求められているのかも多様です。雇用主であったり公立学校からの要望もあると思いますし、最も大事な本人のゴールもハッキリしないかもしれません。多分、とても難しいのではと想像します。やる気の上がり下がりも大きい。そもそも勉強苦手、という人も留学生よりは多いはず。
日本語学校でやってきた教師のノウハウは通用しない可能性が高い。日本語教育の世界で語られているいろいろな教え方もピタリとハマるかはわからない。やはり効果をきちんと測りながら、結果をみて、柔軟に設計、対応できる人がよいのではと思います。柔軟であるためには、ひとつの方法論(日本語学校的なやり方はもちろん、新しいとされている方法であっても)に固執する人は難しい。「『みんなの日本語』しかできません」という教師も、「今は反転授業でアクティブラーニングです!」という教師も向かないかもしれません。もちろん、いろいろな方法を試せる、知っていることが大事ですが、知らなくても、調べていろいろやってみるという人であればいいと思います。
ポイントは「柔軟さ」だと思います。もちろん、募集時にある程度の足切りもしたいと考える人は多いと思います。そこは経験になるでしょうか。
□ 経験
民間の日本語学校では、社員待遇の常勤の専任講師は約3割、残りは非常勤です。非常勤といっても、フルタイムで働くつもりがないベテラン教師もいます。また最近は、専任になるのは、一時ほど難しくはないようです。専任教師を3年やると主任になれるというルールもあります。この主任もルール上、自動的になれるものなので、大きな違いはないと思います。
やはり目安になるのは経験で、フルタイムではない教師も多いので、年数ではなく、時間数で判断するのがよいのではと思います。日本語学校の経営は安定していないので、小中学校のように、キャリアを積むのは難しいという事情があります。
OECDの調査によると、日本の公立学校の教師の「授業時間数」は年間約600時間
http://www.huffingtonpost.jp/2014/06/26/teacher-oecd_n_5532451.html
http://www.oecd.org/edu/eag.htm
教師としてのキャリアをスタートして5年で3000時間。10年で6000時間です。私達は一般的に公立学校の教師に対して、5年目ならば「ひとまず新人教師の期間は終えた」と考え、10年で「経験不足とはいわない、一人前」と考えるのではないかと思います。
しかし日本語教師の場合は、資格を取得して運良く非常勤講師の職を得て、いくつか掛け持ちしても1年目は最大で年300時間程度と経験を積む機会が少ないという状況があります。それを考慮すると、1000時間を越えれば、教師として初心者は脱した。3000時間で「経験がある教師」、5000時間を超えたら十分な経験の教師、と考えていいのではないでしょうか。
ただ、3000時間、5000時間をクリアした教師は、それほど多くありません。経験者を、と考えるなら、週に10時間で1年で40週とすると、2年半くらいでクリアできる1000時間あたりからが適当、いうところじゃないでしょうか。
継続的に日本語のクラスが必要であれば、直接日本語教師と契約してクラス作りから教師と共にやっていくほうがいいと思います。上で紹介したサイトで募集する方法もありますし、ツイッターなどで募集してもいいと思います。ネットを活用するなら、ある程度ネット上でも情報を公開する必要があります。ホームページはあったほうがいいです。そのへんはこのページのもうちょっと後で書きます。
👉 ただ…日本語教師は海外で教えていた人は割と多いです。日本語教師の資格と海外いける時間があれば、特にスキルがなくても行けます(「情熱があれば採用」でミャンマーの国立大学で教える、なんて求人もあります)。一般的な人が持っている「海外で仕事をしていた人に対する評価」ほどじゃないと思います。あくまで国内の2年の経験に較べると海外の2年の経験は多少評価できるかも、適応能力も高いかも、というぐらいではないでしょうか。国内の日本語学校に就職するハードルが低すぎるのです(2015年以降は資格を取得して若ければだいたい就職できます。養成講座も「就職率100%などと勧誘してます」。就職して3年くらい居続けるのは、今は難しくありません)。
👉 もちろん、経験が長い教師=よい教師とは言えないと思います。国内の日本語学校は教え方がだいたい決まっていて、長くやると、教え方の柔軟性を失うという傾向もあるように感じます。「柔軟性がある」ということは、児童や技能実習生の日本語教育では重要なので、良い人だと思ったら経験問わず若い人を雇ってみるのも悪くない選択なのでは、と個人的には思います。
社員として雇うのはどうでしょうか?
日本語学校などに入って非常勤で働く若手の日本語教師は複数かけもちしても月5~10万円程度、3年から5年やって、うまくそこで専任講師として雇ってくれても年収で300万払うところは少なく、おそらくスタートは200万円後半、20年、30年とつとめても500万にはいかないところがほとんどなはず。しかも、長く雇う日本語学校はほとんどありません。
今後日本語の学習が必要な人が継続的にくる会社では、日本語教師を契約社員、ゆくゆくは社員として雇って長期的に日本語のサポート体制を作る、あるいは近くの同業者と共同で日本語サポートの会社やNPOを立ち上げるという選択肢もあると思います。
日本語学校の学習者は留学ビザで許可は不安定。従って、日本語学校で非常勤として仕事をするのはとても不安定ですから、むしろ同じ時給なら、地域の日本語教室や実習生がいる事業所などで長期的にやってみたいという教師はいるはずです。しかるべき機関を通さないと助成金が出ないということもあるかもしれません。それは有資格者の日本語教師を雇用した実態が証明できれば支払われることにすべきですし、そのうちそうなると思います。あと、助成金なんてたいした額じゃないし、いつまで出るかわかりませんよ。そこをアテにするより、事務職員が一人増えると考えて雇うほうがいいのではと思います。
現場で必要な日本語の能力というものは、現場にいないとわからない、ということが多くありますし、それは日本語教師が一年単位で掴めるものではありません。仮に見えてきたとしても、それに応じた授業の設計をして、どういう教え方、教材、が向いているかを見定めて、探す、というようなことは、やはり長期的に関わらないとできません。まずは一人、そういう人を確保したほうがいいと思います。**語が出来たほうが事務としても使いやすいなどと考えず(必要な外国語なんて10年後はどうなっているかわかりませんよ)、まずは日本語を教える能力があり、「専門家にまかせろ」ではなく丁寧に説明してくれる人で、授業を設定して運営していく仕切り能力がある人を長期的視野で雇用すると宣言してまずは短期契約で募集すれば、確保できる可能性はあると思います。その中で、これはという人を日本語担当者として本採用して、その後は、その人といっしょに新たな教師を探すことにするわけです。
👉 日本語の大学には日本語教育学科があり、かなり人気です。年間4000人近くの卒業生を輩出していますが、残念ながら安定した仕事がなく一般企業に就職しています。これらの学科に求人を出す選択肢もあると思います。
👉 多分、技能実習生が集まる事業所や地域の日本語教室などとマッチするいちばんいい日本語教師は、民間の日本語学校で3年とか5年やったけど、どうにも安定しないし、続けたいけど転職しかないかもと考えている人、あるいは、10年やったけど環境の変化(引っ越しとか結婚とか)で、少し働き方を変えたい、みたいな人ではないかと思います。まだキャリア的にも中堅になったくらいで、日本語学校の進学予備校的なやり方にもドップリとは染まっていない。そういう人にあたればラッキーです。日本語学校からの紹介や政府の機関から来た人を引き抜いてもいいわけです。おそらく安い給料で将来が見えないまま働いているはずです。
教える以外の時間の考え方
授業をやるので日本語教師を時給で雇おうという場合、基本拘束時間で計算ということになると思います。1コマだとだいたい40分前後で設定することがあるんですが、例えば9時に来て12時まで3コマ授業で3時間拘束とはるはずです。
コマ数で契約というケースもあるようです。どちらがいいのか、雇用形態によるかもしれません。事前に話し合っておいてください。
これまで書いてきましたように、教室運営までコミットして一緒に日本語教室を作っていくとなると、当然、教える以外の時間も必要になってきます。
普段行う授業に関連して2つくらい外せない時間があります。ひとつは全体の授業のコース設計などを調整する仕事、運営者の方と話し合ながら決めることになるはずです。もうひとつは、学習者の進度を報告する仕事です。これらをどう仕事として時給で換算するか、ですが、コース設計はちょっと会った時に、進度報告はペーパーで、となりがちです。しかし、これはかなり重要でよい授業をしても、ここがダメだと長い目でみると成果が出にくいはずです。「ついで」ではマズいと思います。
まず、授業のコースの設計や調整は重要なので、定期的に時間を確保してください。もちろん時給の対象としてカウントしてください。各週でも月イチでもかまいません。ペースだけ決めて、お互いに調整して■日の■時にという形。時給で保証されていることと、定期的に時間をとることで、教師も本気でやろうということになります。例えば三ヶ月ごとに学期みたいな設定がある場合、学期末の前には少し長めに話し合いの時間をとる、ということもあると思います。ついで、ではなく、仕事としてやることで、日本語教師にとってオマケや親切ではなく「やらなければならないこと」になります。クラス全体に責任感が出てくるはずです。日本語の授業のクオリティもあがっていくはずです。
日本語教師は割とついでに付き合ってただ働きをしがちですが、ここで教師の親切をアテにすると、仕事の評価がやりにくくなります。教師としての力不足を親切でカバーしようという教師も少なからずいます。なあなあにしないためにも、仕事として関わってもらうほうがいです。調整の時間の時給は長い目でみればわずかな出費です。教師の査定でもここをシッカリやってくれるかは重要で、そういう査定の対象としてみるならば、時給は設定すべきです。
次に、学習者の進度報告ですが、会社などでフォームがある場合はそれでも構わないのですが、そういうものは教師が提出すれば終わり的なものが多いです。できれば担当者の方と連絡帳的な、双方向のやり取りができるもののほうが効果的だと思います。教師も学習者の状況に関して質問できるほうがありがたい。どこかへの提出義務がある書類は、ちょいちょいと書いて、でもいいので、双方向のやり取りができるものは別途しっかりしたものを作った方がいいです。
これ、長々と書くとなると正直、教師にとっては負担です。形式的なものを細々となるなら、月イチでしっかり書くほうがいいと思いますし、少人数なら、紙より時間を作って、話し合う、結論を記録する、ほうが効率的だと思います。
ネットを活用したサポートについては後でふれます。
👉 教室では運営者の方は学習者の進度などは当然、気に掛けているわけですが、技能実習生などの場合、会社でも、一人はできれば担当者として、時間を割いてくれる人がいてほしいところです。いないことも結構あるんですが。
👉 連絡事項などは、ネットを活用すれば、お互いに空いた時間に書き込めるので負担は減りますし、記録もやりやすいです。後で少し書きます。
学習者の環境も知りたい
ビジネス関係者相手のレッスンでかなりレベルが高い人なのに会社ではなかなか意思疎通ができない、おかしいなーと思っていたら、その人の部署が全員関西人で、共通語が関西弁だった、ということがありました。
企業などでレッスンする時、日本語教師はその企業で仕事上の会話だけでなく日常会話がどんなものか知りたいものなのです。特に実習生の職場でどういうやり取りが行われいるかを知ることは重要です。ぜひ、日本語教師には自由に職場(無理なら食堂とか)に出入りさせてください。会社や職場で出回る文章、書かなければならないもの、読まなければならないもの、さしつかえない範囲でいただけると、そこで使われる日本語のクセがわかりますし、場合によっては、それを生の教材にして練習できます。
また地域の日本語教室ではボランティアで会話の相手だけでもという補助的な教師がいるということがあるようです。教師としてはこういう人をどう活用していくか考えるわけですが、必ずしも助けになるとは限りません。学習者のレベルによっては不要なことも多いし、ボランティアの人のコントロール、使い方はまたひとつ難しい側面があります(若い日本語教師をみると「私のほうが日本語に詳しい」的な態度になる高齢者や、「美しい日本語の響きを教えたい」などと思い込みが強く、古典を暗唱させたりする人もいて、結構面倒なこともあるんです…)からボランティアの人を教室に入れる場合は、必ず事前に日本語教師と相談してください。
周囲の協力といえば、イベントや話し相手になります的なことより、例えば商店街の方などで、定休日や準備中の時間にお店を30分貸してくれるなんてところがあるとありがたいかもしれません。教室以外で実際のお店で会話練習などは日本語教師ならやってみたいと思うはずです。お店のオーナーにインタビューしたりもできると楽しいなと思います。教師も、事前に借りられることがわかれば、いろいろと準備をしようと考えます。
会社や工場なら、会議室ばかりでなく、空いている現場みたいなところもあらかじめ使えるとわかっていれば、いろいろと活用を考えることができます。
授業をしなくても、寿司屋のカウンターの中はどうなっているのか、蕎麦屋の調理場は、というような写真や動画を撮らせてくれるところがあると、資料としても使えます。無理にバザーみたいなイベント(着物きせたりとかそういうの多いみたいですが…)などをやらなくても日常的にちょこっと助けてくれるところがあるというのは地域の教室の大きなアドバンテージだと思います。
教師と学習者の評価がカギ
教師の評価をどうやっていいのかわからないという方は多いと思います。人柄も大事ですがやはり教えるスキルで評価できないと、日本語教室の質は保てません。
もちろん、学習者とのコミュニケーションがきちんととれないのはマズいわけですが、日本語を教えるスキルは低いけど、■■語ができて気軽に翻訳もやってくれて、ちょっとぐらいなら残って「サービスで」教えてくれる、話しがおもしろく学習者の人気も高い、みたいな教師よりも、学習者にとっては教えるスキルが高いということのほうが何より重要で、長い目でみれば、教室にとっても、そこが最も重要だということを忘れないでください。
教師のほうは、仕事として依頼し、それを受けるという関係がある以上は、どんな理由であれ契約が終了することはありますから。決まった評価は受け入れる準備はあると思います。日本語教師歴が長い教師で、日本語学校の外でやってみようというような教師は、日本語学校のあいまいで見えない評価に飽き飽きしているはずです。数字できちんと出る評価のほうが納得感があります。
客観的な数字による評価といっても、レッドカードのラインをどう引いたらわからないということはあると思います。教師にボーダーを設定させたら甘く設定するかもという懸念はあると思います。
そういう場合は、ラインを2つ設定するのが効果的です。「最低でもここはクリアしてほしいライン」を教師と運営者で話して設定します。それをレッドカードラインにします。下回ったら教師の契約は終了(正確には1ヶ月引き継ぎ期間を設けるのでフェイドアウトになる)そのレッドカードラインよりやや上に「ここはクリアしてほしいライン」のイエローカードラインを設定します。試験の点数なら達成度を10が満点で合格ラインが6なら、とすると4がレッドカードラインなら、6がイエローカードラインです。イエローが2度続けば契約終了、というわけです。
ムニャムニャムニャで契約終了、となるよりは、はっきりと理由がわかるほうがありがたいものです。プロ意識が高い教師ほどそう考えるのではないかと思いますし、経験の少ない教師にとっても、客観評価で数字が出てそれで契約終了となることもよい経験になるはずですから。
ただ、日本語教師には、数字による客観評価を受け入れないタイプの人もいます。長く「先生」として扱われてきた人はそういう傾向がありますし、違和感を感じる教師はいるはずです。ただ、そういう人は、長い目でみれば、率直な意見交換ができない、共に仕事をしにくいタイプの教師だと思います。客観評価に抵抗があり、きちんと受け止められない教師は要注意と考えていいと思います。
学習者の客観的な評価の軸を作ることが重要です。教師の評価は「結果」つまり、学習者がいかに上達したか、の評価でやるしかありません。ここをなんとなく能力試験の何級に合格したか、みたいなことだけで決めるのではなく、複数の評価軸を作り、総合判断することにしたほうがいいと思います。
できれば3つの評価軸があったほうがよいと思います。ひとつは能力試験のような数字できちんと出るもの。ふたつめは教師の成果を第三者の教師がチェックするようなもの。みっつめは、学習者自身がゴールを決めて達成できたかというようなものです。
日本語能力試験による評価
日本語能力試験は、すべてマークシート、聴解で音声を聞いたりはありますが、話す能力のチェックはなく、基本的には、運用力というよりは、知識を問うもので、評価の中心は、読むことと、聴くことです。
教師の評価は、能力試験の■級に合格させる、みたいなゴール設定で決めてもいいはずです。例えば、まったくの初級の学習者が10人いた場合、「全員N3受験で合格率7割」にするのではなく「N4なら8割が合格、N3なら5割合格させられなければ契約終了」みたいな形にすれば、それぞれにあったゴール設定をしつつ、だれにどのレベルの試験を受けさせるか教師も考えながら指導するはずです。例の比率は、300時間授業をするなら課してもいいのではないでしょうか。
前も触れましたが、最も普及している日本語の初級教科書である「みんなの日本語」は2分冊で、それぞれ100~150時間、つまり最短200時間、最長300時間で終わる設定になっていて、終われば、N3合格レベルということになっています。これから考えると、上の例「N4なら8割が合格、N3なら5割合格させられなければ契約終了」は、一人あたり300時間の授業時間があるなら妥当な条件、と言えます。私の感覚ですと、基本的な知識が身について日常会話は十分こなせる、語彙は足りないけど、コミュニケーションもほぼ問題ない、というところまでは500時間かなと思います。海外の移民対策の語学の学習時間もそんなところです。500時間で、N3合格はマスト、と言いたいところですが、中には厳しいケースもあるので、「8割」ぐらいでしょうか。
能力試験は点数も出ますので、このレベルで合計何点以下の場合は契約終了、というようなことです。職場でコミュニケーションができるようになった、という評価も大事ですが、長い目で見ると、数字で出る客観評価も必要です。
👉 あくまで私の感覚です。同じ300時間でも連続でみっちりやれるほうが当然効果があがり、週に数時間、2年かけて途切れ途切れだとかな効率は悪くなります。上の例は週20時間くらいのペースでやる場合ですから、環境に応じて学習者の目標設定も、教師の評価軸も、調整が必要です。
特に、日本語学校ではこういう教えた成果での評価はあまりなく、なんとなく経営の都合で時給の高い人から切られるみたいなことが多いこともあって、日本語教師は、むしろこういうわかりやすい評価で契約が続いたり終了したりということのほうが、スッキリしてやりやすいということはあるはずです。
話す聴く能力を軸にした客観評価
日本語能力試験は、読むことと、聴くことに特化した試験です。基本的な知識の指標としては悪くありませんが、どうしても日常生活における会話のコミュニケーション能力をはかるものさしにするのは難しい。会話力の試験はいろいろと作られていますが、正直、日本語教育業界での評価は高くありません。
当事者による評価ではなく第三者によるチェックの方法はまだあります。こちらは聴いたり話したりという能力を軸に、「どういうことができるか」を実際にテストする人がやるものです。所属している教師ではなく新規にこのチェックだけをする教師を募集すればいいと思います。
日本で生活している日本語学習者の場合、優先事項として話す聴く能力を求められるということが多いようです。これらは客観的な評価の方法があまりありませんが、以下の2つは日本語教育において評価されているものです。いずれも、もしやるなら学習者が10人で2時間半~5時間程度。評価をまとめて整理して書類で提出で、その倍の時間がかかるとして5~10時間です。以下で紹介する国際交流基金とOPIのサイトを示して、例えば「これに基づいて学習者評価をする仕事です。時給****円。毎学期ごとに学習者10人分の評価をお願いしたい」と募集すれば応募はあるのではと思います。それほどコストもかからず第三者による評価ができるというわけです。
話す・聞くを軸にした評価。2種類あります
1) 国際交流基金の口頭での能力評価
国際交流基金が推進している口頭での学習到達度テストです。これを学期(三ヶ月に一度など)ごとにやってもらい、その点数を出してもらいます。
細かいマニュアルもあるので、理想を言えば、この評価テストだけ、別の教師を臨時で募集するほうがいいかもしれません。より客観的な評価に繋がります。
2) OPIという方法
上の国際交流基金の方法もこのOPIがベースになっていると思われます。こちらは15分から30分くらいのテストで、会話能力の測定に特化した方法です。国際交流基金の枠組みに囚われない分、汎用性が高いと思われます。
http://www.opi.jp/
国際交流基金の方法と同じく、テストができる日本語教師は会話能力方面に関心がある教師に限られますし、それほど多くありませんが、こちらはテスターの資格制度がありますので安心感があります。上のサイトからコンタクトをとって正式なテスターを紹介してもらうことはできると思います。
交流基金のほうは手軽にできるので月一で講師にやってもらい進度の記録と報告に、opiのテスターを雇ってのテストは査定に使う正式なものとして学期(三ヶ月?)ごとに外部から第三者を呼んでやる、という使い分けはいいかもしれません。お互いのチェックになりますし。
学習者自身による評価(ポートフォリオ)
シラバスのように、クリアすべき段階をきっちり設定してというやり方の他にも、今は語学の学習のコース設定は「どういうことが出来るようになるか/なりたいか」ということを軸に考えるというやり方もあります。教師が設定するのではなく学習者自身にやってもらうという考え方があります。やはり語学は本人のやる気が大事、なるべく本人が設定させて、自分でそれを日々意識しながらそれをクリアしていく、というようなことです。自分で達成度を書いて貰うことにすれば、それを教師の評価として使えます。
ある程度の目安があり、学習する人が自分で目標設定をして自分のカルテのようなものを作る、このカルテをポートフォリオと呼びます。(日本語教師はこういう用語好きみたいです。プリントは「ハンドアウト」と言ったりします)
日本語教育では大阪大学で作られたものが有名です。
http://www.let.osaka-u.ac.jp/~naoko/jlp/support.html
英、中(簡体字)、韓、ベトナム、スペイン、ポルトガル、インドネシア語版があります。
これをまず学習者に作ってもらい、それに従って教師がコース設定を考える。グループの授業をする場合やクラス編成などでも個々の目標に応じた調整をしていく、というような形です。ですが、方法にこだわる必要はないと思いますので、教師が無理のない調整をしてアレンジすればいいと思います。
前述のように、こういう形の授業の進め方は、予備校講師型の教師はあまり慣れていない可能性がありますから、運営者が概要だけでも理解したうえで教師に「ポートフォリオも取り入れつつ、■■さんのお考えをまじえて計画を作って欲しい」と提案するのはどうでしょうか?そういうことを言われて面倒くさがらない教師は多分、いい教師です。そのへん、教師の資質をみて選ぶことが大事になってくるかもしれません。
状況や環境によって、個人のポートフォリオをどう活用してくかは濃淡があります。なかなか自分で前向きにやれる人ばかりではないので、ポートフォリオを作ってもあまり効果が無い、ある程度、決まった型で能力試験などを目標にやるのが向いているという場合もあります。自分で目標設定するのはいいけれど、自己評価はあまりアテにならないよ、という調査もあります。ただ、考え方として、あくまで学習者にとってどういう形がいいのかを考えながらという方向は重要です。後は様子をみながら柔軟にやっていくしかありません。
もちろん、学習者の学校や職場でスムーズにコミュニケーションできる、ということも盛り込む必要があると思います。後述しますが、ここは職場の人と教師が話し合って、到達点を段階を追って作っていく、どういう作業があり、どういう会話があるか、日常会話も含めてサンプル調査のためにも、数回は教師に職場を見学してもらってということをやったほうがいいと思います。
シラバスとポートフォリオは、ざっくりと分けると、教師の側からの計画と学習者からの目標設定ですが、決して対立するものではないので、組み合わせながら、学習者をじっくり見ながら、考えながら、職場や生活環境を観察し、それを微調整しつつやってくれる日本語教師を探してください。
以上、3つの方法をそれぞれポイントにして、学習者の進度と教師の査定の目安にすることができると思います。日本語能力試験と第三者の口頭試験の結果は、ハッキリでますので、それを軸に、それぞれポイントを付与するなどして数字を出し、それに、ポートフォリオの学習者の自己評価を参照して総合判断、でいいのではないでしょうか。数字とポートフォリオはもちろん、教師にみせて学習者とともに微調整してもらう。ポートフォリオ作りも、実際は教師が学習者とともに作っていくということになると思います。
👉 「どういうことが出来るようになるか/なりたいか」ということをまとめてレベル別にしたものを Can-do(キャンドゥー)リストと呼びます。ヨーロッパの言語教育の指標にCEFR(シーイーエフアール、あるいはセファー/ セファール、などと呼びます)というのがあり、文化庁や国際交流基金では、これを日本語教育に最適化し新たな日本語の教え方としてプッシュしています。国際交流基金の「まるごと にほんのことば文化」という新しい教科書では、教科書の最後にポートフォリオがあって書き込む式になっています。今のところ、そのまま技能実習生や児童の日本語教育に使えるかは未知数なので、これにそってやる、というよりも、CEFRの推進者達に対して、現場の日本語教育ではこういうことがあるよ、とフィードバックをするくらいのつもりでやるのがよいのではないでしょうか。
👉 日本語教育の世界は、わりと細分化が進んでいて、例えば、ポートフォリオに詳しい人は他の方法はあまり知らない、口頭での日本語評価を専門にしている人は、他の評価を軽くみがち、みたいな偏りがあるように思います。自分の専門が最も重要だと考えがちというのか。。。どれかひとつに偏らず、それぞれ日本語能力の進化が数字できちんとわかる形で評価を出してもらって、総合評価は、教師ではなく雇用側がやるほうがいいかもしれません。
👉 児童の日本語に特化したものとして、文科省が作った「外国人児童生徒のためのJSL対話型アセスメントDLA:文部科学省 」というものがあります。公的な報告書などの作成では、これに基づいたものが求められるかもしれません。会話を通じて、語彙や日本語の運用能力をチェックしていく、書かせてみるチェックもあります。というものです。かなり「学校の勉強についていくための総合能力をみる」という印象です。児童のための教室は、いろいろとありますが、学校教育のサポートとしてはひとつの目安になるかもしれません。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/003/1345413.htm
日本語を教えるところを見たことがある人はいるかもしれません。一般の方の日本語の授業のイメージは、教室で教師が何かをホワイトボードに書きながら説明している、誰かにあてたりしながら進めて行くという、普通の小中学校でよくあるような風景でしょうか。
ただ、今は、特に語学は、教師がアレコレをしゃべったり、教室を指揮者のようにコントロールしたりということではなく、ペアやグループを組ませて課題を解決したりとか、ゲームをしたり、というように学習者にいろいろとやってもらう授業の進め方も増えてきています。レベルの差がある学習者が同じ教室にいるとなると、なおさら一斉授業(と、教室で教師一人がグイグイ進める授業を呼びます)は難しくなってきます。
そういう授業では、一見、教師は何もしていないように見えるかもしれませんが、学習者が自分で考えたり、発言したりせざるをえないようなことになっているのです。熱心に一生懸命説明している姿は一見よい教師にみえますが(それも確かなのですが)、じっと観察しながら、進めている教師もなかなかの実力なのです。一般的に、教師が話す時間より学習者が話す時間が多い授業はよい授業だと言われます。この点、頭の隅においててください。
かといって、教師が一方的にしゃべる授業が悪いというわけではないと思います。きちんと的確に説明して、学習者が集中しているなら、それはいつか効果が現れてくるはずです。しっかり確実に説明できる教師は、学習者をひっぱる力があることも多いです。そういう授業が有効なレベルやタイミングもあります。
教室の中で学習者を動かすのは上手でも、時にきちんと説明し、納得させ、さらにきちんと定着し実際に使いこなせるところまで持って行ける教師はそれほど多くないかもしれません。
プライベートや少人数の授業では、会話をしながら、時々ポイントを説明したりして進めて行くようなスタイルも昔からあります。これは、方法としてはあるんですが、ただしゃべっているだけという教師も正直多い。はたからみると、いい授業なのかは判断つきにくいところです。
一対一で教師と話して「まじめで熱心だ」「いろいろと事情をくんでくれる」と思っても、「授業中、熱心に説明をして、補習にも付き合ってくれる」あるいは「学習者に人気がある」場合によっては「子供の扱いがうまい」教師であっても、実は型どおりやってるだけであるとか、単に説明が下手なので一生懸命やるしかない、集中させる術を知らないので大声を張り上げるしかない、自信がないから、ついサービスしてしまう(経験が少ない教師にありがち)、みたいなケースもあります。
とにかく、日本語教師の評価は、専門家でもなかなか難しい。もちろん、仕事をやっていくうえでの基本的なこと(時間や期限を守るとか、コミュニケーションできるみたいなこと)は大事ですが、やはり、日本語教師の評価で一番大事なのは、学習者の日本語能力があがることです。そこを上にあげた3つの指標を軸に数字で出して、評価基準を作るのがベストです。可能な限り客観的な評価をする。
話す能力重視なら、会話のテストのポイントを重視するような配分にすればいいと思います。日本語教師もそこで客観的に評価されたら仕方ないと考えるはずです。(それで「一生懸命やったのに」「元々学習者が不熱心だから」と言う教師はプロとしては疑問符がつきます)
日本語学校でよくある日本語教師の査定のやり方「えらい教師がえらくない教師を査定する」というのもあまり上手くいかないことが多いような気がします。たいていの場合経験年数で「えらさ」は決まるのですが、50点くらいの教師は10点の教師を30点くらいに引き上げることはできるかもしれませんが、それで終わり、みたいなケースが多いとよく聞きます。その学校の中で、0の教師を30に、次に50に、そして80点に、という教師を育てるプログラムが必要なわけですが、それがある学校は日本に10校あるでしょうか?
日本語教育の知識があまりない雇い主が日本語教師を選ぶ場合(日本語学校以外ではほとんどの場合はそうなんですが)、「やりやすい人」「いい人」だから雇い続けるとなると、日本語教師は「いい人」であることに、そう見られるように、力を注ぐようになります。そういうムードは日本語教育業界には若干あります。日本語教師はそういう演技に慣れているかも。これは雇い主、日本語教師、双方のためによくないと、個人的には思います。
👉 学習者が日本の社会とうまくやっていけるかどうかは、基本的には日本語教師の仕事と考えるべきではない。日本語教師とは別に、ケースワーカー、ソーシャルワーカーを一人仕事として担当者を置くべきです。日本語教師が関わることができるのは、あくまで日本語の能力に関連した社会との接触部分だと、個人的には考えています。日本語から離れて「日本社会に馴染む」ということをやりたがる日本語教師はいますが、私はこれにも疑問を感じています。スキルが低いことをごまかす方便になっていないか?ご注意を。
デジタルの活用
デジタルを上手に活用するコツは「デジタルを活用していることに、はしゃがない」ことだと思います。「ネットを活用してます」と言うとそれだけで「素晴らしい!」とチヤホヤする人達は一定数いますが、そういう人達に踊らされず、常に「きちんと効果があがっているか」「どう使えば効果的か」を観察し考えながら進めましょう。例えば、スカイプレッスンも離れた場所でレッスンできるというメリットが大きすぎるので、見逃しがちですが、普通にやるだけなら、単なるリアルレッスンの劣化版です。ただITを活用しているだけで素晴らしいという時代はそろそろ終わります。
概要
自治体などの日本語教室への助成は、かなり対象が狭いようです。ネット方面はほぼナシで、ホームページを作ったら3000円、ぐらいでしょうか。基本IT方面は自前でやれよ、ということだと思います。
ただ、今は子供は学校ではタブレットを使って勉強している可能性が高く、そうではない地域でも近い将来は、小中学校はほぼデジタル化されることは決まっています。児童相手の日本語教室もそういう学習になれた人を相手にしなければならない時代です。海外では途上国でも学校のデジタル化は進んでいますから、2020年には日本に来る若者はタブレットで義務教育を終えたみたいな人が多数派になる可能性があります。
タブレットに慣れ、検索に慣れた学習者相手に紙の教材で教えるのは難しい、みたいな場面も出てくるかもしれません。でも、教室のデジタル化は大変。でも少しはやらないとということになった場合、どういう可能性があるか考えてみます。
今、メディアでは教室に電子黒板があって、動画が動いたり、タブレットもった学習者が手元で触ったものがその黒板に!みたいな大げさな話が出てきますが、あれは、ものすごくお金がかかるうえに、効果があるかどうかは、これから検証、みたいな世界です。
実は教室にパソコンやネットを入れなくても、運営者個人が契約している回線でお金をかけずにネットのサービスをフルに活用してやれることはたくさんあって、かつ日々の授業にも効果が期待できることがたくさんあります。なんとなくブログでホームページ作って、仕方なく更新して、というだけなのはつまらない。それに、そういうブログは読んでてもおもしろくないもんです。ブログやフェイスブックを通じて同業者と繋がった!と言っても、シリアスな相談にのってくれるわけじゃありませんし、教室の運営に直接デジタルのアレコレが役に立ったという実感を得るほどじゃないかもしれません。
こういことは世代的にも学習者のほうが詳しくネットはいろいろと活用している、ということが多いと思います。日本語の添削をしてくれるLang-8やスカイプで学習パートナーを持っている人もいると思います。ネット上の日本語学習コミュニティもあります。そういうことができる人には案内することも必要です。国際交流基金のサイトである NIHONGO eな には、ネット上の日本語学習リソースが集められています。私どもが作った日本語関連リンク集も活用してください(上のメニューから行けます)。
もちろん、すべての人が自宅で自由にネットが使えるとは限りませんから、そういうことも意識しながら。教室でネットのサービスを利用してできることを探っていきたいと思います。
今は、ツイッターで発信しろ、みたいなことが多いんですが、まず、もうちょっと面白くて、かつホントに日本語の授業に直接役に立つことから書いてみます。具体的なハードやソフトの使い方などは、ここでは書きません。概要と使い方の方向性だけにします。具体的な使い方は、ググってより親切で、新しい情報(使い方はちょこちょこ変わったりしますし)がある説明のサイトをその都度検索して探すほうが合理的ですから。
必要な人間
教室でちょっと活用しようかとなると、多少はハードの知識も必要です。最低限、タブレットとPCの基本的な操作と無線LANのパスワードを設定したりができる人が1人必要です。遠慮無くいつでも聞ける人がいればベストですが、いなければ、あなたがそういう人になるしかありません。どこかに外注すればスーツを着た人がいろんなことを提案してくれますが、ビックリするくらい高いです。自分でやればほぼ無料です。まずは自分の家庭にあるネット回線でできることを。
ネット上の名前を決める
ネット上で何かやるためには、いくつかサービスに加入する必要があります。そこでアカウント名を付けなければならず、そのアカウント名で人に覚えてもらうことになります。半角英数。できればすべてのサービスで同じ名前にしたほうが覚えて貰いやすい、その名前を決めるのが最初にやることです。会社や教室の名前がすでにあるかもしれませんが、長ければ愛称にするとか、よくある名前ならJをつけて日本語関連みたいな名前にするなど、いろいろあります。(すでにいろいろアカウントを取ったという方は、なるべくアカウント名揃える形で整理を検討してみてください)
何かグループを作って、そこでネットを活用しようと思ったら、個別に使うかどうかに関わらず必ず作るべきアカウントは
Facebook
Twitter
Gmail (Youtube)
Vimeo
とブログのアカウント(後述)です。これらのサービスでまだ使われていない名前にするためには例えば「Suzuki」は無理です。suzukiで作ろうとすると、すでに使われているのでsuzuki0321はどうですか?などと聞かれますが、こういのは却下して、短くて覚えやすい、空いてそうなものを考えるわけです。
例えば suzukiJclass とJclassと付けるという方法もあります。場所の名前を追加して群馬ならGをつけてGSJclassでもよさそうです。思いついたら、上のサービスで空いてるかどうか確認します。まず、Gmailで空いていたら、アカウント取得はせずにその語で
https://www.facebook.com/
https://twitter.com/
https://www.youtube.com/user/
https://vimeo.com/
につけたい名前をつけて最後に/を入れてそのURLで検索してみる。(以下試しに飛んでみてください)
https://www.facebook.com/suzukiJclass/
https://twitter.com/suzukiJclass/
https://www.youtube.com/user/suzukiJclass/
https://vimeo.com/suzukiJclass/
こんなカンジです。(この記事を書いた2018年の夏ではまた全部空きでした)
ページが出てこない、空いてる、行けるとなったら、Gmailでアカウントを取得して上のサービスでもアカウントを取る。サービスによっては、最初はURLに適当な数字を入れて、改めて申し込まないとsuzukiJclass/にしてくれないこともあるので(FacebookとVimeoはそうでした。他は要確認)それもやっておく。
できれば決めた名前でドメイン(comでいいと思います)もチェックして取得できるものがベストです。空いていたら取得しておきましょう。1年で1000円くらいなので。取得するとレンサバを借りたりして自分で運用する時までキープしておけます。数年たって、そこまでやらないかなと思ったら解約すればいいので。
すべて終了したらどこかのブログサービスでアカウントを作り、URLに名前を入れられるならsuzukiJclassを入れます。ブログのサービスは名前使えるかどうかサービスによって違うので、調べて下さい。
すべて終わったら、ひとまずネットで何かをやる準備はできました。
👉 すべてのSNSで考えた名前でアカウントを取得できなくてもいいと思います。優先順位を書くなら、Google、ドメイン、ツイッターの順で、その他は取れなくても仕方ないかも。日本語を軸に2つ組み合わせれば、まだわりとすべてのアカウントで空いてる語はあります。いろいろ工夫してみてください。
ホームページを作る
ホームページには助成金が出るケースもあるようです。ネット上の「ホーム」として名刺代わりにもなります。ホームページ作成サービスもありますが、ブログが簡単かもしれません。というわけで、ブログを開設することからはじめましょう。無料でできます。使いやすいブログのサービスで作ってみて下さい。作り方も無数に説明がネット上にあると思います。検索のコツを使って、新しめのノウハウをチェックしてみてください。
日本国内のブログのサービスは、基本、広告が表示されます。容量の上限は2,3GB。動画をアップするのは厳しいです。どこも説明は丁寧だと思います。たくさんありますが、代表的なものを。
http://www.exblog.jp/
http://hatenablog.com/
http://blog.fc2.com/
いずれもオーソドックスなブログです。日記的なつくりなので、更新がないと停滞しているように見えるのが弱点です。About us などで自己紹介を書くスペースもあるのですが文字制限があって団体や組織の紹介には足りないかんじです。
私は海外のフリーのブログのほうがいいかなという気がします。多機能で使いこなすのはちょっと難しいですが慣れればやれることが圧倒的に多いです。以下は大手(Google,Wordpress)なので安定感ありますし、広告が入ることもありますが、それほど目立ちません。
https://www.blogger.com
は、Googleがやっているブログのサービス。日本のブログのように日記的な作りです。Google、大企業だし安定感あります。
私は以下がいいかなと思います。
https://wordpress.com/
Wordpressは、ブログのシステムを作っているところで、世界シェアトップです。このブログもWordpress(レンサバで自前でインストールしたものなのでフル機能が使えるバージョンです)で作ってます。そのライト版(一部機能制限あり)はアカウントを取得すれば利用できます。日記的な記事の他に「ページ」と呼ぶ固定のページを作ってそこに常に参照できる情報を置けるので、会社や学校のメインのブログには向いていると思います。(このブログもWordpressです。上のメニューから参照できる部分が固定ページ。この記事は日記的な更新部分です「wordpress ページ 活用」などで検索してみてください)
もちろん、ブログのアカウントを作る際に名前がURLに入るなら上で作ったウェブ上の名前(例えばsuzukiJclass)にしてください。
これでアカウントは作りました。無理に更新しなければと考えなくてもいいと思います。ブログをどう使うかは、ツイッターなどを使ってみてから、思いつくこともありますし。
ひとまずは、ブログは書き込んだりしないでいいので、ブログ以外はアカウントにログインしてみて、ツイッターやフェイスブックは使い方を検索して、いくつか他のアカウントをフォローしたりして「読むツール」として遊んでみてください。何を書き込んだらいいのか、なんとなくわかってくると思います。
👉 このページも実はWordpressで作っています。レンサバを借りて自分でインストールする場合はフル機能が使えますが、ここでご紹介しているレンタル版は、機能に制限があります。
私どものアカウントで、レンタル版でざっくりとサンプルを作ってみました。このページでもたびたび出てくる「日本語教育サクサク」というコンテンツのサンプルとして作ったものです。だいたいどんなことができるのか、「ページ」とはどんなものかちょっと覗いてみてください。
https://webjapanese.wordpress.com/
それぞれのサービスの役割分担
それぞれ何に使うのか、が重要ですが、ひとまずネット上の母艦というべき場所を決めます。上で紹介したアカウントを作ったサービスだと母艦で使うなら、ブログかフェイスブックでしょうか。フェイスブックはいろいろとカスタマイズしにくいので、最初はブログを軸に、がいいような気がします。名刺やメールの署名などにも、名前とメールアドレスの他にその母艦にしたところのURLを書いておくことになるわけです。
ブログには、持っているアカウントをすべて書いておきます。プロフィール画面などにFacebook,Twitter,Youtube,VimeoなどのURLを書いておくわけです。ネット上の受付窓口みたいなイメージです。
Facebookは、Facebook上の窓口でそこにホームページとしてブログのURL書いて、ツイッターアカウントを書いて置く、あと同業者との交流などもできるので、Facebookは、公的な社交の窓口。日常的な情報収集は、Twitterというところでしょうか。
これらをどう活用するか、後でちょっとだけ書きますが、きっちり説明するのは大変なので、まずは両方とも、アカウントにログインして使い方をチラチラ調べながら、投稿はしてもしなくてもいいので、半年くらい観察してみてください。
入門的な本ではアカウントを取ったら「さっそく投稿してみよう!」なんて書いてますが、まずは、FacebookとTwitterどっちが自分に向いてそうか、どう使えばいいか、何を投稿するとまずいか、なんとなく掴んでから本格的にはじめたほうがいいと思います。活用はそれからで。
加入したサービスを使ってみる
開設したブログやツイッターで、何も書かないのもちょっと、と思われるかもしれません。プロフィールをうめたり、挨拶代わりに投稿ぐらいはしたほうがいいと思います。何も投稿がないアカウントがずっとあるのは印象が悪いので。
特にブログは、授業の風景や教室や会社などの周囲の写真など、ちょっと書き込んで更新したほうがいいとは思います。そういうものがネット上にあるだけでかなり安心感があります。例えば教師の募集なども格段にやりやすくなるはずです。
場所や代表者の顔や連絡先も公開できるならしたほうがいいと思います。ネット上に個人情報を公開するリスクは確かにあるのですが、メリットもあります。ブログやツイッターは匿名のままでもできますが、やはり実名で連絡先、リアル住所などが書いてあるものは、圧倒的に信頼感がありますから。
ブログ、ツイッター、フェイスブック、これらを活用しないとダメ、的なことはよく言われますが、私はそうでもないと思います。最初は、それらはボチボチでいいので、無理やり更新したりするよりも、それぞれのサービスになれて楽しむことから始めればいいと思います。力んで無理に投稿したりして炎上、会社名、住所晒される、みたいなことになるかもしれないので。
基本的な使い方は Facebook とか twitter と 入門とか初心者みたいなワードで検索すればサイトも動画も山のようにヒットします。Facebookは、コンサル系の人がビジネスに!的なものが多く、ツイッターは個人で楽しむためのガイドが多い。使われ方もだいたいそんなカンジです。Facebookは、実名ですし、ネット上の名刺がわりに置いておく。大人の社交の場、というところがあるようです。
ツイッターは匿名性が高く、より「ネット的」です。いろんなアカウントをフォローして、情報収集用だけに使う人も多く、基本は「読む」ソーシャルメディアとして使うのが正解かもしれません。で、時々情報を流す。ツイッターをビジネスに活用できるのは、ネットの空気を読んで、タイミングに応じてストライクのことを発信しつづけられる人だけに限られるような気がします。
ブログも発信系ですが、最近はやや日記的な活用は減ってます。ネット上で文章書いて発表したい、というようなブロガーと呼ばれた人達はツイッターに移行しています。ブログは、ネット上の母艦として、時間があれば、文章を写真を組み合わせたものを月イチくらいで更新。ブログを更新したら、更新したというお知らせをFacebookとtwitterでも投稿する、日常はTwitterで情報収集、というのがよくあるパターンかなという気がします。
基本的な使い方はネット上にたくさん解説がありますのでそちらで。ここでは、基本的なリンク(意外と一般の説明ページに埋もれて公式のガイドとかヘルプが探せないので)だけずらずらと。
https://facebook.com/help/
https://support.twitter.com
http://twinavi.jp/guide
Web版日本語教育サクサクに、SNS関係のことも少し書いたので活用の参考にしてみてください。
ネットによる学習支援体制を作る
軸をどこに?
以降、動画アーカイブとスカイプやハングアウトによるライブレッスンなどを組み合わせてやることを書いていきます。動画アーカイブとは、短い要点の説明の動画をたくさん作り、ネット上に置く、学習者はいつでもアクセスできる、というもの、ライブレッスンはスカイプやハングアウトなどを活用してライブでやるものです。
この記事では、基本的にリアル教室で授業(以降「リアル授業」)ができるという前提で書いています。ひとまず、軸はそこにある。これにスカイプのライブ授業(以降「ライブ授業」)、動画アーカイブ、という2つの軸が追加されるときに、どう組み合わせていくか、というのが重要になってきます。私はリアル授業が確保できるならば、そこを軸にして、他の2つは学習支援という位置づけでいくのが、現時点ではいいんじゃないかなと考えています。
「軸」というのは、教科書を進めるような理解が中心になる授業で「学習支援」は予習、復習、補講、理解を受けた定着練習的なものが中心ですが、自分で学習するためのサポート、ペースメーカーという側面もあります。このへんはきっちり分けられないという考え方もありますが、「軸」のほうは必須ですが「学習支援」はあったほうがいいけど、なくてもなんとかなる(学習者によっては無くても良い、あるいは自分でやるなりできる)、という優先順位があります。
いっそ軸を作らない、という考え方もあります。リアル授業に必ずしも参加できるわけではない、という場合。教科書を進めていくような授業はしないことにして、学習者が学習するための素材を提供する、すべて「支援」という形にして学習者の自律的な学習をどうサポートするかでやる。無理に軸を作ると、どうしてもそこに依存してしまう、状況によっては、定期的に学習時間が確保できない場合もありますから。これはこれでおもしろいやり方です。
ただやはりどこかによりどころがあったほうがいいかもしれません。3つの軸の中ではもっともアクセスしやすい動画アーカイブをとりあえずの「理解」の軸にして、リアル授業やライブ授業を「学習支援」として位置づけてやっていくでもいいと思います。学習者のモチベーション次第というところはありますが、もともと語学なんて学習者のモチベーションに依存するジャンルだと割り切る。
いろいろあるわけですが、提供する側が「こうやってくれ」「こう活用しろ」と決めずに、ひとまず、それぞれきちんと作って、アクセスログなどの活用をみながら成績などと照らし合わせつつ、やり方を修正していく、修正した先に正解があるのかもしれません。
👉 ちなみに、スカイプで必要な回線品質です。「推奨」の上り、下りはクリアしていることが最低条件となります。最低条件なので、安定して使えるのは、倍以上の速度が出てないとまずいかもしれません。これはハングアウトでも基本的には変わらないはずです。ADSLで、1-10Mbpsで携帯の3G回線とほぼ同じ、光で20-40Mbpsと言われていますが、確実に提供されると言えるのは、ADSLで1Mbps、光で10Mbpsというところじゃないでしょうか。(1024kbps=1Mbps)。
自分のところの回線速度は、下りだけですが、ここで、上り下りなら、ここでわかります。
海外の回線速度に関しては、こちらに資料があります。
オンラインのライブ授業?
スカイプやハングアウトを利用したオンラインレッスンは、便利です。ただし効果的とは限りません。冒頭でも書きましたが、普通にやるだけなら、リアルレッスンの劣化版に過ぎません。
世界中どこでも可能ということ以外は(そこばかり強調されますが、冷静にリアル授業と比較してみると)、学習方法そのものの新しさは、さほどないのです。しかも、映像と音声が劣化している一枚挟んだ授業は学習者のより高いモチベーション、集中力が必要になる、という弱点はついてまわる。というのが日本語教師からすると大きなジレンマです。(このへんはスカイプ授業を単に推進、運営、経営している人と日本語教師とは意見が違うところだと思います)
アーカイブ化しても、30分、一時間長の動画を見直すことを期待するのは難しい。まして、ライブのレッスンを録画したものは、あくまで誰かのためのレッスンをみるだけです。後述する動画アーカイブのように、最初から動画を見る学習者のために、時間や構成を工夫して作るものではなく、ひきつける力が弱いと思います(特に、YouTubeなどオンライン上でアーカイブ化する場合は、頭出し用の目次を作らないと、頭から再生するしか方法はなく、要点だけ確認することはできません)。じゃあ、と、学習者でコミュニティを構築する方向でやっても、これまた運営管理が大変だけどうまく動くとは限らない。
もうひとつ見逃せない弱点があります。
その相場感です。オンライン外国語レッスンは、日本語に限らず、1コマ(25分)あたり500円くらいの価格で推移しています。1対1のレッスンだと教師の取り分は多くて時給で1000円以下。これ以上あげるのは無理です。一日6時間(ほぼ不可能な時間数です。若くてもヘトヘト)やって5000円くらい。週に5日で25000円、一年(52週)のうちやれるのは45週として一年の手取りが100万ちょっと。これ以上あがる可能性はない、となると、プロの教師は手を出しにくい。まして専業は無理、やるとしても学校であまり仕事がない教師の「練習を兼ねたバイト」です。つまり、メインでやれるものではない以上、本気で取り組む教師を探しにくい、スカイプ授業を極めようというようなよい教師を確保しにくい、ということがあり、これがこの種のオンラインレッスンの最大の弱点だと思います。なかなか難しいところです。
ただし、リアル授業に通えないという人にはニーズはあります。ニーズがあって、今後も増えるということが、現時点での、オンラインライブレッスンの最大の特徴と言えるかもしれません。海外のインフラ環境がよくなってきていることもありますし、国内でも日本語の授業に企業があまりお金を出さない、リアル学校に通う時間は作ってくれない、という現状があり、ニーズが高まっているという残念な事情もあるようです。
こういう、メインの授業の代替え品として提供するのも選択肢のひとつです。
ただ、私は、最初に書いたように、今のところ、スカイプやハングアウトを使ったライブ的なものは、メインの授業の代替ではない使い方が有効で、それは2つあると思います。ひとつは「実践練習の場」として、教師だけでなく、ヘルプの学生などに会話の練習相手になってもらう、みたいな使い方、もうひとつは、日本語教師がやるなら、「学習支援」としての使い方です。特に、リアル授業が確保できる可能性が高い国内日本語教室では、こっちのほうが合っているように思います。この学習支援としての活用を書いてみます。